水晶のようなドラゴン
少女に案内された娘はーー少女の体調も考慮して、途中で休憩を挟んだり、娘が抱え上げたりした。家からかなり離れたところに、大きな木と小さな湖があった。
その近くには大きな洞窟があり、少女は迷う事無く、その洞窟へと入って行った。
娘も洞窟に入ると、その洞窟はあまり深く無く、すぐに奥へと辿り着いた。
その奥には、洞窟よりもやや小さい、それでもひと山ありそうなくらいの大きさのドラゴンが寝ていたのだった。
少女はテクテクと歩いて行くと、「どらごんしゃ〜ん!」とドラゴンに向かって行ったのだった。
娘は少女がドラゴンに喰われると思い、慌てて少女の後を追いかけた。少女がドラゴンの目の前まで来たところで、娘はようやく少女に追いついた。
その時、今まで寝ていたドラゴンが、すっと目を開けて、起き上がったのだった。
娘は少女を抱き上げると、一、二歩後ろに下がった。
しかし、よく後ろを確認しないで後ろ向きに歩いていた娘は、石につまづいて、尻餅をついたのだった。
「いたっ!」
その声に反応したドラゴンは、その目を娘と娘が抱える少女へと向けた。
食べられる、と娘が身構えた時だった。ドラゴンは首を伸ばすと、娘と少女へと顔を近づけたのだった。
「大丈夫か?」
眦に涙を浮かべた娘が呆気に取られている中、ドラゴンは心配そうに娘を見つめてきた。
「へぇ?」
間の抜けた声しか出せない娘に代わって、娘の膝の上に乗っていた少女は、嬉しそうにドラゴンの顔をペチペチと叩きながら返したのだった。
「だいじょぶ、だよ!」
ドラゴンに顔を覗かれながら、娘は何度も頻りに頷いたのだった。
「そうか」
少女に顔を叩かれながらも、ドラゴンは安心したように目を細めた。
その瞳は、氷が張った澄んだ冬の湖の様な水色の瞳であったのだった。
娘がドラゴンの瞳に見惚れながら、少女を抱えて立ち上がると、丁度、傾いた陽射しが洞窟の入り口から入って来たところであった。
オレンジ色の光に照らされたドラゴンの姿は、夕陽の中で輝く水晶の様に綺麗であった。
ドラゴンは身体が全体的に白銀色の鱗に覆われており、大きくギザギザの両耳が特徴的であった。
「綺麗……」
娘は思わず、口に出してしまう。こんなに綺麗な生き物、又はモノはこれまで見た事が無かった。
こんなに綺麗な生き物が、この世界に居たなんて。
娘は見惚れていると、ドラゴンは不思議そうに首を傾げた。
「綺麗なのか? 私は?」
「え……。ええ、はい。とても」
「そうか。綺麗と言われたのは、そこの少女以来だ。案外、嬉しいものだな」
ドラゴンは首で娘が抱えている少女を示した。少女は嬉しそうに笑っていたのだった。
「と、ところで。ドラゴンが人間と話せるなんて、知りませんでした」
娘は言った事が恥ずかしくなって、話題を変えた。ドラゴンは困ったような顔をしたのだった。
「それは、まあ……。私が、元々は、人間だった事が関係しているんじゃないか?」
「えっ……! 人間だったんですか!?」
「ああ。そうだな」
ドラゴンは元の場所に戻ると、お腹の辺りを開けて座ったのだった。そこに寄りかかって、座れと言われたような気がした娘も、ドラゴンに寄りかかって座ったのだった。
娘はそっとドラゴンに寄りかかる。ドラゴンは娘が思ったよりも温かかった。
娘は安心して、ドラゴンに身を任せたのだった。
「少し……昔話をしてもいいだろうか?」
「昔話?」
「ああ。私が人間だった頃の話だ」
そうして、ドラゴンは悲しそうに鼻を鳴らすと、語り始めたのだった。