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09 ドール

挿絵(By みてみん)

 地上人最後の砦だと言う悲壮感を、軽々と打ち消してしまうほどに明るい常夏の地「ハートリプル半島」。その楽園とは所が変わり、ここは曇天に包まれ寒風吹きすさぶ別の意味での最果ての場所。


 東西南北ぐるりと見回しても、廃墟にうっすらと雪の積もった寒々しい灰色の景色だけが広がるこの地。昔は様々な国の人々や、様々な人種が行き交う国際都市『ハルシュミッデ』と呼ばれていた街である。

 今はもう、その廃墟をハルシュミッデと呼ぶ者はおらず、そもそも地上人などいない。ーーなぜならこの地は、既にザ・シングに占領されていたのだから


 そのハルシュミッデと呼ばれていた街に、屋根も抜け落ちた巨大な教会があるのだが、その朽ち果てた教会のかつて礼拝堂だった場所の中心に、不思議な事に真新しいスチール製のボックスが一つ置かれ、頑丈な扉が付いている。

 何故かそのボックスの周辺には、雪を踏みしめた真新しい足跡がいくつも確認出来るのだが、地上人もいない、生き物の気配すら感じられないこの地に、一体何者がいるのかは……その扉をくぐってみると合点がいく。


 核攻撃にも耐えられそうな分厚い扉を開けると、そこには地下への階段が延々と続いている。

 まるで地獄まで通じているのではと錯覚するようなその階段を、腰が引けるような思いで一歩一歩下り続けると、またまた分厚い金属製の扉が行く手を遮った。


 そして渾身の力を込めてその扉を開けると……

 そこには何と、驚くことに「地上」広がっていたのである。


 ーー左から右、左から右、見渡す限りの全てが工場。まるでそこは超巨大な工業都市ーー


 地上と表現はしたものの、もちろんそこは地底世界であり、天井は岩盤に覆われている事から太陽の陽射しなど届く訳が無い。地面をびっしりと覆い宙にそびえるそれら工場の黄緑色のライトが、ぼんやりと街の姿を映し出すだけ。

 そしてそれらのライトの矛先は、この不気味な世界の中心部に位置する、天井の岩盤まで届きそうなドームを浮かび上がらせていたのだ。


 これこそ、魔装機械帝国。

 生き残った地上人たちから『ザ・シング』と呼ばれる者たちの中枢であったのだ。


 ーー魔装機械帝国、この世界に生を受けた魔装機械生命体は自らの社会をそうは呼ばない。ただ自分たちを『我々』と呼ぶだけ。なぜなら、帝国とは版図を拡大して様々な王の上に君臨する皇帝の国を帝国と呼ぶのだから。

 そして、地上人を滅ぼした地に生きる魔装機械生命体は、自分たちが存在する事のみに意義を求めているので、地上人たちの上に君臨する意味が無いのである。地上人はとにもかくにも抹殺し、『我々』の存在だけが正義なのだ。


 巨大な地下工場の中心にあるドーム施設、その施設の大広間に一体の機械が運ばれて来た。

 配線やスチール製の骨格が剥き出しのロボット一体に牽引されたのは、スチール製のベッド。その上には全裸の少女が横たわっている。


 その薄暗い大広間とはどうやら、謁見の間のようである。ホールを二分割するように中央を赤い絨毯が敷き詰められ、突き当たりには玉座が置かれた一段高いフロアがあるのだ。


 だが今現在、その玉座には座る者がおらず空席のまま。空席のままであるにも関わらず、赤い絨毯の左右には少女たちがズラリと並んでおり、玉座の前に運ばれた来た少女を神妙な顔付きで見詰めていた。

 彼女たちの服装は全てゴシックロリータ調のドレスで統一されているのだが、一人一人色やデザインの違う、極めて自己主張の強い服装なのだが、気味の悪い事に、クセの強い服装の割には顔と表情だけは全く一緒なのだ。


 ……セーズが完成したのね……

 ……ふふ、相変わらず同じ顔……

 ……人工皮膚が綺麗……

 ……さすが最新型ね……


 左右に列を成した少女たち

 互いに声をひそめながら囁き合っていたのだが、ベッドを運んで来た機械が立ち去ると、列の先頭にいた少女が誰もいない玉座に向かって声を上げる。


「お母様、アンにございます。このたびセーズが完成致しましたので、お披露目に参りました」


 自分をアンと名乗った少女は、(カラ)の玉座に向かって口上を述べたのだが、もちろん玉座からは何の反応も無い。しかしアンは、そんな事はお構い無しにと言葉を続けて行く。


「まだ目は開けていませんが、魔力機構は正常作動中にて、一両日中には目を覚まして自己構築プログラムが稼働を開始致します。そしてセーズの管理指導については、トロワを付ける予定でいますので、ご了承のほどを宜しくお願い致します」


 ーートロワ、お母様に説明なさい と

 アンは後ろに振り返りながら、トロワと言う名の少女に発言を促した。


「お母様、トロワにございます。今現在のシャウレィ大陸の現況からご説明申し上げます。地上人の生き残りは、この大陸の七ヶ所地点にまで追い詰める事に成功しております。この一年の間に四ヶ所の地点を壊滅させた勢いを継続させれば、あと二年半もあれば地上人は全滅となります」


 トロワは並んでいた列から外れて赤い絨毯の上へと進み、ベッドで目を閉じたままのセーズの脇に立つ。彼女の頭を優しく撫でながら、なおも口上を続ける。


「シャウレィ大陸の東方地域はアンが統括し、大陸中央北岸地域はドゥが統括。そして私トロワが西方地域を任されておりますが、その地域の西岸にあるハートリプル半島、ここが今現在賑やかになっております。内地に向け出兵したり特殊部隊を送り込んで来たりと、未だに大陸奪還を夢見て(はかな)い抵抗を繰り返しております」


 トロワは空席の玉座に向かい、片手でスカートの裾を少しだけ持ち上げ、深々と頭を下げた。


「我々“ドール”の十六番目の妹、セーズの身は、どうか私トロワにお任せ頂きたく存じます。一年を待たずして、ハートリプル半島を絶望の地に変えてみせます」


 トロワのお辞儀に合わせて、その場にいる少女たちが一斉にお辞儀をした。

 これで新しい姉妹のお披露目会は終了、、、一番の古株であろうアンが身を翻しながら、それでは皆さん解散しましょうと声をかける。

 するとゴスロリ姿の少女たちは一糸乱れずに振り向いて、出口に向かって歩き出したどはないか。


 ……私、この姿嫌いなのよ……

 ……なぜ? 可愛いわよ……

 ……人間のモノマネをしているようで……

 ……あら、着るものだけじゃなくて、言葉使いも人間そっくりよ……

 ……ナーフは相変わらず面白い事言うわね……

 ……あっ、広間にセーズを忘れて来ちゃった……


 ……うふふ……ほほほ……うふふ……


 謁見の間を出た先の薄暗く長い廊下。

 フランス語読みの数字を名前にして、自分たちの事をドールと呼ぶ少女たち。彼女たちの不気味な笑い声が闇に溶けて行った。



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