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02 甲種特殊警備隊


 夜の涼やかな風が消え失せて、南国特有の湿気を含んだ熱風が窓から無理矢理押し入って来た。

 最前線の街と呼ばれるサンウォルソールに朝陽が照り付けられた途端、人々はその暑さに快眠を阻まれて、目を覚ますしか無いのだ。


 ここ、王立警備打撃群の女性用宿舎の簡易ベッドで眠る少女も、あまりの暑さにシーツを蹴飛ばし、可愛らしい「おへそ」を晒しながら大の字になって眠りを(むさぼ)るも、いよいよ我慢出来なくなったのか、眉間に(しわ)を寄せたウンザリ顔で目を開けた。


「ううっ……ふわああああっ! 」


 おしとやかさとはかけ離れた大きなあくびで起き上がり、簡易ベッドに掛けてあるタオルで額と首筋の汗を拭う。

 ちょうどその時だ。パパラパと軽快な起床ラッパが王立警備打撃群の駐屯地に鳴り響く。少女はちょうど良いタイミングで目を覚ましたのである。


 『王立警備打撃群』

 ロイヤル ガード アタック チーム【RGAT】

 サンウォルソールの街の治安を守る軍警察とは内容を全く異にする組織であり、外敵からサンウォルソールを守るために設立された警備組織である。


 軍警察から選抜された屈強な戦士たち、2小隊規模の合計六十人が駐屯地に交代勤務で詰めており、二十四時間体制で『シング』の魔の手から街を守っているのだ。

 そして、身なりを整えて食堂に赴き、パンとスープを頬張りながら、牛乳で“ヒゲ”を作り満腹の笑みを浮かべるこの少女も、実は王立警備打撃群の一員なのである。


 ただ、この少女は通常の隊員たちとは所属する部署が違うように見える。軍警察から選抜された屈強な戦士だけが、王立警備打撃群のマークである、金糸で周りを囲んだ赤いドラゴンの腕章を付ける事が許されるのだが、彼女は屈強な戦士ではない。

 ミルク色の混ざった金髪をショートボブに整え、色白の肌で華奢なその少女は、やっと思春期に突入したかのようにあまりにも幼い。隊員の中にはエルフやドワーフなど年齢不詳の人種もいるのだが、誰がどう見てもその少女は「子供」なのだ。


 つまり、正規の審査を経て入隊した者たちが屈強な戦士と定義するならば、この少女は正規の審査を経ていないと言うロジックに達する。

 ……そう。食事を終えて歩き出した彼女が向かったのは、通常の警備隊員たちが働く詰め所ではなく、別の棟。

 学校の校舎のように連なる詰め所ではなく、独立した別棟へと足を進めていたのである。


「おはようございまぁす! 」


 入り口の扉の上に、金属プレートで打ち付けられた部隊名には、「甲種特殊警備隊」と刻印されている。少女は元気良く挨拶しながら、扉を開けて中へ入って行った。


 ……がらあああん……

 事務所はもぬけの(から)となっており、せっかくの気持ち良い挨拶も完全なる無駄。

 だが少女は腹を立てる事も無く「昨晩の出動……結局朝方までかかったもんね。皆さん昼前出勤かな? 」と、むしろ出勤して来ない同僚たちを同情しながら、壁にかかった勤怠表の前に立つ。


「さて、皆さんが出て来る前に、お掃除でもしましょうか」


 朗らかに呟く少女は、『カティ・クロニエミ』と刻印された自分の名前の頭に、出勤を表す赤いカバーの付いたマグネットを貼り付けた。

 どのような理由でこの部隊に入れたのは謎のままだが、少女カティの一日が始まったのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが楽しみです
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