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二杯目 抹茶入り緑茶

 ドアをノックする音で、奈菜は目を覚ます。ベッドから手探りで目覚まし時計を探して、それからはっとして体を起こす。見慣れない木組みの天井と、窓からぼんやりと差し込むひかりがあった。カーテンを開くと、相変わらず真っ白に塗りつぶされた外が見える。

「おい下っ端、いい加減起きたか」

 ドアが開かれて、背の高い青年が現れた。ひえっ、と奈菜は身を縮める。

「だっ、だ、誰、ですか!?」

「ああ? コトハが紹介しただろうが。白兎だよ」

 青年は確かに、雪のように白い肌と髪、そして緋色の目をしていた。その特徴は、眠る前に紹介された『ことのは』の従業員と一致する。

「……かわいくない」

「悪かったな。仕事教えるから、着替えて店に来い」

 白兎は、持っていた服を奈菜に突き出す。淡い空色のシャツと黒いスカート、紺色のエプロンが、おろしたてのようにきっちりと折りたたまれて渡された。

「返事は?」

「あ、はい!」

「ったく……ぐずぐずすんなよ」

 白兎は後ろ手でドアを閉める。奈菜は、空のクローゼットを開き、姿見の前に立った。



 階段を降りると、カフェのテーブルで、琴羽と白兎が食事をしていた。炊き立ての白米の香りが漂っている。

「よく眠れた?」

 琴羽が、空いた椅子を示して腰を浮かせる。奈菜の前に、琴羽と同じ食事が用意された。茶碗一杯の白米と豆腐の味噌汁、鮭の焼き魚と沢庵がふた切れ。向かいでは、白兎が野菜スティックをかじっていた。

「はい、おかげさまで……いただきます」

「うん、召し上がれ」

 一足先に食事を終えた白兎が、空になった皿を持って厨房へと引っ込んだ。

「飯食ったら、掃除からするからな」

 三人分の湯飲みを置いて、白兎は奈菜の向かいに座る。奈菜は大急ぎで食事をかきこんだ。

「むせてしまうよ」

 琴羽が苦笑するのと、奈菜が咳き込むのは同時だった。湯飲みを差し出して、白兎は呆れたような顔になる。

「飯を食うのが下手な人間は初めて見た」

「これはね、下手なんじゃなくて、急いでいるんだよ。彼女は真面目なんだ」

「……ふーん」

 熱い緑茶で白米を流し込んで、奈菜は勢いよく立ち上がる。

「ごちそうさまでした!」

「おそまつさま。厨房に食器洗浄機あるからね。三食分まとめて洗うから、入れておいて」

 白を基調とした清潔な厨房には、大きな冷蔵庫と並んで、食器洗浄機が据え付けられていた。ピカピカのシンクと、ガラス張りの食器棚。不似合いな黒い炊飯器が、ステンレスの調理台にぽんと乗っていた。

 食洗器に食器を入れ、奈菜は速足でフロアに戻る。白兎と琴羽が、のんびりと茶をすすっていた。

「白兎君の緑茶は美味しいよ。いい茶葉にちょっと粉末の抹茶が入っているんだ」

「あ、えっと、掃除は……」

「食後の一服をしよう。そんな急いで準備したって、お客さんがたくさん来るわけでもなし」

 頬杖をついて、琴羽は笑う。稲穂色の瞳が、優し気に奈菜を見つめていた。

「ほら、座って」

 空になっていた湯飲みに、白兎が二杯目の緑茶を注ぐ。

「ここ、和風なものもあるんですね」

「そりゃあそうさ。私は日本の神様だよ?」

「少しは神らしくしてくれりゃ、俺も大神にいい報告ができるんだがな」

 刺のある白兎の物言いに、「悪かったねえ」と琴羽は半笑いで返した。

「……あ、おいしい」

「だってさ、白兎君」

「……ふん」

 白兎は腕を組み、唇を尖らせた。

 足元にロボット掃除機がやってくる。白兎は小さな兎の姿に変わると、ロボット掃除機の上に乗った。一台と一匹がフロアを動き回るのを見ながら、琴羽は頬杖をつく。

「あれは、最近のお気に入りの暇つぶしらしくてね。あれでも歓迎しているんだ。お客さんすら滅多に来ないものだから」

「……何か、のんびりしてますね」

「緩急は大切だよ。飲んだら、しっかり働いてもらうからね」

 カウンター下で回っている一台と一匹に声をかけ、琴羽は席を立った。

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