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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
99/101

#99 叱咤


~ウルド B.R.A.I.N基地~


 目の前に立ちはだかる巨大な化け物。

 全身を黒い外殻。

 虫特有の鋏の付いた顎。

 百足のような多数の足の付いた長い胴体。

 人一人真っ二つに出来そうな残虐な両手の大鋏。

「なんでこいつが・・・!」

 俺はそれが何なのか知っていた。

 奴の名は『セルケト』。

 危険度Aクラス、砂漠地帯に生息する魔物、主に古代の神殿などの奥に潜んでおり、侵入者を餌として食い漁る凶悪な魔物だ。

 だがその習性からか、墓荒らしに裁きを与える『守護神』として一部の集落では神聖視されていたりもする。

 なんでこんな奴がこの基地に・・・!

「撃て!!」

 機動隊員たちがセルケトに向かって銃を撃ちまくる。

 だが・・・。

「よせッ!!」

 あいつらはこの化け物に対する戦い方を知らない!

 迂闊に仕掛けるのは危険だ!!

「来るぞッ!!」

 セルケトはその黒い外殻に守られているせいか銃弾を物ともせず、頭を下げて低い体勢のまま突っ込んでくる。

 奴はその大鋏で機動部隊に襲い掛かる。

「くっ!!」

 鋭い一撃だったがフレッドが傍に置いた部隊なだけあって、その低い横なぎの攻撃を上に跳んで躱す。

 だがその判断が甘かった!

「ぐあぁッ!!」

 機動部隊の一人が何かに貫かれる。

 奴の尻尾の毒針だ!

「おい! しっかりしろ!!」

「うぶッ!! ごぼッ!!」

 貫かれた部隊員はヘルメットで見えないが泡を吹いたようなうめき声をあげてぴくぴくと動いたあと、動かなくなった。

 致死量の毒だ。

 あの刺された奴はもう・・・。

「・・・くそっ!!」

 セルケトは蠍型の魔物だ!

 低い体勢から放たれる下段攻撃に注意を引き付けて死角となった上からの尻尾の毒針攻撃、奴の戦い方の上等手段だ!

 しかもその尻尾の速さは音速の域に達する速さ、上昇(ライズ)も使えない並みの人間じゃ避けることは不可能だ!!

「また来る!! うわぁッ!! 来るなぁッ!!」

 先程同じようにセルケトは高速で機動部隊の方へ向かって行き、部隊員たちは慌てて銃を撃ちまくる。

 駄目だ、これではさっきの二の舞だ!

 そうはさせるか!



(トネル) (エペ) 接続(コネクション)・・・雷光の刃(ライトニングエッジ)!!」

 

 

 奴が部隊員に注意が向いていた事を良い事に詠唱を完了させて雷を纏った剣で仲間を殺したクソ野郎に斬りかかる。

 セルケトは俺を外敵と認識して鋏を突き出してきた。

 俺は地面を蹴って後ろに回避して奴の攻撃の射程外に逃れる。

 このタイミングだ!!

「ッ!」

 俺は床を蹴って左に避ける。

 すると俺がいた位置の床が僅かに爆ぜて小さなクレーターが出来る。

 奴の高速の尻尾の突きだ。

「キシャァァァ!!」

 自慢の攻撃を躱されてムキになったか、奴は続けて尻尾の突きを放ってくる。

 だが先程の不意打ちならいざ知らず、感覚(センス)上昇(ライズ)で反射神経を強化して集中すれば回避は容易かった。

 そこへ・・・。

(グラス) (エペ) 放出(ホレッシ)・・・氷弾丸(アイシクルバレット)!!」

 メロが援護で魔法を放って来た。

 それはセルケトの足の一本に命中し、凍り付いて足が床に張り付いて動かなくなる。

「ナイスだメロッ!!」

 奴が動けなくなったのを良い事に俺は前に突っ込む。

 奴は俺を迎え撃つように顎の鋏で捕まえるように喰いかかる。

 だがそれを跳んで回避する。

 奴の前で跳ぶことは愚行だが今回に於いては別だ。

 現に奴の尻尾攻撃は来ない。

 当然だ。

 俺は奴の頭上にいる。

 そんな状況で尻尾で貫こうものなら己の身も危険に晒すからだ。

「くっ!! オラァッ!! 死ねぇッ!!」

 セルケトの背中に乗ると、必死に振り払おうと物凄い勢いで揺さぶってくる奴の抵抗にしがみついて耐えながら背中の外郭の隙間を狙って剣で突きまくる。

 だが・・・。



「ギヤアアアアアァ!!」

「ッ!!?」



 なんだ、悲鳴!?

 しかも剣に付いたセルケトの体液がおかしい!

 人間の血に当たる奴の体液は虫と言うことから青と緑が混ざったような色の筈だ。

 けどこれはなんだ!?

 血みたいに赤い!!

 これじゃまるで・・・!

業火(リフュー) (カーン) 放出(ホレッシ)・・・。」

「!!」

 ルタの魔法の詠唱が聞こえて奴の元を離れる。

爆炎(エクスプロー)榴弾(ジョンシェル)!!」

 セルケトは離れた俺を攻撃しようと身体を俺に向けるがその隙を突くように砲弾のような炎が直撃する。

「キィィィィィ!!」

 奴は虫特有の金切り声を上げながら爆炎に包まれる。

「やったか?」

「・・・ハァ。」

 ルタの元へ戻るとルタがわざとらしいフリをするので呆れて溜め息が出る。

「んなわけねぇだろ。」

 案の定炎が燃え尽きても奴はピンピンしていた。

 あれだけの巨体だ。

 大型の魔法とは言え魔術師(メイジ)一人の魔法で倒せるなら世話も無い。

 と、そこへ・・・。

「!!」

 セルケトが突如浮き上がった。

 何かの奇襲かと一瞬思ったがそうじゃない。

 これは奴が自分の意思でやってないことだ。

 何故なら・・・。

「・・・ッ!」

 ティルが手を翳してセルケトに向けて突き出していた。

 サイコキネシスだ。

「ナイスだティル。」

 横からゆっくりとライが前に出る。

 しかし様子がおかしい。

 いつもの調子のいいこいつらしくない、落ち着いた顔だ。

 というか表情がない。

 しかもおかしいのはライだけじゃない。

「ぅぅッ・・・!」

 ティルがいつもと様子が違う。

 涙を浮かべながら怒っている感じの顔・・・憎んでいるような顔だ。

 その表情を見たライは少し寂しそうな表情をした後、また表情を消してセルケトを見る。



「ゆっくりだ。」


 言葉を発したかと思うと言うことが奇妙だった。

 ・・・いや。

 なんとなく察した。

「ティル・・・怒ってるのですか・・・?」

 メロが心配そうな声をかけると俺はメロの前に手を添えて『待った』をかける。

「やらせてやれ。」

「師匠・・・?」

 メロは全く状況がつかめず、戸惑っている。

「ゆっくり潰せ・・・こいつが余さず・・・痛みと苦しみを味わうようにな。」

「うん・・・!」

 ライがえげつない指示を出すがティルは迷わず二つ返事で返す。

 理由はわかる。

 この化け物がライ達に・・・いや『ライの仲間』に何をしたか考えれば当然だ。

 俺らからすればライたち同様、昨日今日あったような相手だが、ライ達は違う。

 どれくらいかは分からないが一緒にいた月日は長いはずだ。

 そんな仲間を殺した糞野郎が目の前にいてティルと同じ能力を俺が持っていたら・・・俺だって迷わず同じように殺す。

 生きていることを後悔し、死を望んでも尚苦痛と共に絶望と恐怖を味わわせられるよう、じっくりと・・・。

 けど・・・。

『ルタ・・・。』

 一連の状況を見守りながら腕輪の念話でルタに話しかける。

『ウルド・・・。』

 ルタから返事が返って来る。



()()()()?』



『ああ。』

 俺とルタは変な違和感を感じていた。

 奴の『魔力』だ。

 普通、一つの生物には一つの塊の様に魔力がある。

 だが奴の魔力は()()()()()()

 何かがおかしい。

「ライ。」

 俺はライの肩に手を置いて声をかける。

「なんだ? 今最高のショーの真っ最中だ。邪魔すんなら・・・。」

「いいから聞け!」

「なんだよ。」

「あのセルケト何かおかし

「うっ・・・!」

「「!?」」

 俺が説明しようとするとティルが突如うめき声をあげて俺もライもそっちに視線が行く。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

 ティルが翳した手を震わせ、息を切らしている。

 心なしか冷や汗を流しているのも分かる。

「どうしたティル!」

「できない・・・!」

「ああ、お前にこんなことさせるのは酷なのは分かる。けどこいつは・・・。」

「そうじゃない!」

「?」

「何か別の力が反発して・・・あいつを潰せない・・・!」

「別の力?」

 何かが干渉しているってことか?

 けどティルの力に干渉できる力なんて・・・いや待て!!

 まさか・・・!



「ティィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥ?」



 狂気と怒号の混じったイカレボイスがティルの名前を呼ぶとその声の主は部屋の奥から浮いたまま、飛び出し俺たちの前に現れる。

「ショーの主役を早々退場させてんじゃねぇよッ!! こいつの出番はこれからだろぉぉ??」

 褐色肌のウェーブのかかった金髪の女。

 忘れるわけがない。

 このクソ女は・・・。

「レッサさん・・・!」

「さっきぶりだなぁウジウジ糞虫ぃぃ!!」

「・・・。」

 ティルとレッサの状況を静観するがなにか様子がおかしい。

 最低なクズ女というのは変わりないがそれでもどっかのふざけた妹のごとくわざとらしく愛嬌振りまく冷静さはあった。

 けど今のこいつはなんか冷静じゃない・・・というかわざと隠していたような本性が露わになってる感じだ。

 あまり抽象的な言い方は好きじゃないが、何と言うか、『ハイになってる感じ』だ。

「ハッ! 人を食いつくすこのクソ虫がショーの主役だぁ!? てめぇの頭はイカレた異国の貴族か!?」

 ライは目一杯の皮肉を込めて銃をレッサに向ける。

「ティィィルゥゥゥ?? その周りにいるゴミ、あんたの宝!? ねえ!! アンサープリィィズ??」

「・・・。」

 レッサはライを無視してティルに問いかける。

 だがその瞬間銃声が木霊する。

 無論レッサはサイコキネシスを使っているのか、銃弾は寸前で止まって固まったように動かなくなる。

「なあ答えろよ? 答えろつってんだろぉッ!!? ティィィィルゥゥゥゥ!!? アンサアアァプリィィズッ!! 答えろよぉヘェェイッ!!!」

 何があったのかは知らないが、奴はティル以外完全に眼中にないみたいだ。

「・・・!」

「ティル、付き合うな。」

 目を見開いて冷やせを流しながらレッサを見るティルの肩に手を置いて、ライは諭す。

 恐らくは先ほどのティルが狂っていた時の事を言っているんだろう。

 だがティルは・・・。

「もうあなたに・・・奪わせません・・・これ以上・・・あなたに壊させないッ!!」

 真っ向からレッサの言葉を返した。

「ひひ、あはははははははは!!!!!」

 レッサはわざとらしくあざ笑うかのように派手に声を上げてティルの言葉を笑う。

「またを作っちゃったんだぁ宝物!! 大事なもの作っちゃったのぉ!! おめぇ最高だなぁ!! わざわざ壊す為に用意してくれるなんてさぁッ!!」

「あなたに壊させる為に作ってるんじゃありませんッ!!」

「じゃあなんでぇ!? アンサアアァ!!?」

「私は・・・!」

 ティルは何か言葉を詰まらせて俯くがすぐに顔を上げる。



「理不尽に失った大切な物の分まで・・・前を向いて生きる為ですッ!!」



「・・・ッ!!!」

 ティルの力強い言葉に何故か俺は胸の奥に何か強烈な物を打ち付けられたような気がした。

 それがなんなのかは分からないが、ティルの言葉には何か強い物を感じた。

「てめぇの意思なんぞどうでもいいんだよぉこっちはぁ!! 壊すッ!! 壊し尽くしてめちゃくちゃにしてぇッ!! そんでまた怒れよッ!! またあのハイになった状態になってみろよぉッ!! そんな風になっても逆らえないって分からせてやっからよぉッ!!」

「あぶねぇッ!!」

「きゃぁッ!!」

 レッサがガラスの刃を周りに精製して撃ち出すと、ライがティルを掴んで横に跳んで回避する。

 その拍子に集中が切れたせいか、ティルが操っていたセルケトが空中から地面に落ちる。

「チッ。」

 俺はセルケトに向けて剣を構える。

「結局俺らで戦わないといけないのかよ、あの化け物は・・・!」



~グラ B.R.A.I.N基地~


「ハァ・・・ハァ・・・!」

 俺はオカマ野郎の前で息を切らしていた。

 身体中は痣だらけ、言うまでもねぇが奴に殴り尽くされたからだ。

「くそッ・・・!」

「ふん。」

 しかも腹立つことにオカマ野郎はピンピンしている。

 俺が一撃入れられたのは最初の不意に放って奴が面食らった一発だけだ。

 なんでだ!?

 どうして奴に一発も打ち込めないんだ!!

「ッ!!」

 俺はすぐにぎじ上昇(ライズ)そうちを噛んで上昇(ライズ)を使いながら奴に突撃する。

 槍は使わない。

 大勢相手に使うのには都合が良いが小回りが利かない一体一(タイマン)は素手の方が都合が良いからだ。

 だが・・・。

「オラアアァァ!!!!」

 両手の高速で拳のラッシュを放つ。

 だが奴は同等の速さで頭を振って全て躱す。

 しかも・・・。

「ぶぐッ! ぐぅッ!!」

 躱しながら小さく放って来る左拳で顔面を小突いてくる。

「うぜぇッ!!!」

 ムカついて腹に向かって突き出すように蹴りを放つと、奴は後ろに下がって距離を取る。

 しかも蹴り終わりの勢いが弱まって脚が地面に降りかかった瞬間に合わせて距離を詰めて来る。

「このッ!!」

 奴を迎え撃とうと振りかぶった右拳で殴りかかるが・・・。

「ッ!!?」

 既に奴の拳が目の前にあった。

「ぶがッ!! がッ!! ぐぇッ!!」

 顔面に喰らってひっくり返り、頭から床にぶつかってそこから二回跳ねるように肩と背中を床に打ち付けて吹き飛んで地面に身体を横たわらせる。

「ふぅん。」

 オカマ野郎は理解していた。

 今の俺の無様な吹き飛び方が()()()()()()()()ことに。

「殴られる瞬間に咄嗟に両足を地面から浮かせて衝撃を殺した・・・血の気が多くて向かって来るだけじゃなくてちゃんと受け身の取り方も心得があるようね、やるじゃない。」

「うるせぇッ!! 上から目線で言ってんじゃねぇッ!!」

「上から目線? そんなの当たり前じゃない! アンタが『格下』だから言ってんのよ。」



「ッ!!!?」




 オカマ野郎の言葉に俺の頭の中の何かが切れた。

「てぇぇぇぇぇめええええぇぇぇぇぇッ!!!!!!」

 怒りに任せてオカマ野郎に拳と蹴りのラッシュを放つ。

「ハイハイあんよが上手♪」

 オカマ野郎は尚も余裕面で後ろに下がりながら拳で捌いてくる。

「死ねぇッ!! このクソオカマ野郎おおおぉッ!!」

「ハイハイそうやって熱くなってると~?」

「ッ!?」

 突如オカマ野郎が進行方向を変えて横に身体をずらす。

 すると俺の目の前には壁があり、俺は壁を思いっきり殴り抜く。

「今度は逃げれるかしら?」

 右から思いっきりオカマ野郎が振りかぶって来る。

 殴り壁を殴った拳が右なせいで左拳で防げねぇ!

「ッ!!」

 だが考えるより早く右膝を蹴り上げて拳を弾く。

「あら。」

「ぐうぅッ!!」

 俺は即座に壁にめり込んだ右腕を引き抜くとまたオカマ野郎に殴りかかる。

 だがオカマ野郎は大振りになった俺の拳を地面を蹴って身体を移動させて躱す。

「熱くなり過ぎよッ!!」

 更に後ろに回り込んで俺の背中を殴る。

「がぁッ!!」

 諸に俺は背中に喰らったが、さっきと同じように地面から身体を浮かせて衝撃を諸に喰らわないように逃れる。

 と同時に・・・!

「ッ!!」

 オカマ野郎は面食らったように目を見開く。

 俺は背中を向けたまま奴の頭を掴んでいた。

 そしてそのまま衝撃で浮いた身体をそのまま勢いを殺さず浮き上がらせるとオカマ野郎の頭を掴んだ手を軸に身体が縦に半回転してオカマ野郎の上に浮き上がる。

「死ねぇッ!!」

 そのまま勢いに乗って回転の勢いを殺さず、奴の後頭部目掛けて膝蹴りを放つ。

「くぉぬぉんんッ!!」

 オカマ野郎は咄嗟に後頭部に両拳を翳して俺の膝蹴りを全力で防ぎ、わざと崩れるように前に倒れて俺の手から逃れて前転しながら距離を取る。

「このッ!」

 間髪入れずにオカマ野郎に殴りかかるがオカマ野郎はすぐに反応して俺の拳を捌いて態勢を立て直す。

 奴がこっちの攻撃にいつでも対応できそうな臨戦態勢になって俺は攻撃を止める。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

「今のはヤバかったわねぇ、やるじゃない!」

「うるせぇ・・・その上から目線やめろ・・・!」

「だから言ってるでしょ? あんた私より・・・。」

 オカマ野郎が何か言おうとした瞬間だった。



「「ッ!?」」



 突如通路の奥側から銃の音が聞こえてそっちを見る。

 (タマ)は飛んでこねぇみてぇだけど・・・って待て!!

「なんでてめぇが此処に・・・!」

 銃の音が聞こえたその先に居たのは・・・!

「あ~ら、ケディ少尉? 何の用?」

「・・・。」

 ケディは銃を上に撃ってたみてぇだがすぐに銃を降ろしてゆっくり歩いてくる。

「グラ。」

「あ?」

「ッ!!」

 ケディは突然銃を上げてその先を俺に向けて来た。

「はッ!? おいッ!!」

 銃を撃って来やがった!!

 二発、いや三発撃って来た!!

 けどなんと躱した。

「あ~ら援護射撃? ありがたいわねぇ。」

「ケディッ!! どういうつもりだッ!!」

「うるさいッ!! 獣人のお前なら殴るよりこっちのほうがいいだろうがッ!!」

「てめぇ裏切る気かッ!!」



「聞けぇッ!!!」

「ッ!!!?」



 ケディの気迫が何故か凄くて黙り込んじまう。

 マジでなんなんだ!?

「・・・なんだよお前、何が言いてぇんだよ!」

「こっそり戻って来て・・・さっきからお前の戦い見てたが・・・。」

「・・・?」

 言いながらケディは俺の前まで歩いてくる。

 目の前で止まると・・・。

「なんだ貴様ッ!! あの情けない戦いはッ!!」

「ッ!!? な、なんだよッ!!」

 急に食って掛かるケディに何故か押され気味になってしまう。

「ふざけんなッ!! なんでいきなり来たお前にケチつけられなきゃなんねぇんだよッ!!」

「うるさいッ!! 今のお前なんかゾルガの足元にも及ばないぞッ!!」

「ッ!?」

 こいつ・・・!

「てめぇ・・・今なんつった・・・!」

 今の言葉はキレたぞいくらなんでも・・・!

「・・・。」

「なんつったてめぇッ!!」

 怒りに任せて俺はケディの胸倉を掴む。

「何度でも言うぞ? 今のお前じゃあの男を超えるなんて無理だ。」

「てめえぇぇぇぇぇッ!!!」

 思いっきり拳を振りかぶって殴・・・ろうとするが・・・!



「・・・。」

「・・・ッ!」



 俺は思わず拳を止める。

 なんでだ・・・?

 手がこれ以上前に進まねぇ・・・!

 こいつ、俺が許せねぇ事を平然とベラベラ喋ってるはずなのに・・・!

 殴りてぇのに殴れねぇ!

 なんでだッ!?

「殴りたかったら殴れ。そのちっぽけなプライドが満たされるならな。」

「・・・ッ! チッ!」

 俺を見透かしたかのように煽るだけ煽るケディがムカつくが何も言い返せず、殴らないまま突飛ばすように胸倉から手を放す。

「何が言いてぇ!! わざわざ馬鹿にするために戻って来たのか!!」

「お前が何も知らないからだ!!」

「ッ!?」

 今度はケディが俺の胸倉を掴む。

「私は見た・・・最後まで見届けられなかったけどな・・・!」

 言いながら目を伏せたケディだがすぐに顔を上げて俺を真っ直ぐ見る。

「けどちゃんと見たッ!! あの男の戦いをッ!!」

「親父の・・・戦い・・・!」

「そうだッ!! ゾルガは強かった!!」

「んな事は分かってんだよッ!! けど俺だってそれは・・・!」

「けどそれは、ただ膂力(パワー)があったからじゃない!! それ以上の(わざ)があったからじゃない!! それだけじゃないんだ・・・!」

「何が言いてぇんだよッ!!」

「お前は何も分かってない・・・あの男が・・・ゾルガがッ!! どれだけ誇り高い戦士でッ!!」

 言いながら次第に涙を浮かべるケディ。



「どれだけ偉大なお前の父親だったかをッ!!」



「ッ!!?」

 ケディに言われた言葉で何かが俺の胸の奥に伸し掛かった。

「お前にとってゾルガはなんだ!! ただのムカつく親父か!?」

「んなわけあるかッ!! 俺がいつかぶちのめす相手だッ!!」

「本当にそれだけかッ!? ただその野心に任せて超えようとした相手か!? 違うだろッ!!」

「ッ!?」

「私には分かるぞ・・・あの男が守ろうとしたのは自分の故郷だけじゃない・・・この世の全ての獣人の為だ!!」

「だからなんだッ!!」

「そんな途轍もない大きなものを背負ってることを・・・娘のお前が知らないわけないだろッ!!」

「分かってるよッ!! それがなんだッ!!」



「そんなどデカい親父の背中に憧れてたんだろッ!!?」



「ッ!?」

 ケディの言葉に一瞬胸の奥が揺らぐ。

 いや、なんでだよ!!

 いつも俺を殴り倒して笑ってたクソ親父だぞ!?

 憧れ?

 違うだろ!

「ッ・・・!」

 『違う』って言いたいのに言葉が出ねぇ、なんでだ!?

 まるでこいつの言ってる事が本当みてぇじゃねぇか!!

「私はあの男の戦いを見て悔しかった・・・自分の弱さが情けなかった・・・! その時思ったんだッ!! もし自分がもっと強くて・・・!」

 ケディは俺の胸倉を掴む手に更に力を込める。



「『あいつと一緒の戦場に立てたらどんなにいいだろう』って!!」



「・・・?」

「お前だってそうじゃないのかッ!! あの男と一緒に過ごした時間が長いお前だったら・・・!」

「何が言いてぇんだ・・・わけわかんねぇよ!」

「そうか・・・。」

 何言ってるのか分からねぇ俺にケディは何を諦めたのか、呆れたように胸倉から手を放す。

「話は終わったかしら?」

 オカマ野郎が口を挟んで来た。

 そういえばさっきから妙に大人しかった、なんでだ?

「で? 少尉は何しにきたの? そのお嬢さんの横に立って援護射撃でもするのかしら?」

「ふざけんなッ!! 一騎討ちだぞ!! 水差すような真似しやがったら・・・!」

「私は手を出しません。」

「・・・は?」

 いや、確かに一騎討ちに手を出さないってのを分かってんのはいいけど意味が分からねぇ。

 本当にこいつ何しにきたんだ?

「じゃあ何しにきたの?」

「・・・。」

「ッ!?」

 ケディは予想外の行動に出る。

 自分の頭の米噛みに銃を突き付けやがった!

 何考えてやがる!!

「何やってんだ!! トチ狂ったか!?」



「私はこの戦いを最後まで見届ける義務があります。」



「は?」

「・・・あんたゾルガとそんな約束してたっけ?」

「いいえ、これは私のケジメです。」

 オカマ野郎が問いを投げるとケディは涼し気に答える。

「だからってなんで銃頭に突きつけてんだ!! アホか!?」

「馬鹿なお前には説明しないと分からんみたいだな。」

「あ”ぁ!?」

 こいつ・・・!

「お前が此処で負けて死ぬようなことがあれば私はビリー大尉が私をこの場で生かしておく理由なんかない。」

「なんだよ、だったらお前も・・・!」

「私が歯向かって戦った所で私は弱い。すぐに殺されるのがオチだ。だからその時は潔く自害する。」

「ふっ、なるほどね。」

 オカマ野郎が何を理解したのか、鼻で笑って納得する。

「自分も一騎討ちの命の担保にするってわけ? でもそれを大人しくあたしが聞くと思う?」

「戦いの最中に私を狙うというのなら自由にこの首を取ってくれて結構です。戦場で弱い者に、生殺与奪の権利なんかありません。自分の命ですらね。」

「フン、ちょっと見ないうちに肝が据わっちゃってまぁ、ついこの間まで何も知らないでおっかなびっくりしてた癖にね。」

「半分以上はあなたのせいでしょ?」

「違いないわね。」

「おい俺抜きで勝手に話進めんじゃねぇ!」

 黙ってりゃ勝手にベラベラベラベラ喋りやがって・・・!

「あ~ら、妬いたかしら?」

「意味わかんねぇよッ!!」

「さっさと行け。」

「うるせぇ指図すんなッ!!」

 偉そうに指示を出して来るケディに噛みつきつつ俺は前に出て構える。

「ったく、どうなっても知らねぇぞ?」

「ああ、分かってるさ!」

 オカマ野郎に構えたまま呆れる俺を尻目にケディは俺に笑いかけた。

 ったく。



 いい笑顔しやがって・・・。




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