#97 第三勢力
~ラベスタ B.R.A.I.N基地~
「・・・。」
モニターを見ると基地の全面図の中に赤い点の光が通路を通るように動いている。
連中の生体反応だ。
もう半分以上奥まで侵攻している。
全く。
あの廃棄場で大人しくくたばってれば良かったものを・・・。
基地内に残っている猟犬を総勢で消しかけているが戦い慣れて来ているのか、雑兵を蹴散らすかのように倒しながら進んでいるせいで止まる様子は無いようだ。
だがそんな快進撃もそこまでだ。
今に絶望を味わうだろう。
まだこの基地には化け物が眠っていた事を連中は知らない。
「喰い散らせ・・・! 『セルケト』・・・!」
これ以上こいつらの好きになんかさせない。
~ウルド B.R.A.I.N基地~
「ゴアァッ!!」
「だぁもうッ!!」
猟犬の鉈を伏せて回避しつつ剣をわき腹に食らわせる。
通路では相変わらず猟犬達が出迎えていた。
いい加減奴らの相手も慣れてきて通行がてらに倒していくような感じだ。
「それにしたって数多すぎじゃねえか!?」
ライは銃を乱射しつつ状況に対して愚痴る。
「・・・。」
目の前の猟犬を斬り捨てて次の猟犬へ剣を構えながら俺も思考を巡らせる。
たしかに数が多い。
俺達が一杯食わせた実戦部隊の敵はかなりの数を割いてきたはずだ。
そいつらは本来抵抗組織の基地を潰す為に総力戦同然に人数を集めたはずだ。
それが基地から出払ったのであればもっと基地の中がもぬけの殻でないとおかしい。
「恐らくはこいつらは『試作体』だろう。」
「は!?」
機動部隊が周りで銃を乱射させる中を悠々と歩きながらフレッドは冷静に分析する。
「なんだよそれッ!!」
「性能テストが不十分で実践投入されていない猟犬達さ。」
「成程、それにしたってこれだけの数の実験動物を基地に攫ってるって最悪だねB.R.A.I.Nって。」
フレッドの解説に納得したようにルタは相槌を打つ。
だが俺は・・・。
「性能・・・テスト・・・?」
「分からねぇんなら無理に話に入るなよ。」
「あぁ!? 分かってるっつの!!」
よく分かって無さそうだと思って茶化して来るライに食って掛かる。
「つまりアレだろ!? 兵器として完成してないから弱い雑魚ってことだろ!?」
「いいや、そうとは限らない。」
「はぁ!?」
俺の回答にフレッドがバツを付けて来る。
「あくまで実践投入するには性能が安定しないというだけだ。大半は君の言う通り、弱い奴らがほとんどだろう・・・だが中には
フレッドが言いかけたその時だ。
「「「「「ッ!!!?」」」」」
此処に居た全員が息を飲んで目を見開く。
何かが巨大な物が高速で通り抜ける。
「な・・・なんだ・・・!?」
通路には道ならぬ横から何かに食い破られたかのような大穴が空いていた。
「何かいるッ!!」
「みんな!! 無事か!!」
フレッドが冷静さを保ちつつも声を上げて全員に確認する。
「ブライアンがいないッ!!」
「ロイドもだッ!!」
「ッ!!?」
被害が出ていた!
フレッドの護衛にいた機動部隊の隊員二名だ。
壁を破って通り過ぎていく何かに連れていかれたみたいだ!
「おい! ケディちゃんもいねぇぞ!?」
「何!?」
まさか、さっきので・・・?
「くそッ!!」
魔覚で敵の位置を確認する奴は壁なんて通路やら壁やら関係なしに進んでいるようだ。
しかもそれは床も例外ではない!
奴が来るのは・・・。
「散れぇッ!!」
『下』からだッ!!
「うおおぉッ!!」
「ひぃぃ!!」
ライが必死に声を上げ、メロが情けない声を上げ、俺達はそれぞれ散らばっていく。
すると床が物凄い勢いで下から突き抜けるように破壊され、黒光りした何かが天井に向かって通り過ぎて行った。
敵の包囲の中、散らばるのは大変だったが幸運な事に今回は犠牲者は出なかった。
今ので確信が持てた。
「奴は床や壁を食い破りながら移動しているみたいだ。」
ディグは分析する。
攻撃の刹那にのみ現れてすぐに壁や天井に逃げていく。
完全な当て逃げ戦法だ。
しかもかなりの巨体だ。
そのせいで現れる刹那に攻撃を避けながらちまちま弾丸やら矢を当てた所で痛くもかゆくもなさそうだ。
「くそぉッ!! これじゃ一方的だ!!」
「どうすればいいのですかッ!?」
「ふむ・・・。」
俺やメロががなり立てている間にもフレッドは指を顎に当てながら冷静に考え込む。
いや落ち着いてる場合かッ!!
「よし、無視だ!」
「「「「はぁ!?」」」」
フレッドが突然発した言葉に俺達は揃って唖然とする。
「あんた何言ってんだッ!! こんな時にッ!!」
「落ち着き給えよ、ちゃんと奴は倒す。」
「意味分かんねぇよ!! あんな奴野放しにしたら・・・ハッ!!」
フレッドに文句を言っている途中に魔覚で察知する。
「伏せろぉッ!!」
俺の合図と共に全員が身を屈め、地面に張り付くなりして体の高さを下げると壁を突き抜けて例の奴が頭上を通過する。
「ッ!!」
視線を上げると目の前には最悪な物があった。
「ひぃ!!」
ティルは顔を真っ青にさせる。
猟犬らしき物だがそれを確信するほどの見た目じゃない。
例の敵が通った射線上に居た奴らは上半身を削り取られるように失っており、骨やら内臓やらが露出して赤い液体を噴水のように噴出させていた。
「食後じゃなくて良かった、でなきゃおもっくそ嘔吐してたぜ。」
「言ってる場合ですかッ!!」
ライの軽口にメロが必死にツッコミを入れる。
んなことしてる場合かこの馬鹿共がッ!
「とにかく進むんだ!! 死にたくないならなッ!!」
「畜生、なんだってんだよぉッ!!」
訳も分からずフレッドの指示に従うまま、奴に対する反撃を諦めて強引に猟犬の群れを突破していく。
「ッ!! 下がれッ!!」
また魔覚で奴の魔力を探知して俺は仲間に警告する。
すると俺達が進もうとしていた先の横の壁を食い破って奴は通り過ぎて猟犬の群れと俺達の間を通り過ぎていく。
「くそッ!! また一人持ってかれた!!」
機動部隊の一人が嘆く。
「ったく、やべぇな・・・このままだと全員奴の腹ん中だぜ?」
軽口を叩きつつ、ライは冷や汗を流す。
それもその筈だ。
ライも不死能力とは言え、全身を喰われれば一溜りも無いだろう。
「これは・・・ちょっとマズイかな・・・?」
フレッドもいつもの笑みは崩さないが今回ばかりは少し表情を曇らせる。
それもその筈だ。
反撃も出来ないから強行突破しようとしても猟犬の群れに阻まれて思ったように勧めない。
「・・・。」
絶体絶命。
「・・・。」
こんな状況だから・・・自分でも何かできないか考える!
何かないか。
奴は一方的にこちらを攻撃して来る反撃不可能無視して猟犬の群れを蹴散らして強行突破数が多いから不可能猟犬の群れすら無視して強行突破仲間の人数が多い絶対誰かが止まって死者が出る駄目だ無視して強行突破する方法・・・
「・・・チッ。」
これしかない。
「ディグ。」
「え・・・?」
突如声を掛けられてディグは動揺しつつも俺に視線を移す。
「生体反応で奴の動きは追えるか?」
「は、はい・・・できますけど・・・?」
ディグは出来るみたいだが俺が何故それを聞いたか分からないみたいだ。
「じゃあ頼む。」
「何を・・・?」
「奴が俺を狙わなかったら俺の代わりに警告してくれ。」
「ッ!? ウルド!! 駄目ですッ!!」
「ッ!!」
ルタは俺の作戦に気づいて慌てて素の呼び方と喋り方で制止するが俺は走る。
向かう先は前方の猟犬の群れだ。
だが闇雲に奴らの群れの波に飛び込むわけじゃない。
「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ!!!!!」
俺は壁を走っての群れを避けて突き進む。
上昇を使って走っている。
「こっちだ化け物ォッ!!!!」
奴を誘い出す為に叫ぶ。
すると・・・。
「ッ!!」
俺の足元の壁の奥から魔力・・・奴だ!!
「くっ!」
俺はすぐに壁を蹴って猟犬の群れの間にすり抜けるように飛び込んで足で衝撃を殺しながら態勢を崩しながら床に転がる。
すると俺の頭上を奴が通り過ぎていく。
「無茶ですウルドッ!!」
ルタが必死に叫ぶが・・・。
「このまま進めッ!!」
「!?」
突如の声にメロは視線を俺から移動させる。
その視線の先はフレッドだ。
「このまま進めば広い場所に出るはずだ!! 奴を引き付けててくれ!! 私達もすぐに追いつく!!」
「・・・!」
どうやらフレッドも作戦に乗ってくれるみたいだ。
「了解!!」
すぐに走り出す。
「おぉらどけどけどけぇッ!!!」
走りながら道を塞いでくる奴だけを斬り払いながら俺は奥へ走って行った。
~ルタ B.R.A.I.N基地~
「よし!! ウルドが奴を引き付けている内に私達も突破だ!!」
ウルドが突っ走って行ったのを良い事にフレッドが指揮を取る。
「師匠を囮にしてるって事じゃないですかッ!!」
あまりに薄情な指示にメロが食って掛かる。
「いや、彼はいい判断をした。魔覚で敵を察知しながら上昇を駆使して回避、奴を引き付けて一番生存率が高いのはウルドを置いて他は無いだろう。」
「だからって
「此処でくっちゃべってたらそれこそお前のお師匠さん死んじまうぜ? さっさと突破だ!!」
メロの話を切ってライは銃を乱射しながら猟犬を倒していく。
「うぅ・・・ああもう、分かったのですッ!! 師匠!! あとでお説教なのですッ!!」
メロも自棄になって猟犬に斬りかかっていく。
そこへ・・・。
「業火 杖 分解 展開広域 射出。」
杖を前方にかざし、魔法を詠唱すると私の周りに無数の火の玉が現れる。
「彗星矢一斉射!!」
詠唱を完了させると火の玉が数多の猟犬に襲い掛かる。
「ナイスだルタ! 総員、残りを殲滅!!」
「「「了解!!」」」
フレッドが合図をすると私の魔法で取りこぼしたの猟犬を機動部隊が銃で殲滅していく。
「よし、前進だ!!」
フレッドが号令を掛けると全員が走って行く。
だが・・・。
「・・・。」
私だけはこの男・・・フレッドを黙って見ていた。
~ロベルト 官邸前~
「・・・!」
女の周りの兵士達は力なく倒れており、戦車は見るも無残に壊れ、A.Aも手足を切断されてものの見事にデクの棒の鉄屑になっていた。
まるでショーを見せられているかのようだった。
ーーー数分前。
「撃てぇ!!」
敵の兵士たちは一斉に女に向かって銃弾を放つ。
だが女はその銃弾の雨をものともせずにかわしながらものすごいスピードで走り、奴らに近づいて奴らの間をすり抜ける。
「くッ・・・!」
突破された兵士は振り返って銃を向けるが・・・。
「うぐ・・・!」
「ぐお・・・!」
すぐに先ほど我々の周りで倒れた兵士のように脱力して倒れていく。
まるで糸の切れた人形のように・・・。
「・・・。」
確かにこの女は強い。
だがそれは、こと『対人』においてのみだ。
奴らには・・・。
『何を手こずっている!! こんな人間一人に!!』
機械のメガホンの音声と共に現れたのは、人の背丈の二倍はあろうかという戦車。
それを三台。
しかもA.Aが二体も後ろから現れた。
おそらくは後続の部隊だろう。
人間一人が相手取るにはあまりにも無謀すぎる相手だ。
だがまた奇怪なことが起こる。
『うわあぁッ!! な、なんだッ!!?』
突如戦車の頭上が爆発した。
「なんだ!?」
「何が起こっているんだッ!!」
戦車のそばにいた兵士達はどよめいて声を上げる。
「うわあぁッ!!」
また爆発が起こった。
いや、何かが空から降って来てそれが爆発している。
『くそっ!! 空に何かいるぞッ!!』
A.Aの操縦士の声が警告を呼びかけながら銃を空に向けて、敵を探す。
だが暗いせいか、何処にいるのかまるで分からない。
「ぐわああぁッ!!」
また何かが降って来て戦車が一つ潰される。
「・・・!」
降って来た先に向かって目を凝らしてよく見ると翼を生やした何かが羽根も動かさずに空を飛んでいた。
いや、あれはハングライダーか?
それを使って誰かが空を飛んでいるみたいだ。
「また来たぁッ!! うわあぁッ!!」
そいつから爆薬らしき球体が四~五個くらい降って来て兵士達は爆発に吹き飛ばされる。
その姿は鳥が空を飛びながら卵を産み落とすかのような奇妙な絵面にも見えた。
『嘗めやがって!! 喰らえぇッ!!』
A. Aの兵士が激昂すると手を突き出す。
すると銃口になっている空洞の指から弾丸が数発飛んで行く。
ハングライダーはそれを躱すが弾丸は曲がって追いかけて行った。
誘導ミサイルだ。
それをなんとか振り払おうとハングライダーは飛び回るがミサイルは依然としてハングライダーを追いかける。
だがハングライダーは急に真上に飛んだかと急降下する。
アスファルトの道路に激突するかと思ったら急に進路を変えて低空飛行で道路の上を真っ直ぐに飛び始めた。
「ぐわああぁッ!!!」
曲がり切れなかったミサイルがアスファルトに激突し、兵士と戦車を巻き込んで爆発した。
それでもミサイルは何発か残り、再びハングライダーを追いかける。
ハングライダーはなおもミサイルの追跡から逃れるために飛び続けるが、ミサイルはハングライダーの追跡をやめない。
『あいつはしばらくは大丈夫そうだな。』
A. Aはそう言って安心した矢先だ。
『さて、あのローブの女は・・・ッ!?』
A. Aの一体が足元に視線を移すとぎょっとする。
「・・・。」
ローブの女はA. Aの足元、本当に真下にいた。
しかも何やら小瓶から液体らしきものを延々と流しているようだった。
だがよく見るとおかしな部分があった。
女が持っていた小瓶は手のひらサイズ、中から液体を出そうものならせいぜい足元の周囲一メートルくらいの水たまりが出来てなんぼの物の筈だが、その液体はA. Aの足元すべてを水浸しにしていた。
どう考えても液体の量がおかしかった。
『何をしている貴様ぁッ!!』
A. Aは激昂して女を蹴り飛ばそうとしたが女は飛び込むように大きく横に跳んで回避する。
そしてすぐさま立ち上がったかと思うと懐から短剣を取り出して胸の前に放ると両手で左右から挟み込むようにら短剣を叩く。
するとら短剣が光を放ち始めた。
『ちょろちょろ動いてんじゃねぇッ!!』
A. Aはもう一つの足で女を踏み潰そうと振り上げて打ち落とす。
だが女は回避するどころか斜めに跳び上がり、A. Aの足をすれすれで往なして回避して空中に跳び上がる。
A. Aの足が地面に激突すると先程女が小瓶から出していた液体で水しぶきがあがる。
その水しぶきを受けながら女は短剣を瞬時に逆手に持ち替えた後に投げた。
短剣は何故かA. Aの足に飛ばず、その足元の液体の水たまりに突き刺さる。
一見無意味に見えた攻撃に見えたが・・・。
『な!? なんだ!?』
A. Aはどよめく。
足元に電気が走ったからだ。
『うああぁッ!! くそッ!! 足のコントロールが・・・!』
A. Aは左足から崩れる。
先程の電流で脚部の電線がショートしたみたいだ。
「今だ、やれ。」
『ッ!!?』
女がつぶやいた刹那、A. Aは顔を上げる。
『うわッ!! 来るなッ!! 来るなあぁッ!!!』
A. Aは突然泣きわめくような恐怖の声を上げる。
何故なら視線の先にはハングライダーの人物がA. Aに向かっていたからだ。
当然、後ろにいたミサイルを引き連れて。
ハングライダーはA. Aの前で急旋回する。
すると曲がり切れなかったミサイルがA. Aを目掛けて飛んで来る。
『うわあああああぁッ!!!』
A. Aはミサイルを諸に喰らって爆炎に包まれると火花を散らしたまま動かない鉄屑になった。
『くっそぉッ!! よくもッ!!』
もう一体のA. Aは相方をやったハングライダーを仇とばかりに腕についている小型の機銃で撃ちまくって来た。
だがハングライダーを操る人物はどんな乗り方をしているのか、ハングライダーとは思えない高速かつ変則的な飛び方で攪乱する。
『くそぉッ!! ちょこまか動きやがってぇ!!』
A. Aも元々的が小さい上にこんな飛び方をされているせいで狙いが付けづらく、弾が当たる気配が無い。
『うッ!?』
A. Aが下を向いてギョッとしたような声を上げる。
足元でローブの女がまた例の液体を小瓶からまき散らしていた。
『やめろッ!! このッ!!』
A. Aはローブの女を蹴り払おうとするが女は先ほどと同じように横っ跳びで回避する。
そこへ・・・。
「ガアアァッ!!」
今度は猟犬が三方向から一体ずつローブの女の元へ襲い掛かってきた。
「ッ!!」
女は猟犬の武器を捌いて二撃目を躱す。
「があぁッ!!」
「ぐあがああぁッ!!!」
猟犬は尚も女を取り囲み、猛攻を繰り返す。
「くっ・・・!」
女は猟犬達に手こずっているようだ。
『よし・・・!』
その様子に安心してA. Aはハングライダーに視線を戻すと・・・。
『な!?』
ハングライダーはA. Aの左横を通り過ぎる。
『くそッ!! 嘗めやがって!!』
A. Aが左腕の機銃を撃とうと構えるが・・・。
『え?』
左腕が何故か腕を離れて地面に落ちる。
『な、なにぃ!?』
自分の腕が切り落とされたという事実にA. Aは戦慄する。
よく見るとハングライダーは魔物の骨と皮を使っているようだが、先端部分は業物の刃物のように鋭い刃が夜の僅かな照明の光を反射させていた。
『くそっ!! このぉッ!!』
いよいよハングライダーを無視できなくなったA. Aは必死になって右腕の機銃を撃ちまくる。
だが・・・。
「グアアアァッ!!」
猟犬の声がして私は視線を下のローブの女に移す。
すると女を襲っていた猟犬の一体が目を押さえてのたうち回っていた。
「ガアァッ!!」
残りの猟犬の一体が女に襲い掛かる。
だが・・・。
「グッ!?」
女は身体を回転させながら猟犬の武器を持った手を捌いて攻撃の向きを逸らすと猟犬の顔に液体が掛かる。
それは先ほどの小瓶の液体だろう。
すると。
「グガァァッ!!」
先程の猟犬のように目を押さえてのたうち回る。
液体は劇薬かと思うが、硫酸などの液体にしては書けた部分が溶けたり爛れたりする様子は無い。
もしかして、あれは塩水か!?
「・・・。」
女は先ほどと同じように短剣の柄を左右から叩くと短剣は光り出す。
A. Aが気づいていれば邪魔しようものだが・・・。
『くそぉッ!! 墜ちろこのッ!!』
A. Aはハングライダーにご執心で状況に気づかないみたいだ。
すると天高く跳び上がりながら辺り一帯を水浸しにした塩水に向かって投げる。
短剣がアスファルトの地面に刺さると・・・。
「「「グガアアアァァッ!!」」」
猟犬が断末魔を上げる。
それと同時に・・・。
『な、なんだと!!?』
A. Aの足まで電流が伸びて感電して足の動きを奪った。
『くそッ!! 猟犬が止めてたんじゃないのか!?』
A. Aが非難気味に言うが言ってる事はごもっともだ。
先程まで猟犬に手こずっているように見えたが、ハングライダーにA. Aが攻撃の目を向けた途端に冷静に捌きだした。
素人目で見ても分かる。
あの女はわざと手こずったフリをしていたのだ。
そう考えると全てに辻褄が合う。
『ッ!!? しまった!?』
A. Aは視線を上げたがもう遅かった。
ハングライダーは既に目の前に迫っていた。
『うわっ!! 来るなぁッ!! うわぁッ!!』
ハングライダーはA. Aの右腕を通り過ぎ、すぐに後ろで急旋回して左足を通り過ぎると切り裂かれた手足が地面に落ちた。
中の人間は生きているだろうが、こうなってしまってはもうA. Aは戦えない、ただの鉄屑だ。
---そして現在。
「・・・!」
完全に全滅した敵を見て私はただ唖然とするしかなかった。
ハングライダーは敵の沈黙を確認したのか、我々と同じアスファルトに降りる。
乗り手の人物はローブの女と同じ、外套に身を包み、鷹のような厳つい鳥のような兜で顔を隠した細身の人物だった。
「・・・。」
ローブの女も事態が終息したのを確認するとゆっくりと歩いて来て私の前に立つ。
「あんた達は・・・!」
「お前たちを助けたのはその方が都合が良かったからだ。」
「は・・・?」
私が問いかけに対し答えず、女は急に自分の言い分を話し始めた。
「・・・どういう、ことだ?」
少し戸惑ったが、女の話を進めた方が話が進みそうだったので話を合わせて聞く。
「我々はある目的でこの国に来た。そこに偶々お前たちがいた。」
「偶々・・・助けたってことか?」
「そうだ。我々は情報が欲しい。この状況なら恩を売ったお前たちの方が嘘を言いにくいと思った。だから助けた。」
「・・・なるほど。」
唐突だが納得した。
関係ない第三者が自分たちの利害で助けたんだろうが、ありがたい事には変わりない。
「分かった。知ってることは出来る限り話す。助けてくれたのは事実だからな。」
「ああ、話せ。」
「・・・!」
視線を上げるとその女の顔が少し見える。
「この国で、一体何が起こっている?」
少ししか見えないが、艶やかで美しい女だった。




