#96 狼の目にも
~ロベルト 官邸前~
事態は最悪だ。
「くそぉ・・・!」
「放せコラッ!!」
「ひぃぃ・・・!」
拘束具で押さえつけられながら虎族の獣人は喚き、銃を突き付けられた羊族の獣人は両手を上げて必死に降伏の意思を示す。
私と同じ戦線で戦っていた兵士や民間人たちの半数が死に、残りは私を含めて生け捕りにされて捕虜にされていた。
だが捕まえた私たちをB.R.A.I.Nは殺そうとしない。
「ケルディウス少佐! 捕虜を確保しました!」
「ふむ、よくやった。」
私と年が変わらなさそうな偉そうな男がいる。
「さて。」
ケルディウスと呼ばれた老軍人は私達の方へ向き直る。
「運がいいな貴様ら! 貴様らにはまだ利用価値があるから生かしてやる、光栄に思え!」
「利用価値? はっ・・・。」
ケルディウスに対して鼻で笑う。
「そこの獣人達ならまだしも私のような老人や民間人あがりの物を改造して兵隊にしたって大した戦力にはならんだろう?」
「ふむ、貴様は見たところ研究者だな? 確かに我々の素性を知っていればそのような考えに至るかもしれん、だが我々とてそんな事は分かり切っている。」
「だったら・・・。」
「お前たちが弱そうであればあるほど利用価値があるのだ、こちらはとしてはな。」
「何・・・!」
「お前たちはただ官邸を占拠するために我々と戦っていた訳ではあるまい。」
「!」
ケルディウスの言いたいことが薄々分かってきた。
「官邸の中の基地に潜入した残党がまだいるだろう?」
「くっ・・・!」
「これだけ戦力が揃っていれば鎮圧も容易いだろうが、念には念を入れようと思うのは当然だと思わんか?」
「まさか・・・!」
「そうだ! お前たちには人質になってもらう。お前たちの頭に銃を突きつけた姿でも見せれば奴らも武器を捨てざるを得んだろうからな!」
「ふざけるな!! 殺せッ!!」
「ほう? 潔いな、軍人でもないくせに殺されることに一切ためらいがないとは。命が惜しくないのか?」
「元々お前たちと戦う時点でこちらは皆死を覚悟している!」
「ぼ、僕たちはそのぉ・・・。」
「!」
後ろから弱気な声が聞こえるとそこには弱気な羊族の獣人がいた。
「ふん、『皆死を覚悟している』? 笑わせる! 死にたくない者もいるではないか!」
「くっ・・・!」
すかさず揚げ足を取って来るケルディウスに腹が立ってくる。
「ふはは! 貴様ら弱者は我々強者の言うことを聞いていればいいのだ! それがこの世の摂理だろう?」
「・・・!」
醜い本性を露にしたケルディウスに対して思う事があった。
『怒り』ではない。
いや、それもあるんだがもっと別の・・・。
「どこぞの宗教では『神の前では皆平等である』などと言うがな! そんなものは綺麗ごとのまやかしだ!! はっはっは!!」
宣言してケルディウスは高らかに笑う。
「実際の『神』はこうも不公平ではないか! 『地位』、『力』、『財力』、『素質』、神は生まれて来る者に平等に分配しない!! そしてそれらを持たざる者は持つ者に蹂躙され、奪われ、何も残らない!! 結局弱者は強者に蹂躙されるしかないのだ!! 今のお前たちのようにな!!」
「・・・。」
ケルディウスを見て私は俯く。
「はは! どうした!? あまりの現実の残酷さに言葉も出ないか!?」
「・・・同じだ。」
「は?」
「お前は同じだよ。昔の私と・・・。」
「何を言っている?」
「はははは!!」
余りにも目の前の男が哀れ過ぎて笑いが止まらなくなる。
古い鏡を見せられている気分だ。
『昔の自分』という物はこうも滑稽に映っていたんだな!
「何がおかしい!!」
「私も研究者としてそれなりの地位にいた!! 汚い金や権力で好き放題した!! 今のお前のようにな!!」
「・・・ふん、だからなんだ?」
少し間を置いてからケルディウスは鼻で笑って皮肉を吐く。
微妙に図星を突かれたんだろう。
当然だ、こいつと私は元をたどれば『同族』だからな。
「同じことをしたからなんだ? 何が言いたい?」
「そんな私だから・・・いや、『未来の貴様』から言わせてもらうぞ?」
「未来の私? 何をふざけたことを・・・。」
「貴様には天罰が下る!!」
「・・・!」
私の言葉にケルディウスは目を見開いたが・・・。
「・・・ん? んん?」
すぐにわざとらしく辺りを見渡す。
「天罰? はは、何を馬鹿なことを!! ふはははは!!」
ケルディウスは派手に笑い飛ばす。
「何が『未来の私』だッ!!」
「ぐっ!!」
ケルディウスは私の顔を蹴り飛ばす。
「ぐふぅ・・・!」
拘束具で後ろ手に縛られてろくに受け身も取れず、私は無様に地面へ横顔を打ち付ける。
「お前は偶々運がなかった『もしもの未来の私』だろうがッ!! 一緒にするなッ!!」
「ぐがっ!!」
続けざまに私を蹴り続けるケルディウス。
だが・・・。
「はは・・・。」
「!?」
「はははは!! ははははははは!!!」
蹴られながら私は笑い飛ばす。
こいつが滑稽だからだ。
こいつには絶対に分からない。
かつての私が分からなかったんだからな。
いつかこいつが私と同じ目に遭って惨めな目に合うと思うと笑いが止まらないからだ。
「はははははは!!」
「こ、こいつ狂っているのか・・・!」
ケルディウスが私の行動を異常と取ったのか、蹴る足を止めて顔を青くする。
と、そこへ・・・。
「いいぞロベルトさんッ!! 言ってやれぇ!!」
「!!」
仲間の一人が声を上げる。
更に・・・。
「ロキウス野郎のくせに吠えるじゃねぇかッ!! そこの骨ジジイより骨あるぞあんたぁッ!!」
獣人の一人も吠え掛かる。
「何が生まれ持った物だ!! 親の七光りに甘え込んでるだけじゃねぇか!!」
「権力っつったってお前自身何もしてねぇじゃねぇかこのヘタレ軍人がぁ!!」
「お前ひとりじゃ何もできない癖に!! 雑ァ魚ッ!!」
獣人もロキウスの人間も関係なく、仲間は私の勢いに乗ってケルディウスに罵声を浴びせる。
「~~~ッ!!!」
ケルディウスは顔を赤くして怒りを露にする。
当然だろうな、捕虜にした奴らから此処まで虚仮にされれば腹も立つだろう。
「黙らせろッ!! こいつと一緒に痛めつけて
「緊急報告ですッ!! ケルディウス少佐ッ!!」
「あぁ!!?」
突然声をかけて来た兵士にケルディウスは苛立ちを隠さず乱暴な返事を返す。
「歩兵の兵士たちが何者かに襲われていますッ!!」
「なんだと!?」
「それと、襲われた者は苦しんで叫んだあとに泡を吹いて倒れていきます!」
「敵は毒を使う者か!! それで数は!?」
「そ、それが敵の姿を確認できない間に襲われているのでどれだけの規模で来ているかは・・・!」
「ええい、使えん奴めッ!!」
「ぶっ!?」
怒り狂ったケルディウスは兵士を思いっきり殴った。
恐らくは兵士のヘマだけじゃなく先ほどの苛立ちによる八つ当たりも上乗せした怒りだろう。
「全く、何がどうなって・・・!」
そう言って視線を一瞬泳がせたあとにすぐに視線を兵士に戻し、胸ぐらを掴む。
「すぐに敵の規模を確認してこいッ!! 今度中途半端な報告をすればただじゃ・・・?」
倒れた兵士をすぐに掴み上げたがケルディウスはすぐに異常に気付く。
「ぅ・・・あ・・・!」
兵士は白目を向いてぴくぴくと痙攣したまま動かない。
「ッ!!?」
更にケルディウスは異常に気付く。
今度は私たちを拘束していた周りの兵士たちが一斉に倒れていく。
「な、なんだなんだ!?」
真っ青になったケルディウスが辺りを見渡すと、丁度目の前、目と鼻の先の距離にそいつは立っていた。
「・・・。」
黒いローブを羽織っており、顔もローブのフードで分からない。
その謎の人物は直立で、尚且つ両腕は身構える様子もなく左右に降ろしている。
手に何を持っているのかさえ、そのローブの袖が長いせいで分からない。
「このッ!!」
ケルディウスはすぐにこの事態を引き起こした犯人と判断して拳銃を取り出して撃つ。
だが・・・。
「ッ!!」
ローブの人物は身体を大きくずらして弾丸を回避する。
しかもその回避の動作と同時に地面を蹴り、一気にケルディウスに近づく。
「ぐおッ!?」
しかも先程の回避の動作を利用して身体を回転させ、その勢いを利用して左足を蹴り上げてケルディウスの銃を弾き飛ばす。
「なっ!? ぐあぁッ!!」
銃が弾き飛ばされたかと思うとローブの人物は更に一回転してその脚を折り曲げてケルディウスの腕に絡まらせる。
銃を撃つ為に腕を伸ばしていたせいか、その脚に体重を掛けられたケルディウスはかくんと関節を曲げられ、その勢いで体勢が前へ大きく崩れる。
その崩れた態勢へすかさずローブの人物は頭を掴んで半回転したまま宙を舞うと、そのまま体重を乗せた膝蹴りをケルディウスの背中に食らわせる。
「ぐふぅッ!!」
結局ケルディウスは前のめりに倒され、右手を後ろ手に固められて馬乗りに伸し掛かられたまま組み伏せられる。
「何故お前の前に現れたか分かるか?」
「!!」
ローブの人物の声は明らかな女の声だった。
「お前が『一番弱そうだった』からだ。」
女は手を掲げるように振り上げる。
ローブの裾が降りて手に持っていた物が姿を現す。
短剣だ。
それをすかさずケルディウスの背中に撃ち落とす。
「ぐがぁッ!! き・・・さま・・・!」
情けない態勢で身動きを封じられたからか、最後に侮辱された屈辱からかは知らないが、ケルディウスは恨みがましくローブの女を数秒睨んでからガクっと頭を降ろす。
「あ、あんたは・・・!」
「・・・。」
声を掛けると女は立ち上がり、今にも振り返ろうとするが・・・。
「居たぞッ!! 奴だぁッ!!」
敵の兵士たちが声を上げて走って来た。
恐らく後続の部隊だろう。
「兵を襲っていたのはお前だな!? 何が目的だッ!!」
兵士達は銃を構える。
「・・・。」
女は無言で兵士達へ向き直る。
立ちながら手を脱力させ、静観するようなその姿は先ほどのケルディウスと対峙したような・・・。
『構えるまでも無い弱者』を相手にしたような挑発的な態度にも見えた。
~グラ ???~
「ほら行ったぞ!!」
「おっしゃぁッ!!」
俺が親父に声を掛けると親父は大の字で構える。
「ブギィィッ!!」
その親父に向かって行ったのは巨大な猪、野生の魔物の『ワイルドボア』だ。
奴の突進力は凄まじく、生半可な種族の獣人が受ければ五体はバラバラになるほど強力な物だ。
だが親父は・・・。
「おぉッ!! ぐぅッ!!」
敢えて正面から受け止め、突進を止めに掛かる。
ワイルドボアの突進を受けても親父の身体はバラバラにならず、それどころか足が地面を引き摺って押されつつも徐々に速度が落ち、やがて止まる。
俺は一切心配なんかしなかった。
子供の頃から俺をボコボコにしてきた憎たらしい親父だがそれだからこそその強さを信用していたからだ。
「今だッ!!」
「おうよッ!!」
「だああぁッ!!」
親父が声を掛けると俺と一緒にもう一人、向かい側から飛び出す。
レガだ。
俺とレガは左右からワイルドボアに跳びかかり、持っていた槍で勢いよくワイルドボアのわき腹を両側から貫いた。
「ブギィアァ!!」
ワイルドボアは嬌声に似た断末魔を上げてその短い脚を倒してうつ伏せのまま地面に寝そべって動かなくなった。
「よい・・・!」
「せっと・・・!」
死んだと思ったがそれでも死んだふりをしているかもしれないので念入りに槍を押し込んで死んだのを確認してから槍を引き抜く。
「痛てぇ~! マジでこいつ力強ぇなぁ!!」
親父は尻餅を着いて大袈裟にわき腹を押さえる。
ワイルドボアの突進を正面から受けきってこれだけで済むのは普通はあり得ない。
それでもケロっとしている訳だから逆に笑えない。
「ったく、ワイルドボア相手にこんな狩りの仕方すんの親父ぐらいだぞ!」
「いいんだよ!! 俺はこっちの方が楽しいからな!!」
「そうかよ・・・。」
親父は相変わらずで呆れてため息が出る。
でもまぁ・・・。
「俺だっていつか・・・。」
そうだ。
こんな親父の馬鹿みたいな命知らずの力試しが出来なくちゃ親父に追いつけない。
いや、出来なくちゃいけないじゃない・・・!
「俺だって出来るぞッ!! これぐらいッ!!」
自分を奮い立たせて親父のやったことを思い出して自分でやる時の事を考えて心構えを整える。
「こんな猪野郎のタックル受け止めきれねぇで何が親父を超えるだ!! バカげてるぜ!! 次来たらぜってぇ俺がやってやるッ!!」
「・・・!」
親父は俺の言葉にぽかんとする。
「なんだよ親父! 俺、変な事いったか!?」
「・・・いや。」
そう言うと親父は笑いながら鼻を鳴らして立ち上がる。
「そうだッ!! お前なら出来るッ!! 俺の自慢の娘だからなッ!! がっはっはっは!!」
親父は豪快に笑い出す。
「すごいなぁ、グラ。」
レガは少し枯れた笑みを浮かべる。
「ワイルドボアのタックルを受けきろうって普通の奴ら考えないよ・・・。」
「バカッ!! お前もやるんだよッ!!」
「痛ッ!!」
弱気な事を言うレガの背中を思いっきり引っ叩く。
「グラ、何馬鹿な事言ってるんだよ・・・!」
「馬鹿はお前だッ!! 俺の火種がウジウジ弱い事言ってんじゃねぇ!! 俺が選んだ以上、お前も徹底的に鍛えて俺と同じくらい強い戦士になるんだよッ!!」
「・・・。」
レガもさっきの親父のようにぽかんと口を開けるがすぐに静かに笑みを浮かべる。
「そうだね。グラに守られた分、僕がグラを守れるように・・・強くなるんだ!」
そう言って自身を奮い立たせながら立ち上がる。
「よく言った二人ともッ!!」
「「ッ!!?」」
親父がいきなり大声で声をかけて来る。
「ッたく、いきなり後ろから怒鳴んじゃねぇよ。」
「ははは!!」
「ったく。」
「グラ、お前はもう立派な戦士だ!! 行ってこい!!」
「ッ!?」
そう言って親父が物凄い力で俺の背中を平手でバシンと叩く。
「親父!! いちいち背中叩くんじゃ・・・!」
余りに痛くて文句を一発言ってやろうとしたその時だ。
「・・・え?」
どこにもいない・・・?
親父が居なくなっていた。
「親父・・・?」
なんだよ、どういうことだ?
「親父? 親父いいいぃッ!!!」
親父を必死に呼ぶが返事がない。
何処かに隠れたのかと思うが、あんな良くも悪くも堂々とした親父がこんなイタズラじみたかくれんぼなせこい真似するとは到底思えない。
「先に帰ったんじゃない?」
「あー、いや。親父の事だし別の獲物見つけて跳んで行ったとか?」
「ははは! あり得る!」
「けっ、結局このワイルドボアは俺らが運ぶのかよ。」
「せっかく鍛錬の機会だよ! やろうよ!」
「お? じゃあお前ひとりで運ぶか?」
「あ、いや。それは流石に・・・。」
「言った先から何弱気になってんだよ! しゃあねぇなぁ・・・。」
相変わらずのレガのヘタレっぷりに呆れつつ一緒にワイルドボアを運ぶ。
結構な巨体なので俺でもギリギリ運べるか微妙だったから仕方ない。
「・・・。」
「・・・。」
しばらく二人で黙って猪を運んでいたが・・・。
「やっぱりグラはすごいな・・・。」
「あ?」
「だってこんな重いワイルドボアのタックル受けれるくらい強くなるって何の迷いもなく言うんだよ? ウチの村だって冗談でもそんな事いうやついないよ。」
「馬鹿、俺はいつか親父を超える戦士だ! 親父に出来ること出来ないままでどうやって親父に勝てるってんだよ!」
「・・・そうだね。」
「お前も強くなるんだよ!」
「・・・いや、無理だよ。」
「あ?」
レガの奴・・・なにみっともないことを・・・!
「グラは力も強いけど心も強い。」
「何が言いてぇんだよッ!! 戦士らしくねぇこと言ってっと・・・!」
「だからその強さで・・・!」
「あ?」
「僕たちが進めなかった分まで進んでくれ・・・!」
「は? え!?」
急に猪が重くなって地面に落としてしまう。
「おい! レガッ!!」
レガが運ぶのをサボったと思って猪の巨体を迂回してレガの元まで駆け寄る。
「何サボって・・・!」
そう言って文句を言おうとした瞬間・・・。
「は?」
レガの姿がなかった。
「なんだよ・・・レガも親父と一緒に悪ノリか?」
ふざけやがって・・・!
「レガアアアァァ!!! 出て来おおおおおいッ!!!」
あいつ、絶対見つけてぶん殴るッ!!
「レガアアアアァァッ!!!」
声を上げるがレガの気配はない。
普段の奴ならこうやって怒鳴り上げただけで恐怖のあまり跳び上がって草むらをガサガサ鳴らすはずなのに一向にその気配すらない。
「ッ!!!」
なんだよ・・・なんだよなんだよなんだよッ!!
いい加減にしろッ!!
おちょくるにも限度ってもんがあるだろうがッ!!!
「親父いいいいいいぃッ!!!! レガアアアアアァァァッ!!! ふざけてねぇで出て来おおおおぉいッ!!!!」
何度も親父とレガを呼びながら森中に響く声で叫ぶ。
けど全然何も返って来ない。
「親父いいいいいいぃッ!!!!」
ふざけやがってッ!!!
「レガアアアアァァッ!!!」
ふざけてねぇで出て来いよッ!!
「オヤジイイイイイィッ!!!」
ふざけてねぇ・・・で・・・!
「レガあああぁ・・・!!」
自分の声に勢いがなくなって来るのが分かる。
叫び過ぎたか?
いや、別に喉は痛くない。
まだいける・・・!
「おや・・・じぃ・・・!」
ついには叫べなくなった。
喉は痛くないけど・・・なんか、胸が苦しい・・・!
締め付けられるように痛い・・・!
「・・・?」
何かが落ちて膝に当たる。
「・・・は?」
まさかと思って目元を触ると俺は涙を流していた。
なんで俺、泣いてるんだ・・・?
泣いてる場合じゃないだろ!!
「親父いいいぃッ!! レガあああぁッ!!!」
叫ぶ。
親父とレガを呼び、名前を叫ぶ。
だが・・・。
「おや、じぃ・・・! レガ・・・!!」
すぐに声が出なくなる。
辛いからだ。
「なんでだよ・・・なん、で・・・! うっ・・・うぅ・・・!」
訳も分からず天を仰いで声も無く泣いた。
そうやって泣くうちに意識が段々朦朧としてきて・・・。
---「・・・!」
繰り返される身体の揺れに意識が段々ハッキリしてくる。
「こ・・・こは・・・!」
俺は誰かに運ばれながら平らな鉄の通路を進んでいた。
ああ、そうか。
俺、確か穴に落ちて滅茶苦茶臭い所に落ちてそのまま気絶して・・・。
「あ! 司令! 目を覚ましました!!」
俺を肩に担いでいた『きどーたい』とか言う奴らの一人が声をかける。
すると降ろされて槍を渡される。
「・・・。」
正直気まずかった。
「わ、悪かったな。寝ちまっててよ。」
「・・・。」
「?」
ウルドはいぶかしそうに無言で視線を逸らす。
「おい、どうしたんだよ。」
「・・・。」
「おい! なんだよみんな!」
みんなの様子がおかしい。
黙ったまま全然視線を合わせてくれない。
「なんだよ・・・なんかあったのか?」
「・・・ああ、実は
「私が説明する!」
ウルドが口を開いた瞬間、割って入って来たのは・・・。
「ケディ・・・お前なんで・・・?」
ケディは確か親父と同じ防衛線にいたはずだ!
「実は---。」
---ケディから聞いた話は耳を疑うものだった。
親父が火神を使ったこと。
勝っても負けても今は確実に戦死しているだろうということ。
「・・・そっか。」
俺は脱力して生返事を返す。
「おい!!」
「あ?」
ケディが何故か食って掛かってくる。
「それだけか!?」
「なんだよ。」
「お前の親父さん死んだんだぞ!? 何とも思わないのか!? 薄情すぎるだろ!! いくらなんでも!!」
「ここで悔しがってギャンギャン泣けってか? 俺はそんなに弱くねぇ!」
「そういう問題じゃない!! 頭おかしいんじゃないのかお前!?」
「俺からすればお前の方が頭おかしいぞ?」
「なんだと!?」
「戦場で死んだ仲間に泣くやつは戦士じゃねぇ。そいつは臆病者か弱虫だ。」
「ッ!?」
「そういう奴の甘さが新たに仲間を殺す。戦場ってなそんなものだろう?」
「そんな言い方・・・!」
「いや、グラの言うことはごもっともだ。」
「大佐!?」
突然フレッドが割って入る。
「今この場は戦場だ。 おそらく死者はグラのお父さんだけじゃない。彼らを悼み、泣くのは全て終わらせて生き残った後だ。」
「大佐まで・・・!」
予想外に自分の言葉を折られてケディはぐらつく。
「なんだよ話が分かんじゃねえか!」
「俺もそれには賛成だ。」
「ライ?」
ライもそれに乗ってきた。
「自分語りなんて好きじゃねぇんだけどな。これでも俺も仲間の死なんて何度も見てるからよく分かる。」
「・・・。」
しれっと言うライの横で何故かティルが辛そうに視線をそらす。
「・・・。」
「!」
それを察してか、ライはぽんとティルの肩を叩く。
「ケディ、確かに仲間を想うお前の気持ちは分かる。」
「ウルド?」
ウルドも割って入る。
「けどみんなの言う通りだ。俺だって仲間を殺した奴らは許せない。この戦いで散っていった仲間の為にも奴らを徹底的に根絶やしにするべきだ。」
「その通りだ!」
フレッドは思いっきりパンと手を叩く。
「今は前を向くことだけを考えるんだ!」
「そうだぁ!!」
「奴らを許すなぁ!!」
「B.R.A.I.Nは根絶やしだぁ!!」
フレッドの言葉をきっかけにきどーたいの奴らは声をあげて士気を高める。
「よし!! 行くぞおめぇらッ!!」
ライが声を上げ、今にもみんな走り出そうとしたその時だ!
「決起の円陣は終わったようね。」
「「「「「「!!!?」」」」」」
その声が聞こえた時にはみんな既にちょっとしていた。
「オカマファイター・・・!」「オカマ野郎・・・!」「ビリー大尉・・・!」
「呼び方統一してくんない?」
ツッコミを入れたオカマ野郎は俺達が進もうとしていた道の先の壁にもたれかかっていた。
「まさか次の関門が君になるとはね、ビリー大尉?」
「大統領直属の幹部にお会いできるなんて光栄ね、フレッド大佐?」
オカマ野郎とフレッドは知り合いだったみたいで、オカマ野郎は遊び半分に額に指を当てて挨拶の動作を取る。
「まさかとは思うが、この数相手に君一人で立ち向かうというのかい?」
「まさか、私の相手はもう決まってッ・・・!」
オカマ野郎が言葉を止めて身構えるとガキィンと金属音が辺りに木霊する。
「こういうことよ☆」
「・・・なるほどね。」
オカマ野郎が得意気に言いながらフレッドにウインクすると、フレッドは若干冷や汗を流しながら呆れ気味に溜め息を吐く。
「お前らは先に行け、こいつは俺の獲物だ。」
「あーら、じゃああたしはウサギ? それともリス?」
俺がみんなに呼びかけると、オカマ野郎はいつものようなふざけた返事を返して来る。
「そんな可愛らしいもんじゃねぇだろてめぇは、鏡も見た事ねぇのか?」
「おいグラ!! ふざけんなよ!!」
ウルドは割って入って俺を非難する。
「止めても無駄よ? この子が望むのは『あたしとの一騎打ち』・・・そうでしょ? ゾルガの娘さん?」
「気安く親父の名前を呼ぶんじゃねぇ。」
「ふざけんな!! どう考えたって袋叩きにしたほうがいいだ痛ってぇ!?」
ギャンギャン吠えかかるウルドを誰かが後ろから殴る。
「頭を冷やしたまえよウルド。」
「フレッド!? あんたまで何出すんだ!!」
「状況を考えてみなよ。 我々は一刻も早くこの基地を制圧しないといけないんだ。彼の強さは知っているだろう? 全員でかかれば勝てるだろうが、それでも時間いっぱい抵抗されて時間を稼がれようものなら防衛部隊が全滅しかねない。」
「けど・・・!」
ウルドは返答に迷いながら俺を見る。
「俺が信用できねぇってのか?」
「それは・・・!」
ウルドは言葉を詰まらせる。
「私はグラを信じるのです!!」
そう言って割って入って来たのは・・・。
「メロ?」
突如割って入って来たチビ助にウルドは目を丸くする。
「グラは強いのです!! オカマファイターなんてけちょんけちょんに出来るのです!!」
「へっ、分かってるじゃねぇか、チビ助。」
「な!? またチビ助って言いやがったのですッ!! キィィィ!!!」
メロが俺に掴みかかろうとするとメロの身体がふわりと浮かび上がる。
「ティル!! 降ろすのです!!」
「ま、まぁまぁメロさん・・・。」
空中で地面に降りようともがくメロをティルが困り顔の笑みで宥める。
「チッ・・・。」
ウルドは忌々しそうに舌打ちをするが納得したみたいだ。
全員は状況を察するとオカマ野郎を無視して走り出した。
だが・・・。
「グラぁッ!!」
「あ?」
少し前まで走ったところでウルドか振り返って俺に声をかける。
「負けんじゃねえぞッ!!」
「大きなお世話だ!! 早く行けッ!!」
「へっ・・・。」
目と鼻で笑うと再び踵を返してウルドは走って行った。
「・・・。」
「・・・。」
俺とオカマ野郎は黙ったまま、構えて互いに睨み合っていた。
「『三度目の正直』ってやつ?」
「オカマ野郎・・・てめぇだけは絶対に許さねぇ。」
「分かってるわよ。あたしはあんたのパパの仇だもんね?」
「レガの事もだ!」
「あらやだそうだったわね!!」
「ッ!?」
オカマ野郎は瞬時に消える。
「で?」
気づいた時には俺の体は横殴りに吹っ飛んでいた。
「うがぁッ!!」
吹っ飛んだ先の壁に激突し、全身に激痛が走る。
「全く見えてないじゃない! 火神・・・だっけ? その奥の手使わないと私に勝つなんて不可能じゃない?」
「・・・はは。」
「?」
「ははは・・・ッハッハッハッハ!!」
「な、何?」
急に笑い出した俺にオカマ野郎は眉をひそめる。
「頭でもイカれたの? 勝てないと思ってもう諦めちゃった?」
「火神ナシでお前に勝つって言ったら、どうする?」
「・・・何言ってんの? 何寝ぼけたこと
その言葉の直後だった。
「ッ!!?」
オカマ野郎がぎょっとして両腕を交差させて左即頭部を防御する。
防御が固まりかけた瞬間にその腕へ俺の蹴りがめり込み、そのままオカマ野郎を吹き飛ばした。
「ぐぅッ!!」
オカマ野郎が向かいの壁に激突し壁にクレーターを作る。
「ッ・・・! あんた・・・まさか・・・!」
オカマ野郎は勘づく。
まぁ、そりゃそうだろうさ。
「そうさ、そのまさかだ!!」
俺が歯を噛み合わせると同時にオカマ野郎も同時に噛み合わせる。
次の瞬間、お互いに物凄い速さで一気に距離を詰めて拳をぶつけ合い、その反動を利用して離れる。
「くっ・・・!」
オカマ野郎は表情が一変して焦っている。
それもその筈だ。
俺はもう知っているからな。
「もう手品のタネは分かってんだよッ!! イカサマ野郎ッ!!」




