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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
93/101

#93 闇と光


~ティル ???~


 ガラスの砕け散る音と共に周りの風景が壊れていき、足場を失った私は暗闇の中をただ落ちていく。

「・・・。」

 私はただ無気力なまま身を任せるように落ちている。

「・・・。」

 落下の際の押し寄せる風を己の身に受けながら僅かに考えが過る。



 私・・・なにしてたんだっけ?

 


 思い出せない。

 けど思い出したいとも思わない。

 なんでだろう。

 そう思った時だ。

 突然海のように深い水の中に入った。

 飛び込んだ際の自分と同時に水に入り込んだ空気の泡がすり抜けながら当たって行くのを感じながら呆然と自分が飛び込んだ水面を見上げる。

 脱力しながら仰向けに上を見上げるが身体が浮き上がらない。

 沈み続ける。

 けどそれもいいと思った。

 息が出来ない。

 自分はもうすぐ死ぬんだろう。

 そう思って意識が朦朧とするとまるで眠っていくかのように思考が薄れていき、何も考えられなくなっていく。



 そしてーーー



「・・・!」

 気が付くと私は薄暗い廃墟の中でぺたんと座り込んでいた。 

 それに此処に居るのは私ひとりじゃない。

 周りに何人もいる。

 それは・・・。

「ギラ・・・ネマ・・・ガス・・・エド・・・ウィズ・・・エル・・・フラウ・・・ルク・・・ヴィル・・・ミア・・・アド・・・シラ・・・!」

 私を囲みながら黙って私を見続けている子たちの名前を呼ぶと更にもう一人、真正面から現れる。



「・・・兄さん。」



「・・・。」

 兄さんは無表情のまま、座り込んでいた私を黙って見下ろしていた。

 その顔を見ると居てもたっても居られなかった。

「うぅ・・・!」

 頭を抱えながら地面に這いつくばって額を地面にこすりつける。

「ごめんなさい・・・ごめんなさいごめんなさい・・・! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!」

 ただ謝り続ける。

「私だけ・・・生きてて・・・ごめんなさい・・・!」

 本気の気持ちだった。

 みんなが死んで私だけが生きている。

「なんで私なの・・・?」

 許せなかった。

 自分がひたすら許せなかった。

「なんで私なのッ!? なんで私だけが生き残ったのッ!?」

 そうだ。

 私なんか生きてたってしょうがない!!

 兄さんは、いつだってみんなの先頭に立ってみんなを引っ張ってた!!

 ネマは明るくて兄さんと一緒にみんなを楽しませてたッ!!

 ガスは賢くて冷静で、無茶する兄さんを陰からフォローしてたッ!!

 他のみんなだって、私に無い物いっぱい持ってたッ!!

 私なんかよりもみんなが生きてる方がずっとずっと・・・!

 


「そーそーそー! それでいいのよ!」



「ッ!!」

 聞き覚えのある声。

 それが後ろから聞こえるだけで背筋が凍る。

 顔を上げると・・・。

「レッサ・・・さん・・・!」

「ようやくあんた自分の立場がわかってきたみたいじゃない!」

 レッサさんは私の前に立つとしゃがみ込んで私に視線を合わせる。

 そして満面の笑みを見せると立ち上がり両手を広げる。

「あんたみたいなグズで根暗な、一人じゃなぁんにもできないやつが!! 他の奴ら差し置いて生きてていいとでも思ってたわけ? 今まで!!」

 くるくるとゆっくり回り、語りながら私の周りを旋回するようにぐるぐると歩きながら私を煽る。

「やめてッ!!」

 すぐに顔を伏せて耳を塞ぐ。

「耳塞ぎたきゃ塞げば!!? どうせあんた、私の言葉は絶対に無視できないから!!」

「うぅ・・・!」

 耳を塞いでも無駄だった。

 レッサさんの声は直接頭に響いてくる。

「もうやめて・・・!」

「私は別にやめてあげてもいいけど!? でもここにいる奴らはみんなのティルこと許さないから!!」

 レッサさんはさらに事実を突きつけて煽って来る。

「やだッ!! もう聞きたくないッ!! やめてぇッ!!」

「みんなティルを許さない!!」

 わざと声を荒げながら私に息を吹きかけるようにレッサさんは訴えかける。

「言わないで・・・聞きたくないッ!!」

「さぁみなさんごいっしょにぃ!! サン☆ハイ☆」

 レッサさんが合図すると・・・。



「「「「「「みんなティルを許さない!!」」」」」」



 まるで合唱のようにみんなが声をそろえて同じことを言ってきた。

「はいもういっかい♪」

 レッサさんがまた合図すると・・・。



「「「「「「みんなティルを許さない!!」」」」」」



 呪いのような言葉をまたみんなが合唱する。

「やめて・・・もうやめて・・・!」

 必死に耳を塞いで懇願するが・・・。



「「「「「「みんなティルを許さない!!」」」」」」

 みんなは私を責めるのをやめない。

「「「「「「みんなティルを許さない!!」」」」」」

 私に烙印を刻むように・・・。

「「「「「「みんなティルを許さない!!」」」」」」

 呪いの詠唱をやめなかった。



「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

 それにただ私は蹲って謝る事しかできない。

 もう嫌だ。

 これ以上虐めないで・・・!

「はっはっはっは!! 壊れちゃうねぇ!! 壊しちゃうよぉ!? あんたの最期の一番大事なこの居場所!!」

 胸の奥が張り裂けそうな痛みと共に周りからガラスの亀裂が入るような音が走る。

「あ・・・あぁ・・・!!」

 ()()だ。

 此処で自分が意識を取り戻す前に同じ事が起きて、何もかも壊れて・・・!

 それが何度も・・・!

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も



 何度もッ!!



「もうやだぁ・・・許してぇ・・・!」

「許すわけないじゃぁん!!?」

 レッサさんは追い打ちをかける。

「こんな楽しい事、()()()()()終わらせられるわけないじゃん!! はは!!」

「やめてぇ!!」

「これにてこの幕は終了~!! 次回作にご期待ぃ~!! あははははははは!!!」

「嫌ああぁッ!!!」

 レッサさんが笑い、私が泣き叫んだその時だ。



「地獄でやってろ、このクソアマ。」



「は?」

 チャキっと僅かな金属音がすると、レッサさんは何かに気づく。

 その直後・・・。

「あぅッ!!?」

 突如銃声が聞こえ、奇妙なうめき声をあげたかと思うとレッサさんは何も喋らなくなる。

「何・・・?」

 何が起こったか分からない。

「ったく・・・俺の大事な大事な妹の心の中まで土足で入り込んでんじゃねぇよ、変態サイコレズが。」

「・・・!」

 呆れたように吐き捨てた台詞の声はすごく聞き覚えがあった。

「兄さッ・・・!」

 すぐに顔を上げて前を見ようとすると・・・。

「ッ!?」

「おっと! まだ目を開けるなよ?」

 突如手の平で目隠しをされ、目を開けても何も見えない。

「なあ、ティル。」

「は、はい・・・?」

 兄さんは突如声をかけて来る。

「お前にはみんながどう見える?」

「私は・・・。」

 兄さんの言葉にすぐ答えようとしたがすぐに唇を嚙みしめて言葉を殺す。

 そしてゆっくりと口を開く。

「みんなが死ぬ中・・・自分だけ生き延びた・・・きっとみんな許せないと思う・・・。」

 思ったことを言う。

「みんなだってもっと生きたかったから・・・そんなみんなを差し置いて生き残ってるから・・・。」

 回りくどい気がするけど、自分が許せなかったせいで理由が先に出た。

 それでもすぐに結論を言う。

「きっとみんな恨んでる・・・。」

 どう考えてもそうとしか思えなかった。

 生きたいみんなを差し置いて生き残った自分が許せなかった。

 私にはみんなほど価値がないから・・・。

「俺にはそうは見えないけどなあ・・・。」

「え・・・?」

 兄さん・・・何を言ってるの?

「なぁティル・・・お前自分のやったこと考えてみろよ。」

「・・・!」

 そう言って兄さんは頭に手を置く。

「お前はこいつらに何をした?」

「そ、それは・・・。」

「俺はよく知ってるぞ? 兄貴なめんな?」

「私が・・・みんなにしたこと・・・?」

「お前が今までこいつらにしたことは全部覚えてる。ストリートでろくに寒さもしのげない場所で布切れだの段ボールでも漁って必死に寝床を作って・・・そこで投薬切れの限界が来たやつを看病してた。全員な。」

「・・・。」

 確かにしていた。

 でも、それは兄さんたちみたいに食料の収集に参加できないから、せめて他の事でもいいから役に立ちたくてやっただけ。

抵抗組織(レジスタンス)に保護された後だって、死にそうな奴から看病のために絶対に離れなかった。」

「・・・。」

 全部罪滅ぼしだ。

 死にたくない仲間の代わりに生きる自分が許せなかったから・・・。

「そんで俺がわざわざ『死んだやつのぶんまで笑って行きよう』ってルール作ったのにも関わらず、それを破ってまで死んだやつの前で手を合わせて泣いてた。」

「ごめんなさい・・・。」

「謝る必要なんかねぇよ。お前がどんだけ仲間思いなのか・・・それを知らない奴はこの中にはいねえよ。」

「・・・。」

 兄さんが言ってる事は本当かどうか分からない。

 それに、兄さんが思うようにみんなの気持ちを考えたら、それは自分勝手な責任逃れだと思う。

 けど・・・それでも胸の中が軽くなっていく感覚があった。

「んじゃ、もう一度聞くぞ? お前にはみんながどう見える?」

「・・・。」

 兄さんの質問に答えられない。

 みんなが私をどう見てるか、分からない。

 『恨んでる』と思う私が正しいのか・・・。

 『感謝している』という兄さんが正しいのか・・・。

「見なければ・・・わかりません・・・。」

「ははっ! だよな!!」

 私が答えると兄さんの声は笑いながら答える。

「じゃあ目隠しとるぞ? ちゃんと見とけよ? こいつらの顔を!」

「・・・ッ。」

 兄さんが目を覆っていた手を取ると私は躊躇いながらも唇をぎゅっと締めてからゆっくりと目を開ける。

「・・・え?」

 目の前の光景は信じられない光景だった。

 曇っていた空がいつの間にか晴れ渡っており、廃墟を明るく照らしていた。

 それより信じられないのが・・・。

「へへっ!」

「ふふっ!」

 私を囲みながらストリートを共に過ごしてきた仲間は笑いながら私を見ていた。

「みんな・・・どうして・・・!」

 未だに信じられない。

 だって、みんなは・・・。

「私・・・!」

「ティール!! もうやめなよ! そうやって自分が悪い悪いって考えるの!」

 ネマが笑いかけながら私を励ます。

「だって私・・・!」

「だってもヘチマもないって! 俺たちみんな死ぬの覚悟の上で脱走したんだ。後悔しちゃいないよ。」

 ガスが呆れ気味にため息を吐きながら吐き捨てるように私に言う。

「大体ティル、姉貴が言ってただろう? 『脱走したってどのみち長く生きられない』って。」

「あ・・・。」

 そうだ。

 みんな、私もそれを聞いた上で脱走するって決めたんだ。

「俺たちは『研究所で身勝手に殺されるぐらいなら自由に生きて死にたい』。そういうつもりで脱走したんだろ?」

「そーそ!」

 ガスが説明するのに割り込むようにギラが目の前に現れる。

「だから死んだことは悲しまなくていいんだよ! だから『死んだやつの分まで笑う』ってみんな決めたんだ!!」

「・・・。」

 みんな、そのルールの意味が分かった上で守ってたんだ・・・。

 それなのに私・・・!

「ごめんなさい・・・それなのに私・・・!」

「あーまたこれだ!」

「ティルの悪い癖!」

 ガスが呆れて頭を抱えるとネマが笑いながら私の額を指で小突く。

「ティルのやったことも悪いことじゃないよ!」

 ネマの横でウィズが笑いかける。

「そうだよ!! そりゃすぐ死ぬことを納得した上で脱走したけど、それでも僕たち、一秒でも長く みんなと居たかった。一秒でも長くあのみんなで盗んだ食料片手に笑ってる場所に居たかった。」

 エドもウィズの横で語り掛けてくる。

「それを助けるためにティルは頑張ってくれたんだよ? それにやっぱり一人ぐらいは・・・自分のために泣いてくれる人がいるのは嬉しかったかな?」

「だからみんなティルのこと恨んでない! だからもう自分を責めないで!」

 フラウとルクも左右から笑いかけて来る。

「みんな・・・!」

 胸の中が暖かくなって涙が溢れて来る。

「うっ・・・うぅ・・・!」

 溢れる涙を拭いながら声も無く泣いた。

「分かったろ? みんな分かってるんだよ。お前がどんな思いでみんなのために尽くしてきたか。それは基地にいる時だって一緒だ。そりゃはお前鈍くさくて要領悪いけどみんなのためにできることを頑張ってる。そんなお前がみんな(だぁい)好きなんだよ!」

「それにティルがいなきゃ困る奴が約一名いるからね?」

 ミアが意地悪そうに言うとみんなの視線が一斉に兄さんに集まる。

「何見てんだよぉ。」

「だってライ兄よぉ! いくら再生能力があるからって突っ走ったり無茶しすぎなんだよ!」

「横に慎重すぎるぐらいの子がいないとどこまでも突っ走っちゃうからね?」

 ヴィルが呆れ気味に兄さんに言う横でアドが一緒に兄さんに顔を向けながらさり気無く視線を私に送って来る。

「私が・・・?」

「そうそう! もうあんただけなんだよ? ライ兄止められるの。」

「・・・!」

 みんなが励まされる中、少し疑問が過った。

 みんなの言い方がまるで()()()()()()()()()()()()()()みたいな言い方だったからだ。

「兄さん・・・!」

「へっ!」

 私が視線を向けると兄さんはいつものようなちょっと意地の悪そうな笑みを浮かべて鼻で笑う。

「俺が幽霊に見えるか?」

「だって・・・兄さん・・・!」

「生憎と殺しても死なないのが俺の売りだからな! 正真正銘、生身の『ライお兄ちゃん』だ!」

「ぷっは! お兄ちゃんて!」

 兄さんの言い方にシラが笑う。

「なんで笑うんだよぉ!」

「いやそう呼んでほしいの? お兄ちゃん?」

「それに殺しても死なないって! まんま再生能力のことじゃん!」

 シラが茶化すとエルも続けて茶化す。

「うるせっ! それに根性とか、あと色々パラメーターが、なんかプラスされんだよ!」

「兄・・・さん・・・!」

 恐る恐る顔に手を伸ばし、頬に触ると確かに感触があった。

 それに暖かさがある。

「本・・・当に・・・?」

「ったく、触ってんのに疑うのかよ。」

「兄・・・さ・・・!」

 目に涙が溢れ、溜らず兄さんに抱き着く。

「わー! ティル大たーん!」

「ヒューヒュー!」

「うるせぇ茶化すな!」

 周りが冷やかすのを兄さんが怒鳴るが怒りと言うより照れくささのある感じだ。

「まあそういうことだ お前がいないとダメなんだよ。」

「私なんかが・・・?」

「ああ、『お前なんか』じゃなきゃダメだ。」

「私 どんくさいし・・・。」

「知ってる。」

「よくこけるし・・・。」

「だからお前がとろいぶん、俺が引っ張ってやる! ドジ踏んで転んだら立たせてやる! 今までだってそうしてきただろ?」

「兄さん・・・!」

 また涙が溢れてくる。

「二人ってさぁ・・・。」

 ウィズが笑いを堪えるように聞いてくる声が聞こえる。

「案外お似合いだよね?」

「ッ!?」

 お似・・・合い!?

 ウィズ、何を言って・・・!

「ったく、相変わらずお前は恋バナ好きだよな!」

 兄さんは呆れながらウィズに捨て台詞を吐く。

「ウィズの恋愛馬鹿に賛成するつもりはないけど、俺もそう思うな。」

「んだよ、お前まで!」

「誰が恋愛馬鹿だ!!」

 ガスが指摘すると兄さんとウィズが一緒に喰ってかかる。

「お互いにないところを補い合ってるってやつだよ。」

「分かる!!」

「案外良い夫婦になったりして~!!」

 ガスが解説するとネマとギラが一緒に茶化して来る。

「いきなりぶっ飛んだこと言ってんじゃねぇよ、兄妹だっつってんだろ?」

 兄さんは呆れ気味に言うが・・・。



「それも・・・いいかも・・・。」

「「「「「・・・・・・。」」」」」



 兄さんの胸に顔を埋めながら私が言うとみんなは急に固まったまま静まり返る。

「・・・は?」

 兄さんは声を漏らす。

「あ、ごめん。私も聞き間違いだったかな?」

「俺もちょっと体調悪いのかな? 幻聴だろうなぁ・・・。」

 ネマが気まずそうに気のせいにしようとするとガスもそれに乗って流そうとしている。

「ぅぅぅッ・・・!」

 このままじゃマズイと思った。

 せっかく勇気を出して言ったのになかったことにされちゃう。

 そんなのイヤだ!

「ッ!」

 意を決して顔を上げ、兄さんの脇の下に滑らせていた腕の先の手で兄さんの後頭部を掴んで引き寄せて・・・!

「わぁ!」

「ひゃぁ~!」

「マジか!」

「ヒュウゥ!!」

 自分の唇を兄さんの唇に合わせた光景を見てみんなが声を上げて囃し立てて来る。

 それでも頑張って兄さんの唇を合わせ続けた。

 数秒後、肩を掴まれて思いっきり引き剥がされる。

「ティル・・・!」

 兄さんは真っ直ぐに私を見る。

 赤くなったその顔は半分怒ってるようにも見えるけど、もう半分は動揺と焦りにも見える。

 いつもの私を茶化して来る兄さんとは似ても似つかない顔だ。

「兄さん・・・?」

「・・・!」

 少しの間目を泳がせて言葉が出そうな声を押し殺しながら目を閉じて数秒俯きながら心を落ち着かせるようにしてからまた私を見る。

「自分が何やったか、分かってんのか?」

「・・・うん。『そういう意味』でやった。」

 半分責めるような物言いで問い詰めて来る兄さんの言葉に、私ははっきりと答えた。

「分かってんのか? 俺ぁ『札付き』だぞ? しかもそこそこ名の通った悪党だ。」

「知ってる。」

「お前にも火の粉が降りかかるかもしれないんだぞ?」

「大丈夫、ツラい思いなんてもう慣れっこだから・・・。」

「そういう問題じゃねぇだろ・・・。」

「だって、兄さんの事・・・ずっと前から・・・す・・・す・・・。」

 今しかないと思っていても出ない言葉はあった。

 今しかないのに・・・出てこない・・・!

「頑張れ!」

「!」

 ルクが励ましてくれた!

「頑張れ!」

「そうだ、頑張れぇ!」

 ルクに続くようにみんなが励ましてくれる。

「す・・・!」

 言うんだ!

 今しかないから!!



「好きだからッ!!」



 言った!

 全身に力を込めて精一杯に想いを伝えた! 

「「「「おおおおぉ!!」」」」

 周りからすぐに歓声が上がった。

「ッ!」

「!?」

 兄さんは私の肩を掴んだ手を放し、私の後頭部を掴んで引き寄せるとほぼ零の距離まで顔を近づけて来る。

「言ったな?」

「・・・!」

 兄さんは私の後頭部を掴んでない左手で私の顎をクイっと上げ、物凄い眼光で私の目を見る。

 私が言うのも悪い気がするけど兄さんはお世辞にもガラがいいとは言えない人だ。

 普通の人がこんなことされれば怖くて委縮する。

 けど・・・。

「・・・言った。」

 私には怖くなかった。

 兄さんが、本当は優しいの知ってるから。

 それに、あんなこと言った今の私に怖い物なんてない!

 ・・・と思う。

「覚悟はいいんだな?」

「うん・・・ッ!!?」

 私が返事を返した直後、兄さんは私の顔を引き寄せて強引に唇を奪った。

「わああぁッ!!」

「ヒュウウゥ!!」

「すげぇぇッ!!」

「アッツアツゥ!!」

 当然ながらみんなは物凄くはしゃいで私たちを冷やかした。

 しばらく口を合わせた後、ゆっくりと唇を放して私を見る兄さん。

 けどすぐに周りに視線を泳がせる。

「今更言うけどさ。」

「なに?」

「周りにこんなにいるのによぉ、よくもまあ大胆に・・・。」

「みんなになら見られても・・・いい。」

「・・・そうかよ。」

 横目でため息をつきながら兄さんは呆れ気味に相槌を打つ。

「それに此処、私の心の中・・・なんだよね?」

「そうだけど? それがどうした?」

「だから・・・此処のみんなは外のみんなには言いふらせないから・・・私と兄さんだけの秘密に出来る。」

「うわぁ!」

「そう来たかぁ!」

「ティルぅ~!」

 周りのみんなは如何にも『悪い奴~』って感じで囃し立てて来る。

 けど本気で非難はしてない、からかってるような言い方だった。

「いつの間にか悪い女になっちゃったみたいだねぇティルぅ?」

「誰の影響だろうねぇ?」

「「「「ねぇ~~~?」」」」

 ネマとガスがからかい気味に言うと、みんな打ち合わせをしたわけでもなく口を揃えて兄さんを見る。

「俺のせいだって言いてぇのかよ!! ・・・まぁ否定はしねえけど?」

「「「「ははははははは!!」」」」

 兄さんがボケ気味に言うとみんなはどっと笑いだす。

「だよねぇ!!」

「ライ兄、食料を盗みに行く時一番ノリノリでやってたもんねぇ!!」

「いちいちお前らはクチャクチャうるせぇな! 色々うまいもん食えたからいいじゃねえか!」

「「「「ははは!!」」」」

「はっはっは!!」

 みんなが笑うのにつられて兄さんも笑い出す。

 しばらくこの場にみんなの笑い声で溢れかえる。

 けど・・・。

「はっはっは・・・。」

 兄さんはだんだん笑いが途切れて無表情で俯く。

「・・・兄さん?」

「よし!」

 突然声を上げると兄さんは顔を上げる。

「そろそろ帰るか!!」

「!!」

 兄さんの言葉に胸が締め付けられるような気分になる。

「・・・帰るの?」

「ああ、帰るぞ!」

「帰るんだね・・・。」

「・・・。」

 ちょっと悲しい気持ちになりながらみんなを見ている私を見て察したのか、兄さんは少し目を細める。

 兄さんが察する通りだろうけど、少し寂しかった。

 せっかくこうやってみんなと話が出来たのにこれでお別れだと思うとなんだか・・・。

「心配すんなよッ!!」

「わぅッ!?」

 兄さんは私の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でて来る。

「ここはお前の心の中なんだ! お前がこいつらのことを忘れない限り、こいつらはずっとここにいる! そうだろ、お前ら!!」

「そうそう!!」

「いつでも会えるんだから、ティルはちゃんと帰りを待ってる人のところに帰った方がいいよ!」

 ガスがうんうんと相槌を打つとネマが諭すように私に言う。

「そうだぞ! あのチビ助だって、お前が帰ってくるの今か今かと待ってんだ!! あんまり待たせるのはよくねえぞ!」

「あ・・・!」

 不意にメロさんの事を思い出す。

 危険を顧みずレッサさんに立ち向かった、すごく頑張り屋な私の友達・・・!

「そうだね・・・また会えるよね!!」

「行ってきな! ティル!!」

 ミアが歯を出して笑いながら私の肩を叩く。

「僕らはいつでもここで待ってるから!」

 反対側からエドが笑いかける。


「いってらっしゃーい!」

「いってこーい!」

「頑張ってこい!」

「また来てねー!」


「みんな・・・!」

 みんな、思い思いの声で私を後押ししてくれる・・・!

 涙で前が見えなくなりそうで涙を拭うとまだ涙は取れないけど前は見える。

「うん!」

「よし!! じゃあ戻るか!!」

「!」

 そう言って兄さんは私の手を握って歩き出す。

「じゃあな、お前ら!」

 兄さんは振り返らずにみんなに言う。

「・・・!」

 けどすぐに止まる。

「いや・・・。」

 兄さんはみんなに振り返る。



「またなお前ら!!」



「おう!!」

「またねぇライ兄!!」

「ティル困らせんなよぉ!」

「最初にする時はちゃんとゴムしろよぉ!」

「うぅるせぇッ!! 余計なお世話だぁッ!!」

 励ましながら途中からおちょくりだすみんなに吐き捨てるように言いながら兄さんは笑いながら私の手を引いて歩いていく。



---しばらく歩いた。

 相変わらず同じような廃墟の風景。

 兄さんが何処に向かっているのか不安になるけど兄さんの足取りには全然迷いがなかった。

「に、兄さん・・・。」

「なんだ?」

「帰り道・・・分かるの?」

「あ? 何言ってんだよ! わざわざ外から入って来たんだ! 来た道戻ってるだけだよ!」

「・・・。」

「・・・へっ。」

 黙って俯く私を見て察したのか、兄さんはいつものような軽い笑みを浮かべる。

「信じろよ! お前何年妹やって来たと思ってんだ?」

「いもう、と・・・。」

 私が零すように言うと不満を察した兄さんはちょっと苦虫を嚙み潰したように眉をひそめて視線を逸らす。

「・・・。」

「・・・。」

 しばらく沈黙が続いた。

 けどすぐにそれは破られる。



「心配すんな。」



 沈黙を破ったのは兄さんだ。

「兄、さん?」

「お前がモノにした男は最高の男だ。お前を一人にはしないし、お前を退屈させたりはしねぇ。」

「・・・!」

 兄さんの言葉に胸の中がいっぱいになる。

「うん・・・!」

 嬉しくて顔がつい笑顔になって答える。

「お! 着いたな!」

 目的地に着いたみたいだけどこれ・・・。

「すごく・・・大きい・・・!」

 それは異国のお城にありそうな大きな大きな・・・。



 『扉』だった。




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