#88 秘密事
~ウルド 廃棄場~
俺達を助けたのは『救世主』・・・。
「グウウウゥゥゥ・・・!」
そんな言葉とは程遠い存在だ。
『生体反応識別不可・・・全く分からない!! 奴は何者なんだ!?』
ディグは抜け目も無く分析しようとしていたが奴の正体がまるっきり分からないみたいだ。
「分かんねぇけど助けてくれたんなら・・・!」
「あいつは味方じゃねぇッ!!」
ライが安易に返そうとした言葉を遮る。
「なんだ? お前んとこの知り合いか?」
「・・・。」
こいつは俺が旅に出るきっかけになった存在。
「奴は俺が住んでた街を襲った狂戦士だ!!」
「はっ、つまり『敵』ね。了解ッ!」
ライは銃を構える。
だが・・・。
「待って二人とも!」
ルタが制止をかける。
「あ? 何?」
「ガアアアァァァァァアアアアアアァァァ!!!!」
「ッ!?」
ルタの方を一瞬向いたが奴の咆哮と共に構える。
しかし・・・。
「ゴアアアアァァァ!!!」
狂戦士は俺達と反対の方向へ走り出す。
その先は言わずもがな、腐食者だ。
「キィィィ!!」
腐食者は応戦するように触手を伸ばす。
だが狂戦士は避けようともせず、斬撃は鎧の防御力に任せ、捕獲しようとした触手にからめとられても振り払わず、無理矢理進んで拘束を抜け、ただひたすら進んで行く。
なんて奴だ!
俺達があれだけ手こずった攻撃を物ともせずにただただ進んで行く姿はまさに化け物だ!
「ガアアアァァッ!!!!」
走りながら狂戦士は奴に向かって身体の半分はあろうかと言う巨大な斧を片手で軽々と振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろす。
だが腐食者は力ずくでは敵わないと判断するのが早いか、瞬時にざざざと高速で移動して斧を避けると暗がりに紛れて姿を消したかと思えば魔力を消して気配も絶つ。
「ガァッ!! ゴアアアァッ!!」
奴が隠れて見つけられずか、狂戦士は闇雲に辺りをその手に持った斧で粉砕する。
『炎』
『氷』
『風』
『土』
「グゥッ!?」
狂戦士は声がしてすぐに現れた魔力に気づく。
腐食者は壁に張り付いた状態で魔法を詠唱していた。
『手 放出』
『手 放出』
『手 放出』
『手 放出』
「ガアアァァァッ!!」
今にも魔法の詠唱が完了しそうだという状況なのに狂戦士はおかまいなしに跳びかかる。
だが非情な現実が奴に襲い掛かる。
『炎球』
『氷弾』
『風刃』
『土砲』
四属性の魔法が一斉に狂戦士に襲い掛かる。
炎、氷、風、土、それらが一斉に命中すると混ざり合った力の影響か、爆弾のように派手に爆発し、爆煙が辺りに漂う。
しかし・・・。
「ゴゥアアアアアアアアアアァァァァアァァアアアアアアアアッ!!!!!!」
狂戦士は煙から飛び出す様に現れて腐食者に飛びつく。
腐食者は面食らったようだが、それでも狂戦士を振り払おうと触手や身体を揺さぶって必死に抵抗する。
「なんだあいつ!! 魔法が効いてないのか!?」
「『魔断体質』だ。」
「まだん、たいしつ???」
ライはよく分かっていないが俺はよく知っている。
実際に戦ったからな。
「人間の中に稀にいる、魔力の影響を受けにくい体質。あの狂戦士には魔法はほぼ効かないの。」
ルタも続いて解説する。
「なにそのご都合チート!!?」
「だからこそヤバいんだ、奴は・・・!」
「ピギィアアアアアァァ!!!」
「「ッ!!?」」
腐食者の悲痛な叫びを聞いて奴の方へ向き直ると目の前には悲惨な光景が広がっていた。
「グアアワガアアアアァァァッ!!!!!!」
「ピギィエエエァアアアアアアアア!!!」
腐食者の触手が狂戦士によって引きちぎられていた。
しかも一本や二本なんて生易しい物じゃない。
まるで草むしりでもするかのように何本も何本も引きちぎられた触手が宙を舞って捨てられていく。
こうなると腐食者が哀れでならない。
体格的には圧倒的に自身の方がデカいのに人の大きさでしかない狂戦士に組み付かれて自身の身体を蹂躙される様はさながら凶暴で危険な虫に襲われて身体を食い荒らされる人間の様だ。
「逃げるよッ!! みんな!!」
「異論無しッ!!」
「は、はいですッ!!」
「え? お、おう!」
ルタが合図を出して走り出すと俺とメロはそれについて行き、ライも一瞬戸惑いつつもついて来た。
どう考えても英断だ。
あの狂戦士の狙いは恐らくは俺。
腐食者を襲ったのは多分、俺を喰おうとした邪魔者だったからだ。
さっきの状況を鑑みるに腐食者はあのまま狂戦士に殺されるだろう。
そうなれば次に標的にしてくるのは俺達だ!
「ディグ!! そっちに合流する!!」
ライが通信機でディグに連絡する。
『ライ兄!! 丁度良かったッ!!』
「あ? なんだよ!」
『大変なんだ!! すぐに来て!!』
「「「「!!?」」」」
ディグの言葉に俺達は同時に目を見開いてライの通信機を見る。
「どういう事!?」
『実は・・・や、やめろッ!! どうしちゃったんだティル姉ッ!!』
「は!? お、おい!! どういう事だ!!」
「ティルがそこにいるのですか!?」
『とにかく来てッ!! 大変なんだッ!!』
ライとメロが問いただすがディグは何か焦っているようで状況を説明する余裕がないみたいだ。
「チッ! 訳分かんねぇ!! とりあえず急ぐぞ!!」
「ああ!」
~ディグ 廃棄場~
目の前の光景はおぞましい物だった。
僕たちの足元にあった死体。
それはあの腐食者と呼ばれた生体兵器によって喰われた人間たちの成れの果て。
それらが山になって僕たちの足場になっていた物だ。
だがそれらが動いている。
まるで屍人のような不死族の魔物のような動きで動いている。
「くそッ!! 撃て撃て!!」
機動隊の人達はひたすら機関銃で死体を撃ち続けるが止まる気配はない。
何故なら奴らは死体というより『物体』だからだ。
「ぐわぁあぁッ!!」
機動隊の一人が死体に噛みつかれる。
「くそッ!!」
仲間の機動隊が死体を引き剥がして全員距離を取る。
「喰らえッ!!」
機動隊の一人が手榴弾を投げると、爆発が起こり、先ほど噛みついてきた死体がその爆発に巻き込まれて五体が吹き飛ぶ。
ようやく一体倒した所だがこんなもので済むはずがない。
「くそぉッ!!」
続々と死体が起き上がってゆっくりとこちらへ向かって来る。
この廃棄場では死体なんていくらでもあるんだ。
代わりなんていくらでもいる。
これだけでも異常事態だって言うのに奴らの軍勢の奥ではもっと奇妙な事が起こっていた。
男の死体と女の死体が綺麗に二人一組になって互いの腰と手を持って優雅に踊っている。
まるでそこだけ舞踏会が開かれているかのようだ。
そしてその中心には・・・。
「らん♪ らん♪ らんらん♪ るるるうぅ~♪ らぁ~ららぁ~♪」
「やめろよ!! ティル姉!!」
楽しそうに手を広げて踊っているティル姉がいた。
~ロベルト 路地裏(五年前)~
「はははは!!」
「笑うなよ!! 俺だって頑張ったんだぜ?」
「はい言い訳~!」
「うるせッ!」
ネマがライのヘマを笑い、弁解するライにガスが水を差すとライが更に怒る。
この路地裏では私ですら日常になりつつある光景だ。
百貨店の食品倉庫を狙って塀を登る時、壁に張り付ける能力のネマが先行する際、ライがネマばかりに良い格好させるかと一緒について行くが失敗して塀から落ちて派手に怪我をしたという話だ。
普通に考えたらこんな目に遭えば笑っていられない話だが怪我をしたのが再生能力のライということもあり、間抜けな馬鹿話にしてみんなして笑っている。
私にとっても笑える話だ。
「・・・。」
だが私は笑えない。
あれから数日が経った---。
---「そうだな。親父はもう俺達の『家族』だ。家族に秘密事は良くないよな。」
路地裏で撃ち殺されたかつての家族を尻目に私の方を向いてライは切り出す。
「俺達、実はな・・・もう、長くないんだ。」
「・・・!」
私もかつて輝ける人類の研究に携わっていたから知っている。
輝ける人類は能力の都合上、脳に負担を掛けることから特殊な投薬と治療を付与しながら運用しなければ生命が危うい存在なのだ。
そうだ。
輝ける人類だと気づいたあの話から察するべきだった。
「研究所でな、治療受け続けないと数か月、最悪の場合は数日で死ぬんだ。」
「・・・。」
ライは何も知らずに語りだす。
そう、ライは知らない。
輝ける人類を生み出した外道が目の前にいると言うことに・・・。
「・・・!」
口を開き、言おうとしたがすぐに開いた口が閉じる。
言い出せない。
言いづらい。
輝ける人類の被害者の前で加害者を名乗り出ればどんな目に遭うか分からないからだ。
同時に自分の行動を不思議にも思った。
家も土地も、家族も何もかも失い、生きる希望全てを失ってしまったのに何故?
何故私は保身に走る?
研究所に居た時に自分の立場を守り続けて身についてしまった保身?
いや、違う。
全てを失ってしまった以上、そんなものは身体から根こそぎ抜け落ちている筈だ。
なのに何故言い出せない?
今言ってしまえば楽になれる。
残虐に、凄惨に殺されるだろうが、死ぬことによって生き地獄から抜け出せるのだ。
何故躊躇う?
「すぐに死ねりゃいいんだけどさ。脳から伝わる苦しみって奴は最悪でさ、頭が痛くなんのは勿論のこと、痛覚、吐き気、呼吸困難、発熱、寒気、幻覚、脳の暴走によってありもしない脅威からの防衛本能が身体中にあらゆる苦痛を与えて来るんだ。それが数日続いてから死ぬ。」
「・・・。」
耳が痛い話だ。
私が輝ける人類に携わっていた時に、被検体が同じような症状を出して死んでしまう光景を何度も見た。
その被害者が今、目の前にいる。
「だから苦しまないうちに、誰かが楽にしてやらないといけない。」
「お前が・・・それを・・・!」
「俺がやらないと駄目なんだ。」
「なんでだ・・・?」
「俺がみんなの兄貴だからだ。」
「兄・・・?」
「ああ、実のところ誰が一番年上なのか分かんねぇんだ。何せ研究所に拉致られて記憶弄られる前の事は覚えてねぇからさ!」
「じゃあなんで・・・!」
「研究所から逃げる話を一番に持ち掛けてくれた仲間がいたんだ。逃げる途中で俺達を逃がす為に捕まったんだけどさ。俺はそいつを『姉ちゃん』だと思ってる。その人から託されたんだ。『みんなの事を頼んだ』って・・・だから俺が兄貴だ。」
「兄だから・・・そこまでするのか・・・?」
「ああ。汚れ仕事なんて一番責任が要る仕事だ。まぁ、俺が先に死ぬことがあったら誰かに引き継ぐつもりだけどさ。」
「・・・。」
今更ながらに自分のしてきた事を後悔する。
輝ける人類なんて研究をしなければライ達はそれぞれの場所で幸せに生きられたかもしれないのに・・・。
それを私は・・・!
「ライ、私は
「親父、一つ頼まれてくれねぇか?」
「え?」
罪悪感で覚悟を決めた私の言葉を遮ってライが何かを切り出す。
呆気に取られた私の元へ近づいて銃を持ち換えて私に掴ませる。
「!」
ライは信じられない行動に出る。
私が今持っている銃の銃口を掴んで自分の頭に突きつける。
「何を・・・!?」
「俺らの中の最期の一人が死にそうになったらさ・・・。」
そう言ってにかっと笑う。
「この引き金引いてくれ。」
---そして現在。
戦利品で酒盛りをしながら笑っている子供達。
この光景を見ているだけでゾッとする。
罪悪感、後悔、自己嫌悪。
様々な感情が私の罪を逆撫でる。
私は此処に居てはいけない人間だ。
此処に居る事自体が私にとって脅迫染みた拷問だ。
今すぐに逃げたい。
だが、それでもこの数日間、皆が寝静まった内に逃げようとは思わなかった。
それが分からない。
自分のやっている事の意味が分からないのだ。
「おい大変だ!!」
「え?」
外に見張りに出ていた少年が急いで走って来る。
赤髪の少年で、名前はギラだ。
「どうした!?」
「なんか武装したおっさんたちが来て・・・!!」
ライが問いただすとギラは息を落ち着かせながら状況を伝えて来る。
「マジか!」
「研究所の追手!?」
「えぇ~!?」
「やばいよ・・・!」
ネマが連中の正体を予想すると不安を煽られた子供たちが口々に慌てだす。
「マズいぞ!! 今すぐに逃げ
「此処が君たちの隠れ家かい?」
「!!」
ライがすぐに警告しようとすると声がするのでその方向を全員が一斉にみるとギラが言っていたような黒い防弾ベストに銃を持ったヘルメットの物々しい連中がそこにいた。
声をかけて来たのはどうやらその連中の真ん中にいる、唯一スーツ姿の細身の男だ。
「お前ら・・・!」
ライは銃を構える。
「逃げろみんな!! 俺が時間を・・・!」
「あーあーあー! 待ちなよ君たち!」
「!?」
ライが殿をしてみんなを逃がそうとした時、何故かスーツの男はそれに制止を掛ける。
「なんだ!! お前ら研究所の奴らだろうが!!」
「あー・・・。」
ライが捲し立てると男は何か苦虫を嚙み潰したような顔で頭を掻き始める。
「そこから説明しないといけない?」
「逃げろみんな!! こいつらは・・・!」
「言っとくけど答えは『ノー』だ。」
「!!?」
男の意外な返答に一同は固まる。
「どういう事だ!!」
「まぁ、順を追って説明するけど、その前に・・・。」
そう言うと男は私に視線を移す。
「こんな所で会うとは思いませんでしたよ。『ロベルト前室長』?」
「は!!?」
男の言葉にライは声を上げ、子供たちの驚愕に満ちた視線が全て私の元へ集まる。
「・・・。」
そう、こいつは私を知っている。
そして私もこいつの事は知っている。
ロキウス国立研究所は輝ける人類の都合上、軍とも繋がりがあった。
その中でも重役同士だったことから顔見知りだ。
「・・・。」
私は目を閉じて数秒心を静めると、覚悟を決めて目を開ける。
「私を笑いに来たのか? 『フレッド大佐』。」
「なんだ!? おい、どういう事だ!!」
「・・・。」
胸倉を掴んで問いただすライに対し、私は何も言えなかった。
「・・・私から説明しましょうか?」
フレッドが切り出すが・・・。
「いや、いい。」
提案を拒否しつつ、ライの手を振りほどく。
「・・・。」
ライは私の意思を察してか、困惑に満ちた顔のままだが私の顔を静観する。
「・・・。」
状況が落ち着いたのを確認して、ライを真っ直ぐに見る。
「ライ、お前は前に言ったな? 家族に秘密事は良くないと・・・。」
「ああ。」
「だから言うよ。」
自分から切り出し、全ての覚悟を決めて口を開く。
「私が、最初に輝ける人類の研究をしていた責任者だ。」
この後、私がどんな目に合おうと、全てを受け入れよう。




