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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
85/101

#85 狂気と凶気


~ケディ 官邸前~


 ゾルガとビリーは何度もぶつかり合っていた。

 互いに高速で突撃するように前進して蹴りと拳を撃ち合い、勢いが死んだらまた距離を取ってから互いに突撃してまた攻撃を撃ち合う。

「ぐッ・・・うぅ・・・!」

 その光景を涙無しでは見られなかった。

 ゾルガの身体は既に炎が全身に回っているからだ。

「泣くなッ!!」

 奴と距離が離れた時を見計らってゾルガは叱咤してきた。

「ゾルガ・・・。」

「俺の身を心配するのならそれはやめろ。命を捨てに行く戦士に身を案じる行為は侮辱だ。お前はもう俺が認めた戦士だ。俺の戦いを最期まで目に焼き付けろ。」

「分かっている・・・分かっているけど・・・!」

「はぁ・・・。」

「な!?」

 ゾルガは呆れ気味に溜め息を吐く。

「なんだ! 何をそんなに呆れている!!」

「泣いて見てられないんならよ、一つ頼まれてくんねぇか?」

「な、なんだ?」

「グラに伝えてくれ、『父ちゃんは立派に戦ったぞ』ってな。」

「はぁ!?」

 思わず声が出る。

 この土壇場で何言ってるんだこいつは!?

 イカれた奴だと思ってたが此処までとは思わなかった!

 けど・・・。

「はは・・・あはは、あははははははは!!!」

 何故か笑いが止まらなかった。

 いや、こんなおかしいことに笑わずにいられるものか!!

「笑うなよ!!」

 ゾルガは急に笑い出す私にムキになる。

「無理だろ!! だって、はは!! 後先考えずに死のうとするやつが、どこにでもいる父親みたいなことを言うんだぞ!!」

「うるせえ!! 何もおかしなこと言っちゃいねーだろ!! 娘にカッコいいところ見せたくない父親がどこにいるってんだ!!」

「そりゃそうだ!」

「ちょっと?」

 その様子を見ていた大尉が構えを解いているが若干腹立たしそうに私たちを見ていた。

「敵の前だってのにえらく余裕じゃないのあんたたち。 ケディ少尉もそこの馬鹿に当てられて頭イカれちゃった?」

「かもしれません! あなたのせいで反逆者にされてから 色々吹っ切れてますからね!!」

「意外と根に持つタイプだったのねあんた・・・いや、変わったのね。」

 大尉は呆れ気味にため息を吐くと顔上げて私を見る。



「行きなさい。」



 そういった大尉の顔は穏やかな笑顔だった。

「いいのか?」

 ゾルガも予想外だったらしく大尉に問いただす。

「どうせあんた勝っても負けても死ぬんでしょ? 娘に遺言の一つでも聞いてもらわないと死んでも死にきれないんじゃないの?」

「なんだよ! 話がわかるじゃねえか!」

 そう言うと ルガは嬉しそうに顔だけ私に向ける。

「そういうことだ! 行け!」

「・・・わかった。」

 一通りやり取りを終わらせると私は踵を返し、官邸に向かって走っていった。

 走る最中目に涙が浮かんだが全力で拭った。

 泣くのは絶対に駄目だ。

 戦士として敬意を向けてくれた奴への侮辱になるからな。



~ゾルガ 官邸前~


「本当に良かったのか?」

「何がよ。」

 俺の質問にビリーは聞き返す。

「だってよ斥候に報告に生かせるようなもんだぞ? 敵としちゃあやらせちゃダメだろ。」

「ふーん? ただの脳筋バカかと思ったら意外と(いくさ)の知恵はあるみたいね。」

「そりゃお前、俺は戦士だぞ?  人生ほぼ全て戦いだったんだ。 いやでもそういうの身に着くっつーの! つうか答え濁してんじゃねーよ!」

 俺ががなり立てると奴は呆れ気味にため息を吐く。

「そうね。質問を質問で返すのも無粋だったし、ちょっとだけ教えてあげる。」

 そう言うとビリーはため息を吐くと口を開く。



「可愛がった部下だからよ。」



「・・・。」

「・・・? 何してんの?」

 ビリーは表情を消して黙り込んだ俺の様子を不審そうに見る。

 だが・・・。



「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」



 つい笑いがこみ上げて大声で笑ってしまった。

「・・・何よ、笑うとか失礼じゃない?」

「だってよぉ! お前、可愛い子分を追い出して裏切り者にしたんだろ!?」

「それが何よ。」

「いや、俺にも娘いるから分かるぜ!? もし俺が()()()()()()()()()()()()()()ぜ!」

「・・・あんた何が言いたいわけ?」



「お前、最初(ハナ)から『そういうクチ』だろ。」



「・・・。」

 俺が問いかけるとビリーは黙り込む。

「そりゃ可愛い子分は追い出すよな! てめぇらの組織はぶがぁッ!!」

 俺の言葉を遮るように奴は一気に距離を詰めて俺を殴り飛ばす。

「・・・ぺっ。」

 吹き飛ばされて埋もれた瓦礫が口に入ったからすぐに吐き出す。

「やっぱりあんたさっさと死になさい?」

 そう言うとビリーは追い打ちをかけるために距離を詰めて来た。

 だが俺はすぐに起き上がって奴の右拳を止めて続いて来るもう一つの左拳も止めて押し合いの形を取る。

「へっ!! 図星か!?」

「偉くお喋りになったじゃない。あんたみたいな奴は拳で語るんでしょ?」

「否定はしねぇよ!! けどな、がっかりだぜ!!」

「何がよ。」



「完全に『死に損』だぜ!? 俺よぉ!!」



「・・・ハンッ!」

 奴は鼻で笑うと俺を蹴り払おうとするが俺は足でそれを防御(ガード)する。

 しかし結果的に距離が離れ、また仕切り直しの状態になって俺と奴はお互いに構える。

「だから言ったじゃないッ!! 『あんたに相応しい戦場はこの先あったんじゃないの?』って!!」

 奴は距離を詰めて拳と蹴りを放つが俺もそれに応戦して同じタイミングで攻撃を打ち込んで相殺する。

「んなこと分かるわけねぇだろッ!! けど後悔はしねぇよ!!」

「へぇ? 意外ねぇ!」

「てめぇがッ!!」

 俺は奴を思いっきり殴る。

 奴は両腕で防御(ガード)するが反動で距離が離れる。

「俺の最期の相手に相応しい強敵だからなッ!!」

 思いっきり地面を蹴って奴へ距離を詰めて拳の連撃を放つが奴は拳を微妙に当てながら往なす。

 しかし捌くのが精いっぱいで防戦一方みたいだ。

 だが一瞬拳を弾いた拍子に俺の身体が僅かによろけた隙をついて右ストレートで俺を殴る。

 正直吹き飛びそうな威力だったが地面に爪先を立てて踏ん張って滑るような形で後方に下がる形に留める。



「さぁ、殴り合おうぜッ!! 俺が燃え尽きるまでなぁッ!!」




~レッサ B.R.A.I.N基地~


「あははははははは!!!」

「くぅッ!! うあぁッ!!」

 防戦一方のティルの身体を容赦なく切り刻む。

 戦況は相変わらず私が圧倒している。

 サイコキネシスで押し合いながら瓦礫を飛ばし合ってティルの手がいっぱいになってから物体精製で出した刃を使ってティルを攻撃している。

 手が一つ足りない分、圧倒的に私が有利。

 虫を捻り殺すような行動なのに笑いが止まらない。

 そしてこいつは毎度の様に泣き言を吐いてバカみたいに命乞いを・・・。

「・・・?」

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 サイコキネシスによる浮遊を維持したまま、息を切らしている。

 服はボロボロで切り裂かれた部分から血が流れていた。

 今にも死にそうな状態だ。

 昔戦闘シミュレーションで戦った時、こうなったらすぐ泣き崩れてギブアップして私に命乞いをして来た。

 けど今のこいつは命乞いをする気配はない。

 それどころか・・・。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

「・・・!」

 顔は若干下がっているが私を見ている。

 その目は明らかに私を恐れている目じゃない。

 目に涙を浮かべてはいるが真っ直ぐに私を見ている。

「・・・何その眼。」

 その目を見ると腹が立って来た。

 明らかに私に対する敵意。

 『反抗的な眼』だ!!

 ふざけんな。



 ふざけんなふざけんなふざけんな!!!!!



「あぁ!!?」

「うあぁぁッ!!」

 ふざけた視線を向けて来たティルを分からせる。

 物体精製の刃を使ってまた切り刻む。

「その眼はなんだっつってんだよぉッ!!」

「ぐっ!! ああああぁぁッ!!!」

 サイコキネシスの押し合いが出来なくなったティルを操って壁に押し付ける。

 けどおかしいなぁ。

 勝てもしないのに弱虫なこいつが私に反抗するとか理由もなしにそんな事あり得る?

 ん?

 『理由』?

「・・・あはッ☆」

 分かっちゃった。

「・・・?」

 私はティルに当てているサイコキネシスを解く。

 そしてそのまままた自信をサイコキネシスで操りながら浮遊しつつ不審そうに私を見る。

「あははははは!! 分かっちゃった分かっちゃった♪」

「レッサさん?」

「あんた期待してんだ! あいつらが廃棄場から抜け出して助けてくれるのを!!」

「ッ!!」

 ティルは図星を突かれたかのように目を見開く。

 あーやっぱりだ!

 こいつ馬鹿みたいに分っかり易い!!

「じゃあさ! 良い事教えてあげる♪」

「いいこと?」

 私の言葉に眉を顰めるがあまりいい予感はしないみたいで不安そうだ。

 うわぁ良い顔!!

 その予感大当たりだけどね♪



「あの廃棄場ね? 『出口』なんてないの♪」



「ッ!?」

 ティルの表情は一変する。

「廃棄された奴は死体になろうがそのまんま! 何処かに処理される事も無くそのまま廃棄場に残り続ける!」

「そんなのおかしいです! そんな事すればいずれ・・・!」

「いっぱいにはならないよ♪ 何せ地下千メートル以上のの大穴だからね♪ 死体が積み上がろうがいっぱいになるまで何十年かかる事やらって感じよ♪」

「なんでそんな・・・!」

「当たり前じゃん! 廃棄された奴が逃げたら色々被害出るし、情報が洩れたら何のための秘密組織よ!! 『逃げられない構造にする』ってのは当然じゃん!?」

「・・・。」

 ティルは顔を俯かせて黙らせる。

 きっと絶望してんだろうねぇ♪

 けどこんなんじゃ足りない。

「分かる? そんな高さから落ちればただじゃ済まないしぃ? 運よく死体の山の上に落ちて助かろうがさっき言ってた化け物に喰われるかもしれないしぃ? どの道ゲームオーバー♪」

「・・・いや、いや、嫌ぁッ!!」

 ティルは頭を抱えて叫びだす。

 けどまだまだ足りない。

 もっと絶望に叩き落さないと気が済まない!!

 私にあんな反抗的な眼を向けたティルにはお灸を据えないと♪

「まぁエンドルートは選べるかもね♪ 『化け物に喰われて腹の中エンド』、『脱出出来ずに飢え死にエンド』、どっちにしたってバッドエンドだけどね♪」

「やめてぇッ!!!」

 ティルは頭が壊れるかのように叫びだす。

 サイコキネシス使ってる上にこんな事言われちゃ精神的にももう限界なんじゃないかな?

 でも関係ない。

 まだ、まだまだ!

 まだまだまだまだまだまだまだ!!!



 まああああああああああああああああああああああああああだッ!!!!!!!!



「エンディングのスタッフロールの音楽流す? とびっきり華やかで楽しげなやつ♪ ジャズとかいいかもね♪ それとももっと豪華にオーケストラとかいっちゃう?」

「・・・。」

「・・・あ?」

 急にティルは黙り込んだ。

 なんなのこいつ?

 私の望む表情をしないで表情を殺すとか何様なの?

 あ、もしかして絶望しすぎて表情が出せなくなったとか?

 それはそれでありかも♪

「ねぇ、顔上げなよティル~? その顔見せて♪」

 そう言いながら私は手拍子を打つ。

「ほぉらはぁやぁくぅ~!」

 手を叩きながらティルに催促する。

 けど・・・。

「はは・・・。」

「・・・?」

 ティルから変な声が聞こえる。

 泣いている声じゃない。

 何?

「はははは・・・。」

「!?」

 こいつ・・・!



「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」



「は?」

 笑ってる!?

 この状況で!??

 馬鹿じゃないのこいつ!!

「何あんた!? ついにイカれちゃった!?」

「ひひ・・・いひひひひ!!」

 笑いながらティルはその髪から覗かせた目で真っ直ぐ私を見ていた。

 その眼、その表情は明らかにあの怯えたこいつとは違う。

 明らかに狂気を秘めた物だった。

「何よ? なんか言いたいわけ?」

「レェッサさぁぁぁん?」

「・・・。」

 喋り方が普通じゃない。

 本当に頭イカれてる?

「覚えてまぁすかぁぁ? 私が最初に大事にしていた大事な大事なだぁぁいじなもの!!」

「は?」

「子猫の『ムレ』でぇすよぉ? 忘れちゃったんでぇすかぁぁぁ?」

「子猫?」

 なんだっけ?

 あー確か・・・あ、思い出した。

「あー、確かあんたが昔の研究所(ラボ)からこっそり抜け出して拾ってきたあの猫? あれがなに?」

「私があの子を飼ってたのをぉぉ、最初に見つけたのレッサさんでぇしたよねぇぇぇ?」

「なにそれ! あんたあれで脅迫されたのまだ根に持ってるわけ?」

 当時、研究所(ラボ)には決まりがあって、『勝手に外に出ちゃいけない』。

 つまりこいつは決まりを破った物的証拠を持っていた訳で、それがきっかけで私はこいつを脅した。

 それからこいつと私の主従関係が始まった。

 確かこいつからその猫を取り上げて人質に取って散々奴隷の様に隷属させて上下関係教え込んでから目の前で殺しちゃったんだっけ?

「レッサさん気づいてまぁしたぁ~?」

「何? っていうかいい加減その話し方ウザいんだけど?」

 悪態つきつつティルの質問に付き合う。

「私ぃ~、感謝してるんでぇすよぉぉ? ムレにぃぃ! あははは♪」

「感謝?」

 何言ってんのこいつ?

「ムレのおかげでぇ~、私とレッサさんのぉ、関係が始まったんでぇすよぉ? 素敵な素敵なぁ・・・。」

 そう言うとティルはまるで舞台女優のような立ち振る舞いで両手を広げて天を仰ぐ。



「すてええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええきな関けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええぇぇぇ!!!」



「・・・うっざ。」

 何こいつ?

 お芝居でもしてるつもり?

 どうせこうやって狂った顔してんのも猿芝居でしょ?

「やっぱもう一回分からせた方が良い?」

「あぁぁそびぃぃぃましょおおおぉ!! レぇぇッサさぁぁぁん!!」

 すっかり喋り方がアホになったティルに向かって手を翳すとティルも同じタイミングで手を翳す。

 サイコキネシスの押し合いによってまた磁場が発生してクレーターが出来る。

「ほんっと学習しないね。いい加減分かってんでしょ?」

 またこのパターンだ。

 周囲の瓦礫を撃ち合い、ティルは手一杯。

 で、次は・・・。

「はい、おしまい。」

 周囲に精製した硝子状の刃を展開すると、容赦なくティルに放つ。

「ぐっ!!」

 ティルは刃を防げず、なます切りにされる。

「ほら泣けば? ぎゃあぎゃあみっともなく!!」

 どうせ痛みでも思い出したら怒りとかそんなの忘れてビビッてまた・・・。

「ふふ・・・うふふふふはは!」

「?」

 また笑ってる。

 痛みに慣れてハイにでもなってるわけ?

 キモ。

「やられ過ぎてマゾ性癖にでも目覚めちゃった? まぁ、元々あんた素質あったと思うけ・・・ど・・・?」

 え?

 何?

「あははは・・・!」

 なんかサイコキネシスの感覚に違和感が・・・。

 いや、気のせいでしょ?

 こいつに何かできる訳じゃないし。

「ッ!!?」

 いや、気のせいじゃない!?

「何・・・なんなの・・・これ・・・!」

 ティルをなます切りにしていた私の刃が止まっている・・・!

 私は操作をやめてない!!

 まだティルを切り刻もうとして・・・!



「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」



「あんた・・・!」

 こんなの・・・あり得ない!!



~ロベルト 市街地(五年前)~


(準備いいな?)

 ライが小声で確認を取ると仲間の子供達は一斉に頷く。

 今私たちがいるのは市街地の道路沿いの細い路地裏。

 そこであるものを待ち構えていた。

(来た!)

 人気の少ない道路の奥の曲がり角からそれは姿を現す。

 トラックだ。

(行くぞ!)

 そう言うとライが先陣を切って道路に飛び出す。

「な!?」

 ライがやったのはとんでもないことだ。

 トラックの前に立って両手を広げて仁王立ちしていた。

 しかもそれはタイミングが悪く、今にもぶつかりそうなタイミングだ。

「ライ!!」

 何を考えてるんだ!?

 すぐに引き戻そうとするが・・・。

「ッ!?」

 子供たちが私の服を掴んで止める。

「何を・・・ッ!?」

 一瞬子供たちに気を取られた隙にガシャンと言う音によって事態に気づく。

 ライが車に跳ねられたのだ。

 すぐに助けに・・・!

「ラぃムグッ!?」

 声を上げて路地から飛び出そうとすると更に子供の一人が口を塞ぐ。

 こいつら、何を考えてるんだ!?

 仲間が車に跳ねられて・・・!

(シーッ! 待ってて!!)

「?」

 必死に耳元で忠告してきたのは茶髪のくせっ毛の女の子のネマだ。

 慌てているがその口調には深刻そうな印象を感じない。

「・・・。」

 忠告されるままに黙って路地から様子を見ていると、現場から数メートル通り過ぎたトラックから運転手が降りて来た。

 慌ててライに駆け寄る。

「おい!! だ、大丈夫か!?」

 運転手はライの上半身を抱き起こして安否を確認する。

「う・・・うぅ・・・!」

 ライは苦しそうに目を開ける。

「ぶ、無事か!?」

「へへ・・・!」

 安心する運転手に対してライは苦しそうな顔のまま笑う。

「とりあえず救急車を・・・え?」

 運転手が連絡用の端末を出すとライがその手を掴む。

「ありがとう・・・おっさん・・・あんた・・・いい奴だな・・・!」

「礼なんかいい! すぐに救急車を・・・!」

「聞けって・・・!」

「?」

 救急車を再び呼ぼうとする運転手をまたライが止める。

「いいか・・・? あんたが良い奴だから忠告するんだけどよ・・・。」

「な、なんだ・・・?」

 運転手が聞く姿勢になっている。

 恐らくは言いたいことを言わせれば大人しく救急車を呼ばせてくれると思っているんだろう。

「世の中ってのは・・・凄く汚れてる・・・胸糞悪いくらいにな・・・!」

「何言ってるんだ・・・?」

 ライが急に詩的な事を語り出すと運転手は混乱する。

「よくわからんけど、今いうことじゃ・・・!」

「だからさ・・・あんたみたいに良い奴ってさ・・・。」

「・・・?」



「馬鹿見ちゃうよぉ!!!?」



 急にライは元気良さそうに大声で叫ぶと目をカッと開く。

 その顔はぶつかった拍子に流れた頭部の出血も相まって凶悪な笑みだ。

「は・・・!?」

 運転手が急なライの豹変ぶりに口を開けて目を見開いて困惑しているが、既に状況は動き出していた。

「・・・!」

 運転手が後ろの気配に気づくとそこには前髪の長い黒髪の少年がいた。

 仲間のガスだ。

 ガスは運転手が気づいたころには既に指先を運転手の首元に突きつけていた。

「バァイ♪」

 ガスがにこりと笑うとバチッと言う音がする。

 すると運転手は白目を向いて倒れた。

「よぉしッ!!」

 運転手の男が動かなくなったのを確認するとライは先ほど跳ねられたことなんてまるでなかったかのように立ち上がる。

「オラ仕事だぁ!」

 そう言ってライが手を叩くと私と子供たちは路地から出ていく。

 目的はトラックだ。

 積んである荷台には大量の食糧があった。

 それらを私たちは両手に持てるだけ持っていく。

 このトラックがこの道を通る事は下調べをしていたのでみんな知っていた。

 そう、最初から強盗が目的だ。

 それでも手筈は聞いておきたかったが、みんな話したがらなかったので聞いていなかったのだ。


---一時間後。


「ウェーイ!!」

 ジュースの入った紙コップをかち合わせてパンを片手に子供たちは盛り上がっていた。

「どうだったよ俺の演技ぃ!」

「いやライ兄台詞クサすぎ! なに『世の中ってのは凄く汚れてる』って!」

「そうだよ! 『世の中は悪い奴がいるから気を付けろー』からの『それは俺達だぁ!』みたいでオチバレバレだったよ!」

「んだよ! あのおっさん騙せたんだからいいだろ!」

「あの人がいい人過ぎるからだろ! 調子乗んな!」

「・・・。」

 ガスにツッコまれるとライは何故か視線を落とす。

「兄貴?」

「なぁ、ガス。」

「何?」

「あのおっさん死んでないよな?」

「え? ああ、気絶したぐらいで済んでるよ、多分。」

「『多分』ってなんだよお前ぇ!」

 ライは冗談交じりにじゃれつくようにガスに掴みかかる。

「大丈夫だって! 俺の力そんなに強い能力じゃないの知ってるだろ!」

 ガスもそれが分かっているようで笑いながらライを諭す。

「何? お兄心配してんの」

 ネマがにやにやしながらライを茶化す。

「だってさ、ホントいい人だったからさ。そんな人には死んでほしくねぇじゃん?」

「でも生きてたら生きてたで最悪じゃない? 輸送してた物めちゃくちゃ盗られちゃったんだよ? 最悪クビだよあの人。」

「大丈夫だって! 生きてりゃなんとかなる!!」

「・・・!」

 ネマは何故か目を見開いたあと俯く。

「そう・・・だね・・・。」

「あ・・・。」

 それを見てライは何故か『しまった』とばかりに声を上げる。

「と、とにかくさ! 路頭に迷うことあったら迎えてやろう! な!?」

「お、おう! そうだな!!」

 ライが空気を戻そうと前向きな言葉を全員に掛けるとガスがそれに合わせて元気よく相槌を打つ。

 しかし明らかに空元気なのが見て取れる。

「なあ。」

「あ? どうした親父?」

「親父・・・ああ、そうだったな。」

 ライに呼ばれて一瞬むずがゆく感じたが納得する。

 此処では『仲間(イコール)家族』って言うルールがある。

 呼び方もその一環だ。

 とにかくだ。

 聞きたいことがある。

「お前たちは一体・・・!」

 先程の強盗の一件だ。

 どう考えたって気にならない訳が無い。

「ああ、はっはっは! そりゃ気になるよな!」

 ライは笑いながら納得すると立ち上がる。

「親父は仲間だから教えてやるよ。まぁ、話せば長くなるんだけど・・・。」

 そう言ってライは何故か私に向かって親指を立てる。



「俺ら、研究所から脱走した実験動物(モルモット)なんだよね!!」



「いや、短くざっくり説明出来てんじゃん!!」

「「「あはははは!!」」」

 ネマがツッコミを入れると子供たちはウケたようで、全員笑い出す。

「脱走した・・・実験動物(モルモット)・・・?」

「そ!」

 ネマは立ち上がると壁に右手を当てる。

 更に左手も当てると、壁の隙間に手を掛けた訳でもないのに壁を登りだす。

「私の能力は『張り付く能力』、こうやって手足を張り付けて壁も登ったりできちゃうんだよ!」

「地味。」

「ヤモリみたい。」

「うるさい!!」

 ネマがドヤ顔で能力を説明するがライとガスに茶々を入れられて牙をむく。

「俺の能力は『電撃』、まぁ掘り下げて言えば人間の中に流れてる『体内電気』の放出って所。威力は弱いけどさ。」

 そう言いながらガスは指先からバチッと電気を出して見せる。

「危険物。」

「人間スタンガン。」

「褒めんなって。」

「「褒めてない。」」

 ライとネマの茶々に開き直るガスにツッコミを入れる。

「俺の能力は怪我しようがあっという間に治っちゃう『再生能力』!! まぁ、脳みそ破壊されたらアウトだけどな!」

 そう言ってライはナイフで腕を切って見せるとその傷が高速でみるみるうちに塞がっていく。

「ゾンビ。」

「ホラー映画のモブ。」

「はっはっは、お前らから食ってやろうか?」

「「いやん。」」

 二人が茶化すとライは笑いながら二人を睨み、それに合わせて二人はわざとらしく嫌がってライを煽る。

 どうにもお互いのノリが分かっているようなやり取りだ。

 だがこいつら、まさか・・・。

「それがなんでこんなストリートチルドレンに?」

「お! よく聞いたな!」

「うむ! 教えてしんぜよう!」

 そう言ってライとガスとネマが立ち上がって子供たちの前に出ると、子供たちは「おっ!」とか言ったり拍手する奴もいた。

「むかーし昔! とある研究所で人の手によって作られた人間そっくりの子供たちがいました!」

 ガスが物語を語るように話し出す。

「子供たちは自分達の生みの親である『お母さん』に大事に育てられていました!」

 ネマが続いて語り出す。

「けど一人の超絶イケメン少年が研究所の秘密を知ってしまいました!」

 ライが割って入るように語り出す。

「ちょっと着色しすぎ!!」

 ライの変な語り方にネマが物言いを出す。

 恐らくはその超絶イケメン少年とやらはライの事だろう。

「とにかくだ!! その秘密は・・・実は『お母さん』が本当のお母さんじゃなかったってことだ!」

「お母さんじゃなかった?」

「そうそう! 『研究所で作られた人口生命体』って言うのは嘘!! 本当は色んなところから攫って来た子供達の記憶を弄って嘘の記憶を植え付けられてたってわけ!」

 ネマは軽いぷんぷん調子に物を言っているが実際かなりシャレにならない話だ。

「で、怒った子供たちはみんなで一致団結して大脱走!! あとはお察しの通りって訳さ!」

「それでこんな場所で・・・。」

 内容を理解してしまった。

「親父・・・?」

 表情が固まった私を見てライが不審そうに私を見る。

「ぷっ・・・!」

 思わず吹き出す。

「あっはっはっはっはっはっは!!」

 笑わずに居られなかった。

 恐らくはこいつは輝ける人類(グロリアス)の実験によって調整された子供達だ。

「うわ、父ちゃん笑い出した!!」

「珍しい!!」

「っていうか気持ち悪い!!」

「おいそれ失礼だろ!!」

 子供たちの反応はそれぞれだがそんなのは関係ない。

 こんな馬鹿話笑わずに居られるか!

「はっはっはっは!!」

「つうか親父!! 今の話笑う要素あったか!?」

「いや、そのお母さんとやらはさぞ悔しかっただろうな! 上手く騙してたつもりだったのにまんまとお前たちに秘密を知られて逃げられたんだからな!」

 あの女、自分の実験動物(モルモット)にまんまと逃げられたのだ!!

 こんな場所で憎い女の醜態を知れるなんて思わなかった!!

 間抜けめ、ざまあみろ!!

「そりゃそうだ! ははは!!」

「ライ兄まで笑い出したよ!」

「もう意味分かんない!!」

「「「ははははははは!!」」」

 みんなで笑っていた時だ。

「兄さん!」

 路地の奥から白髪の少女が現れる。

「ティル? どうした? 飯ならそっち回してるだろ?」

「ち、違う・・・!」

「はっは! すまんすまん! で?」

 ライは笑いながらティルを諭すがすぐに真剣な表情になる。

「どうした?」

「その・・・エドが・・・。」

「ああ、そっか。」

 生返事を返すとライは歩を進める。

「みんな! ちょっと行ってくる!」

「ああ・・・。」

「うん、いってら・・・。」

「?」

 ライの言葉にネマやガスを始めとして子供たちの表情が暗くなっていた。

「行くってどこに?」

「ちょっとな!」

 そう言うとライはフラっと路地の奥へと歩いて行った。

「ライ! ・・・?」

 ライを追いかけようとすると何かに後ろから左手を引っ張られる。

 ティルだ。

「・・・ッ!」

 ティルは必死に首を横に振っている。

 髪でほとんど隠れている目だが、それでも分かる程泣きそうな目をしているのが分かった。

 どういう事だ?

「お父は知らない方がいいかも・・・。」

「?」

 ネマが意味の分からない忠告をした時だ。

「ッ!?」

 銃声だ!

 ライが行ったと思われる方角からだ!

「ッ!!」

「ッ!?」

 すぐにティルの手を振り払ってライが行った方角へ走り出す。

「ライ!」

 すぐにライを見つけた。

 だが・・・。



「ライ!? お、お前・・・!」



 その光景は異様だった。

「ああ、すまん。銃声、やっぱそっちまで聞こえちゃったか。」

 ライは手に拳銃を持っていた。

 先程の銃声はやはりライの仕業だ。

 そしてこちらへ振り返っているライが身体だけ向けている正面の先には子供が一人いた。

 その子供は血まみれの壁を背にしたまま、頭から血を流しながら横たわっていた。

 この光景はどう考えても・・・!

「親父、俺らの仲間のルール、一つ教えてなかった。」

「な、なんだ・・・?」

 正直動揺が酷いがそれでも精一杯冷静に聞く。

 私が話を聞ける状態なのを察してライは口を開く。



「『死ぬときは苦しまずに死ぬこと』だ。」


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