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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
83/101

#83 腐食者


~ケディ 官邸前~


 戦況は最悪だった。

「へへ・・・へへへ・・・!」

 ゾルガの身体は所々に炎が上がっていた。

火神(アグニ)の・・・限界・・・!」

 収容所から脱獄する時、現場に立ち合っていたしあれから時間を改めてウルド達からも詳しく聞いていた。

 発動すると独特の痣が浮かび、自国の『浄化の泉』で清めなければ体温調整が効かなくなって自身の身体が発火して死に至る危険な力・・・しかしおかしい。

 グラが浄化せず命の危機に瀕していたとはいえ一日放置しても一命をとりとめていたのだ。

 ゾルガは発動してから十分も経っていないのに発火が始まっている。

 どういう事だ!?

「ゾルガ! 何故だ!! 何故そんなに早く限界が・・・!」

火神(アグニ)はな、使うたびに限界が来るまでの時間が短くなるんだよ。」

「なんだと!?」

「若い頃、火神(アグニ)を習得してから何度も使ってたら、日に日に限界が近くなってきて、数年前にはここまで限界が早くなってた。だから使わなかったんだよ。」

「そんな・・・!」

 ならどうして・・・!

「お前・・・最初から死ぬつもりで・・・!」

「分からねぇか?」

「・・・?」



「戦士には、命を捨ててまで赴かなきゃいけない戦いがあるんだよ。」



「・・・!」

 言葉とその姿にゾルガの覚悟を感じた。

 身体が燃えている程の体温上昇だ。

 熱さと激痛で立っているのが奇跡だと言えるだろう。

 収容所で見た彼の娘はその限界で動けなかったのだ。

 ああなる程の苦しみが今、彼の全身を駆け巡っている。

 それでも平然と立っているのだ。

 苦しみながら戦うその雄姿が示すのは間違いなく彼の覚悟だ。

 彼は正真正銘、本当の意味で『戦士』だ。

「うぅ・・・!」

 涙が出て来た。

 何故だか分からないが涙が止まらない!!

「ふーん、その戦いの相手にあたしが選ばれたのは光栄だけど? いいの? あんたに相応しい戦場なんてこの先いくらでもあったんじゃないの?」

 彼に対峙する大尉は構えつつも問いを投げる。

「ハッ、何言ってやがる!」

 そう言ってゾルガは構える。

「負ければアステリオンの全ての獣人が蹂躙される戦いだッ! 『全ての獣人を守る為の戦い』だッ!! ここまで命を捨ててまで勝利を得る価値のある戦い、俺はこの先生きてたって絶対に巡り合えねぇ!!」

 ゾルガの足元のアスファルトがミシミシと音を立て、亀裂が走る。



「此処が俺の死に場所(最後の戦場)だッ!!!」



 ゾルガは思いっきり地面を蹴って大尉に襲い掛かる。

 大尉も同じタイミングで地面を蹴って前進し、応戦する。

 二人は激突し、零距離で拳と蹴りで全力のラッシュを撃ち合う。

 だが・・・。

「ぶがっ!!」

 何処かで攻撃を受けそこなったのか、顔に攻撃を諸に喰らって瓦礫の壁に吹き飛ばされる。

「ゾルガッ!!」

 瓦礫に埋もれたゾルガに大尉は容赦なく高速で走って行き、追撃に向かう。

「だぁッ!!」

 ゾルガは自身を埋めていた瓦礫を起き上がり様に吹き飛ばす。

「くっ!」

 瓦礫は爆撃を受けたかのように四散し、その破片に一瞬だが大尉は怯む。

 その隙にゾルガは腰を低くしたまま走り、大尉の腹部をしがみつく様に捕まえる。

「うおおおおおぉッ!!!」

 ゾルガはそのまま大尉にタックルを仕掛け、大尉を押し返す。

「ぐっ・・・!」

 大尉は顔を歪ませる。

 原因はすぐに分かった。

 ゾルガが掴んだ大尉の腹部から煙が上がっている。

 恐らくは人体発火が起こる程のゾルガの体温の熱さだろう。

 あまりの高温だ。

 振りほどこうと腕を掴むが高温の熱さに強く握れず、振りほどけないようだ。

「おおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!!!!」

 ゾルガはそのまま高速で走りながら押し切り、後ろに合った瓦礫まで大尉を押し込み、瓦礫を粉砕して諸共に瓦礫に埋まる。

 だが次の瞬間、瓦礫がまた強い衝撃を受けて巻き上がったかと思うと、何かが跳び上がる。

 そしてそのまま四方八方、様々な場所から打撃音が聞こえる。

 恐らくは二人なのだろうが姿が見えない。

 また私の見えない速さで戦っているのだろう。

「くそッ・・・うぅ・・・!」

 例えこの戦いに勝ってもあと数分もしないうちに彼は痣に焼き尽くされて死ぬ。

 ならせめて戦いを助けようにも私が手を出せる領域ではない。 

 私にはこの戦いに何もしてやれない。

 悔しくて涙がまた出て来る。

「・・・けるな。」

 涙で出なくなった声を必死に絞り出す。



「負けるなあぁぁッ!!! 頑張れええぇぇッ!!!! ゾルガアアァァッ!!!!!!」



 涙を流しながら必死に叫ぶ。

 彼を応援すること。

 彼の雄姿を見届けること。

 これが私に出来る『戦士』としての精一杯だからだ。



~ウルド 廃棄場~


 ルタが灯りを付けると奴の前にこの場所自体が異常だった。

 俺達が足場にしていた妙に柔らかく異臭を放つ物は死体だった。

 一体や二体なんて生易しいもんじゃない。

 辺り一帯の足場になる場所全てが死体だった。

 先程のエベッカと同じ、上半身だけがミイラになった者も居れば足だけがミイラになった者、もっと酷い物は全身の中身が全て吸い出されたかのように皮だけになってしまった者までいる。

 余りに醜悪な姿だ。

 だが目の前の『奴』の姿はもっと醜悪だった。

 ヘドロの様に暗い緑色の肌で(たこ)足のような触手は蛸やイカのように規則正しい位置には付いておらず、至る所から無造作に生えている。

 ヌメヌメとした液体が表面に張り巡らされた皮膚にはあり得ない物が浮かんでいた。

 顔だ。

 人の顔だ!!

 しかも一つじゃない。

 触手ではない場所一帯全てに浮かんでいた。

「お兄ちゃん、右下!」

「!!」

 ルタに指さされた場所を見るとエベッカの顔が浮かんでいた。

 まさかこいつの皮膚に浮かんでる顔って・・・今までこいつに喰われた奴らか!?

「ッ!?」

 顔と触手の間から口の様な亀裂がいくつも現れたかと思うとそれが開いて中から目が現れる。

 それらの視線は全て俺達を捉える。

「冒険者やって来たけどこんな魔物、見た事ねぇぞ。」

「廃棄された奴を食べる化け物・・・『腐食者(スカベンジャー)』とでも呼んどく?」

「ああ? 名前なんてどうでも・・・チッ!」

 いつまでも俺達が考察するのを待ってくれるわけもなく、奴は触手を高速で伸ばして俺とルタを捕まえに来る。

 俺とルタはそれぞれ跳んで回避する。

(フラム)

「は!?」

 目の前から声がする。

 こいつ・・・!

 魔法を使う気か!?



(グラス)

(ヴェント)

(テーレ)



「!!?」

 なんだ!?

 別々の声で複数の属性の詠唱をしている!?



(マイン) 放出(ホレッシ)

(マイン) 放出(ホレッシ)

(マイン) 放出(ホレッシ)

(マイン) 放出(ホレッシ)



 複数の声を出しながら腐食者(スカベンジャー)は此方に向けて四本の触手をまるで弓を引くように構える。

 なんかヤバイ・・・!

「ルタ!! 散るぞッ!!」

「うん!!」

 俺が警告すると俺とルタは左右それぞれで散っていく。



炎球(フレイムボール)

氷弾(アイシクルバレット)

風刃(スラッシュウィンド)

土砲(ソイルカノン)



 嫌な予感は当たっていた。

 腐食者(スカベンジャー)が向けていた触手から炎の球、氷の弾丸、風の刃、岩の弾丸が飛んで来る。

 幸い、俺達の対応が早かった事もあって奴は的を絞れず、でたらめな照準で触手を動かして飛ばした為当たらなかった。

「くそっ!! なんで魔法が使える!! つかなんで複数使える!!?」


(フラム)

(グラス)

(ヴェント)

(テーレ)



「チッ・・・!」

 奴が魔法を再び唱え始めると俺とルタが奴の走り回る。

 魔法が飛んで来るのを俺とルタは逃げ回りながら回避する。

「ったく、訳わかんねぇよッ!! なんなんだ!?」

 複数の属性の魔法を放つなんて普通はあり得ない。

「多分あいつの魔力だよ!」

 魔法の適性は魔力の質で決まる。

 魔法の属性の適性に関してもそうだ。

 大体魔法の適性を見分けるには魔覚で感じる色だ。

 だがこいつの色は色々混ざり合って気持ち悪い色になっている。

「色々混ざってる感じ!」

「だからなんで混ざってんだよッ!!」

「食べられた人たちと何か関係があるんじゃない!?」

「!」

 言われてみればそうだ。

 食った奴の顔が浮かぶくらいだ。

 取り込まれて体の一部にされたと見るのが正しいだろう。

 だとすれば・・・そういうことか!

「こいつ、食った奴の魔力を・・・!」

 此処に捨てられてこいつに食われた奴の中に魔術師(メイジ)とかみたいに魔法を使える奴がいたと仮定すれば全て筋が通る。

 この化け物、悪趣味なんてもんじゃねぇ!

 どんなサイコな事考えたらこんな物作れるんだ。

「くっ!」

 魔法を撃った直後、奴はまた触手を伸ばして俺達を捕まえに来るので奴を中心に時計回りに走りながらそれぞれで回避していく。

「くそッ! このッ!!」

 逃げ回ってるだけじゃ埒が明かない。

 すぐに拳弓銃(ハンドボウガン)に矢を装填して放つ。

 しかし矢が小さいせいであの巨体に当てた所で大した負傷(ダメージ)にはならない。

 剣を使おうにも掴まれたら一発で終わりな相手だ。

 とてもじゃないがある程度距離は欲しい。

 魔法を撃つにしてもあの触手が絶え間なく襲って来る以上、どんなに距離を取っても魔法を唱える暇がない。

 だったら・・・!

「ルタ! 灯り消せ!」

「! うん!」

 俺の意図をすぐに察してルタは魔法の灯りを消す。

 その瞬間、俺は懐から指輪を取り出して嵌める。

 普通に考えればこんな大型の魔物相手に上昇(ライズ)や魔法を封印するなんて自殺行為だ。

 だがこうする事にこそ意味がある。

 魔力を抑えるためだ。

 狙いは『闇討ち』だ。

 暗闇に乗じて近づき、一撃でカタを付ける。

 だが奴にも魔覚がないとは限らない。

 遠くで気づかれないようにしていたにも関わらず、奴は触手を伸ばしてエベッカを捕まえた。

 何かしらの探知方法があると見て良い。

 魔力で探知している可能性を考えての魔力鎮静だ。

「・・・!」

 奴は突然灯りが消えた事によりウゴウゴと闇雲に動いているみたいだ。

「・・・。」

 俺は息を殺して奴に近づく。

 魔覚も魔力と一緒に封印しているが全く使えない訳ではない。

 一般人並みにはある。

 これくらい至近距離なら暗闇でも奴の位置は正確に分かる。

 しかし自身の魔力と魔覚を封印している状態だ。

 付与(エンチャント)で強化した剣で攻撃も出来なければ上昇(ライズ)を使った一撃も叩き込めない。

 だが一撃で仕留められる手段はある。

 ディグから譲って貰った新しい武器『魔砲剣』だ。

 撃った魔法を貯蔵(ストック)し、凝縮して砲弾の様にぶっ放す武器だ。

 戦う前から事前に魔法を撃って剣に貯蔵(ストック)していた。

 幸い作戦に入って一度も貯蔵(ストック)した魔法を撃っていない。

 奴は俺が近づいてくることに気づかず、あらぬ方向に触手を伸ばして俺を探している。

 もうすぐだ。



「うわぁッ!!」



「ッ!!」

 ルタの声だ!

 魔力の反応が上に上がっている。

 捕まったのか!

 くそ、先に魔覚で察知されたか!

 だが奴の近くまで忍び寄れた!

 今だッ!!

 俺は剣の引き金(トリガー)に指を掛けるが・・・。

「ッ!!?」

 奴の魔力が急に消えた!?

「いぃ!?」

 ルタの声と共にズザザザと何かが高速で這いずる音と共にルタの魔力が移動する。

 こいつ・・・まさか魔力鎮静を・・・!

 さっき食ったエベッカの力か!

(くっ・・・!)

 ルタの魔力を頼りにルタを掠める位置に向かって剣の先を向ける。

(ッ!!)

 剣の先に集中した魔力の球体が放たれる。

 相変わらず凄い反動だ。

 思わず声が出そうだったが声を殺して耐える。

 砲撃は狙い通りの位置だ。

 これなら・・・。

「・・・!」

 だが現実は残酷だった。

 魔力の砲弾はルタの近くを掠めるように通り過ぎていく。

(くそ・・・!)

 このままだとルタが危ない!

 意を決して走ってルタの元へ向かう。

 幸い地面が柔らかい肉の塊なだけあって硬い靴底に当たって音が立つことは無いため、音で気づかれることは無いだろう。

 奴は今俺の魔法を撃った位置に触手を伸ばしているはずだ。

 その隙にルタを救出・・・!

「ッ!!?」

 左肩から脇に掛けて触手が巻き付いて来た!

 嘘だろ!?

 気づかれた!!?

「うっ・・・! くそ・・・!」

 捕まった!

 マズイ!

 だが・・・。

(フラム) (カーン)

 ルタはまだ諦めていない。

 魔法を詠唱し始める。

 奴に魔法を撃って振りほどくつもりだ。

 だが・・・。

(ホレッ)ブムッ!!?」

 ルタの声が突然何かを咥え込まされたかのようにくぐもる。

 口を塞がれたのか!?

 こいつ、魔法がどういうものか知ってやがる!

 それにさっきの行動もそうだ。

 俺が忍び寄る事にも気づいて逃げたあと、捕まえたルタを食わずにわざと魔力をちらつかせて俺の狙いを誘って砲弾を無駄撃ちさせた!

 魔覚がどういうものかも知ってやがる!

 こいつ、まさか食った奴の能力だけじゃなくて知識まで・・・!

 しかも俺が近づいているのを察知したのは明らかに魔力によるものじゃない。

 思えばそうだ。

 奴が最初に捕まえたのは魔力が一番分かりにくいエベッカだ。

 明らかに魔力を辿って捕まえているものじゃない。

 奴は俺の肩から巻き付いて来ていた。

 先程テルの短剣(ナイフ)で手傷を負わされた部分だ。

 恐らくは血の匂いで俺の位置がバレた。

 いや、最初から()()()()()()()()()()()()()()()んだ!!

「!」

 俺に巻き付いていた触手が動き出す。

 くそ!

 闇討ちの為に指輪付けたのが仇になった!

 上昇(ライズ)を使えないから振りほどけない!!

お兄ちゃん(ほいいひゃん)ッ!!」

「くッ!」

 ヤバイ!!

 マジで食われ・・・!



(グラス) (エペ) 放出(ホレッシ)



「!」

 魔法の詠唱!?

「ッ!!」

 突然近くで爆発が起こる。

「キィイイイイィィィ!!」

 腐食者(スカベンジャー)が悲鳴のような声を上げる。

 さっきはルタの魔法を喰らって同じ様な声を上げて俺を放したが今度はガッチリ掴んで離さない。

 だが・・・。



「メロッ!! 今の位置だ!!」

氷弾(アイシクルバレット)ッ!!」



 声がしたかと思うと氷の弾丸が先程の爆発の位置に飛んで行き、腐食者(スカベンジャー)の身体に深々と突き刺さる。

「グキィィィィィィィィ!!!」

 二段構えの追い打ちに耐え切れず、奴は俺とルタを放してしまう。

「うひぃ!!」

 情けない声を上げつつ俺は奴が居ると思われる位置から離れる。

「ルタ!! 灯りだ!!」

「うん! (フラム) (カーン) 発現(エクスプレッション) 停滞(スタグネーション)

「わぁちょい待ちッ!」

赤の灯火(レッドライト)!」

 ルタが灯りを灯す為に魔法を詠唱するとライらしき声が慌てて制止を掛けるがルタはお構いなしに灯りを付ける。

 すると奴の姿が露わになる。

「ひぃ! 危ねぇ危ねぇ!」

 ライは何やら眼鏡のようなゴーグルを手に持っていた。

 先程まで付けていてルタが灯りを灯す際に慌てて外したみたいだ。

「暗視スコープ付けてたんだよ! 急に灯り付けられちゃ目が潰れるっつの!」

「アンシスコープ?」

「詳しい説明はあとだ! おっとぉ!!」

 話をしている途中に触手が飛んで来るので俺達は散開して回避する。

「チッ! 流石に待っちゃくれんよな!」

「気を付けろ、こいつ素早い上に知恵が回る。食った奴の知識も蓄えてるみたいだ。」

『へぇ、それは面白いですね。』

 ライが胸元に付けていた通信機から声がする。

 ディグの声だ。

『奴が食った数百人の知識と僕の知識、どっちが上か見せてあげますよぉ!!』

「・・・。」

 あれ?

 ディグってこんなキャラだっけ??

「?」

 ライがちょいちょいと人差し指で『来い』と催促してくるので近づくと俺の耳元に顔を近づけて来る。

(気にすんな、自分の土俵で対抗してくる敵がいるからちょっとハイになってんだよ。)

(あ、なーる。)

『何か言った? ライ兄?』

「いやいや別に!! 頼りにしてますよぉ! 優秀なうちの頭脳(ブレイン)さん!」

 小声のやり取りをディグに尋問され、ライは慌ててディグを煽てる。

「師匠?」

「なんだよ・・・うっ!」

 メロが突然声をかけて来たが何を言いたいか概ね察する。

 ジト目で俺を見ているからだ。

 ルタ同様、勝手な判断で飛び出したのを非難しているみたいだ。

「あとでお説教なのです!」

「いやいや、師匠を説教する弟子がいるか!」

 いや、そもそも師匠じゃねぇけどな!!

「まあ、諸事情により総力戦って言うにはちょっと人数足りませんが?」

「ああ。」

 そう言うとライは銃を、俺は剣を構える。

「なんとかなるよね!」

「出たとこ勝負なのです!!」

「やめろその言い方、不安になる。」

 ルタもメロも各々ので奴に向かって武器を構えつつ、俺たちのやり取りは相変わらずだった


~室長 研究所(六年前)~


「・・・何の真似だ?」

 私が第一声を発するのには理由がある。

 此処は研究所の室長室。

 そして本来私が仕事をしているはずの机に彼女、ラベスタが座っているからだ。

「おや? 昨晩私の方にはメールで辞令が来たのにあなたには届かなかったようですね。」

「・・・何が言いたい?」

「見ての通りです、私がこの研究所の新室長、ラベスタです。」

「そんなバカな話があるかッ!! 警備員をすぐにでも呼んでお前なんかつまみ出して・・・!」

 そう言って携帯している連絡用の端末にアクセスしようとした時だ。

「!?」

 突然後ろの出入り口の扉が開く。

「お前は・・・!」

 そこにいたのは一人の大人しそうな若い女の研究員、アネットだ。

「何だ! なぜ勝手に入ってくる! ここは私の部屋だぞ!!」

「ふふっ!」

 アネットは急に笑い出す。

「何がおかしい!」



「いいえ、この部屋は ラベスタ室長の部屋です。」



 アネットの口から信じられない言葉が飛んでくる。

「お前まで何を言っている!! ふざけるんじゃない!!」

 こいつがこんな事を言うはずがない!!

 何故ならこいつは・・・!

()室長? おかしいですよ。昨晩メールで研究員達に一斉通達あったのに、読まなかったんですか?」

「・・・!」

 何がどうなっている・・・何がどうなってこんな状況になっているのか私にはさっぱりわからない!!

「答えは簡単ですよ?」

 ラベスタは含み笑いをしながら席から立ち上がり、ゆっくりと私の元に近づいてくる。

「ッ!?」

 至近距離に立った途端に私の服のネクタイを引っ張り、顔を至近距離まで近づけてくる。



「貴様が研究員として無能だからだッ!!!」



「ッ!!」

 急に口調が変わった!?

「出資者の奴らが貴様の無能ぶりに呆れて私の下についたんだよッ!! そいつらの権限だッ!!」

 ラベスタの顔は怒りの籠った鬼のような形相になっていた。

「金と権力で今の地位についたことにあぐらをかいてッ!! 他人から搾取した手柄だけで椅子を守り抜いただけの貴様がッ!! 本気で私と純粋に研究で張り合ったところで、勝てるわけねーだろッ!! 馬ァ鹿ッ!!!」

「・・・ッ!!」

 あまりに挑発的な言い方に私の中の堪忍袋の緒が切れた。

「大人しく聞いていればなんだその態度は!? だからなんだ!!」

 ラベスタの手を振りほどく。

「大学を首席で卒業した頭脳だけで渡り歩けるほど世の中は甘くないんだよッ!! いくら研究のデータが直接出資者に行くからと言って成果だけで奴らは私とお前を判断したりしないッ!! 傘下の企業には私の古くからの友人もいるし資金援助で恩を売ってやったやつもいる!! 研究の成果だけで私を見限るようなやつはいないんだよッ!! それとも何か!? 出資者の誰か一人とでも寝て後ろ盾でもつけたか!?」

「・・・!」

 私の言葉にラベスタは目を見開いて目を伏せる。

 言い返せないのか?

 だろうな!!

 大方この室長ごっこも話が全部嘘のでっち上げで私を驚かそうとしているに決まっている!!

 だが私の傘下を抱き込めない以上、そんな事は不可能だと言う現実を突きつければこの女も・・・!

「ははは!! 一人や二人バックにつけたところで我々に対抗できるとでも思っているのか!! どれだけ巨大な相手を敵に回しているか分かっていないようだなぁ!! ええ!?」

「・・・ふふ。」

「!?」

 ラベスタは何故か不敵に笑っている。 

「『一人や二人』・・・はは、ははは、あははははははははは!!!」

「!?」

 ラベスタは急に笑い出す。

 だがその笑いになぜか一つの答えが脳裏を(よぎ)った。

「まさかお前・・・!」

 いやいやそんなはずはない!!

 さっきの寝た云々というのは皮肉を込めた冗談だ。

 こいつは夫に操を立て、奴との娘を溺愛していた奴だ。

 そんな事出来ないに決まっている!!

「そのまさかだよ!!」

「ッ!!」

 嘘だ!!

「お前が傘下にしてるコネの先の奴ら『全員』と寝た!! 男というのは馬鹿な奴らばかりだ!! それだけで古くからの友人や恩人も平気で見限るんだからな!! しかも・・・。」

「・・・?」

 そう言ってラベスタはアネットの元へ近づく。

「私の一年後輩のアネット、お前の愛人だったみたいだなぁ? 私が輝ける人類(グロリアス)の研究を断ってから金や身体でたらし込んで私を監視させていたんだってなッ!!」

「貴様・・・!」

 何故それをこいつは知っている!?

「答えは簡単だ。」

 そう言うとラベスタはアネットの顎にそっと触れる。

「ああ、・・・ラベスタ()()()・・・!」

 そう言うとアネットは目をトロンとさせ、 頬を赤く染めながら 徐々に息を荒くする。

 それを見てラベスタはにやりと笑ってアネットの顎に触った手で彼女の後ろ頭を鷲掴みにして半ば強引に自分に引き寄せて口を合わせる。

 しばらくして口を放すと顔全体を真っ赤にさせたアネットは名残惜しそうに寂しそうな視線をラベスタに向ける。

「見ての通りだ。この女、そっちの()もあったみたいだぞ!? ちょっと仕込めばあっさり堕ちて口を割った!! せっかく出来た愛人を寝取って悪かったな!! ははははは!!」

「狂っている・・・お前、おかしいぞッ!!?」

 あんなに夫に操を立てていた女が、他の男と関係を持ち、ましてや同性の女にまで手を出すなんて・・・あり得ない、何がこの女を此処まで動かす・・・!

「そう言うわけだ。」

 そう言って不敵に笑いながら再びラベスタは私に近づいてくる。

「ッ!!」

「うぐッ!!」

 ラベスタは突如私の服の裾を掴んで床に投げ飛ばすように叩きつけてきた。

「おめでとう、お前は今日から平の研究員だ。」

「・・・!」

 その言葉を聞くと床に仰向けになった私の身体は起き上がらなかった。

 身体が痛いというのは勿論だが、それ以上に何かが私の身体から力を奪い、私を立ち上がらせなかった。



---それからは地獄だった。


 輝ける人類(グロリアス)の研究には勿論参加させては貰えず、『室長』という研究員達からの呼び名は『雑用』になり、奴隷を扱うかのように口調が荒く、人間以下の扱いを受けた。

 当然こんな研究所には居られず私は一か月足らずで研究所に退職願を出した。

 しかし傘下の企業も全てあの女に奪われているため、天下りをする先も無く、無職になった私を見限って妻も娘も家から去り、金も底をついて家も土地も失い、一年後・・・。



「・・・。」

 スラム同然になった廃墟街、そこを寝床にして街のゴミ箱から漁って手に入れた食べかけのパンを一口食べて廃ビルの間の空を見上げていた。

 いつになったら死ねる・・・。

 あの女・・・恨んでいるならあの時殺してくれればいいのに・・・。

 それならこんな『地獄』を味わわなくて済むのに・・・。

 誰か・・・私を殺してくれ・・・!

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