#80 作戦
~ラベスタ 自宅(六年前)~
「ひぐっ・・・うぅ・・・!」
部屋のベッドにしがみつく様にして私は涙を流している。
絵に描いたような泣き寝入り状態だ。
ーーーあれから裁判所に訴え、室長の罪を糾弾した。
私の側についてくれた検察官も『人としても法の番人としても許せません、必ずや彼の罪を白日の下に晒しましょう』と心強く私の味方になってくれた。
ーーー筈だった。
法廷に立つと飛び交った言葉は・・・。
「『人体実験を行った』とありますが、研究所の関係者に聞いて調査しました所、皆口をそろえて言っていました。『人体実験など研究所で行われたことは一度もない』と。」
「おかしいですね。では原告者は何故『人体実験を行った』などと嘘を言ったのでしょう。」
「被告人の証言によると『彼女は以前から野心に燃える節があり、私を貶めようと様々な嫌がらせをしていた』。『今回の件も恐らくは彼女の妄言である』と言っていました。」
「そうですか。その辺りの話を詳しくーーー。」
これが裁判と言えるのだろうか。
何もかも証拠が出そろった上での訴訟。
それなのに検察側は室長の罪を追求する姿勢は一切見せず、弁護士の意見を真摯に聞くばかりで反論もせず、まるで『わざと勝たせてあげようとする』戦い方だった。
そうしているうちに『室長の処遇をどうするか』の裁判は『無実の罪を着せた女の茶番をどうやって収拾をつけようか』と言った内容になって総崩れ。
まるで八百長試合のような敗訴に終わって室長は無実放免に終わった。
もちろんあんな手抜きをした検察官を責め立てたが『手は尽くした、相手の弁護士が強かった』などとシラを切り通すばかり。
恐らくは検察官も室長の息が掛かっている。
室長は生まれながらに実業家の家系で参加の企業、組織はいくらでもいる。
金で裁判所の重役を買収したか別の圧を掛けて脅したか。
どちらにせよあの法廷に私の味方は元々存在しなかったのだ。
ーーー「ひっく・・・ぐす・・・。」
こうして私は娘の無念を晴らせず、部屋の中で泣いていた。
この国で科学者になれて自分は力があるものだと自惚れていたのかも知れない。
「ケヴィン・・・アリス・・・!」
結局私は力の無いただの一人の非力な女に過ぎないのだ。
「・・・。」
これからどうする?
研究所をやめる?
いっそのこと自分の研究所を作って細々でも・・・。
「ッ! ・・・うぁぁッ!」
部屋の本棚を薙ぎ倒すと派手に本がバサバサと散らばる。
ふざけるな!
そんな事して何になる!!
そうやってあの男はまた笑いながら己のための犠牲者を出し続けて笑ってるんだ!!
そんな奴の思うように逃げて悔しく無いのかッ!!
『そうだ。それが君の在るべき感情だ。』
「ッ!!?」
ふと見ると部屋の真ん中のローテーブルに買った覚えもない端末が置かれており、そこから小さな映像で人の姿が写し出されていた。
そいつはスーツを纏っているが肩から上の映像がぼやけてよく見えない。
恐らくはそう見えるように写し方を調整しているのだろう。
声は合成しているのか不自然なほど甲高い声だ。
「誰?」
「君の味方さ。」
「ッ!!」
即座に棚の上の目覚まし時計を端末に投げつけた。
しかし端末は頑丈なのか壊れないし、何かで固定してあるのかびくとも動かない。
「あんたもどうせあの男の使いか何かでしょう? 大方下劣な下心で私が研究所から辞めたりしないようにアフターケアでもしてるつもりでしょ?」
「・・・ふっ、そうか。そうだな、あの裁判で味方に裏切られてたんだよな君。それは疑心暗鬼にもなる。」
映像の男は笑いながら自身に置かれた状況に納得する。
「何言ったって信じない。」
そう言って端末の電源を落とそうと手を伸ばすが・・・。
「いやすまない。誤解させたのなら謝る。言い方を変えよう。私はあの男の敵だ。」
「・・・!」
ふと手が止まる。
「・・・どういう意味?」
「私はね、あの男が嫌いなんだ。生まれ持った権力に溺れて勝ち組を気取り、気に入らないものがあれば君のような犠牲者まで出す。あんな男がロキウスの国立研究所の室長だなんて吐き気がする。ドブネズミを至近距離で見るほうがまだマシだと思えるぐらいにね。」
「随分口の回る男じゃない。」
どうせ私を篭絡するための言葉だ。
耳を貸しちゃいけない。
「おやおや信じては貰えないかい?」
「当たり前でしょ?」
「じゃあ良い事を教えてあげよう。」
「良い事・・・?」
「君の旦那を殺したのもあの男だ。」
「ッ!?」
・・・こいつ、何を言ってるの?
「何を根拠に・・・!」
「君、あの時不自然だと思わなかったかい? 君が室長に呼び出されて帰ったタイミングで事故が起きた。偶然にしちゃ出来すぎじゃないか?」
「・・・!」
確かに奴に取ってケヴィンは邪魔だった。
動機も充分だ。
けど・・・。
「あくまで推測の域を出ない話でしょ? その根拠は・・・。」
「彼はね。政府の裏の工作員ともコネがあるんだ。機材のチェックが及ばない場所に爆弾を仕掛け、事故を装って殺す。連中には朝飯前な仕事さ。」
「・・・。」
男の言葉に私の中の何かがキレた。
「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
部屋中のありとあらゆるものを壁に投げ飛ばし、暴れた。
奴はアリスの命を奪ったッ!!
それどころかケヴィンまで殺したッ!!
それで奴がのうのうと生きているッ!!
何もかもが間違っているッ!!!
「殺してやるッ!! あの男ッ!! 絶対に殺してやるぅッ!!!」
「殺すだけでいいのかい?」
「・・・!」
男の言葉に暴れた手を止める。
「・・・どういう意味?」
「君は愛するものを奪われ、何も知らないまま良いように搾取され続け、最後にはとどめとばかりに唯一の心の拠り所でもある娘すら奪われた。何度も地獄という地獄を味わっていたのに奴は一回死ぬだけで済むんだ。」
男は呆れ気味に語る。
「ただの一瞬。どんなに苦しめて殺したとしても。半日が関の山だ。奴はその程度の苦しみで済むんだ。 君が味わった長い長い地獄に対してそれはあまりにも軽すぎるんじゃないか?」
「・・・。」
言われてみればそうだ。
あの男は勝手な理由でケヴィンを殺し、つまらない私情で私の研究成果を幾度に及んで自分の手柄にした挙句、くだらない私怨でアリスを奪った。
そんなやつを 一瞬で殺すなんて割に合わない。
「・・・。」
「返事は聞くまでもないね?」
「私は何をすればいい?」
手段なんか選ばない。
あの男に地獄を味わわせるなら何だってやってやる・・・!
~ウルド B.R.A.I.N基地~
「スゥッ・・・!!」
息を一瞬強く吸って剣をビルドに向かって振り下ろす。
「へっ!」
奴は難なく回避すると俺を掴もうとコートの裾に手を伸ばす。
「ッ!!」
だが奴はすぐに危険を察知して俺から離れる。
瞬間、俺と奴の間を槍の鋭い突きが通り過ぎる。
「チッ!」
攻撃が外れてグラは舌打ちしながらすぐに俺の隣で構えなおす。
「「ッ!!」」
俺とグラは即座に察知して互いに離れる。
すると二人が元居た場所から火柱が上がった。
「ったく、厄介だな。」
「ああ、俺達じゃなかったらな。」
ーーー数時間前。
「基地を襲撃するのは恐らくはビリー、だから手筈通り官邸を制圧したら追手として来るからこれはゾルガ達獣人軍団と機動部隊たちで編成した防衛部隊に押さえてもらう。」
フレッドは映像による図解を銀の指し棒で要点を示しながら説明する。
「で、問題は基地の中の戦力だ。現時点で分かっているのは輝ける人類の連中、つまりはライ達の昔馴染みだ。」
「だな。」
フレッドの説明にライは呆れたような視線で相槌を打つ。
「奴らは恐らく一度に全員で待ち構えているはずだ。」
「うえぇ・・・。」
状況を想像してか、サンはうげぇとばかりに舌を出す。
「まずはビルド。」
フレッドが名前を言うと映像が切り替わり、剃り込みの入ったガラの悪い男の映像が映し出される。
「奴の能力は自分の意思で好きな場所を燃やす発火能力、加えて脳強化によって人工的に使えるようになった疑似上昇。」
「マジか。」
「なんだそれ、ウルドとルタを足して強い感じか?」
「「うるさい!!」」
グラが失礼な事を言うので俺とルタは同時に罵倒する。
「奴の能力の厄介なところは何と言っても発火能力。好きな場所に好きなタイミングで打てる技で動きの前置きも無い、つまりは殺傷能力が高い上に予測不可能だ。」
「つまりは無策で挑めば即死亡って訳か。」
「ああ、そうだ。だがそんな能力、ちょっとおかしくないか?」
「え?」
「炎だって自然現象だ。普通なら火を起こすなりして火が付くのが普通だろう? 何もない所で火が付くなんて事は普通は出来ない事だ。」
「けど現に出来るんだろ? こいつは・・・。」
「それは自然の法則に反することだ。それらを捻じ曲げると言ったらもはやそれは・・・。」
「『魔法』・・・?」
「ああ、じゃあ予測不可能な発火を察知できると言ったら?」
「・・・魔覚か。」
「そうだ。だから奴の相手は魔覚と直接戦闘に長けたウルドとグラにやってもらう。」
「成程な。了解。」
「へっ、戦りがいがありそうだな!」
俺は適当に相槌を打ち、グラは右拳を左手に打ち込んで気合を入れた。
ーーー現在。
「チッ!」
奴はあれから何本もの火柱を上げているが俺とグラはそれらを避け続けて一向に当たる気配が無い。
「なんで当たらねぇッ!!」
ビルドは炎が当たらなくていら立っている。
それはいい。
それはいいんだが・・・。
「最初の一発からそうだ!! なんで当たらねぇんだッ!!」
「なぁ。」
いい加減俺は突っ込む。
「さっきから俺ばっかり狙ってないか?」
そう、奴は何故か俺を執拗に狙って来る。
グラに対しては襲い掛かって来た時に追い払う程度に使っているがそれ以外は狙っていない。
「当たり前だろがッ!! 男はさっさと退場させて楽しむんだよ俺はぁッ!!」
「・・・。」
あーはいはい。
分かりましたよこいつ。
冒険者やってて山賊とか盗賊とかも相手にするからすっごい分かる。
「女は生け捕りにして犯るタイプか。そりゃ邪魔だよな、『男』は。」
「ああ? んなこと言ってんならてめぇもそういうクチか?」
「一緒にすんな。お前みたいな奴の相手を何度もして来たから分かるだけだ。」
「なんだウルド? お前ホ●なのか?」
「なんでそうなるッ!!」
グラの中でどう解釈されたんだ今の話ッ!!
「・・・。」
とりあえず周りの状況を見るーーー。
ーーー「逃げんじゃねぇよオラァッ!!」
ライは銃をバンバン撃ちまくっている。
相手はテルだ。
奴はさっきライや俺に対して使って使っていたあの空気の歪みの穴を作ってそれに飛び込み、別の場所に移動しながら銃弾を避けている。
「やだよ。お前、怖いもん。」
テルは隙をついて手元に穴を作って短剣を持った手を突っ込むとライの後ろから穴が開いて手が現れてライを突きさす。
「ぐっ! 痛てぇなぁコンチキショォッ!!」
ライは意に介さず銃を撃ちながら突っ込んでいく。
ーーー「二人目はテルだ。」
会議室で次に映し出されたのは刈り上げのいい歳して子供みたいな髪型の男だ。
「奴の能力は『門』。」
「ゲート?」
「自分の思った場所に二つ空間の穴、此処では『門』と呼ぶけどそれを『入口』と『出口』作って好きな場所に物体を行き来させる能力だ。」
「ん、んん? よく分かんねぇぞ?」
能力の説明に獣の脳みそのグラは顔を歪ませる。
「つまりだ。此処に奴の能力で作った入口の穴があるとするだろ?」
フレッドは指で目の前に丸を描く様に指し示す。
「で、グラの後ろに奴が出口の穴があったとする。」
「ほうほう。」
フレッドの説明にグラは関心そうに椅子の後ろを見る。
「で、例えば短剣を持った手をこの入口に突っ込んだとする。すると・・・。」
フレッドが短剣を持ったような形の手を先程『入口』と説明した場所に突き出すと・・・。
「うわっ!」
丁度隣に座っていたライが短剣で突きさすような要領で手刀をグラの椅子の後ろを突く。
「後ろから手が現れてザクって寸法さ。」
「ライッ!! てめっ、何しやがるッ!!」
「おおっ!! 初めて俺の名前呼んだな!」
「うるせぇッ!!」
「・・・そろそろ進んでも良いかい?」
ライの胸倉を掴んで食ってかかるグラを見ながらフレッドは半ばグラからの理解を諦めて進行する。
「とりあえず彼の相手はライとサンだ。」
「おう! 任せろ!」
「ガッテン承知ノ介!!」
グラに腕を噛まれながら意気揚々とライは返事を返し、サンも額に手を当てて調子のいい敬礼のポーズを取る。
ーーー「痛てぇんだよさっきからぁッ!!」
そう言いつつ平然と突っ走りながらテルに向かって銃を乱射して襲い掛かる。
先程から攻撃を避けられて一方的に攻撃を受けているがライの再生能力にはダメージはゼロに等しく、いくらやっても効果はない。
加えて・・・。
「くっ・・・!」
テルはライ以外にもあちこちに目をやりながら門を移動して回避行動を取り続けている。
と言うのも、奴を狙って色んな角度から銃弾が飛んできているからだ。
サンが最初の猟犬を殲滅した時の要領で隠れながら跳弾でテルを攻撃しているのだ。
「このッ!」
縦横無尽の弾丸に苦しまされつつもテルは負けじとライを攻撃する。
「へッ!」
奴もライの能力の弱点が『頭』と分かっているようで執拗に狙うが、門が見えた瞬間にライは身体をずらす。
門からの攻撃には門を出すまでのコンマ数秒の僅かな時間があるようで、その隙にライに身体をずらされる。
思った位置に攻撃は出来るがどうやらそこまで精密には攻撃できないみたいだ。
ライが割り当てられるのにも合点がいく。
弱点の『的』が小さいライ。
姿が見えず的に出来ないサン。
確かに奴を倒すには適任かもしれない。
ーーー「で、次はレッサだ。」
「ッ!」
「あいつ・・・!」
「?」
金髪で褐色肌の女が出てくるとティルが顔を青ざめさせ、メロが顔を強ばらせる。
知ってるような顔だな。
「彼女の相手は
「俺は反対だ。」
「!!」
フレッドが説明をしようとするとライが何故か食って掛かる。
「・・・。」
ライの反対の意味を知ってか、フレッドは鼻で軽くため息を吐く。
「彼女の能力はティルと同じサイコキネシスだ。つまりは対峙した時点で彼女の射程内。逃げようが隠れようが彼女の能力に捕まってしまう。対抗手段があるとすれば、同じサイコキネシスをぶつけるしかない。」
「けどよぉ!」
ライは居ても立っても居られなくなって椅子から立ち上がる。
なんとなく話の意図から内容は大体内容は察した。
適任者はサイコキネシス持ち、つまりはティルだがライは何故かは分からないがこのレッサって女とティルを当たらせたくないみたいだ。
「最悪の場合、彼女は足止め程度に封じて他の奴らと早急に決着をつけてティルに押さえて貰いながら袋叩きにする。それなら異論はないだろう?」
「・・・。」
フレッドの説得にライは苦虫を嚙み潰したように表情を渋らせながら黙る。
「チッ。」
最後に観念したのか、ライはバツが悪そうな顔で椅子に腰を落とすように座る。
その様子を見てフレッドは少し申し訳なさそうに目を細めてまた軽く鼻でため息をつく。
話がひと段落着いたその時だ。
「だったら私もこの女と戦うのですッ!!」
「!」
メロが立ち上がって自ら志願する。
「おま、何言ってんだよッ!!」
こればっかりはこっちの身内なのでつい会話に割って入ってしまう。
「私も前こいつにやられたのですッ!! やられっぱなしは気にくわないのですッ!!」
「今の話聞いてたのか!? 奴の能力にはティルしか対抗手段がねぇんだよ!」
「けど前に見たのです! ティル一人だったらこのアバズレ女の相手はきつそうだったのですッ!」
「ふむ。確かに一理ある。」
「え!?」
フレッドから意外な返答が返って来た。
「ティルには申し訳ない事を言うが、彼女の方がサイコキネシスの精度が高いんだ。それに彼女は自身のイメージで自在に物体を作る能力まで備わっている。つまりは手数でどうしてもティルは押されてしまう。正直に言うとティルと彼女の一対一は勝算が薄い。」
「な・・・!」
呆気に取られたが成程、さっきのライのリアクションにも合点がいった。
「けど半人前のこいつに手伝わせた所で何が・・・。」
「む!」
俺の指摘にメロは期待を裏切らずムキになって俺を睨む。
「いや、やりようによっては勝算が上がる。」
「え!?」
またまたフレッドから意外な返答が返って来てついさっきと同じリアクションを取ってしまう。
「メロにはいくつか立ち回りを教えよう。」
ーーー「くぅっ・・・!」
「ほぉらほら頑張れぇ!」
ティルとレッサは互いに手を翳して、その間の床には何か力場の様なクレーターが出来る。
サイコキネシスの力同士が押し合ってるのか?
更に戦いはそれだけじゃない。
さっきから周りで瓦礫や近くにあったと思われる機材やら鉄パイプやらが二人の周りでぶつかり合ってまるで数人同士の抗争状態みたいになっている。
「こんな事してる間にぃ~?」
レッサは左手だけ上に指さして翳すと頭上に先程のガラスのような透明な棘を何本も作り出す。
「ティルぅ? あんたも懲りないねぇ!」
「うぅ・・・!」
指さした彼女の指がティルの方を向くとその棘は容赦なくティルに向かって飛んで行く。
ティルは今操っている物体で手一杯のようで、棘に対する防御まで手が回らないみたいだ。
しかし・・・。
「させないのですッ!!」
メロがティルの傍に立って両手の剣で全て弾き飛ばす。
結構な数を飛ばしたがメロは全て叩き落した。
恐らくは感覚上昇で全て見切って叩き落しているのだろう。
「ああ?」
思い通りにいかなかったのか、レッサは結構な形相でメロを睨む。
「このガキ、生意気ッ!!」
「ガキじゃないのですッ!! けど生意気ついでです!!」
メロはそう言って右手の剣をレッサに向ける。
「氷 剣 放出!」
魔法を詠唱し始めた。
「氷弾!!」
魔法をレッサに向かって放った。
氷柱の弾丸がレッサに向かって飛んで行く。
「くッ!」
レッサが慌てて左手を翳すと氷は目の前で止まり、奴が握りつぶすような手の動きをすると氷が砕ける。
ーーー「ティルが手数で負けてしまう分、彼女からティルへの攻撃が幾つか飛ぶことになるだろう。まぁ主に彼女が作った物体だろうけど、メロはその攻撃を防ぎ、隙があれば魔法で援護してやってくれ。」
「おお! それなら私にも出来そうなのです!!」
メロは目を輝かせる。
「ただし迂闊に前に出て接近戦を仕掛けて、彼女とティルの間には絶対に入るなよ? 基本二人は常にサイコキネシスで押し合う形になる。そんな事をすれば二人の力に押しつぶされるからね。」
「・・・。」
そういうと何故かメロは固まる。
「・・・ハイです。」
気まずそうに目を逸らして返事をするメロ。
このアホがどうやって前この女にやられたか、この顔を見たら容易に想像がついた。
ーーー「どうですッ!」
メロは居丈高にレッサに向かってドヤ顔をかます。
「何? それで勝った気になってんの? 前みたいに潰されたいわけ?」
「前とは違うのですこのアバズレ!! お前の能力が分かった以上、簡単にやれると思うなです!! それに・・・。」
「?」
メロがティルに目をやるとティルもそれに気づく。
「今のティルは一人じゃないのです!」
「メロさん・・・!」
メロが笑いかけるとレッサとサイコキネシスで押し合いながらもティルは若干嬉しそうに笑みを浮かべる。
「・・・ハンッ!」
レッサはその光景を数秒眺めると急にわざとらしく力強く鼻で笑う。
「ウッザ!! マジウッザ!!」
目の前の光景が気にくわないようで更に怖い顔で二人を睨む。
「今すぐそのふわふわ空間ぶち壊すッ!!」
先程の余裕とは打って変わって怒りを顕わにする。
「メロちゃぁん!!? あんたは今まで壊してきたティルのどんな大事な物よりもぐちゃぐちゃにして無残な形で壊してあげるッ!! そしたらティルどんな顔するだろうねぇ!! 考えただけでも濡れてきちゃぁうッ!!」
「こ、怖くなんかないですもんねぇ!! 逆にお前をとっちめて今までティルにやってきたこと償わせてやるのですッ!!」
レッサの怒りと快感の交じったような狂気的な笑みに気圧されまいとメロは必死に強がる。
「私・・・私は・・・!」
ティルも必死に口を開く。
「もうあなたの言いなりになんかなりませんッ!! 今日此処でッ!! あなたに勝ちますッ!!」
必死に自分の思いを口にする。
初めて見た時から引っ込み思案だったように見えるが、今の彼女がこのように言えるのは恐らくはメロが元気づけているのだろう。
メロのやつ、いつの間にかいい友達作りやがって・・・。
「・・・といかんな。」
他の奴らの戦いに気を取られる訳もなく、俺は相変わらず魔覚を駆使してビルドの炎を避けていた。
「逃げてんじゃねぇってのッ!!」
当たらない事に苛ついてビルドは直接俺に殴りかかる。
「うおっと!!」
大振りの拳の振り下ろしを回避すると勢い余ってビルドは床を殴ってしまうが、その床が抉れて人の大きさの二倍はありそうな大きなクレーターを作る。
「危ないだろうが。」
「くそがッ!!」
挑発気味に言う俺にビルドがキレるが攻撃の威力は凄まじいのは認めるべきだろう。
流石は人口上昇って所か?
「それよりいいのか?」
「あ?」
俺が言う事の内容にビルドは気づいていない。
グラが既に真上に居て今にも降下様に槍を突き落そうとしている事に・・・。
「!?」
だが一瞬ビルドの様子がおかしい事に気づいた。
奴の口元が何故かにやついたからだ。
次の瞬間・・・。
「ッ!!?」
空中にいたグラは目を見開く。
その視線の先には右の足に突如現れた腕に捕まれていた短剣が深々と突き刺さっていたからだ。
「ぐああぁッ!!」
突如グラは軌道を変えて落下して足を抱えてのたうち回る。
「・・・!」
視線を移すと自分の傍に作った門に手を突っ込んでいたテルの姿があった。
「てめぇら・・・!」
「バァ~カ。」
それを見てビルドは不敵に笑う。
「誰がてめぇらのご希望通りに戦ってやるかっての。」




