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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
78/101

#78 戦士の矜持


~レッサ B.R.A.I.N基地


「ヤッホー♪ お(にい)達♪」

 部屋を開けると色々と物がごちゃごちゃした部屋に入る。

 完全防音のおかげで聞こえなかったけど部屋の中はかなり大音量のステレオで音楽が掛かっており、開けた瞬間に物凄い音が流れて来る。

「あ? やっとかレッサ!」

「そ! 出撃!」

 大柄の男がステレオの間のベッドから水着の女の表紙の雑誌を放り捨てながら立ち上がる。

「ったく、猟犬(ハウンド)だけで片付くと思ってたのにあのババア、もっとうまく調整しとけっての。」

「そうだよねビルド(にい)♪」

 そう言って兄の腕に抱き着く。

「あ、でーもー。ティルはちゃんと生け捕りにして欲しいってママに頼んでるんだー!」

「んだよ、お前もよく飽きねぇな、あの玩具に。」

「だぁってぇ、あいつが一番いい反応するんだもん♪」

 思い出すと口が思わず笑いで吊り上がる。

 


「大事な物壊した時の反応♪」



「おーおー、やっぱお前が俺らん中で一番キマってんな。」

「ビルド? ねぇ今気になる事言ってなかった?」

「あ?」

 会話に割り込んできたのは部屋の隅にいた細身の刈り上げの男だ。

「テル兄! いるんなら返事くらい

「ママの事を悪く言ったな?」

「あぁ?」

 私の言葉を無視してテル兄はビルド兄につっかかる。

「どうなんだ! ママの事を悪く言ったのか!?」

「うるせぇこのマザコン野郎!!」

「・・・言ったな?」

 ビルド兄ががなり立てると頭の何かがぷつんと切れたテル兄。

 するとテル兄の右腕の傍に黒く歪んだ穴が空中に現れる。

「!」

 それと同時にビルド兄の胸元に黒い穴が浮かんでくる。

「僕をマザコンって言った奴はぶっ殺すッ!!」

「うるせぇぞこの誘い受け野郎!! マザコンにマザコンっつって何が悪いッ!!」

「五月蠅い煩いウルサイッ!!」

 テル兄は自分の傍の穴に手を突っ込む。

「ぐッ!」

 ビルド兄は苦しそうに顔を歪ませる。

「ヒヒヒ、このまま心臓握り潰すよ? 何か遺言ある?」

 不気味に笑いながらテル兄はビルド兄を煽る。

「おーやってみろや。その前にてめぇの頭を吹っ飛ばすッ!!」

 今にもどちらかが死んでもおかしくない状況、けど・・・。



「あたし抜きで数減らそうとしてんじゃねぇよこのクソ兄共が。」



「「!!」」

 戦いは突如終わりを迎えていた。

 ガラスの様な半透明のメスが二人の眼球の目の前に浮いたまま止まっていた。

「お(にい)達? これからお楽しみの時間なのに先におっぱじめちゃダメじゃない!」

 私が諭すとテル兄が黒い穴を閉じる。

「あー、そうだな。今遊んだらつまんねぇ。」

「・・・萎えた。」

 二人は完全に矛を納めたようだ。

「けどよぉレッサ。」

「ッ!」

 ビルド兄は私に近づくと急に壁まで突き飛ばして私の頭の横の壁にドンと手を付ける。

「分かってんな?」

 そういうとビルド兄は私の胸を鷲掴みにする。



「終わったらまたやらせろ。」



 ビルド兄は睨みつけるような目で舌を出す。

「ふふ♪ いいよ? お(にい)がしたいなら。」

「あとティル捕まえたらティルともやらせろ。」

「朗報。あいつ胸でかくなってたよ?」

「そいつぁいい。んじゃちゃっちゃと片付けるか。」

 そう言って意気揚々とビルド兄は出ていく。

「これもママの為、ママの為・・・。」

 テル兄は何か呪文のように同じ言葉を繰り返しながら出ていく。

「はっ。」

 二人を鼻で笑う。

 だってあいつら馬鹿だし。

 女はやる物としか考えてないヤリチ●。

 いい年してママのおっぱいから離れられないマザコン。

 男の典型を絵にかいたような二パターンの二人。

 分かりやすくて利用しやすい駒だね全く。

「さあてあとは・・・。」



~ケディ 官邸前~


「・・・。」

「・・・。」

 ゾルガ達と大尉は対峙したまま動かない。

 周りの獣人や只人(ヒューム)もそれを見たまま動かず、中には生唾を飲み込む奴もいた。

 だがすぐに沈黙は破られる。

「うおおおおおおぉぉぉッ!!」

 ゾルガが咆哮してオカマ野郎に殴りかかる。

「ふん。」

 大尉は鼻で笑うと拳を躱す。

 しかし一撃では終わらない。

「うおおおおらおらおらおらぁッ!!」

 ゾルガは両腕で突きのラッシュを放つ。

 その一発一発は残像が掠め、腕が何処にあるか分からない程早く、空を切る音が重く、物凄い威圧感のある攻撃だ。

 しかし大尉は涼しい顔で躱す。

 さらに・・・。

「ぐッ!」

 ゾルガの頬に一発、大尉が殴ったと思われる一撃が入る。

 大尉は拳を動かしたようには見えないがゾルガの様子から明らかに殴っているのだろう。

 つまり拳が早すぎて見えないのだ。

「へっ、うおおおおおおぉッ!!」

 ゾルガは殴られて少し上体が傾くがそれでも鼻で笑ってお構いなしにラッシュを放つ。

 しかし同じように大尉に躱され、一発、二発と入っていき、段々とその殴られていく間隔が狭まっていく。

 見切られているだけじゃなく、段々動きに慣れて合わされている感じだ。

「ッ!!」

 大尉は突如視線をゾルガから別の方向に移す。

 そして地面を軽く蹴って横に跳ぶと何かが高速で大尉の元いた場所を通過する。

 猪族のゴトマだ。

「チッ!」

 通過した先で粉砕した壁の瓦礫が頭に降りかかったのを払いながらゴトマは悪態のように舌打ちをする。

「ふふ、ざぁ~んねん☆ ・・・ッ!?」

 大尉が視線だけゴトマに向けて挑発するが、何かに気づいて上を向く。

 ゾルガがいつの間にか跳び上がって大尉の真上にいたのだ。

「オラァッ!!」

 空中で上半身を地面に向けるように体の向きを変えると落下の勢いに乗せてゾルガは拳を大尉に向かって叩き落す。

 しかし大尉はそれも横に跳んで躱す。

 だがゾルガの攻撃はこれでは終わらない。

 すぐに上体を起こして粉砕して舞い上がったアスファルトの地面の瓦礫の一つに向かって左拳で思いっきり殴る。

 すると瓦礫が粉々に砕けて大尉に向かってまるで砂粒のように跳んで行く。

「ッ!!」

 小さい無数の弾丸のように跳ぶ瓦礫の破片はいくら大尉であろうと一つ一つ弾くことは出来ず、腕で顔面を覆って防御姿勢を取る。

 その隙にゾルガが地面を蹴って一気に距離を詰め、大尉に殴りかかる。

 瓦礫の破片が目に当たらないように腕で顔を隠していた大尉は意表を突かれて一瞬反応が遅れて回避できなかったが、それでもグローブの鉄鋼で弾く。

「チッ! オラオラぁッ!!」

 当たると踏んでいた攻撃が当たらなかったことにいら立ってか、またゾルガはラッシュを放つ。

 しかし防御姿勢を解いたことで体勢を整えた大尉はまたラッシュを回避してゾルガに反撃する。

「ふっ。」

 この時大尉はほくそ笑む。

 この先の展開が分かっているからだ。

「分かってんのよッ!!」

 丁度真後ろまで接近していたゴトマに向かい、顔面へ向けた右ストレートを放つ。

 しかし・・・。

「・・・へっ。」

 ゴトマはそれを敢えて額の脳天で受けた。

 しかし当たった箇所には目立った外傷はなく、ゴトマ自身も平気そうだ。

 効いていないみたいだ。

「ッ!!」

 大尉は急にズボンの腰の部分を両サイドから掴まれる。

「どぅおらっ!!」

 ゴトマは上半身を右に倒しながら力任せに大尉を地面に投げて叩きつける。

「くっ・・・ッ!!」

 大尉が痛みの表紙に一瞬閉じた目を開けると、ゴトマは大尉の上で脚を振り上げていた。

 そしてその脚を大尉の顔面に向かって思いっきり振り下ろす。

 大尉はすぐに反応して身体を横回転させて転がって回避する。

 ゴトマの脚の振り下ろしは空を切ったがその威力は恐ろしく、拍子に踏みつけたアスファルトの地面が陥没して巨大なクレーターを作った。

「・・・危ないじゃない。」

 そう言いながら大尉は構えながら脚をステップ気味に警戒に動かしながら距離を取り、ゾルガとゴトマを視界に入れる。

 不意打ちをさせないように立ち回るつもりだ。

「・・・ふぅ。」

 ゾルガは何故か戦う構えを解き、上体を起こしながら首をゴキゴキ鳴らせる。

「解せねぇな。」

「・・・何がよ?」

 突拍子もないゾルガの発言に大尉が目を細める。

「てめぇそれほどの実力を持ちながらなんでロキウス(こんな国)で兵士なんかしてやがる。」

「あーら、何か気にくわないのかしら?」

「そうだなぁ、なんつーか、うん。勿体ねぇ。」

「?」

 また急に何を言い出すんだ?

「勿体ない? 何が?」

「だってよぉッ!」

 ゾルガは地面を蹴って一気に大尉の懐に飛び込む様に詰め寄り、拳を振り下ろすが大尉は顔色一つ変えずに身体をずらして回避する。

「他のロキウスの奴らはッ! ヒョロいから銃ばっかりに頼ってんのにッ!」

 続けてなぎ払う様に左手で横殴りに拳を奮ったあと、右手でボディブローを放つがそれも身体を反る、身体をずらすなどして避けられる。

「てめぇはッ! 拳だけでッ! 戦ってんだろうがッ!」

 右足で回し蹴りを放った後、回転の勢いを利用して更に左足で蹴りかかり、それも避けられたので足を上げて踵落としを放つがそれも距離を取って避けられる。

「ふっ・・・。」

 大尉は口元を吊り上げてほくそ笑む。

「だから何?」

 大尉は構えを解いて呆れるように右手を軽く広げて肩の高さまで上げる。

「お前は戦いを楽しんでるだろ!! 俺には分かる!!」

「あんた達と一緒にしないでちょうだい。 あたしが戦う理由はただのビジネスよ? 国の中枢に根を張ってる組織で戦う方が利益高いからやってるだけ。」

「いいや!! 嘘ついてたって俺には分かる!!」

「・・・あんた話聞く気ないでしょ?」

 呆れる大尉を前にゾルガは眼を輝かせている。

 その眼は新しい物をみた子供の様に純粋さがあった。

「お前が認めねぇならその本性、俺が呼び覚ます!!」

 そう言いながらゾルガは楽しそうに構える。

「はぁ~~~・・・。」

 大尉は物凄く呆れるように大きなため息をつく。

「アホくさ。どうせこうやって話してんのだってただの時間稼ぎでしょ?」

「つまんねぇ事言うなよ! おら、()ろうぜ!!」

「付き合えないわ。」

 そう言うと大尉は突如姿を消す。

「!!?」

 ゾルガが気づいた時には既に大尉は右に回り込んでいた。

「へ!」

 ゾルガは防御も回避する様子もなく、左拳を振りかぶっている。

 真っ向勝負に出るつもりだ!

 だが・・・。

「ぶがぁッ!!」

 即座に見えない速さで何発も打撃を喰らっていた。

 一撃一撃がかなり強いようで、ゾルガの巨体は今にも倒れそうなほど傾いていた。



「死になさい?」



 大尉は大きく拳を振りかぶっていた。

 とどめを刺す気だ!!

「ッ!!?」

 突如ゾルガの身体が何かに押されるように横にずれる。

 次の瞬間、大尉が攻撃したと思われるその時、パァンと打撃とは思えない派手な音が辺りに響く。

「・・・あん?」

 大尉が気にくわなさそうな目で殴った相手を見る。

「てめぇ!」

 よろけて転んでいたゾルガもそいつに声を上げる。

「・・・へっ。」

 ゴトマだ。

 奴は頭の脳天で大尉の右ストレートを受けていた。

「ゴトマ!! 水差す気かよ!!」

「・・・そのつもりだったんだがよ。」

「あ?」

 ゾルガは違和感を覚えたかのように眉を顰める。

 無論、私もゴトマの言葉が気になった。

「すげぇぜこいつ・・・速さだけのチキン野郎かと思ったら・・・。」

 そう言うとゴトマは仰向けに倒れる。

「ゴトマ!!」

 ゾルガは駆け寄ってゴトマを抱き起こす。

「!!」

 ゾルガは眼を見開く。

 先程大尉から喰らったと思われる脳天がえぐれて血がドバドバ出ており、骨と思われる白い破片が散らばるように周辺にくっついていた。

「俺の・・・自慢の・・・石頭・・・を・・・!」

 そう言うとゴトマは白目を向いてこと切れたかのように脱力する。

 確実に死亡。

 遠目の私から見てもそれは明らかだった。

「・・・。」

 ゾルガは黙って立ち上がる。

「あーら、怒った? お友達だったかしら?」

「・・・。」

 ゾルガは顔を上げると・・・。



「あーあ、くたばっちまったか。」



「!?」

 何を言ってるんだこいつは?

 仲間が死んだのに呑気な事をいったかと思えばつまらなさそうに頭を搔き始める。

「何? 強がり? 意外とみみっちいのね。」

「あ? 何いってんだ?」

 大尉が挑発するがゾルガは怒った様子もなく、平然と返す。

 先程の台詞は明らかに悲しみや怒りを押し殺したような強がりじゃない。

「おいゾルガ!!」

 つい私は口を挟む。

「あ? 今度はお前か? なんだ?」

「仲間が死んだんだぞ!?」

「あ? ああ、死んだな。」

「なんでそんなに平気なんだ!!」

「なんでって、ゴトマにとっちゃ幸せだろ。」

「幸せ!?」

 何を言ってるんだこいつ!?

「戦場で死ぬのは戦士の誉れ、しかも正面から堂々と向かい傷で死んだんだ。これ以上戦士冥利に尽きる死に方はねぇだろうぜ!! はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

「・・・!」

 狂ってる・・・!

 仲間が死んだのに平然としてる所か楽しそうに笑ってるなんて・・・!

「ただなぁ・・・。」

 そう言うとゾルガは寂しそうな目で死体になったゴトマを見る。

「こいつとはもう一回相撲って奴をしてみたかったなぁ・・・。」

「何、結局怒ってるんじゃない。」

「あ? まぁ確かに楽しみをふいにされんのは癪だけどよ。お前には感謝してんぜ。」

「感謝?」



親友(ダチ)に最高の舞台をくれてありがとう。」



 ゾルガはあぐらを掻いて両拳を地面に着いて深々と頭を下げる。

「・・・意味が分からないわ。獣人ってのは。」

 これには流石に大尉も面食らったようで、困惑で構えが緩んでいる。

「お前には戦士として敬意を表し・・・。」

 ゾルガはゆっくりと立ち上がると腰を落として拳を両脇に添えて踏ん張る姿勢になる。



「長らくやってなかった『本気』を出させてもらう。」



「「!!?」」

 私と大尉は同時に目を見開く。

 ゾルガの足元のアスファルトが急にミシリと音を立ててヒビを作ったからだ。



「ガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」



 ゾルガが咆哮すると辺りが物凄い熱気を発する。

 その最中、ゾルガの頬には小さな炎が上がって紋章の様な焼け焦げの痣を作る。

「あー、なるほど。」

 大尉は首を軽く傾けて納得したかのような座った視線でゾルガを見る。

「あんた、あの獣人の親だったわね。そりゃ使えるわよね。『それ』。」

「さあて。」

 ゾルガはゆっくりと上体を起こすと真っ直ぐに大尉を見る。



()ろうか。」



~ラベスタ 墓地(六年前)~


「ぅ・・・ケヴィン・・・うぁぁ・・・!」

 彼を土葬した墓石の前で黒い喪服を着たまま私はただただ泣いていた。

 ケヴィンは何も悪いことをしていないのに、なんで・・・!

 神様はなんて残酷なんだ・・・。

 こんな形で引き離されるなら、せめてあの時呼び出された時に断って一緒に居るべきだった・・・!

 あの爆発が止められなかったとしても彼と一緒に死ねたなら・・・!

「!」

 何かが私の後ろから抱き着く。



「おかあさん・・・。」



「・・・アリス。」

 アリスだ。

「ひっく・・・ぅっく・・・!」

 私の後ろから抱きつきながら涙でしゃくりあげながら震えていた。

「・・・ぁあ。」

 アリスの手に自分の手を添える。

 『ケヴィンと一緒に死にたかった』なんて・・・。

 私は愚かだった。

 そんなことをすればこの子は誰を頼って生きていけばいいんだ。

 この子は私と彼の宝。

 可愛い可愛い我が子。

 この子にはそんな残酷な事が出来るものか。

「ごめんね・・・アリス・・・!」

「どうして謝るの・・・?」

「ううん、何でもない。」

「・・・。」

「・・・。」

 しばらく沈黙が続く。

 つらいけど、何か言葉をかけてあげないとアリスも不安かもしれない。

「・・・お父さんね。」

「うん・・・。」

「お父さんは凄い人だったんだよ・・・。」

「うん・・・知ってる・・・おとうさん、おかあさんといっしょに病気のひとをたすけるためにがんばってたんだよね?」

「うん。それが分かるアリスはえらいね。」

 そう言ってアリスの頭を撫でる。

「おかあさんもすごいよ? おとうさんといっしょにがんばったんだよね?」

「・・・!」

 不意に慰められて涙が出て思わず手を添えていたアリスの手を握る。

「痛い、痛いよ! おかあさん!」

「ごめん・・・!」

 そうだ・・・。

 私にはまだこの子が・・・アリスがいるーーー。



ーーーそれから私は目まぐるしく発明を進めた。


 ケヴィンと共同開発だった医療カプセルを完成させ、さらにその他にも最新の医療機器や薬を開発して医療技術を発展させた。

 室長には前に機嫌を損ねた事もあり、手柄を横取りする形で私の功績は幾たびにも闇に葬られたがそれでも私は良かった。

 結果的には多くの命を救っている。

 それはケヴィンと私がやりたかったことだし、それを成し遂げているからこそ、あの時私を慰めてくれたアリスに恥じない『一人の親』としての姿を作れていることに誇りすらあった。



 私の人生はそれで満たされていたのにーーー。



ーーー「失礼します。」

 ある日、室長に呼び出されて部屋に入る。

「話とは何ですか?」

「ああ、君に前に話したことなのだが・・・。」

輝ける人類(グロリアス)・・・ですか?」

「そうだ。協力しろ。」

「・・・前にも言いましたが協力できません。私のこの技術は・・・。」

「今のままでこの研究所にいるのはつらいんじゃないか?」

「・・・。」

 言うに事欠いてこの男は・・・!

 私はそれなりに研究成果をあげているが、上層部に提出する開発者の名前を自分にして私の手柄を横取りしているからこの状況なのだ。

 マッチポンプにも程がある。

「正当に評価されない今の現状でこの研究所にいるのはつらいだろう?」

「そのような事はありません。」

 そうだ。

 私はアリスに恥じる生き方は出来ない。

 それは死んだケヴィンにも顔向け出来ない。



「なあ!! 頼むよ!!」



「ッ!!」

 突然室長は下手(したて)に出て来たかと思うと私の手を掴む。

「確かに輝ける人類(グロリアス)の研究に君の技術を買いたいのも本音だ!! だがそれ以上に、君をもっと私の傍に置きたいからだ!!」

「はぁ!?」

 何を言ってるんだこの男は!?

「分からんか!? 初めてこの研究所に配属されてから、君のその佇まい!! 誇りを持ったかのような真っ直ぐな視線に心を奪われた!!」

「意味が分かりません!!」

 振りほどこうとするが白衣の裾をがっちりと掴んだ室長の手はなかなか離れない。

 それどころか力任せに壁に押し込んで私の両腕を掴んで顔を寄せて来てキスを迫って来る。

「ぅぐ・・・い、いやぁ・・・!」

 唇を合わせまいと顔を左右に動かして逃げ回るがそれならばと室長は私の頬を嘗め回す様にしゃぶる。

「それはあの男がいようと関係なかった!! どうあっても君を手に入れたいと思っていた!! しかも今はあの男すらいない!!」

「ひぃッ!!」

 私は知っている。

 室長は既婚で奥さんも成人した娘もいる。

 そんな人が私に何を言ってるんだ!!

 気持ち悪い!!

「君、まだ小さい娘がいるんだろう?」

「!?」

 アリスの事まで・・・!

「君に似て可愛いんだろうなぁ・・・君が私の愛人になればあの子の面倒もしっかり見てやるぞ私は!! そして成長した暁には一緒に・・・!」

「・・・!」

 最低だ!!

 この男、アリスにまで性的な視線を・・・!

「うぶ・・・おぇ・・・!」

 無理だ!!

 吐き気がする!!

「!? だ、大丈夫か!?」

 私の様子を察してか、室長は腕を放して崩れて座り込む私の安否を気遣うように腰を落とす。

「ッ!!」

「うわっ!!」

 私はその隙を逃さず、室長を突き飛ばして逃げる。

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 部屋の入口まで逃げて臨戦態勢を取る。

「ラベスタ君・・・!」

「ッ・・・!」

 室長はまた襲い掛かろうとじりじりと歩を寄せて来るのでそれに合わせて私も距離を取る。

「あなたは最低です!! 訴えますからね!?」

 そう言って部屋から逃げた。

「待ちなさいラベスタ君!! ラベスタ君!!」

 室長は引き留めようと声を上げ続けるがそれでも私は走って逃げた。

 研究所から逃げるように出ていき、まだ仕事があるけどそれでも私は研究所には戻らなかった。



ーーー翌日。


 あの時の室長が怖かったが、それでも研究員たちがいる場所では手を出して来ないだろうと思って出勤したがその日、室長は何故か出勤していなかった。

 出勤日だったはずだがおかしい。

 研究員たちに聞いても誰も知らないらしい。

 それが私には不気味に感じた。

 いつ襲われるか分からず、なるべく他の研究員たちと行動したりして一人の時を作らないようにして警戒していたが何も起こらなかった。

 そしてその日は何もなく帰宅した。



ーーー「ただいまー!」

 玄関を開けて帰ってきているであろうアリスに向けて第一声を発する。

 しかし・・・。

「・・・あれ?」

 おかしい。

 いつもならドアの音とかに気づいたりして走って迎えてくれるはずなのに・・・。

「部屋で何かしてるのかな・・・?」

 とりあえずアリスを探す。

 しかし・・・。

「・・・アリス?」



 アリスは何処にもいなかった。




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