#77 ある科学者の悲劇
~??? B.R.A.I.N基地~
「・・・。」
私は目覚めた。
暗い部屋。
何も見えない。
ああ、駄目だ。
目覚めたばかりで思考が回らない。
「んっ・・・!」
身体を動かそうと力むが身体が動かない。
身体の機能が悪く、力が入らないという事じゃない。
手足を拘束されているのだ。
動けない。
「みんな・・・。」
今は会えない仲間の事を思い出す。
何も出来ない私の唯一の抵抗だ。
もうすぐ何も考えられなくなるのだから。
「!」
突然部屋の入り口と思われる場所から部屋の外の光が差し込む。
「ハァロー♪ ご機嫌いかが~?」
「・・・。」
部屋に入って来たのはレッサだ。
「~♪ ~~♪」
陽気に鼻唄を歌いながら私の元へ歩いてくる。
「偉く機嫌が良さそうね。」
「そりゃそうよ! 最近退屈だった所へ面白い事が起きそうだからね♪」
「あんたに取って楽しい事ね・・・胸糞悪い最低な話の予感しかしないけど・・・。」
「ん~? なんでそんな事言うのかな~?」
レッサはわざとらしく悲しそうな顔で私に迫ってくる。
「あんたが一番よく知ってるでしょ? 人の不幸でしか幸せになれない・・・ホントに哀れな生き物よね、あんたって、ッ!?」
皮肉を吐くとレッサが私を平手で引っ叩く。
「これでも感謝してほしいくらいだけど?」
「何が?」
「ママからあんたを隠して『出て来れる』ようにしてあげてるんだからね? わざわざ。」
「ハッ・・・玩具を奪った腹いせ? 最低ね。こんな場所に囚われてるくらいならずっと眠ってた方がマシよ。」
「今からでもママに謝ったら? あんた元々優秀だったし、あんなことした後だってママは許してくれるかもよ?」
「今更? こんな姿にされて? こんな状況で謝れる奴いたら自尊心蟻以下でしょ?」
そう、私の今の姿は元の自分の姿からは程遠い。
「あんたが強情なだけでしょ? それにママの技術なら元に戻すのなんて楽勝っしょ?」
「謝るつもりもないし今更戻るつもりもない。元々私はもう死んでるようなもんだし。」
「あーあー、娘の反抗期にママも泣いてるよぉ?」
「ふん。」
「まぁいいや、さっきの話の続きしちゃおっかな?」
「勝手にすれば?」
「じゃあ勝手にするけど・・・来たよ?」
「来た?」
「ライ達。あんたが生きてる事も教えてるよ?」
「!!!」
ライ達が!?
あの馬鹿、何してんのよ!!
せっかく逃がしたのに・・・!
「まぁお世辞にも優勢とは言えないかな? 此処に殴りこんで来たのはいいけどこっちの追手に追われながらそれを仲間が足止めしての、まぁ所謂挟み撃ちに合ってる状態。無茶するもんよねぇ?」
「くッ!」
必死に手足を動かそうとするが機械のアームにガッチリ固定されて動けない。
「あーらら、もしかして『救いのヒーロー』って感じであいつらの前に颯爽と現れようとしてる訳ぇ?」
「うっ、うぅ・・・!」
拘束しているアームが今程忌々しいと思ったことなんてない!!
「でも残念☆ ヒーローなんてご都合主義は許しませぇんッ!!」
「ッ!!?」
レッサが近くの壁に掛けてある縦倒し式のレバーに手をかけた事に気づく。
「や、やめろぉッ!!!」
そのレバーを降ろしたら・・・!
「うああああああぁぁぁぁぁッ!!!」
私の身体中を電流が駆け抜ける。
「ぅ・・・ぁぁ・・・!」
意識・・・が・・・。
「ふふ、おやすみ♪ リファ♪」
~ケディ 官邸前~
「奴らを官邸に入れるなぁッ!!」
機動部隊が機銃で弾幕を張りながら仲間を鼓舞する。
しかし戦っているのは彼らだけじゃない。
「俺達だって!!」
「今までフレッド世話になった分!!」
「命に代えてもッ!!」
機動部隊以外に銃を撃っている一般人がいる。
彼らは各々の形でB.R.A.I.Nから逃れ、抵抗組織に保護された人達だ。
「オラァッ!! 銃がなんぼのもんだオラァッ!!」
「こちとら覚悟が違うんだよぉッ!!」
「喧嘩祭りだぁッ!!」
獣人も奮起して戦っている。
敵の猟犬が此方の銃の弾幕をすり抜けて来たらそれを蟻一匹も通さないとばかりに片っ端から倒していく。
血の気が多い連中と思っていたが彼らも戦士として戦場慣れしているせいか、それなりに防衛戦の心得はあるようだ。
それにしても彼らと共闘するなんて思っても見なかった。
しかし攻め入った時、手強いと思っていただけにこうして味方だと非常に頼もしい。
「負けてられない・・・私だって!! うああああぁッ!!」
気合を込めてバズーカを取り出して敵陣のど真ん中にぶっ放して派手に敵を吹き飛ばす。
「ヒュ~♪ やるぅ~!」
虎の人間寄りの顔の獣人、ク族・・・だったか?
そいつが私の姿をみて感心そうに口笛を鳴らす。
「無駄口叩くなッ!! 戦線を維持するんだ!!」
「へいへい。」
私が叱咤するとそいつは軽口で敵に構えなおす。
「ふん。」
悪態を吐くが敵に負けず劣らずのA.A、それに加えて獣人の援護。
心強いのは確かだ。
このまま戦線を維持出来れば・・・。
「ッ!! 伏せろぉッ!!」
さっきのお返しとばかりに敵のバズーカの弾が飛んでくる。
戦車やA.Aなら多少は耐えられるだろうが、歩兵の私たちは喰らえばひとたまりもない。
丁度備えに立てていた簡素な金属製の壁に隠れるように伏せて爆風を凌ぐ。
「被害を報告し・・・ッ!?」
仲間に呼びかけようとした時だ。
爆風に紛れて何かがこっちに飛んで来た。
「ぐわぁッ!!」
それは獣人を一人殴り飛ばした。
その犯人を見た時、先程の私の安心感は絶望感に変わる。
「あーら、急ごしらえだったのかしら? 粗末な防衛戦ねぇ。」
「ビリー・・・大尉・・・!」
「あら、何日ぶりかしら? ケディ少尉?」
「くっ・・・!」
想定出来なかった事態じゃない。
B.R.A.I.Nの存在を知ってからこの人とこうなる事は覚悟していた事だ。
「くぅ・・・!」
「う、うぅ・・・!」
周りの味方達も、獣人ですら彼の脅威は理解しているのか、銃や武器を構えるが攻撃できずに硬直する。
「で? あんたが一番話が分かると思うんだけど・・・。」
「?」
戦う素振りを見せず、大尉は両手を肩の高さまで上げてやれやれのポーズを取りながら私を見る。
「此処・・・通してくれるわよね?」
「・・・。」
大尉の実力は嫌と言うほど知っている。
何せ銃を持った数十人の兵士ですらこの人は素手で倒してしまう程だ。
私じゃ到底敵う訳がない。
けど・・・!
「ッ!!」
それでも私は大尉に銃を向けた。
「・・・ダメ?」
大尉は台詞とは裏腹に物凄く威圧的に瓦礫の上から私を見下ろしていた。
「私は軍を既に裏切っている反逆者です・・・けど貴方は・・・!」
「私は? 何?」
「この国の威厳を根底から裏切っている!! 貴方こそが真のロキウスの裏切り者だッ!!」
「ふーん・・・。」
大尉は私から視線を外すと空を眺めるように考え込むような腕組みで顎に拳を当てる。
「で?」
「!!?」
大尉が私を再び見た事に気づいた時にはもう事が起こっていた。
既に私の元まで距離を詰めて銃を弾いていた。
「言いたいことはそれだけ?」
大尉は既に拳を引いて構えていた。
「ぅッ・・・!」
やられる!!
そう思った瞬間・・・!
「ぶッ!?」
「!?」
殴り飛ばされたのは大尉だ!!
一体何が・・・!
「いや、それだけ言えば十分だろ。」
その言葉を聞いて視線をそっちに移すとそこに居たのは・・・。
「ゾルガ・・・!」
狼ク族の族長、ゾルガ・・・こいつがやったのか・・・?
「ケディ、だったか?」
「・・・?」
ゾルガは何故か私の名を呼ぶ。
「よく吠えた。ロキウスの兵隊にしとくにゃ惜しい戦士だ。俺と交尾して生まれた子が見たいほどにな。」
「こ・・・!」
この男・・・何を言った!?
「ななな、何を言ってるんだ貴様ッ!! 」
「戦場で堂々とセクハラ発言とか、あんたやるわね。」
ビリー大尉は殴られた拍子に出た鼻血を拭いながら上半身だけ起き上がらせる。
「よせやい!!」
「褒めてないッ!!」「褒めてないけど。」
ウルドから聞いた情報だが確かこいつ、娘がいたはずだ。
正気で言ってるのかこいつは!?
「畳みかけろッ!!」
「!!」
大尉が完全に起き上がっていないと見てチャンスと思ったのか、獣人が三人大尉に向かって跳びかかる。
だが・・・。
「よせッ!!」
すぐに私は数秒後の状況を理解して警告する。
しかし遅かった。
すぐに大尉の姿が消えて獣人の一人の背後から現れる。
すると獣人達は一斉に力なく倒れる。
全員白目を向いて血の池を作っていた。
それぞれ腹部、左胸、喉に風穴を開けていた。
全部急所、恐らくは即死だ。
「ほう?」
ゾルガは仲間がやられたというのに冷静に相手の強さを見極めるように睨みを効かせる。
「まさかあんた、不意打ちで調子に乗ってるんじゃないでしょうねぇ?」
大尉は鼻を鳴らしながら皮肉を言う。
「俺が見てない所でもグラが世話になったみたいだなぁ。」
そう言いながらゾルガはゆっくりと歩き出す。
まるで散歩でもするかのように臨戦態勢もなく堂々と・・・!
「あーら、保護者自ら報復に出てきちゃった感じ? まぁ誰だって自分の子は可愛いわよねぇ。」
大尉も同じように歩き出す。
「報復ぅ? バッカ言え! んな小せぇ事言わねぇよ!!」
二人が互いに目の前に立つと、ゾルガは豪快に笑い出す。
「じゃあ何?」
大尉が返し言葉で片眉を吊り上げる。
「俺はただ・・・。」
ゾルガは思いっきり拳を振りかぶる。
「お前が強ぇからやるんだよッ!!」
思いっきりその拳をゾルガは大尉に放つ。
大尉も振りかぶって応戦する
「ぶがぁ!?」
かと思ったが違った!
大尉は僅かに瞬間移動してゾルガの横から頬を殴った。
ゾルガは思いっきり吹き飛ばされる。
「馬鹿じゃない? あの状況で真っ向から殴り合う訳ないでしょ? 獣人じゃないんだから・・・。」
「ってぇ・・・! 殴り負けなんてガキの時以来だな・・・!」
ゾルガは起き上がる。
「あんたん所が弱かっただけよ。」
「マジで強ぇな・・・こりゃグラが手も足も出ねぇ訳だぜ。」
そう言うと肩を回し、ゴキゴキと首を鳴らす。
だが此処で予想外の事態が起きた。
「ッ!?」
大尉が何かに反応して後ろに飛び退く。
すると大尉の目の前を高速で何かが通り過ぎる。
それが近くの瓦礫にぶつかると瓦礫は木っ端みじんに砕け散った。
「何てめぇだけで楽しもうとしてやがる。」
割って入ったのは猪のゴ族、族長のゴトマだ。
「どいつもこいつも不意打ちばっか仕掛けて来ちゃって、ちょっとズルいんじゃない?」
「さっき真っ向勝負を拒否した奴がよく言うぜ。」
「ま、否定はしないわよ? 戦場に『卑怯』なんて言葉は幼稚よね?」
「ゴトマ! んだよ!! お前も混ざりてぇなら言えよな!」
ゾルガは水を差されたかのようにゴトマを非難する。
「てめぇの許可なんざ最初からいらねぇ。勝手に手ぇ出させてもらうぜ。」
「ああ、仕留めんのも早いもん勝ちだッ!!」
「上等だッ!!」
ゾルガは両拳をガツンとぶつけ、ゴトマは足を振り上げて強く大地を踏みしめると腰を落として大尉に構える。
「二人同時? ま、いいけど?」
大尉も拳を構えた。
~ラベスタ 研究所~
---十二年前。
「本日より我々医療機器開発チームの仲間になるラベスタ君とケヴィン君だ!」
初出勤早々の朝、研究室の真ん中で室長はそう言うと周りの研究員の人達は私に歓迎の拍手を送る。
「ラベスタです。まだまだ着任したばかりで未熟でみんなの助けが必要だと思いますが、精一杯この医療チームの為に尽力しようと思います! よろしくお願いします!」
そう言って会釈をするとまた拍手が周りから送られた。
「ケヴィンです! この研究所で働かせていただけて光栄です! 彼女に負けないように僕も頑張っていきます! よろしくお願いします!」
そう言うと私の隣で彼は力強く礼をして同じように拍手が送られた。
挨拶にさり気なく私への対抗意識を感じる言い方をしていたのは彼なりに理由がある。
私とケヴィンは学生時代からずっとライバル関係だったのだ。
大学での成績は常に一位と二位を争う状態で院生の間で噂になっていたくらいだ。
だがその戦いにはいずれ決着がつく。
結局卒業した時、私は主席、彼は次席。
つまりは私が勝った訳だ。
このままそれぞれ別の進路に進めば私の勝ち逃げになっていた訳だが私と彼の成績は目まぐるしく、国立研究所の推薦があり、こともあろうか私と彼は同じ部門に配属された。
これは好機だとばかりに彼は私に対してリベンジに燃えている訳だ。
まぁ、私としても彼と競い合うのはいい刺激だし、何より主席で卒業できたのも彼と競い合っていたのが大きな要因だと思うから別に構わない。
けどその関係は意外な形で変わる事になる。
---六年後。
私は仕事が順調にうまく行き、出世して医療チーム主任、彼も主任補佐として現場をそれぞれ任されるようになっていた。
「お疲れ様!」
一日の仕事を終え、同僚や部下に挨拶を交わして研究室の出入り口にカードキーを通すと扉が開いたのでそのまま通って研究所を後にする。
その日は冬で寒く、コートを羽織ったまま白い息を吐きながら駐車場へ行き、車を発進させる。
車のステレオで適当にジャズを流しながらしばらく車を走らせると自宅につく。
二階建ての簡素な家だ。
だがこの家には私の幸せがいっぱい詰まっている。
何故なら・・・。
「ただいま~!」
元気よく扉を開ける。
「遅いぞラベスタ! もうご飯出来てるぞ?」
「ケヴィン! 今日早かったの?」
「ああ、機材のメンテが早めに終わったからちょっと早めに上がらせてもらったんだよ。」
「へー、で? 私の為にわざわざ料理作って待ってたんだ!」
「よせよそんな言い方!」
ケヴィンは照れくさそうに視線を逸らす。
そう、彼とは今では夫婦だ。
院生時代から競い合う中でお互いに意識していたがただ対抗意識だけじゃなく、お互い密かに両想いだった事を研究所で気づいてから関係が進むのにそこまで時間が掛からなかった。
しかもそれだけじゃない。
「おかあさんおかえりー!」
「うわッ!」
元気な足音と共に部屋の奥から走って来るとその声の犯人は私のお腹に飛びついてくる。
「アリス! も~!」
「も~!」
飛びついて来た子供を抱きしめて頬擦りしながら頭をわしゃわしゃ撫でる。
アリス、私とケヴィンの間に生まれた愛おしい我が子だ。
今は四歳になる。
「おいおい、アリス『おかえり』言ったんだぞ? 『ただいま』は?」
「『ただいま』は!?」
ケヴィンが催促するとアリスも真似をする。
「はいはい! ただいま、アリス。」
「んふ!」
私が正面に向き合いながら挨拶を返すとアリスは満足気に笑う。
「ほら料理冷めるぞ! アリスだって待ってたんだ!」
「はいはーい!」
「ハイは一回!」
「いいじゃん、今は『オフモード』なの!」
「まったく都合が良いことで・・・んじゃさっさと手ぇ洗って着替えてこい!」
「は~い!」
そうして三人で食卓を囲み、趣味やアリスが将来何をやりたいかとかの他愛のない話。
その時間が私にとっては幸せだった。
---だがある日。
「慎重にね!」
「分かってる!」
私とケヴィンは試験運用中の医療用カプセル装置の動力炉の修理をしていた。
実験中に度々不備な点が出るのでその度に動力炉がイカれるからだ。
だが動力炉の原料は原子力を用いた取り扱いに細心の注意をしないと爆発が起こる危険なものだ。
レンチやドリルで修理しているケヴィンを見ているとハラハラして仕方がない。
「ラベスタ主任!」
「ん?」
丁度整備室に一人の若い研究員の女性が入って来た。
「何?」
「室長がお呼びです! 話があるとか。」
「話? こんな時になに!」
「さあ?」
「しゃーない行くか。ケヴィン! あんまり突っ走らないでね?」
「はいよ!」
他愛のないやり取りをしてケヴィンと別れて部屋を出る。
---室長室のドアをノックして入る。
「室長、お呼びでしょうか?」
「来たか。」
室長は私の事を待っていたんだろう。
本来やっているであろうデスクワーク用の端末にも手を付けた様子もなく、机に座りながら両肘を机に付けて両手を合わせて顔を支える杖にしていた。
「ご用件は?」
「君を呼んだのは他でもない。ある計画に参加して貰いたくてね。」
「計画・・・?」
「ああ、君の力がどうしてもこの計画に必要なのだ。」
「私の能力?」
「君は医学、薬学の土台の為に生物学を先に修めていたそうだね。」
「はい、医療の為にはまず人体や生物の構造を理解するのが先決だと考えていましたので。」
「そんな君だからこそ私は推薦しようと思うのだ。」
「あの、失礼ですがその計画と言うのは?」
「輝ける人類計画だ。」
「輝ける人類?」
どういう計画なんだろうか?
「我々ロキウスが他国とは違い、魔覚、魔法の技術が乏しい事は知っているな?」
「はい、だからこそ化学や技術力で補っていると・・・。」
「そう、化学力だ。だがそれだけだ。」
「それだけ・・・? 他国にはない技術ですよ?」
「そうだ。我々は他国にない技術を持っている。つまり他国からすれば喉から手が出るほど欲しい物だ。で、あれば奪いに来る者が必ず現れる。」
「確かにそうですが・・・。」
「もし何かの拍子に技術が他国に漏洩し、世界中の国々が我々の技術を手にした時、我々はどうなる?」
「言われてみれば確かに・・・。」
ただでさえ魔覚や魔法に乏しいロキウスだ。
その上で唯一の強みである化学力ですら他国が真似をして優位性を失えば万一攻め入られよう物ならたまった物じゃない。
けど・・・。
「何故外交的な話になるのですか? 我々は研究所ですよ?」
「政府から依頼があったのだ。『魔覚や魔法に対抗しうる』能力者の研究だ。」
「能力者の研究・・・!」
かなり大きな話だ。
「しかし急に能力者なんて・・・一体何をすれば・・・。」
「心配するな。それに関しては研究の目途は立っている。」
「人間の脳は、実はごく一部しか使われていない事は、近年科学で判明している事は知っているな?」
「はい。」
「我々の研究はその『人間の脳』を解明し、能力を開花させる。つまりはそれはロキウスの人間その物の『進化』に他ならない。」
「だから・・・輝ける人類・・・!」
思わず生唾を飲み込む。
「そうだ。人間が進化する時が来たのだ。研究者として、魅力的な話だろう?」
「・・・。」
たしかに研究者として未知の世界に足を踏み入れる事は魅力がある。
だが・・・。
「失礼ですが、参加を辞退させていただきます。」
「!?」
私の返答が予想外だったのだろう。
室長は目を見開いて口を開ける。
「な、何故だ!?」
「それはつまり研究の為に人体実験を重ねた末に生物兵器を作るという事でしょう?」
「む・・・。」
室長はバツが悪そうに口を紡ぐ。
「私は小さい頃に母を亡くし、人の命を救う為に医学と生物学を学びました。それが人の命を弄び、奪う為に使われるのであれば本末転倒です。」
「・・・そうか、君の協力が得られないのは残念だ。だがこのことは
「無論、口外はしません。私は『何もしらない一研究員』として研究に励みます。」
「う、うむ。」
「失礼致します。」
そう言って部屋を出ていく。
---しばらく廊下を歩きながら・・・。
「はぁ・・・。」
私はため息をつく。
あの手の話は断ると後々面倒な事が多い。
今後もこういう勧誘をしつこくやってきそうだし、首を縦に振らないのに腹を立てた連中が嫌がらせをして来るのも容易に想像できる。
でもあの計画に関しては流石に私の研究の主義に反する物だ。
これでいい。
「さぁて!」
自身の両頬を叩いて気持ちを切り替える。
「ケヴィンの奴ちゃんとやってるか・・・ッ!?」
突如、爆発したような轟音が辺りに響く。
「な、何!? まさか・・・ッ!?」
嫌な予感がした瞬間、白衣のポケットに入れていた小型の通信端末が着信音を鳴らす。
すぐに取り出して操作する。
『主任!!』
端末が小さなウィンドウの映像を私の目の前の宙に映し出す。
映像には女の研究員が慌てた顔で私を見ていた。
「どうしたの!?」
『メンテナンスルームで爆発が・・・とにかく来てください!!』
「ッ!!?」
背筋が凍り付くように冷たくなった。
嫌な予感が当たってしまった。
もしかして・・・!
「いや・・・!」
まだそうと決まったわけじゃない!
急いでケヴィンの元へ・・・!
---数分後。
「ケヴィン!! ・・・ッ!?」
部屋の中は瓦礫の山になっていた。
「ケヴィン!! ケヴィンはどこ!?」
近くにいたさっき私を呼んだ研究員の女に聞く。
「ま、まだ中に・・・!」
「ッ!!?」
そんな・・・!
「くっ・・・!」
すぐに瓦礫を一つ一つ掘り進むようにどかせていく。
「主任!?」
「何ぼさっとしてんのッ!! 手伝うか他の人を呼んでッ!!」
「は、はいッ!!」
女はすぐに出ていく。
「ケヴィンッ!! 聞こえてるでしょ!? 返事してッ!!」
必死に瓦礫をどかしながらケヴィンを探すが・・・。
「・・・ッ!!?」
どかした瓦礫から男の腕が現れた。
間違いなくケヴィンの物だ!!
「ケヴィンッ!!」
急いで瓦礫をどかし、腕から先を掘り起こそうとした時だ。
「・・・!」
無かった。
腕は肘から先が無かった。
「ケヴィン・・・ケヴィンッ!!」
必死にケヴィンの名前を呼びながら瓦礫を掘り起こすと・・・。
「あ・・・ぅ・・・あ・・・!」
そこにあったのは・・・。
「主任!! 応援を呼びまし・・・ッ!?」
女が戻ってきて偶然にもその現場を見てしまう。
「うぷ・・・うえぇ、うげぇッ!!」
女は私の目の前の物を見て顔を青くして嘔吐する。
「ケヴィン・・・ケヴィン、いやあああッ!!!」
ケヴィンは血の海の中、見るも無残な姿になっていた。




