#74 疑念
~ウルド ???~
作戦は始まった。
今は深夜の一時程だ。
早起きをしたい俺としては寝ていたい時間だがそんな事は言っていられない。
何故なら。
「突撃ぃッ!!」
一人の男が号令を掛けると銃を持った兵隊たちが一斉に基地に入って来る。
「ガアアアァァァッ!!」
『猟犬』もつれてきている兵隊たち。
そう、B.R.A.I.Nがメロたちを連れ去ったあの時の様に俺達の基地に侵入してきたのだ。
しかもその人数はかなりの軍勢でしかも転移装置を使って大型機械人形のA.Aまで乗り込んできている。
普通に考えて戦って勝てる物じゃない。
だがーーー
ーーー「まず奴らの動きだ。」
例の薄暗い会議室の中でフレッドが説明する。
「自分たちの基地の位置がバレた敵は、恐らくこちらへ一気に総攻撃を仕掛けて来る。」
「悠長に明日まで待ってくれるとは思えないね。」
ルタも合いの手を打つように考えを述べる。
「そうだな。恐らくは『今日の深夜』、みんなが寝静まった頃にでも奇襲をかける形で一気にこちらを潰しにかかるだろう。」
「一気に潰しに掛かるって事は戦力も相当なんじゃないか?」
「ああ、メロを連れて逃げた時の軍隊の数倍はあると考えていい。恐らくはこの基地全体が埋め尽くされる程の規模だろう。」
「うげ。」
俺の質問に答えたフレッドの内容に思わず吐き気がしてくる。
「それ普通にやって勝てないよね!」
「ああ、無理ゲーだな。」
サンとライも合いの手を打ってくる。
「で?」
両手を後頭部に回しながら椅子にもたれかかっていたライは片目をおっ広げてフレッドに視線を向ける。
「どんなチートコードを使ってこの敵さんの奇襲を切り抜けるっての?」
「敵の弱体コマンドとか?」
ライとサンが続けざまに意味不明な用語を使ってフレッドに質問をする。
「ははは! そんな物を使えるならとっくの昔にお世話になってるよ!」
フレッドもその内容は理解できているようでウケながら答える。
正直俺には意味不明な会話だが・・・。
「それにみんな、敵の動きに大きな見落としがある。」
「見落とし?」
「敵は総力でこの基地に襲い掛かって来るって事だ。」
「だからそれってヤバイんじゃ・・・。」
「つまりだ・・・。」
フレッドがこのあと言った事はとんでも無いことだった。
~ビリー 抵抗組織基地~
「さあ!! 一人残らず殺して奪って好き勝手やっちゃうわよ!!」
意気揚々と兵士に指示を出して基地の通路を突き進むが・・・。
「・・・?」
違和感がある。
迎撃に来る兵士はおろか、人の気配すらしない。
「どういうこと?」
「ビリー大尉!!」
一人の一般兵が駆けつけて来る。
「何! どうしたの!?」
「た、大変です!!」
「何が!!」
「基地に敵どころか奴らが保護している一般人すら、一人もいません!!」
「なんですって!?」
基地を放棄したと言うの!?
正気!?
「大尉!! 報告が!!」
「今度は何!!」
「降りて来たエレベーターの近くに・・・!!」
「・・・!?」
兵士の報告を聞いてエレベーターまで引き返す。
「・・・成程ね。」
エレベーターの近くに仕掛けていた転移装置から放たれる光がノイズが掛かった映像の様にブレにブレている。
視線を移すと四足の蜘蛛の様な足で壁にへばり付いた装置があった。
その中心には全方向性の赤い目玉の様なライトが付いており、転移装置を睨みつけるように部屋中のあらゆる方向から転移装置を睨むように照らしていた。
「座標妨害装置・・・手の込んだ事するじゃない。」
転移装置の座標を妨害する妨害装置だ。
こいつにジャミングを掛けられた転移装置は行き先が滅茶苦茶になって何処に飛ばされるか分からなくなる。
下手をすれば地中や壁の中に転移されて生き埋めもあるため、今転移装置を使うのは非常に危険な状態だ。
恐らくはあたしたちが転移装置を仕掛けた時に全自動式で移動するこいつらが装置の発動を察知して近づいてジャミングして来たわけね?
数は二十、いや、三十くらいかしら?
全部壊すには時間がちょっと掛かるわね。
ホント、やられたわ。
「やってくれるじゃない、抵抗組織!!」
~ウルド ロキウス市街地~
俺達は大型の搬送車やホバーバイク、A.A、移動手段と言える物すべてを使って全力で市街地の道路を走っている。
当然市民は俺達が敵から逃げているなんて事情も知らないわけだから悲鳴を上げたりぶつかりそうになった車に乗ってる奴らに怒鳴られたりと市街地はわずかながら阿鼻叫喚の状態だ。
『装置の作動を確認、な? 私の読み通りだったろ? 今頃奴らは虫かごに閉じ込められた虫状態だ。』
車の通信機からフレッドの声が聞こえる。
俺達とは別の車に乗ってるからだ。
「虫って何かな? チョウチョ? それともカブトムシかな?」
俺達が乗ってる車の隣でホバーバイクを走らせていたサンが相変わらずアホな事を言っている。
「決まってんだろ! ゴキブリ、ゲジゲジ、ムカデ、その他諸々汚い虫全般だぜあんな奴ら。」
「うぷ・・・!」
運転席のライが皮肉気味に冗談を言うとティルが顔を青くして吐きそうな顔で口を押さえる。
多分だが虫かごにそれらがうじゃうじゃいるのを想像したんだろう。
・・・にしてもだ。
「ったく、『拠点を完全放置』とか正気の沙汰じゃねぇ。」
完全に捨て身の戦法だ。
これで行った先で負けようものなら逃げる先もない。
「いいんだよ、もう戦う準備が出来てんだ。」
「そうだね、戦力を充実させる為に兵器の強奪、兵士の勧誘による人員確保。水面下で戦力は充分に蓄えて来たけど奴らの基地の場所が分からなかったから決着を付けられなかった。」
「ああ、それにこれぐらいの覚悟無しに潰せる程B.R.A.I.Nも甘くない。」
「・・・。」
こいつらも今日みたいな日を夢見て今までいろいろやって来たんだな。
それはいいんだけど・・・。
「な~んか、完全にオマケ扱いじゃないか? 俺らと獣人って。」
「あ? そうなのか?」
俺が愚痴を言うとサンの後ろに捕まるように乗っているグラがむっとした顔で反応する。
「そんなことないよ! 戦力はいくらあっても困らないし、そもそもメロが捕まってから戻って来なかったら奴らの基地の位置は分からなかったんだよ?」
「むふぅ!」
ディグが弁解するとティルの隣にいたメロは自らの手柄に鼻を鳴らしてそのまだ成長しきってない胸をこれでもかと張っている。
だが・・・。
「あだ!!」
横から俺はメロの頭に右手で結構強めにチョップする。
「師匠!! なんでですか!!」
「あほ! お前捕まってただけだろ! しかも聞いた話だと途中まで助けられてたらしいじゃねぇか!」
「!!」
「・・・あ。」
やべ。
「暗殺者さん・・・。」
途端に顔をしかめてメロは俯く。
「メロさん・・・。」
ティルが慰めるように背中を摩る。
「ウルドっち・・・。」
サンが俺を見ながら片手を顔の横まで上げながら首を軽く横に振る。
『やっちまいましたな~』ってリアクションだ。
分かってるよ、『地雷踏み抜いた』ってな!!
あーもう、自分のケツは自分で拭くっての!!
「だ、大丈夫だろ!! B.R.A.I.Nの基地からお前連れて出口の近くまで逃げられる奴だぞ!? 簡単に捕まる訳ないだろ!! 信じてやれよ!!」
「そ、そうですよね!! 暗殺者さんも助けに来るの待ってるのです!! 今こそ恩返しの時なのです!!」
「ヒュ~♪」
メロがなんとか立ち直って顔を上げるとライが俺を見ながら『やるぅ~』とばかりに口笛を鳴らす。
『急場しのぎの割に良い事いうじゃんお兄ちゃん♪』
おちょくるように言ってくるルタの声が聞こえる。
「うるせッ!! 茶化す所じゃねぇだろこの状況!!」
俺はそれに車に付けられた通信機に向かって叫ぶ。
ルタはフレッドの車に乗っているからだ。
「・・・。」
にしても妙だ。
なんであいつは・・・。
~ルタ ロキウス市街地~
そう、彼の傍にいるのが任務上最も重要。
彼と寄り添い、感応器の力を少しでも強めることは『奴ら』から彼を守る事でもあり、それ以外の戦闘においてもメリットのある事だ。
だがそれを差し置いてでも危惧すべき事がある。
「ははは、相変わらずあいつ等は賑やかと言うか、やかましいと言うか。」
フレッドは笑いながら通信機を操作して会話の機能を切る。
「・・・。」
そう、フレッドだ。
---作戦会議後。
少し時間が空き、敵の襲撃から少し猶予がある事から各々、移動や戦闘の準備をする中。
「フレッドさん!」
「ん?」
『ルタ』の顔で彼の後ろから声をかける。
「さっきの会議で気になる事があってさ!」
「何かな?」
「あ、ちょっと違うかな? フレッドさんがすごいな~って思う事があって!」
「ん? 急にどうした?」
「いやね? 敵の行動の予想とか、作戦が思い切ってるな~って! 普通たった一つの拠点を敵に空け渡すなんて敵も考えないし、敵の間抜けな顔が浮かんでわくわくしちゃうな~って!!」
「ははっ、あ~、うん。その・・・。」
「フレッドさん?」
フレッドは罰が悪そうに頭を掻きはじめる。
「あんまり作戦の後に『上手くいく~』って言うんじゃないよ? 君は知らないかもしれないけど、この国じゃそういう前フリは『死亡フラグ』って言ってあんまり縁起よくないんだぞ?」
「そうなの?」
「そうなの、まぁ要するに『どんなに綿密に備えをしても油断するな』って事だな。」
「ロキウスにも迷信ってあるんだね!」
「まぁ、これはそういう宗教的な物とはちょっと違うかな? 物語を書く物書きがよくやる『お約束展開』って奴だ。」
「小説とかの事を現実に信じてるって事?」
「『油断してる奴ほどすぐ死ぬ』。それは現実的にも言える事だからね。」
「へぇ~! フレッドさんって物知りだね!」
わざとらしく感心する私にフレッドは片目を細める。
「やけに今日はべた褒めするね、何か企んでるのかい?」
「いや別に企んでなんかないよ? ただちょっと疑問があるなって思っただけ!」
「疑問?」
「フレッドさんは優秀で、大統領の護衛も任されてたよね!」
「ああ、そうだな。こちらの活動の傍ら、政府の動きを見るためにも半ばスパイという形でやってるね。」
「でもそれって上に信頼されなきゃできないよね! だからやっぱり凄いなって思う!」
「・・・何が言いたいんだ?」
フレッドから表情が消える。
「いやね? そんな優秀で信頼の厚い人が・・・。」
笑みを崩さないまま、薄目でフレッドを見る。
「なんで今まで官邸の中にある転移ゲートに気付かなかったのかな~って。」
「・・・ふむ、なるほど。」
フレッドは口元に手を当てる。
「つまり私は今疑われているわけだ。敵のスパイをするという形で本当は敵と繋がっている『二重スパイ』じゃないかと。」
いつもの落ち着いた笑みに戻るフレッド。
「そう思われるなら申し訳ないけど♪」
「ふむ、確かに君の疑念もごもっともだ。それじゃあ疑いを晴らすためにも言い訳をしないとね。」
続けて落ち着き払って私の言葉を捌く。
全くもって動揺はしていない。
「まず結論から言うと官邸の開かずの間は既に何度か手を出していた。」
「ただ警備が厳重でディグに頼んでなんとかセキュリティに攻撃を仕掛けたが、うまくいかないどころかこちらのハッキング元まで特定されかけた。そのことについてはあとにでもディグに確認を取ればすぐ分かる。それにやつらの基地に関しては怪しい場所は他にもあった。水面下で動いていたあの時はそんな危険性の高い場所を調査するよりは他の場所を調査するのが確実だったからね。まあ、怠慢といえば言い訳はできないが・・・。」
そう言って申し訳なさそうに人差し指で頬を掻く。
「なるほどね。」
「信じるかどうかは君に任せるよ。君はどうやらライよりも頭が回るみたいだ。内通者が身内にいないか疑いの目を向ける者も、こういうの組織には必要だと思うからね! まぁ・・・。」
そう言ってフレッドは視線を逸らす。
「こんな最終局面で君みたいな仲間が出来るのも皮肉だけどね。」
「・・・信じるよ。」
「そうかい? しかしどうして?」
私の返答が予想外だったようでフレッドは目を丸めて私を見る。
「だってフレッドさんはわざわざこの組織を作ったんでしょ? そんな人が敵と通じてたとしたら、『一体何がしたいの~?』って感じだし、なんだかんだでライ達もあなたのことを信用してるみたいだからね!」
「ふっ・・・。」
『まいった』とばかりにフレッドは仕方なさそうに鼻でため息を吐く。
「そう言ってもらえると助かるよ。」
そういってフレッドは私の後ろを通り過ぎようと歩を進める。
「ありがとう、猫。」
「!!」
耳元でそう囁かれ、目を見開いた私を嘲笑うように見たあと、フレッドはゆっくり歩いて去っていった。
ーーー「・・・。」
車の外の夜の風景に目もくれずフレッドを見る。
勿論あの時の『信じる』の言葉は嘘だ。
この男はちっとも信用できない。
だがあの時の私が自分で言ったようにこの男の目的が見えないのも事実だ。
尻尾も掴めない状態で迂闊に仕掛けようものなら、私をウルド共々裏切り者としてつるし上げられ、同士討ちでもあればそれこそこの男の思う壺だろう。
それと仮にこの男が危険だったとして、ウルドの腕輪の中にいるのは得策とは言えない。
それは例えるなら、命を狙われた人間が小屋に慌てて逃げ込んで毛布にくるまってガタガタと怯えているのと一緒だ。
みっともないと言うのもあるが、それはあまりに愚かな策でもある。
四方八方、どこから攻撃が来るか分からない状態に自らを追い込むからだ。
であれば危険であってもあえて近づき視界から離さないようにするのがむしろ安全と言える。
無論この男も私がこうやって監視しているのはお見通しだろう。
だがそれでいい。
だからこそあの時、敢えて私はゲートのことについて問い詰めたのだ。
私が疑いをかけていることにこの男が気づけばこの男の視線は私の方に向く。
そうすれば何を企んでいようが私と睨み合っている限り、ウルド達には迂闊に仕掛ける事はできないだろう。
『距離三キロ!! もうすぐ大統領官邸だ!!』
通信機からディグの声が聞こえる。
「よしみんな! 最後の戦いだ! 派手に暴れよう!!」
『おっしゃ!!』
『狙い撃っちゃうぞぉ!!』
『僕も全力でサポートする!』
『が、頑張ります!!』
『まぁ、うん。とりあえず善処する。』
『ノリ悪いぞウルドぉ、オラァ!!』
『うるせぇ!! ちゃんと前見ろ!!』
フレッドが音頭を取って通信機の向こうのメンバーが気合を入れている中、ノリの悪いウルドにライがツッコミつつ、ウルドがツッコミ返すという気の抜けるやり取りが聞こえる。
そんなやり取りを聞いている間に官邸が目視できるところまで来ていた。
そう。
フレッドが言うようにB.R.A.I.Nとの最後の戦いが今、始まる。




