#73 猫の本心
~ライ 抵抗組織基地~
あれから俺達はメロを全力で死守しながら軍単位の追手から死に物狂いで逃げ、なんとか追手を振り切って戻って来た。
メロの奪還は大きな収穫だった。
あいつが官邸の開かずの間から出て来たと言う報告で敵の基地の位置は判明した。
今まで水面下で仲間を集めたり敵の情報を探ったりしていたがいよいよ決着をつける時がきた。
「―――以上で作戦の説明を終了する。」
フレッドが音頭を取ると奴らとの戦いのための作戦会議は解散し、皆それぞれ部屋を出る。
「ん?」
丁度部屋を出た時、脇に居た人影に気づく。
「ティル。どうした?」
「・・・。」
ティルは少し暗い顔をしていた。
「なんでそんな顔してんだよ。友達戻って来たんだろうが! 嬉しくねぇのか?」
「・・・。」
ティルは黙ってこくんと頷く。
だがその顔は全然晴れやかじゃない。
「嬉しい・・・んですけど・・・。」
「ん?」
引っ掛かる言い方だ。
「なんか・・・申し訳なくて・・・。」
「ああ。」
なんとなく察した。
「私はメロさんが戻って来て良かったです。けど他の人達は戻って来ませんでした。今も『あっち側』に・・・。」
「・・・そうだな。」
「スタッフの人達の中には私もお世話になってる人もいました。獣人の人達だって一緒に来た人達の中に仲のいい人たちがいたはずです。そんな人たちの横で私だけメロさんが戻ってきたことを喜んだら・・・。」
「気にすんな・・・って言ってもお前は気にするんだよなぁ?」
顔に笑いが出つつ呆れでため息が僅かに出る。
「でもな?」
「!」
ティルの頭に手を置く。
「それでもメロはお前に会いたかったと思うぞ?」
「・・・!」
ティルは目を見開くがすぐに顔を伏せる。
「お前が戻らない奴らを嘆く奴らの気持ちを汲むのもいい。けどメロの気持ちも汲んでやれ。落ち込むのもいいけど。」
「あぅっ!?」
ティルの頭に置いた手を放し、その手で軽くティルの額にデコピンする。
「同じくらい笑え。」
「・・・。」
ティルは額を押さえ少し黙ったまま俺を見るが表情が段々笑顔になる。
「・・・ありがとう、兄さん。」
微笑みながらティルは俺に言った。
~マルク大統領 官邸~
マズイ、非常にマズイ!
奴らを逃がしてしまった。
追跡に軍にも通報してAAが出動したのに奴らも同じようにAAを消しかけてきてまんまと足止めを喰らってしまった。
しかも戦車で追跡を掛けても巨大な火の玉や爆弾のような雷の弾丸によって次々に鎮圧され、追跡部隊は全滅は免れたものの、ものの見事に足を潰されて奴らを見失ってしまった。
B.R.A.I.Nとの繋がりが公になれば失脚所の話ではない!
だが公に出来る者だろうか?
奴らとて公には行動出来ないテロ組織だ。
いや、報道機関に映像を送り込めばいくらでも声明文を公表することも可能だ。
マズイ、いよいよマズイ・・・。
いっそのこと国外へ逃亡するか?
いや、こんな所で引き下がってたまるか!
様々な苦労の果てになんとかこの地位まで着いたのだ!!
それをあんなテロ組織如きに全て奪われてたまるか!!
考えろ、何か打開策があるはずだ・・・そうだ!!
あいつに頼めば・・・!
「おやおや、どういたしました?」
「!!」
後ろから声がする。
「おお、丁度呼ぼうと思ったのだ!! 緊急事態だ!!」
「ええ、緊急事態ですね。」
「分かってくれるか!! 今こそお前の知恵が必要だ!!」
彼は優秀な人材だ。
これまで政治でも命を狙われるようなことがあっても彼のおかげで窮地を切り抜けられた。
私の優秀な右腕、いや、それ以上に心臓の一部と言っても良い程の人材だ。
「この国の危機だ、私が失脚すればこの国の指導はもはや・・・。」
「ええ。『この国の危機』です。」
「あ、ああ・・・。」
さっきからなんだこいつは?
まるでオウム返しの様に言葉を返してくる。
「なんだ、こんな時に私を馬鹿にしているのか!?」
「ええ、馬鹿にしてます。」
「ッ!!?」
こいつ・・・!
「今までお前には助けられた。だがその態度は何様だ! 私はこの国の・・・・・・・・・?」
銃の音が聞こえた。
何が起こったのかと思って視線を落とすと・・・。
「お・・・まえ・・・何を・・・!?」
私のスーツの腹部から染み出るように血がにじみ出て来る。
奴の手には既に拳銃が握られており、既に撃ったことを教えるように銃口から煙が一筋上がっていた。
「貴方は無能だ。」
「くっ・・・貴様・・・!」
余りの激痛に立つことも危うくなり、片膝をつく。
「そのせいで、この国の危機です。」
「ぐわああぁッ!!」
さらに数発、胸部、喉元など、急所という急所を容赦なく銃で撃ち抜かれる。
「安心してください。政権交代はありません。」
「・・・!」
もはや言葉すら出せない・・・!
けど意味が分からない・・・。
何を言ってるんだ・・・?
「貴方がこの国の最後の大統領です。」
「・・・?」
何が・・・言いたい・・・!
「この国はもう滅びるんですから。」
「・・・。」
それがこの世で私が最後に聞いた言葉だった。
~ルタ 抵抗組織基地 ビル前~
「とんだ失態だな。」
「・・・。」
羽休めをするかのように瓦礫に止まったコルボーは静かな声で私を罵倒していた。
「・・・。」
私はそれに対して返す言葉が見つからない。
彼との関係を自ら悪化させたのだ。
任務においてこれほどの失態はない。
それだけじゃない。
あのまま彼を制止していれば折角の機会をふいにする所だった。
あれから状況を聞いたところ、彼と私が大統領の部下たちと交戦している音を聞きつけてライ達やグラ達も駆けつけたという。
つまり彼を止めていたらケディとメロを殺され、B.R.A.I.Nの基地探しは振り出しに戻っていたのだ。
「まぁ、今更あれこれ言うつもりは無い。今からでも・・・。」
「コルボー。」
「なんだ?」
「やはり私には向いていないかもしれません、今回の任務は・・・。」
「・・・。」
コルボーは表情の分かりにくい鴉の顔でも分かりやすい程に目を細めて黙り込む。
「私は
「今はこの話はやめろ。私は行くぞ。」
「・・・。」
そう言うとコルボーは急ぐように飛び去って行った。
『何故?』と言う疑問は浮かばない。
何故なら・・・。
「ルタ! 此処に居たのか!」
「あ、お兄・・・。」
いつもの呼び方で呼ぼうとしたが躊躇った。
「? なんだよ。」
その事に気づいて彼は片目を細めて私に問いかける。
「いつもの『お兄ちゃ~ん』はどうした?」
いつもの皮肉気味な言い方で彼は重ねて問いかける。
「・・・そう呼んで良いのかな?」
「・・・はぁ。」
私がいう事を理解しているようで彼は頭を掻きながらため息を吐く。
「俺も言い過ぎたよ。あの時は切羽詰まってたしな。」
「折れるの早すぎじゃない?」
「なんだよ。」
「だって私・・・さ・・・。」
「・・・。」
私が話を蒸し返すと彼は黙り込む。
恐らく彼なりに思うところはあったのだろう。
「・・・。」
「・・・。」
数秒間嫌な沈黙が続く。
「・・・お前さ。」
「何?」
沈黙を破ったのは彼だ。
「昔、何かあったのか?」
「・・・。」
彼の問いに私は口を噤む。
「いや、いい。考えてみりゃ他人の妹に化けるとかまともな人生生きてないよな?」
「その言い方は酷いと思うけど。」
「あ、うん、今のはホントすまん。」
「・・・。」
彼なりに気を使っているんだろう。
その様子を見て黙ったまま笑って見せる。
「そっちもまともな人生じゃないと思うけど?」
「うるせぇ、お互い様だろ。」
「あはは!」
ムキになる彼をからかうように笑う。
「その・・・なんだ・・・。」
「何?」
「いつもの呼び方が無理なら呼びたいように呼べよ。なんつーか、変に気を使われ過ぎるとさ、こっちも疲れるからさ。」
「・・・分かった。『ウルド』。」
「!」
不意だったのか私の呼び方に彼は目を丸くしてこっちを見る。
「どうしたの?」
「いや・・・・・・は、初めてだから。お前にその名前で呼ばれるの。」
結構動揺が大きかったようで彼は目を逸らす。
「二人の時だけね? 周りの前で急に呼び方変わったら変な目で見られるからね!」
「あ、ああ・・・。」
「ウルド?」
「な、なんだよ!」
「ふふ、ウールード♪」
呼ばれ慣れてないせいで動揺する彼をからかう。
「う、うるせぇ! とにかく、あの件がお互い整理着いたんだから、俺は行くからな!」
そう言って彼は踵を返すが・・・。
「ふふ♪」
飛びつくように彼に抱き着く。
「な!? なんだよ!!」
彼は顔を赤くして私に視線を向けて罵声を浴びせる。
「ウルド。」
「ッ!!」
私が囁くように言うと彼の顔は余計に赤くなる。
「んふふ、ウ~ル~ド♪」
「やめろッ!! 放せコラッ!!」
「やだよ~ウルド♪」
抱き着く私を引き剥がそうともがき、私はそれをがっちり掴んで離さず、彼が嫌がる呼び方をしながら笑う。
「あはは♪」
無邪気に、子供の様に笑う。
ムキになって怒る彼とそれをからかいながら笑う私。
何処にでもある兄妹、友達、恋人がやるようなやり取りだ。
私の笑顔が偽りだと言うことを覗いてはだが。
---数か月前。
「嵌めて見ろ。」
「!」
小さな粗末な木で作られたログハウスの様な家。
隠れ家の中でコルボーは部屋の隅の棚の上に止まったまま私に言った。
魔王が復活しようとしている事は分かっていた。
早急に手を打つために用意したのは例の腕輪、『親愛なる絆の証』。
この腕輪の適性を持つ者を探す必要があった。
『家族、またはそれに等しいと言える者』、『恋人として愛し合う相手』。
彼の事情は知っている。
そんな物は彼にはいない。
彼は魔王との戦いで全て失った。
つまりはこの腕輪に適性がある者などいる筈がない。
「物は試しだ。一応な。」
「・・・成程。」
可能性はゼロじゃない。
顔見知り程度に彼を知っている者でも適正者の可能性はある。
幸い私は彼のことを以前から知っている。
よって私もその顔見知り程度の枠内には入るのだ。
私は腕輪を嵌める。
適性者かどうか見極める方法は簡単だ。
腕輪を嵌め、対象となる相手に関する記憶を頭に浮かべる。
ただそれだけだ。
適性があればその時だけ腕輪は反応する。
「・・・。」
腕輪に手を添えながら彼に関する記憶を思い出す。
『あっち行け。』
彼がその時に私に言った言葉が児玉する。
『こいつを倒せなきゃあいつは俺を認めない。』 『おう、ありがとさん。』
『こいつに頼んで大丈夫なのか?』 『あんたの境遇には同情するつもりないけどさ・・・。』
「・・・。」
彼に関することを思い出すだけ思い出すが腕輪は一向に反応しない。
やはりだ。
私程度の接点じゃ腕輪が反応なんてするわけがない。
何より私は・・・。
「!」
腕輪を外そうとした時不意にジャラリと軽い金属の束が落ちるような音がした。
音のしたところを見るとそこには銀色の鳩のペンダントがあった。
ボロボロで所々メッキが剥がれており、とてもアクセサリーとして使える代物ではない。
大して特別なものではない。
小さい頃に捨てられていたものを拾った。
ただそれだけのものだ。
だがそれを拾った時だ。
「・・・!」
瞬間的にとある光景が脳裏を過った。
『大事なものなんだろう?』
彼の事を思い出す。
それは、炎の中崩れかけた屋敷の中でペンダントを差し出してくる彼の姿だった。
「ッ!!?」
その記憶が脳裏をよぎった時、腕輪が光りだした。
一瞬何かが爆発したかのような眩しい光を放った後にすぐに光は治まったが腕輪は蛍の光のように淡い光を放っていた。
「『適性者』・・・どうやら探す手間は省けたようだな。」
棚の上のコルボーは鼻で笑うように、皮肉を吐き捨てて来た。
任務の遂行に大きな前進これは喜ぶべきことなのだろう。
「・・・!」
腕輪を見ながらわなわなと私は震える。
私にはこの腕輪の光が忌々しかったからだ。
あろうことか、『あの光景』を思い出して腕輪が反応するなんて・・・!
---「話せっつーの!!」
「絶対離さない!! 二度と離さないわよウルドぉ!!」
「ベタな恋人みたいな台詞を吐くんじゃねえ!!」
彼は知らない。
「あはは♪」
仲良さげに彼をからかって笑っている私の顔が『全て仮面』なこと。
『お前の兄だろうがなんだろうがなってやる!! だから簡単に死のうとすんじゃねぇ!!』
初対面の私の命を案じて言ったあの言葉。
他人を突き放す癖に目の前の助けられそうな相手を放って置けないこの人。
『何もしなくていいッ! 魔王にしようとしてる奴がいるならぶっ潰す! 俺を利用しようとか考えるクソな王様共にはベロ出して言ってやるッ!! 『誰が付き従うか』ってな!!』
彼がやっとのことで手に入れた平穏な日常を引っ掻き回した私を庇って全て背負おうとしたこの人。
『お前に死なれるくらいなら・・・クソッタレの英雄にだって舞い戻ってやるッ!!』
洞窟の中、凶悪な魔物に囲まれて正体を隠しながら戦ったあの時、メロを見捨てていれば自分の正体を闇に葬れたのにそれが出来なかったこの人。
この人は自分で気づいていないが私には分かる。
『他人の為にしか生きられない人間』だ。
「いい加減離れろッ!!」
「いいじゃん!! 兄妹なんだし♪」
「兄妹の範疇超えてんだよッ!!」
「あれあれ~? もしかして照れてる~?」
「照れてねぇッ!!」
楽しそうな顔をして彼をからかっているが彼の顔を見ているだけで本当は苛々する。
『どんな地獄を見せて殺してやろうか』と思えるほどに・・・。
そう、私はこの男が嫌いだ。




