#72 我らがレジスタンス
~ウルド ロキウス官邸~
「・・・なんだ貴様は?」
大統領は眉をひそめる。
「あれ、忘れちゃった?」
「貴様の様な者など知らん、殺れ。」
大統領が指をぱちんと鳴らして合図するとスーツの男たちが一斉に襲い掛かる。
男の一人が上段蹴りを放つが俺はすぐに屈んで回避し、難なく左手で足を掴み、もう片方の足に足払いを掛ける。
「ぐっ!!」
男は転ぶがその程度で済ませない。
「おらよっ!!」
掴んだ足をそのまま押し込み、無理矢理片足を上に上げる形に折り曲げる。
「ぎゃあああぁッ!!」
股の間からグキッと嫌な音がすると男は嬌声を上げて転げまわる。
「どうしたぁ?」
仕掛けて来ないので挑発しながらゆらりと俺が立ち上がると、別の男が殴りかかる。
「シッ! シッ!」
独特の掛け声と共に左ジャブを二発放つが俺は身体を左右に振って両方回避する。
しかしそれが囮だとばかりに俺のどてっ腹に向かってボディブローを放つが攻撃テンポが分かりやすく、右拳が低めだったため難なく見切って掴んで止める。
「へ。」
「くっ!」
俺がにやりと笑って掴んだ手に力を込めると何かをされると思った男は慌てて拳を引っ込めるがそれこそが愚かだった。
拳を引っ込めた刹那、ボディブローを引っ込めたその態勢は右の顔面ががら空きで攻撃も防御も出来ない隙だらけの状態だ。
「バァカ。」
「ぶがぁッ!!」
その隙を逃さず俺は容赦ない左ストレートをお見舞いして男を殴り飛ばす。
「纏めてかかって来ないのか?」
俺がくいっと指で挑発すると男たちは四方八方から一斉に襲い掛かる。
だが俺は最初に仕掛けて来た前方の男の右ストレートの拳を掴んでそのまま後方の男へ投げ飛ばす。
包囲の陣形が崩れて攻撃が緩んだ隙に跳び上がって右の男の顔面へ跳び蹴りをかましてその勢いで反対方向へ跳んで落下の勢いを利用して左の男の顔面を右ストレートで殴り飛ばす。
「!」
丁度後ろにいたとこが俺を捕まえて羽交い絞めにし、前方の男が殴りかかるが俺は跳ぶように足を蹴り上げてそのまま前へ突き出すような蹴りで男を蹴り飛ばす。
そしてその蹴った反動を利用して羽交い絞めにした後ろの男のどてっ腹を蹴る。
「ぐおぁッ!!」
男の手が離れ、宙に浮いた状態で余裕をかまして一回転して着地する。
「くっ!」
蹴られた男と別の二人の男が三方向から俺を囲むと拳を構えたまま俺を中心に円を描くように走り出す。
だがその速度は段々速くなり、男たちの残像が俺の周りを取り囲む。
「へっ。」
けど俺は動じない。
充分に攪乱したと見るや男たちは前方と後方斜め二方向から俺に殴りかかるが・・・。
「上昇ッ!!」
俺は振り向いて右手で男の頭を掴む。
「使いッ!!」
左手でもう一人の男の頭も掴む。
「なんざッ!!」
掴んだ二人の男の頭をそのまま互いにぶつけてそのままその頭を土台にして足を後ろから蹴り上げて逆立ち状態になる。
「こちとら見飽きてんだよッ!!」
そのまま右膝を折り曲げて身体を倒し、前方にいた男の脳天に容赦なく膝蹴りを食らわせる。
「ぐ・・・。」
「ぅぐ・・・。」
「がはぁ・・・!」
男たちは同時に地面に寝そべる。
「くっ!」
「うぅ・・・!」
自分たちのあらゆる手が通じないと見るや男たちは攻撃の手が止まって怯む。
「さあてそろそろ・・・。」
頃合いを見て俺は動き出す。
勢いよく走って男たちの間を猫かイタチのようにすり抜けていくと目の前の目標を捉える。
メロを押さえた男だ。
「くっ!」
男はメロの拘束を解いて男は殴りかかる。
「うあぁッ!!」
さっきの俺の戦いを見て動じているのか、やぶれかぶれの大ぶりの右拳だ。
それ俺は掴み、掴んだ拳を捻りながら左手で頭を掴んで右に押し、両足を払って左に蹴り上げる。
すると男の体は半回転し、頭と足の位置が逆の、真っ逆さまの状態になる。
「これは・・・。」
その状態から俺は容赦なく頭を地面に叩きつける。
男は後頭部から地面に叩きつけられる。
「ぎゃあぁぁッ!!」
これだけでも相当痛いが・・・。」
「汚い手で連れに触った礼だ。」
俺は既に右拳を固めていた。
それを容赦なく突き落とす。
俺が拳を話すと、男の顔は中心に俺の拳のクレーターを残しながら白目を向いていた。
「師匠・・・!」
拘束が解け、起き上がったメロはパァっと目を輝かせる。
「メロ。」
それに俺は笑顔で肩に手を乗せて応える・・・だが。
「お前あとで説教な?」
「うぐッ!」
途端にメロの表情は真っ青になった。
「動くな!!」
声のする方を向くとケディを拘束している男がいた。
「動けばこいつを・・・!」「炎」
「私はいい!! お前たちだけでも・・・!」「杖」
「黙れッ!!」「放出。」
「「・・・え?」」
男が脅しの文言を言ってケディがそれに抵抗している間に詠唱が聞こえる。
「炎玉。」
ルタの声が聞こえたかと思うと男は炎の球体を横殴りに受ける。
「ぎゃあああぁぁ!! あち、熱いッ!! た、たすけ、うああああぁぁ!!」
顔に炎を巻き上げながら男はのたうちまわる。
その拍子に拘束が解けたのでケディは離れた。
「くそッ!! あいつをとらえろッ!!」
新たな人質を作るため男たちはルタに襲いかかる。
「はぁ。」
ルタがため息をついている間に男の一人の手が迫り来る男がルタを掴んだと思われた瞬間。
ルタはいつの間にか男の後ろにいた。
しかも男は糸が切れた人形のように力なく地面に倒れる。
「プロのくせに相手の力量も分からないの?」
ルタは呆れたような顔で俺たちの方へまるで何てことのない道を散歩するかのようにゆっくり歩いてくる。
「ぐぬぅッ!!」
「このぉッ!!」
嘗められていると思ったのか、ムキになった男たちは左右から襲いかかる。
だがルタは体を傾け、捻るなどして男たちの掴む手、殴る拳の間を器用にすり抜けていく。
「!」
その瞬間ルタの両手が一瞬だけ少し動いたかと思ったら周りの男達は一斉に力なく倒れる。
何をやったかはさっぱり分からないが、おそらくは最小限の動きで回避と反撃を同時に行なっているんだろう。
グラ達の村でも見たがこの身のこなし、今まで触れもせず考えもしなかったがやっぱりこいつは・・・。
ルタが俺達の所に着く頃にはケディとメロが武器を拾い、それぞれで構える。
すると男達は完全に戦意を失い構えつつもじりじりと後退する。
「くっ! な、何故だ!! こいつらは戦闘に関してはこの国の中でも選りすぐりのエリート達ばかりだぞ!? 一人でも異国の冒険者数人だろうが簡単に太刀打ちできんはずなのに・・・!」
大統領も流石にこの状況にはたじろぐ。
「お前は一体何者だッ!!」
「まだ思い出せない? 『チキン野郎』。」
「ッ!!?」
その言葉に大統領はハッとする。
俺が言ったこの呼び名はセレスが魔王討伐の協力要請でこいつが技術漏洩だとか小難しいこと言いながら散々ごねてた時に言ってやった罵声だ。
「き、貴様は・・・あの時聖女と一緒にいた・・・!」
「ようやく思い出したみたいだな。」
「では貴様は・・・!!」
「お互い自己紹介の必要はないみたいだな。」
「貴様!! 一体、今度は何の目的でこの国に来たッ!!」
「お前が必死に殺そうとしたメロが俺の連れっていう時点で色々と察しがつくと思うんだけど?」
「・・・!」
俺の言葉で大統領はゾッとしたように顔を真っ青にする。
「残念だよ。嫌々とはいえ、昔協力してくれたあんたとこんな形で敵同士になるなんてな。」
皮肉を吐きつつも俺は大統領を睨みつける。
当然だ。
俺の仲間に手を出した罪は例え女神が慈悲をくれようと俺は許さない。
「・・・。」
大統領固まったまま動かない。
「どうした? 久々の再会で言葉も出ないか?」
「殺せ。」
大統領が命令すると周りの男達は懐から銃を出し、一斉に構えた。
「殺せッ!! こいつらを一人も逃すなッ!! ここで殺せッ!!」
慌てるように指示を出して叫ぶ大統領の言葉に男たちは一斉に発砲 しようとした瞬間・・・。
「ぐあぁッ!!」
「何!?」
急に男の一人が倒れる。
「そ、狙撃だ!!」
一瞬何が起こったのざわめくがその辺は流石プロの集団と言うべきか、すぐに察したようだ。
「か~ら~の~?」
「!!」
狙撃を警戒し、身構えた男たちの中心に突然降ってくるように誰かが降りて来た。
「爆弾魔だ。」
悪魔のような笑みで舌を出したそいつは翼を広げるように上着を御開帳させると何個もの手榴弾が花火の様に散りばめられる。
「「「「うわああああぁぁぁぁ!!」」」」
余りの恐怖に男たちは虫の様に散っていくと同時にその場でド派手な爆発が巻き起こる。
「はははは!! ・・・あーあ、やっちまった。この服結構気に入ってんだけどなぁ。」
爆弾魔は笑いながら爆発に巻き込まれてボロボロになった自分の服の現状に嘆く。
だが普通はこんなのおかしい。
こんな爆発の中心に居たら本人の身体は傷どころか五体がバラバラになってもおかしくないのに全くの無傷だ。
「ライ!!」
「だけじゃねぇよ、ほれ!」
「!!」
ライが涼し気な顔で指だけで上を指さすとそこにはさっきの白髪の子がいた。
「ティル!!」
メロがその子に向かって名前を叫ぶ。
「メロさんは私が・・・!」
ティルはつぶやくように両手を前に翳す。
すると・・・。
「な、なんだ!!?」
「うわ、うわああぁッ!!」
男たちは宙に浮いたかと思うと一点に吸い寄せられるように集まっていく。
「ぐわぁぁッ!!」
「痛てええええぇッ!!」
そしてそのまま磁石のようにくっついていき、餅のようにガッチガチに固められた男たちは巨大な球体状の塊になってしまう。
「守るッ!!」
「う、うわあああぁぁッ!!」
ティルは翳した手を下に向けると男たちの球体はその状態のまま落ち、まるでボールが転がるようにごろごろと転がっていき、他の男たちを巻き込んでいった。
「くそっ!! あいつを狙え!!」
「・・・え?」
男の一人が指揮を取ると数人がティルに向かって銃を向けて構えるが、ティルの後ろに何故か数体の人影が突如として現れた。
「オォォォォラァァァァァァッ!!」
人の三倍の高さはあろうかという塀から何かが集団で跳び上がったかと思うと俺達の方へ降って来て・・・。
「うわああぁッ!!」
「ぐわぁッ!!」
運悪く着地地点にいた男達にのしかかるようにして殴り倒す。
「祭りは此処かぁッ!?」
殴り倒した男に伸し掛かったまま、一人の女が声を上げる。
「ぐ、グラ!!?」
グラをはじめとした獣人の軍団だ。
「ウルド!! てめぇずりぃぞ!! 何一人だけで先に楽しんでんだよ!!」
「いや別に楽しんでねぇけど!?」
「くっ!」
取り巻きの男たちがどんどん倒されていくのを見て大統領が一歩また一歩と下がりながら顔を青ざめさせていく。
「貴様らが・・・まさか・・・!」
「ああ、そうだ。」
ライが二、三人と銃で男を倒した所で大統領の方へ向く。
「抵抗組織。国の敵だ。」
~銀蠍 アステリオン 密林~
アステリオンは密林だ。
足を使うにしても馬車は使えない。
ではどうするか。
「休暇が~・・・。」
私はその密林の木々の届かない程遥か上、上空にいた。
仲間の協力を得て空を飛んでいる。
「埋め合わせはすると言っているだろう。『夜鷹』。」
私が名を呼んだそいつは革製の羽と魔物の骨で作られた骨組みで作られたハングライダーで空を飛んでいた。
私は彼女が摑まっている骨組みの手すりに摑まる形でぶら下がっている。
「・・・。」
―――数時間前。
私たちは羊の獣人が住んでいる村、トトリ村に来ていた。
情報収集するためだ。
獣人にしてはおとなしい羊族の獣人は話を聞くには最適だから情報収集するには適材の者たちと言える。
何故アステリオンで情報を集めるかと言うと英雄アルトがこの国にいるかもしれないからだ。
密かに送っていた密偵に奴らが北側に向かって移動していた事を掴んでいたからだ。
その先がアステリオン、奴が何の目的でこの国にいるのかは知らないが・・・。
「この男を見ていないか?」
族長代理のカボという男の家で奴の人相書きを見せた。
本当は族長に情報を聞きたかったが今は何処かへ出かけているようだ。
私が描いたものだが問題はないだろう。
自分で自画自賛するつもりはないが・・・。
「随分上手いねぇ~、絵画みたい、誰が描いたの~?」
まぁこんな所だ。
「そ、そんなことはどうでもいい! 質問に答えろ!」
「ひぇ~!」
「!」
私の睨みにカボが声を上げると部屋の四方を囲っていた鹿族の奴らが一斉に構えていた。
「・・・。」
目だけで辺りを見渡し、奴等を観察する。
隙のない構え、急に構えつつも焦りの無い視線。
見た限り手練れだな。
「・・・別に手荒な事をするつもりはない。答えてくれればすぐに村を出る。」
乗り出していた身体を椅子に戻し、声を落ち着かせる。
戦闘意思がない事を察してか、周りの鹿族達は構えを解く。
「ゆっくりしていけばいいのに~。」
「・・・わ、悪いがそういう訳にはいかない。急いでいるのでな。」
「そうなの~?」
「・・・。」
腹の立つ反応だが落ち着け。
此処で短気を起こせばせっかく得られるかもしれない情報も得られない。
「ん~、この村には来てないねぇ~。」
「・・・そうか。」
他の村を当たるか。
私が席を立とうとすると・・・。
「でもぉ、ちょっと思い当たる事はあるよ~?」
「・・・何?」
すぐに椅子に座りなおす。
「ロキウスじゃない国から只人がこの国に来たって話があったの~、多分この人じゃないかな~?」
「・・・そいつは今どこに?」
「狼族のマカ村の族長にねぇ、ゾルガってのがいてねぇ~、そいつと一緒に協力するって言ってたけど途中でなんでか仲が悪くなってどっか行っちゃったって~。」
「なんだそれは・・・!」
くそ、せっかく情報が得られそうだったのに・・・!
「!」
いや、待てよ?
「そのマカ村のゾルガに協力って言うのはなんだ? 何に協力しようとしていた?」
「ん~、ゾルガはねぇ、色んな村から仲間を集めてロキウスに殴り込みをしようとしてるみたい。もう行っちゃったけどねぇ~。」
「・・・。」
私は黙ったままテーブルに両肘を置き指を絡ませて固めた手に口を当てる。
「銀蠍?」
隣にいた夜鷹は私の様子に訳が分からず声をかける。
「・・・行先は決まった。」
「え?」
―――現在。
「それでなんでロキウスなの?」
「奴は何かしらの理由でロキウスに侵攻としている、攻め入ろうとした獣人と手を組んだのもそれが理由だろう。同盟を破棄したからと言って目的を放棄して行先を変えるとは考えにくい。」
「銀蠍~、今更聞くけどさぁ。」
「なんだ?」
「君の『目的』とズレてない?」
「・・・。」
夜鷹の言いたい事は分かる。
「君は前に邪魔してきたあの暗殺者を追ってたんじゃないの? それなのになんでアルトの痕跡を追ってるの?」
「奴の動きは分からないが、奴が『どういう奴』かは知っている。」
「それでなんでアルト?」
「あの男が奴に取って『格好の餌』だからだ。」
「エサ?」
「ああ、奴は・・・ッ!?」
突然事は起こる。
下の密林から弓から放たれたと思われる矢が何本も跳んでくる。
「うわッ!!」
夜鷹はハングライダーの手すりを押さえて飛行の軌道を変えながら矢を回避する。
「・・・。」
下の矢を放ったと思われる地点を見ると獣人が何人も弓を構えていた。
狙いは正確だ。
このまま飛び続けていればいずれハングライダーにでも穴を開けて墜落するのは時間の問題だ。
「どうすんの!? 只でさえ二人で重量オーバーだからこれ以上高度上げらんないよ?」
「問題ない。」
「どゆこと?」
「夜鷹、お前は少し離れた所まで飛んで隠れていろ。」
「戦うの!?」
「終わったらこいつで合図する。」
腰のベルトに取り付けていた瓶を取り出す。
中には赤色のキラキラした結晶が液体も無いのに浮いている。
『魔硝石』だ。
文字通り、魔力を秘めた石だ。
特殊なガラス加工で魔力を閉じ込めているので空気がこもるように魔力が膨れ続けている。
瓶が割れれば魔力が解放され、広範囲に魔力が発生する。
つまりは遠くに離れていても魔覚で感知出来る、いわば魔力の信号弾みたいなものだ。
「そっちまで飛べって?」
「まさか、そんなことすれば飛行中にまた別の獣人に狙われるだろ? 私の合図を感知したらお前も合図しろ。私が徒歩でそっちに向かう。」
「手間だねぇ、けどそっちのが確実か。りょーかい。」
「ふん、行くぞ。」
そう言うと私は摑まっていた夜鷹のハングライダーから手を放す。
落下しながら私は懐から黒い球体を出す。
それを投げると今度はマッチを一本取り出してベルトで擦って火を付けると、黒い粉を取り出してマッチに向かって吹きかける。
すると粉はマッチの炎を通って大きな炎となって黒い球体に飛んで行き、黒い球体は爆発する。
黒い粉は火薬、球体は爆薬だ。
東国スサノオの『忍』と呼ばれる暗殺者の『忍術』という特殊な戦闘術の『火遁』を応用した物だ。
爆風に押し返されて落下のスピードが落ちた為、多少衝撃はあった物の無事に着地する。
「さて。」
「グウウゥ・・・!」
私が立ち上がり、一息を吐く間もなく獣人達は現れる。
「手早く片付けようか。」
私は短剣と毒針を取り出して構えた。




