#69 涙の脱出
~とある兵士 B.R.A.I.N基地 監視室~
「ふああぁ!!」
不意に近くの部下が気だるそうに欠伸をする。
「あ、すいません!」
うっかり俺と目が合い、頭を下げに来る。
「まぁ、仕方ないだろうな。誰もこの基地の中には入らないだろうさ。」
部下を諭す。
俺達は数人態勢でこの基地の中を監視している警備員だ。
基地の至る所には監視カメラがあり、特に通路なんかは何台も仕掛けているので侵入者が居れば即座に俺達がコンピューターの画面越しに見ている映像から丸わかりだ。
しかしこの基地は政府のお偉いさんすら場所を知っている人間も限られているからそもそも侵入者が来る心配すら少ない。
楽な仕事と言えば楽なんだが・・・。
『うわぁッ!! うわあああぁ!!』
「・・・。」
えげつない物も見ないといけないのが難点である。
監視カメラはいくつか『実験室』にもつながっている。
その『実験』というのが中々酷いものだ。
何せ捕まえた敵国の捕虜や自国の犯罪者を色んな生体兵器に改造したり、それを別の虜囚に軽い武装をさせて戦わせると言ったものだ。
その生体兵器ってのも姿からしても人間の身長の二倍以上ある物や腕が何本もあったり動物がいくつも混ざり合ったものだったりと吐き気がしそうな奴らばかりだ。
もちろん兵器というだけあって戦闘力も半端ではない。
普通に銃火器で武装したところで勝てる相手じゃない。
しかもえげつないのはそれだけじゃない。
実験を仕掛ける科学者にも悪趣味な奴がいてかつての仲間同士で戦わせたりもする。
唯一救いがあるとすれば生体兵器になっている方が自我が崩壊しているので相手を殺してもなんとも思わないことだ。
まぁ、普通に考えて倫理的に酷い物だろう。
だが俺達は敢えてそこには触れない。
俺達は元々権限のないただの一般兵士だ。
それをこんな監視用の警備員にするのにも意図がある。
いつでも使い捨てに出来るからだ。
つまりこんな事を道徳的に許せないからと反抗しようものなら俺達もこの『実験室』に行くことになるだろう。
だからこそこの仕事もちゃんとやらなければ命の保証、いや、『人としての人生』の保証はない。
「・・・?」
それにしても今日はカメラの様子がおかしい。
ほんの一瞬だが所々でよく映像がブレる。
しかし見回りをしている警備員はちゃんと通路を通っているのが分かる。
別にカメラが壊れているわけではないようだ。
「うーん、カメラの寿命が近いのか?」
いや、そんなはずはないと思うが・・・。
此処の技術員はかなり優秀だ。
監視カメラなんて作ろう物なら十年は持ちそうなものを作る筈だ。
けど少し調子が悪いのも事実だしな。
「今度技術部に掛け合ってみるか。」
侵入者を通すようなことがあったら俺達の身も危ないしな。
~メロ B.R.A.I.N基地~
しばらく暗殺者の男と行動を共にしていたのです。
見張りの兵が近くに来た時に魔覚で察知しているのか、隠れるのも上手く、見つかる事もなく順調に脱出に向けて進んでいるのです。
確かに見た目が暗殺者っぽいだけはあるのです。
隠密行動に長けているのです。
いや、それはいいのです。
別にいいのです。
「・・・。」
思わず私は自分の手を見るのです。
相変わらず私の手を掴んだまま放さないのです。
いや、さっきから心の中で何度も突っ込んでるのですがなんなのですか!?
子供扱いですか!?
・・・あ、これも何回も心の中で突っ込んだ事です。
ああ、そういえば前に私が銀蠍に捕まった現場にも立ち合ってるし、もしかしてこの人の中での私って『捕まりやすいちょろい子』って印象なのですか?
いやいや、これでも私ちゃんとギルドにちゃんと認定されてバッジも持ってる冒険者ですよ!?
そんな捕まりやすいわけじゃ・・・。
そういえば師匠についてくる前に一回山賊に捕まってるのです。
その前にも盗賊団のアジトを潰しに行ったときに逆に盗賊に捕まって当時徒党を組んでいた人たちに迷惑かけたのです。
その前にも小さい時に妙にお喋りなおじさんについて行って誘拐されて父と母に助けられて・・・。
って違ああああああぁぁぁぁぁうッ!!!!!
私そんなちょろくない!!
ちょろくないのですッ!!!
小さい時に誘拐されたのは何も知らない子供だったから!!
それに盗賊に捕まった時のは攫われた富豪の商人が売り飛ばされそうなのに仲間が手をこまねいてごにょごにょ作戦立てるのに時間かかっていつまでも動かないからです!
あと山賊に捕まったのは師匠が上昇を使い過ぎて動けなくなった私を置いて行ったからなのです!!
決して『私が危機感が足りなさ過ぎてチョロい』とかそんなんじゃないですからああああああぁぁぁぁぁ!!!!!
「ッ!?」
急に男は立ち止まったのです。
そして道の脇から覗き見るように男は向こうの様子を見ているのです。
「?」
私もその先を見ると分かったのです。
何やら扉の前で警備の兵が両脇を固めるように二人立っていたのです。
(あっちが出口なのですか・・・?)
「・・・。」
あー、やっぱり答えないのです。
この男、無口というか全く言葉を発しないのです。
これもさっきから心の中で突っ込んでることですが覆面や外套も相まって不気味なのです。
最初は凄く怖かったですけどこの男が私を助けようとしている事が分かってからはなんか慣れて来たのです。
「・・・。」
「?」
男はなにやらキョロキョロしているのです。
顔の角度からして視線は・・・なんか通路の上の方みたいなのです。
天井に何かあるのですか?
「!」
あれってカメラ!?
天井の隅の角の辺りにカメラがあるのです!
もしかして私達・・・見られてるのですか!?
いや、それにしてはおかしいのです。
抵抗組織の基地だって侵入者が出れば警報が鳴ってどっかから声が出てきて基地全体に知らせていたのです。
もしかして私達・・・見つかってない?
でもおかしいのです。
カメラはちゃんとこっちを見てるのに・・・もしかして壊れてるのですか?
あ、もしかしてディグがやるって言っていた『はっきんぐ』なのですか?
この人、そんな技術まで・・・?
「・・・。」
いや、そんな風には見えないのです。
服装からしてロキウスっぽくないのです。
ロキウスの技術って確か他所の国にはない技術が多いって言いますし、そんな人間が『はっきんぐ』とかロキウスっぽい事出来るとは思えないのです。
「?」
男がまた私の手を引いて誘導するのです。
通路の壁の近くをキョロキョロしながら近くの何かが入っている木箱の脇に入ると腰を下ろし、私の手を引くのです。
『座れ』って事ですか?
「?」
言われた通りに座ると今度は男は私の両肩に手を置く。
「え?」
何故か男が私に顔を近づけ・・・ってちょっと待つのです!!
私、まだそういうの早いのです!!
確かに私を助けてくれる人だからいい人なのは分かるけど私達そういう関係までお互い知り合って無
(動くな。)
「ッ!!?」
男は私の耳元で囁くように言ったのです。
え、てっきり私キスとかその他もろもろやばいことされるかと・・・い、いや、それより驚くことが・・・!
この人、喋ったのです!!!
あまりにびっくりしてつい声が出そうでしたけど此処まで来て見つかりたくないのです!!
我慢我慢、危なかったのです!
「・・・ッ!」
私は口を塞いで強く何度も頷き、男にオーケーの意思を示すのです。
「・・・。」
男は私の意思を察すると立ち上がるのです。
すると何事も無かったかのようにさっきの扉の方へ歩いていくのです。
え、ちょっと!?
隠密行動中なのに大胆すぎじゃないですか!?
さっきの扉には・・・。
アレ?
確か、何か、いや、扉の前には誰もいないのです。
あれ?
私、なんで此処に隠れてるのですか???
何か隠れないといけない理由があって・・・って此処までどうやって来たんでしたっけ???
と、とにかくこの基地は危ないのです!
すぐに移動を・・・。
『動くな。』
「!!」
そうです!
確か誰かに言われて此処に・・・ええと、確か・・・。
「あ。」
お、思い出したのです!!
確かあの暗殺者の男に言われて此処で待ってる様に言われてたのです!!
いやそれにしてもおかしいのです。
どうして忘れてたのですか?
「!」
「・・・。」
暗殺者の男、戻ってきたのです!
あ、また手を繋がれたのです。
いや、なんで一々手を繋ぐのですか??
・・・まぁいいのです。
手を引かれるままについて行くと扉の前まで来たのです。
あれ?
確か見張りが居たはずなのにいないのです。
「・・・?」
扉を通ると出口じゃなかったのです。
なんか倉庫みたいに木箱が色々あるのです。
「?」
部屋の隅に何かが転がってて・・・。
「ッ!!? ひぎ、うぅッ!!」
目の前の光景に思わず声が出そうになって暗殺者の男が間一髪で口を塞いだのです。
「ふぐ・・・!」
それでも僅かに声が漏れるのです。
目の前には警備の兵士の死体が転がっていたのです。
数は二人。
さっき見張りをしていた奴らなのです!!
どっちも首筋を斬られていたのです!
これで死んでいるから間違いなく人体の急所に違いないのです!
「・・・!」
視線を暗殺者の男に移すのです。
この人が殺して・・・!
「・・・。」
目を閉じて心を落ち着かせるのです。
考えてみれば分かっていた事なのです。
さっきだってあの変態男を殺す所を見たのです。
この人は暗殺者、つまりはそっち側の人間なのです。
こういう事は当たり前にやって来た人間なのです。
「・・・。」
私が落ち着いたのを察して男は手を放し、手を繋いだまままた歩き出すのです。
「・・・。」
大人しくついていくのです。
今は助かる為にはこの人についていくしかないのですから・・・。
それにしても・・・此処は武器庫って事で間違いないと思うのですが、この人何かを取りに来たのですか?
しかもおかしいのです。
何かを探す様子もなく、迷わずに真っ直ぐ進んで行くのです。
少し進んで行くと結構奥辺りの木箱の前で止まったのです。
しかもその木箱の中を・・・。
「あのぅ・・・。」
漁っているのは漁ってるのですが・・・。
「やりにくくないですか? 手を繋ぎながら漁るのって・・・。」
いい加減突っ込むのも疲れて来たのです。
この人はなんで頑なに手を繋ぐのですか?
・・・そろそろ限界なのです。
子供扱いにしても限度があるのです。
「さっきからなんなのですか? 子供扱いするにも限度が・・・!」
私が手を放そうとすると男は箱を漁るのを中断してまで私が振りほどくのを妨害するのです。
「くッ・・・!」
なんか手つきが器用なのか、振りほどこうと掴む手を何度も払われるのです。
小癪なのですッ!!
「むぅ・・・本当になんなのですか!」
ついに諦めた私を察してまた男は木箱を漁り始めたのです。
「大体、その箱に何があるので・・・す・・・?」
私が問いただそうとすると男が取り出したものに言葉が詰まるのです。
「あぁぶぐッ!!!」
声が出そうになってまた口を塞がれるのです。
・・・ごめんなさいです。
その意味でこくんと頷くと男は手を放すのです。
(剣・・・私の剣・・・!)
嬉しいのです!!
大事な剣だったのです。
一本は母が昔使っていたお下がりで貰った物で、もう一本は冒険者になってから頑張って稼いだお金で初めて買った物なのです!!
(ありがとう・・・! ありがとです・・・!)
涙が出そうなのです!
やっぱりこの人良い人なのです!!
「!」
また暗殺者の男は手を引き、歩き出すのです。
(は、はいです・・・!)
喜んでる場合じゃなかったのです!
剣も戻って来たし、あとは脱出するだけなのです!
しばらくまた通路を歩いていたのです。
それにしても違和感があるのです。
途中、見回りの兵士が居るのを警戒して隠れるのは分かるのですが、この人、歩く道には迷いが無いのです。
此処まで何度も分かれ道はあるのにどちらに行こうかとキョロキョロする様子もなくすぐに道を選んでいたのです。
まるでこの基地の構造を全て理解してるみたいな動きです。
下調べでもしてたのですか・・・?
う~ん、よく分からないのです。
「いやだッ!! 離せッ!! 離せぇッ!!」
「!」
通路の脇から声がするのです。
「・・・?」
立ち止まった私を察したのか、暗殺者も立ち止まったのです。
「・・・。」
私が気になるのを察したのか、声のする方を物陰から覗くので私も覗いたのです。
「ええいッ! おとなしくしろッ!!」
「もう嫌だッ!! なんであんな怪物と戦わなきゃいけないんだッ!!」
一枚布で上下の必要な部分を覆ったような粗末な服を来た男の子が白衣を着た男と兵隊の男に数人掛かりで押さえ込まれていたのです。
「くそぉッ!! 離せぇッ!!」
「ウィークネスを早く付けろッ!!」
「はい!!」
暴れる男の子に苛立ちながら白衣の男は兵士の男に何か指示を出すのです。
すると兵士が腰のポーチから何かを取り出すのです。
「!」
首輪なのです!!
たしか、グラ達に付けられてたのと同じなのです!!
「やめろッ!! うああぁッ!!」
すぐに付けられそうなのを察知して男の子は更に激しく抵抗するけど結局付けられたのです。
「う、うあぁッ! うあ・・・ぁ・・・!」
男の子はすぐに力なく押さえつけられ、更には声が上げられなくなるのです。
ひ、酷い・・・!
「ふぅ・・・。」
男の子に抵抗する力が無くなったのを確認して立ち上がったのです。
「全く、こいつはもう駄目だな。投薬の影響も悪いし素の戦闘力も高くない、おまけに戦闘意欲も低すぎてこのザマだ。」
白衣の男の一人が呆れたように男の子を見下ろすのです。
「ちょ、ちょっと待てよ! あんまり被検体を減らすと実験に影響が・・・!」
「使えない実験動物を何体使ったって無駄だ! 俺はこんな所で足踏みしてる場合じゃないんだ!!」
二人の男が何か言い争ってるのです。
「気持ちは分かるけど研究費用だってうちの研究室にはあんまり降りてないんだぞ!?」
「五月蠅いッ! 危険を怖がってて出世が出来るかッ!! 今に目に物見せてやるんだ、あのクソ生意気な女になぁ!!」
「はぁ・・・またその話か。」
「ラベスタ、忌々しい女め・・・! 私より何年も後に研究部に配属された小娘のくせに私をそっちのけで出世して見下しやがって・・・! あいつに負けるわけにはいかないんだ俺は!!」
「諦めろって! あの室長は天才を通り越した異常者だ。悪魔に魂でも売ってんじゃないかってぐらいに常軌を逸してる。対抗とかそんなの考える以前に関わらない方がいいくらいだ。」
「五月蠅いッ!! はぁ、とにかくこいつは『処分』する。」
「ひッ!!」
怒りを抑えるようにため息を吐きながらの白衣の男の宣言に男の子は顔を真っ青にさせるのです。
処分・・・?
処分って一体何をするつもりなのですか!?
「や、やめて・・・いやだ・・・いやだぁ・・・!」
涙を流しながら必死に声を上げるのです。
声が出しづらそうですけど恐らくは首輪のせいなのです。
「た、戦います・・・実験にも役に・・・立ちますからぁ・・・!」
処分を宣言した男の白衣を掴んで必死に懇願するのです。
「ふん。」
「うぐっ!」
白衣の男が軽く蹴り飛ばすと強く蹴った訳でもないのに男の子は白衣から手を放してゴロゴロと床に転がるのです。
「黙れゴミが。貴重な研究費用を浪費しやがって、お前なんぞ『奴ら』の餌になるのがお似合いだ。」
「ひッ!!」
「連れていけ。」
「「はっ!」」
兵士に声を掛けると男の子を連れて行くのです。
「いや、いやだ・・・嫌だああああああぁッ!!」
男の子が必死に叫ぶのです。
こんなの・・・大人しく指咥えて見てるなんて無理なのですッ!!
「っ!!・・・ぅぐ・・・・!」
『待て』と言おうとしたその時なのです。
暗殺者の男が口を押さえて声を出せなくした上に組み付いて私の動きを封じたのです!!
(ぅ・・・ぐぅ・・・!!)
暴れながら拘束を振りほどこうとするけど振り払えないのです!!
ああ、男の子が連れていかれて・・・!
「これが大人のやる事か!! 人間のやる事かッ!!」
「ああ、そうだ。」
男の子の非難に白衣の男は開き直るのです。
「呪ってやる!! お前ら全員呪ってやるッ!!」
「そう言って死んだ奴を何人も見たよ。けど俺達には何の天罰もくだらない。」
「ッ!!」
「分かったろ? まぁ呪いたきゃ好きに呪え。」
「う、うああああああぁぁぁぁッ!!!」
言い負かされて男の子は悔しそうに只々泣き叫びながら連れていかれ、ついにはその叫びすら聞こえなくなったのです。
「・・・。」
奴らがいなくなったのを見て暗殺者は拘束を緩めるのです。
「ッ!!」
その瞬間、私は手を繋がれていない方の右手で暗殺者の左頬を思いっきりぶん殴ったのです。
「ふざけんなですッ! 助けられたかもしれないのに・・・!」
思いっきり言葉をぶつけるのです。
「そんなに自分の身が可愛いのですか!? 貴方はただの『臆病者』ですッ!!」
さっき私の剣を見つけてくれて良い人だと思ったけど取り消すのです!!
こいつ、こんな状況でも動けないただの意気地なしなのです!!
「ッ!?」
突如私の左頬から鋭い痛みが走りながら身体がよろけるのです。
暗殺者が私の頬を左手の裏で引っ叩いたのですッ!!
「ッ!! こいつ・・・!!」
意気地なしの癖に殴られたことは悔しいのですか!?
ふざけんなですッ!!
「ぅッ!! くぅッ!! このッ・・・!」
また殴ろうとした私の右手を掴んで封じて来たのです!
「放せですッ!! ・・・?」
暗殺者を睨んだけど様子がおかしいのです。
「・・・。」
暗殺者はさっきの男の子が連れていかれた方向を見ていたのです。
しかもその布にぐるぐる巻きにされていた顔は僅かに震えていたのです。
「ッ!!?」
暗殺者の私の手を握る手の力が強くなったのです!!
「痛いッ!!」
「!」
暗殺者の男はまた私の様子に気づくと我に返ったかのように力を緩めて私の右手からも手を放すのです。
「?」
この人、さっきもあの巨大な気持ち悪い何かを見たときも同じことしてたのです。
もしかして・・・。
「もしかして・・・怒ってるのですか? あいつらに・・・。」
「・・・。」
暗殺者は答えないのです。
「!」
暗殺者はまた私の手を引いて歩き出したのです。
「・・・。」
なんかよく分からないけど怒ってた私、馬鹿みたいなのです。
それからしばらくまた無言のまま通路を進んでいくのです。
―――しばらく進んだあとなのです。
どれだけの曲がったか分からない道を進むと暗殺者は止まったのです。
「ゼェ・・・ゼェ・・・!」
もう歩きすぎて疲れたのです。
けどなんか目の前に大きな扉があったのです。
もしかして出口に着いたのですか・・・?
は、早く外に・・・!
「うぎぎ・・・!」
扉の隙間に指を当てて開けようとするけどびくともしないのです。
おかしいのです。
鍵らしき物は無いのに・・・これも何か機械の仕掛けがあるのですか?
「?」
暗殺者の男が扉のすぐ横にあったなんか変な機械に目をやっていたのです。
赤い小さなランプの点いた、縦の細い溝の着いた変な形状の何かなのです。
しかもそれを見るや私の手を引いたまま何かを取り出すのです。
「? なんですか? そのカード。」
暗殺者が取り出したのは銀と黒のシンプルな模様と小さな文字が蟻の大群の様に書かれたカードなのです。
「・・・。」
私の質問そっちのけで暗殺者はカードを溝に通すのです。
すると・・・。
『了承』
「!!?」
機械が何か喋ったのです!
しかもそれに驚く間に扉が開くのです。
扉は縦やら横やらで何重にも仕掛けられてたみたいで順番に開いていくのです。
「はぁぁ・・・!」
急に大きな広い部屋に出たのです。
いや、それにしても・・・。
「さっきのカード、なんで持ってたのです?」
「・・・。」
答えてくれないのです。
あ、もしかしてさっき武器庫に入る時に殺した兵隊から奪ってたのかも・・・。
多分きっとそうなのです。
・・・なんて考えていたら。
「!!」
目の前にまるで祭壇の様な円状の人が立てそうな床を乗せたような機械の装置があるのです。
しかもその床は広く、人が十数人ほど入れそうな広さなのです。
そしてなにより妙なのがその床から青い光が上に向かって照らされるように発生しているのです。
「??? これ、なんなのですか?」
よく分からないのです。
何をする場所なのですか?
「!?」
暗殺者は何の躊躇もなくその台座に歩を進めるのです。
機械の台座の上に立つ気なのです!!
「いや、ちょ、待つのです!! こ、心の準備が・・・!」
こんなよく分からない物、乗って大丈夫なのですか!!?
「あ~ら、研究所から研究対象を連れ出すなんて悪い子ねぇ?」
「「!!?」」
声がして後ろを見るとそこには・・・!
「警備は一体何をしてたのかしら? これ懲罰ものよね? あんた達もそう思わない?」
「お、オカマファイター・・・!」
獣人達が捕まっていた収容所で私たちを後をつけて来てたあの時のオカマファイターなのです!!
「全く、あんた達。呼び方にバリエーションあって飽きないけどあたしの名前は『ビリー』よん? ちゃんと名前で呼んで頂戴?」
「また私たちをつけて来てたのですか!?」
「ん~、まぁ話せば長くなるんだけど・・・。」
~ビリー B.R.A.I.N基地~
―――数分前。
あれは訳あってラベちゃんに手術を受ける前の事だった。
「・・・ん?」
僅かに魔覚で魔力を感じ取る。
ほんの一瞬感じたからどの方向かは分からないが、確かに感じた。
おかしい。
ロキウスの一般兵士は魔力はほぼ無いに等しい。
そんな中で魔力を感じたのは明らかにおかしい。
確かに魔法を使える異国人を研究対象として何人か捉えてはいるがそれのとは違う、何か別の魔力だ。
「ん? どうした? 早くついて来い!!」
立ち止まった事にラベちゃんは苛ついてあたしに催促するけど・・・。
「ラベちゃんゴメン、急用出来ちゃった。」
「あぁ!? な!?? おい!!」
ラベちゃんが引き留める間もなく走っていく。
―――向かった先はモニター室。
『了承。』
カードキーを機械に通して認証させると扉は独りでに開き、すぐに入る。
「ッ!? ビリー大尉!! お疲れ様です!!」
モニターを監視していた兵士たちはすぐにこっちを向いて敬礼する。
「あんた達? モニターに異常は無かった?」
「い、異常ですか!? あ、その・・・異常かは分からないのですが・・・。」
「何? 早く言いなさい。」
言い淀んだ兵士の所へ行き、カメラとつながっているモニターを映している端末を覗き込む。
「時々、通路のカメラの調子がおかしいのか、映像が所々僅かに・・・ほら、此処とか!」
「・・・。」
確かに通路の監視カメラの映像が僅かにノイズが入った様に一瞬ブレている。
これはおかしい。
何故なら監視カメラは先週動作確認をしながらメンテナンスを入れたばかりだ。
異常が出るには早すぎる。
「あんた達! 見張りの兵士に異常がないか調べなさい!!」
「え!? は、ハイ!!」
すぐに兵士たちは端末を操作して確認作業に入る。
少しすると・・・。
「あ、ありました!! 来てください!!」
「何!!」
すぐに声を上げた方の兵士の元へ走って端末を覗き込む。
「武器庫です!! 配備された兵が居ません!!」
「・・・。」
疑惑が確信に変わったわね。
この基地に正体不明の何かが侵入している。
武器庫を襲ったって事は中に何か必要な武器があったということ。
この基地に入ってただ盗みに入ったとは考えにくい。
あるとすれば・・・。
「な!? 大尉!?」
すぐに走り出すと兵士たちは声を上げる。
すぐに部屋を出ようとしたけど入り口で止まる。
「あんた達?」
「は、はい!?」
「あとで覚悟しときなさい。」
「ひぇ!?」
「え、何!!?」
「大尉!! 一体何が・・・!!」
兵士達が顔を青くして騒ぐのを他所に部屋を急いで出ていく。
~メロ B.R.A.I.N基地~
「・・・武器庫に入った目的は『捕らえられた捕虜の武器を取り戻す事』、そう仮定すれば一番筋が通る侵入者の目的は『脱走幇助』、であれば最終的な目的はこの基地の『出入口』。で、回り込んで張ってみればビ・ン・ゴ☆ ってわけよん?」
「わ、分かっていたのなら・・・おかしいのです!!」
「何が?」
「侵入者が居るって分かったのなら警報が鳴る筈なのです!!」
この基地が抵抗組織と同じならですけど・・・。
「あー、あんた達、いや、そこの布ぐるぐる巻きの子があんまりにも隠密行動上手いでしょ? 警戒されて本気で隠れられたらいつまで経っても見つけられない可能性がある。なら警報鳴らさないでこっそり張ってた方が手間が省けるって訳☆」
「くっ・・・!」
こいつ、なんか頭良さそうなのです!
オカマの癖に・・・!
「さぁて、あたしもちょっとアクシデントあって本調子じゃないけど・・・。」
「!!?」
オカマファイターは腰から何やら仰々しい銃を取り出して構えるのです!!
「これでも軍人の端くれ、本来の力が出せなくてもあんた達を止めるくらい訳ないわ?」
「くっ・・・!」
戦うしか無いのですか・・・!
「!?」
突然暗殺者が私から離れてオカマファイターに突撃していくのです。
「あ~ら、銃相手に勇敢だこと!!」
オカマファイターは銃を乱射させるのです!
銃弾は何発も高速で連射されて暗殺者を襲うけど暗殺者は物凄い速さで左右に走ってオカマファイターの懐に飛び込んで短剣を突き出すのです。
「甘いわよッ!!」
オカマファイターは両手持ちだった銃からか右手を放して取り付けていた手甲で短剣を防いだのです。
そしてすぐさま持っていた銃で暗殺者を殴り払おうと振るけど暗殺者は身体を低く下げて回避し、また短剣を喉元に突き出すのです。
オカマファイターがまた手甲で防ぐけど暗殺者は今度は懐からもう一本短剣を取り出して腹部に突き出すのです。
「ぬぅん!」
オカマファイターは銃でそれを防いだのです。
「!」
オカマファイターがにやついたのです!
次の瞬間・・・!
「残念☆」
オカマファイターは銃から手を放し、今度は片手で持てそうな小さな銃を腰から抜いて暗殺者に向かって撃つのです!
けど暗殺者はすぐに反応して身体を横にずらして回避して距離を取るのです。
「!!」
暗殺者の肩から血が流れてるのです!!
多分咄嗟の攻撃で避け切れなかったのです・・・!
オカマファイター、敵ながら褒めるのは癪ですけど戦い方が巧いのです・・・!
これで本来の実力じゃないって嘘じゃないですか!?
「まずは一点先取、かしら?」
距離が離れたのを見計らってオカマファイターはさっきの大きな銃を拾うのです。
仕切り直しみたいなのです・・・。
でも暗殺者は負傷してるから不利な気がするのです!
「わ、私も援護を・・・!」
剣を前に突き出して魔法を放とうと思った瞬間・・・。
「!?」
暗殺者はオカマファイターの方を向いたまま指を突き出すのです。
「ぅ・・・!」
相変わらず喋らないけど明らかに『行け』の意味なのです!!
「け、けど・・・!」
私が躊躇っていると暗殺者は更に強く指を突き出すのです。
「うぅ・・・!」
私を助けようとしてくれていたこの人の気持ちを考えると断りづらいのです・・・!
「行かせるわけないでしょッ!!」
「!!」
オカマファイターが私に銃を構えるとまた暗殺者が懐に飛び込んでいったのです。
「くっ・・・!」
オカマファイターは油断してたみたいですけど間一髪でさっきの要領で短剣を防いだのです。
「行けッ!!!!!」
「・・・!」
また喋ったのです!!
さっきのような声とは違って必死に叫んだ声なのです!!
それほど必死なのが分かるのです・・・!
「う、うああああああぁぁぁぁ!!」
これ以上暗殺者さんの思いを無駄に出来ないのです!!
すぐに踵を返して走るのです!!
「ハァ・・・ハァ・・・!」
金属のぶつかり合う音を背に必死に青い光に向かって走るのです!!
「待ちなさぁぁぁいッ!!!」
オカマファイターの声を無視して光る床にダイブするのです!!
「!??」
青い機械の光は強く光り出し、私の視界を奪っていくのです。
「・・・?」
けどすぐに光が弱くなり、思わず瞑ってしまった目を開けるのです。
周りの風景は白い大理石造りの建物、通路と思わしき床に赤い立派なカーペット・・・どこかのお城のような場所なのです・・・。
此処、何処なのですか?
「!!」
近くにあった窓を見て驚くのです!!
「空・・・!」
空なのです!!
時刻は夕方みたいで空は赤く染まっていたのです!
此処がまだ基地の中ならおかしいのです、だって・・・。
『何せこの基地、地上から数百メートル離れた地下基地だからレーダーも魔覚も届かない、つまりはだぁれも助けに来れないでござるよ?』
あの変態が言ってた事が本当なら基地は地下にあって空なんて見えるはずが無いのです!
つまり、基地から脱出して地上に出られたのです!!
「は・・・はは・・・!」
もうすぐ・・・もうすぐ師匠達の元へ帰れるのです!
師匠達の元へ帰れるのですッ!!
それなのに・・・。
「ははは・・・は・・・う・・・うぅ・・・!」
涙が・・・涙が止まらないのです・・・!
「うあぁ・・・暗殺者さん・・・暗殺者さぁん・・・!」
一緒に・・・一緒に脱出したかったのです!!
けど、泣いてなんて居られないのです・・・!
まだ建物の中、つまり完璧に脱出したわけじゃないのです!
「今は・・・急いで・・・急いで脱出じないど・・・!」
涙を拭って立ち上がったのです。




