#67 尊敬の違い
~ウルド ロキウス 市街地~
「うおぃッ!! 頼むから話を聞いてくれッ!!」
「あはははは!! 避けないで下さいよぉ! 殺したいんですからぁ!! ほら死んでくださいよぉ!! 踏まれてプチってつぶれちゃう虫みたいにぃ、心臓とか脳とか小腸とか大腸とか肺とか腎臓とか肝臓とか膵臓とか脊髄とか膀胱とか全部全部ぜぇんぶ!! お腹や頭からぶちまけちゃったらいいんですよぉ!!」
「怖えよッ!! 何食ったらそんなサイコな台詞吐けるんだよッ!!」
『オニイチャンガンバレー。』
頭のおかしい台詞を吐きながら瓦礫を飛ばしてくる白髪の子に対し、感覚上昇を使って逃げ回り、物陰に隠れたりして瓦礫を避けながら俺は非難を浴びせる。
だが何故かその現場を傍観するかのように腕輪の中のルタは棒読みでいい加減な応援をしてくる。
『ルタッ!! なんなんだよさっきからッ!!』
『いや女心のわからないお兄ちゃんにはいい薬かなーって。』
『わけわかんねぇよッ! ふざけてねえで助けろッ!! 俺が死んだら お前だってシャレになんねぇだろうがッ!』
『あーその辺は大丈夫! だって
『ッ!?』
ルタの言葉の途中に一発の銃声が聞こえる
「よう! 密猟者に銃向けられて追いかけ回される鹿みたいになった気分はどうだ?」
「ライ・・・!」
ライは空に向かって銃を撃っていたみたいだ。
威嚇射撃だろう。
「悪いがそいつの相手は俺だ。お前はお前であのちびっこを探しな。」
「あ、ああ。」
いまいち色々ありすぎて事情がよく分からないが悪くない提案だ。
「そういう事なら任せる。」
「あいよ。」
「ちょっとちょっとちょっとぉ、私抜きで勝手に話を進めないで下さいよぉ!」
「うぉわっ!!?」
白髪の子が会話に割って入ったかと思うとまた瓦礫が飛んできたので右に思いっきり跳んで躱す。
だがその瞬間一発銃声が聞こえる。
すると白髪の子の頬から一筋の傷が出来て血が流れる。
「ティルぅ? 次おイタしたら当てるぜ?」
ライの銃口は白髪の子、ティルの方を向いて白い煙を上げていた。
「邪魔しないで? 兄さん。」
「やだね、邪魔してやる。」
ライはティルに皮肉混じりに減らず口を叩きつつ、顎で『行け』とばかりに指示する。
「あと任せたッ!!」
一目散に走り出す。
ただひたすら走る!
「あはははは!! 兄さんッ!! 遊びましょぉ!!?」
「いいぜぇ!!? 地獄の果てまで付き合ってやんよぉ!!」
俺にはこの二人は手に負えないからなッ!!
~メロ B.R.A.I.N基地~
「・・・。」
あれから部屋を出て壁一面真っ白で道の入り組んだ通路を暗殺者の男と一緒に歩いていたのです。
基地の中は これでもかというぐらい道が分かれてたり所々に部屋に通じる扉があったりして 色々とややこしいのです。
正直私一人だったら間違いなく迷子確定なのです。
「あの・・・。」
「・・・。」
さっきからこの調子なのです。
私が声をかけてもこの暗殺者の男は一言も返事をしないのです。
それは良いのです。
別にいいのです。
問題は・・・。
「何で手をつなぐのですか?」
「・・・。」
男は一切答えないのです。
「子供扱いしてるのですか? ッ!?」
私が手を振りほどこうとすると手に力を込めて頑なに離そうとしないのです。
「・・・。」
ルタみたいにペラペラ 喋りながら嫌味を言われるのも嫌ですけど、これはこれでなんか気まずくて嫌なのです。
と言うか無言のまま手を繋がれるのってなんか気味が悪いのです。
もしかして私って助けられたんじゃなくて別の敵にさらわれただけなんじゃないのですか?
でも逃げようにも・・・。
「・・・。」
こんな見た目が正体不明の不気味な奴ですし、なんか逆らったらやばそうなのです。
銀蠍に襲い掛かった時、かなり強そうでしたし今の私に勝ち目あるとは思えないですし・・・。
「ふぇっ!!?」
突然男が力いっぱい私の手を引いて物陰に隠れるのです。
「ちょ、ムグッ!?」
声をかけようとする私の口を突然男が塞いだのです!!
そして私を後ろから抱きしめる形で押さえつけるのです!
「ちょっと!! なんなのですか!?」
口を塞がれながら必死に抗議をしようと男を見るけど・・・。
「?」
「・・・。」
なんか様子がおかしいのです。
そのぐるぐる布を巻かれた顔は物陰腰の通路を見ていたのです。
「貴様ぁッ!!」
「危ないじゃない! 椅子をそんな使い方しちゃ。」
「ッ!!」
あの時のオカマなのです!!
何やら揉めているようなのです。
話している相手の白衣を着た女はパイプ状の椅子を持ってオカマに殴りかかってるけどオカマはそれを難なくかわしているのです。
「五月蠅いッ!! あれだけ短歌を切っておきながらなぜ本命のあの獣人を捉え損ねたッ!!」
「仕方ないじゃない、アレが取れちゃったんだから。」
「ふざけるなこのグズッ!!」
女がまたヒステリックになって椅子を使って横振りで殴りかかるけどオカマは身体を低くして躱すのです。
「まあまあいいじゃない? 襲撃してそれなりに収穫はあったし、あんたはそれで新しい実験生物作ったんだし、それにあの子達が脱走する時つけた発信機のおかげで奴らの基地の場所までわかったんだから。これからいくらでも機会はあるわよ? そういうわけだから、ね? あれ付け直してくれる?」
「黙れッ!! 貴様に顎で使われるいわれはないッ!! 大口叩いて戦果を得られなかったくせにどの面下げて言ってるんだこのクズがッ!!」
「嫌だわラベちゃんたら!! 面の皮が厚くなかったらこんな悪の組織なんてやってらんないわよ? それに連中もそんなに甘くないし、私が戦える状態じゃなかったらいくら奴らの基地に兵隊送り込んでも返り討ちにあうわよ?」
「ぐっ・・・!」
オカマが女を色々言いくるめる形で言うと女は反論できないのか忌々しそうにおかまを睨んだまま拳を握って押し黙って歯ぎしりをするのです。
「・・・さっさとついてこい。」
女は歩き出すのです。
「ありがとぉラベちゃん!! やっぱり持つべき物は利害関係者よねん♪」
「五月蠅い黙れ死ねッ!!!」
「はぁいはい♪」
一通りやり取りが終わると二人は通路の左側に消えていくのです。
安全を確認すると男はまた私の手を引いて通路を歩き出したのです。
「・・・。」
やっぱりこの人私を助けようとしてくれているのですか?
~ネルス プロテア王宮~
「副団長、こちらの書類に印鑑を。」
「ん? ああ。」
兵士が持って来た書類に印鑑を押す。
城下の治安維持のための予算案の見直し書類だ。
先日の獣人襲撃の一件で魔物以外の襲撃を考慮し、城下のギルド、及び憲兵団の方へ降りる予算を少し上げて見るべきだとギルドの総括から申請があったのでそれらを考慮して直された予算案だ。
「うん・・・うん、問題ないな。」
確かに引き上げ額が無理もなく妥当な金額だ。
「よし。」
書類に印鑑を押す。
まぁこんな調子で今は事務作業に追われている。
正直こういうのは団長補佐のエレノアの管轄だが今はカザに出払っているわけでその仕事も俺の方へ回っているわけだが別に不満に思っていない。
正直訓練よりもこういう書類仕事は得意な方だ。
慣れれば一定の作業で書類を処理すればいいだけだし、訓練程気を張らなくていいから楽だ。
合間のリフレッシュみたいで気が休まるから実質俺にとっては休憩とそれ程変わらない。
まぁ、今回の一件の後だと書類の量も馬鹿にならないから楽とは言えないけどな。
「って思ってる間に・・・。」
書類に使う羊毛紙が無くなった。
「しょうがないか・・・。」
倉庫に取りに行く。
まぁ作業の合間の軽い運動みたいなもんだと思えば・・・。
———しばらく廊下を歩いた時だ。
「・・・!」
通路の脇にある簡易的なベンチに見覚えのある人が座っていた。
「キリア団長!」
「ん? ああ、君か。ネルス副団長。」
俺が声を掛けると団長は顔を上げる。
何か悩まし気に俯いていたように見えた。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと考え事をな。」
「はぁ。」
何か踏み込んじゃいけない気がする。
聞くのは野暮か。
「それより城下の獣人襲撃の件。粗方私の危惧した通りだった。」
「え? どういうことです?」
「城下の騎士団の出撃が少なかった。君も薄々気づいていただろう?」
「あ、はい! だからこそ第六騎士団も本来より少ない兵を更に割いてまで分散させて・・・。」
「うむ、他の騎士団の奴ら、自分たちが守った貴族の要人たちを王の前でこれ見よがしに自慢していた。思った通り、貴族区以外の防衛に人員を割いていなかった。」
「ッ!」
あいつら・・・!
「だが王も奴ら程頭の悪いお方ではない。自分達の事を棚に上げて一人前に愛国者ぶってアステリオンに攻めろと捲し立てる騎士団長共を一喝して押さえ込んだ。」
「お、怒ったんですか? 王が?」
グランツ王のイメージってなんか落ち着いてて表情と言ったらなんか、大人びた含み笑いくらいでそれ以外を見たことない。
まぁ、少し顔が強面でバンズ団長と少し違う方向で怖い印象はあるけど感情を露わにした所は想像できない。
「ああ、怒鳴りつけるような感じじゃないが物凄い殺気だった。無関係の私ですら恐怖で魂が抜けそうだったくらいだ。」
「そんなに・・・!? と言うかキリア団長も『怖い』って思うんですね?」
「当たり前だ。君は私をなんだと思ってる。私だって人間だ。人並みの恐怖心はある。」
「す、すみません・・・ッ!?」
何故かキリア団長は身を乗り出して俺に顔を近づけて来る。
近い近いッ!!
「忘れるな?」
「え?」
な、何を言ってるんだこの人?
「人は、『恐怖』すら失くしてしまったら『獣よりも劣る存在』になる。」
「獣・・・ですか?」
「フッ、なぁんてな♪」
キリア団長は笑いながら離れる。
「偉そうに説教してしまったが、君が変に私を買い被るから意地悪したくなっただけだ! あまり気にするなよ?」
「は、はい・・・。」
こういうさばさばした所、如何にもこの人らしい。
それがこの人の魅力でもあるし、みんなに好かれる部分なんだろうな。
いやそれはそうと・・・。
「あの、ひとつ良いですか?」
「なんだ?」
キリア団長が問いを投げ切る前に俺は背筋を伸ばし、左胸に手を当て、敬礼の姿勢を取る
「城下町の一件、ご助力感謝致します!!」
「なんだ? 急にかしこまって。」
「いえ、こういうのは改めてお礼を言うべきかと思って・・・。」
「ふふ、そんな気にするな! 同じ騎士団同士協力し合うのは当然だろ?」
「いやいや!! 協力と言うか一方的に助けられたような感じがしますし、この借りはいずれ、なにかしらの形で返させてください!! じ、自分に出来ることなんてたかがしれてますが・・・。」
団長に深々と頭を下げる。
「・・・。」
団長は目を丸くして固まっている。
「キリア団長・・・?」
「ふ、ははははははは!!」
「ええ!?」
団長は急に笑い出す。
「あの、自分・・・何か変なこと言いました?」
「いやなに、バンズ団長が君のことをここまで面倒を見ていた理由がわかったような気がしてな。」
「え???」
何でバンズ団長が話に出て来るんだ?
「あー面白かった! 笑ったら色々吹っ切れたな!」
「は、はぁ・・・。」
別に笑わせたつもりないんだけど・・・。
「ありがとう、ネルス副団長。」
「ッ!!」
不意打ちだった。
普段の凛とした印象とは違う、はにかんだ少女のような笑顔!!
これは反則だッ!!
なんか胸がキュゥってなる!!
「とりあえずあの時の一件は『貸しひとつ』にしておくよ。」
「は、はいッ!」
「お返し、期待しておくからな。」
「はい!!」
なんかハードル上げられた気がするが別に悪い気はしない。
この人には色々と良くしてもらってるし何か手伝えることがあるなら俺だって嬉しい!
「じゃあな。私も職務に戻ろう。」
キリア団長は笑顔のまま軽い足取りで去っていった。
「・・・・・・・・・・・・。」
しばらく立ち尽くした後俺は・・・。
「~~~~~~~~~~ッ!!!!!」
何かを抱きしめるように腕を交差させて両肘を掴み、悶えるように足踏みをする。
傍から見れば気持ち悪いことこの上ないがそんなの関係ねぇッ!!
副団長になって良かったッ!!!!!!
今だけは本気でそう思う。
あの美人のキリア団長とあんな風に話ができるなんて夢みたいだ!!
嬉しくて嬉しくて仕方がない!!
やばい、にやけが止まらねえ!!
「ネェェェェェェェルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ???」
「ッ!!?」
不意に後ろから声が聞こえて寒気がして振り向く。
「・・・なんだ、レシスか。」
振り向いた先ではキリア団長の補佐官、レシスが物陰から恨めしそうに俺を覗き見るように睨んでいた。
「なんだよ、見てたのかよ。」
頭を掻きながら呆れ気味にため息をついてレシスの元へ歩いていく。
ちなみにこんな馴れ馴れしく話すのは同じ時期に騎士になった同期で新兵時代に少しの間同じ部隊にいた顔馴染みだからだ。
「キリアお姉さまに近づく悪い虫ぃぃぃぃぃ・・・!! 許さないぃぃぃぃ・・・!!」
「べ、別に変な話してないし、やましい気持ちなんかないッ!!」
俺はよく知ってる。
こいつの前でキリア団長と仲良くするのは色々とマズイ。
キリア団長は本人の知らない所でファンクラブを作られている。
しかもあろうことかそのファンクラブの創設者であり、会員ナンバー1がレシスだ。
何故こうなったか順を追って説明するとレシスも良い所の令嬢で、上下関係あれどキリア団長と近しい家系の人間で昔からの付き合いもあったからだ。
家の繋がりや本人同士の付き合いもあってキリア団長が補佐に推薦したというのも自然と頷けるだろう。
で、ファンクラブなんてものを作った理由だが、キリア団長のあの自然と周りを魅了してしまうあの容姿と性格だ、家柄も相まって当然ながら言い寄る人間(主に男)も多い。
それで悪い虫がたかるのを嫌ったレシスが『節度を持ってキリア団長と接する』と言うお題目の為にファンクラブを作ったわけだ。
「ファンクラブ非会員のあんたが近づいていい存在じゃないのよ、キリアお姉さまは!!」
「・・・。」
因みにこの『お姉さま』と言うのもキリア団長の前では言わず、本人が密かに呼んでいる呼称だ。
本人の前ではちゃんと『団長』と呼んでいる。
まぁ、所謂立場上の都合だ。
団長補佐ともあればその辺ちゃんとしないと部下にも示しがつかないからな。
「別に話するくらい良いだろ。それに『会員』と『非会員』で近づく奴を差別するなんてそれこそ『平民』『貴族』の差別と一緒だぞ? そう言うの、キリア団長が一番嫌ってることじゃないか?」
「うぐっ・・・!」
レシスは一歩引いた様に押し黙る。
だからこその『本人に内緒の非公認』なのだ。
どうでもいいが俺もそういうの嫌いだ。
それでこの間ツインズの奴がバンズ団長を馬鹿にしたからな!
「私はお姉さまが無防備に誰彼構わず親しくなってしまう危うさから守ってるだけよッ!! お姉さまは女神の様に慈悲深くお優しい方よ!! 油断してたら困っているのを装って近づいた悪い男に騙されて拉致され、『くっ、殺せ・・・!』と言っても死ぬことも許されずにオークのように醜く肥えた男共にあれやこれや仕込まれてそれはもう見るも無残で淫らな
「おい馬鹿やめろぉッ!! ちょっと想像しちゃっただろうがッ!!!」
何を口走ってやがりますかこの女は!!
「コホン、と、とにかく! お姉さまに近づくのであればそれなりに筋を通して貰わないと私が困るの! と言うことで・・・。」
「?」
レシスは何やら色々と文字の羅列が仰々しい羊毛紙を俺の前に出す。
「この書類にサインすること!」
「『ファンクラブ会員契約書』・・・?」
書類には『キリア団長と話をするときは少なくとも三十センチは距離を離すこと』だとか『歩いているキリア団長の背中を一分以上追ったものはストーカーと見なし、処罰の対象とする』など色々と制限じみた内容でその中でも大きく『告白は抜け駆け行為!! 抜け駆け者はファンクラブ総勢を持って処すべし!!!』だとか書いてある。
「おいこれ・・・遠回しに『キリア団長に近づくな』って言ってるようなもんだろ。」
「いいえ、ちゃんと権利もあります! 制限時間はあるけどお姉さまとも会話は出来るし、会員間でお姉さまの話をいくらしてもいいし、ルールを設けてるからお姉さまを取り合って恋敵同士で争いをしないようにも出来てる! 規律を守ると言う意味では騎士としてもちゃんとした活動よ! ただの私だけの趣味じゃないわ!」
「なるほどね・・・。」
確かに騎士として規律は必要だけどそれで『ファンクラブ』ってのもなぁ・・・。
「とにかく! お姉さまを良く思うならファンクラブ、『Venus・Kiria・Knights』、略して『V.K.K』の会員になりなさい? あんたがその書類にサインすればこのバッジを献上し、あんたをお姉さまを敬愛し、崇め奉る同志、『会員ナンバー356』として歓迎するわ!」
レシスが突き出すように見せて来たそのバッジは、星形の金色バッジだった。
しかも会員ナンバーまで綺麗に彫ってある。
いや、バッジに金使ってるのかよ、騎士団の予算をなんだと思ってんだこいつ・・・。
「何気に会員三桁超えてんのかよ・・・。」
「ふん! 当然! これこそお姉さまの人望の成せる技よ!」
「ソウデスカ・・・。」
「細かい事ごちゃごちゃ言ってないでサインしなさい! このままだとあんた、私の他の会員からも睨まれながら生活することになるわよ?」
「へいへい・・・。」
渋々ペンも貰って契約書にサイン・・・。
「・・・。」
しようとした時だった。
『私を何だと思ってる。私だって『人間』だ。』
「・・・。」
ふとキリア団長の言葉を思い出す。
「ネルス?」
「・・・ふ。」
ペンが止まる俺に戸惑うレシスを見て俺は鼻で笑う。
「ッ!!」
俺は契約書をぐしゃぐしゃにして飲み込む。
「・・・ぐっ!!?」
「ネルス!!?」
途中で喉に詰まって息が出来なくなるが胸を叩いてなんとか飲み込み切る。
「ゼェ・・・ゼェ・・・!」
息を取り戻して呼吸を落ち着かせる。
「何してんのよ!!」
「・・・ちゃんちゃらおかしいね。」
「はぁ!!?」
「女神? 神様? あの人はそんな偶像になることなんて望んじゃいない。」
「何が言いたいの?」
レシスの眼が明らかに敵意を見せるそれに変わる。
当然だな。
それだけのことやって言いやがったからな俺は。
「あの人の望みは『誰とでも対等に接すること』だ。『V.K.K』に入ってあの人を『下から見上げて』しまったらそれこそあの人の想いを踏みにじる。俺はそんなことしたくない。」
「なぁにそれ!! 私よりお姉さまを分かり切ったような言い方ッ!! 気に入らないッ!!」
「お前こそあの人をちゃんと見たらどうだ?」
「あんたに言われずとも四六時中見てるわよ!! 私を誰だと思ってるの!? V.K.K会員ナンバー1よ!! お姉さまのことだったら朝食べた物からトイレに行った回数までなんでも知ってるんだから!!」
「そこまで知るようなことしたらファンクラブの規約違反じゃないか?」
「ファンクラブ創設者の特権!!」
「暴君め・・・。」
「とにかく今の行為はV.K.Kを完全に敵に回したという事よッ!!」
レシスは力強く敵意を向けた人差し指を俺に突き出す。
「ああ、そうだな。」
「これから地獄の日々にのたうち回るがいいわ!! 首洗って待ってなさい!! はーっはっはっはっはっはっはーーーー!!!」
捨て台詞を吐いてレシスは足早に走り去っていった。
全く持って嵐のような女だったな。
まあ確かに総勢三百人以上の相手を敵に回すってのは恐ろしいことだが・・・やれやれ、自分の頑固さが少し恨めしい。
でも仕方ないよな。
俺、曲がった事嫌いだしな。




