#63 オカマの意地
~ウルド 抵抗組織基地 居住区~
「くっ・・・このっ!!」
「ぐがッ!!」
オカマ野郎に殴り飛ばされ、近くの金属製の壁に身体を打ち付ける。
『お兄ちゃん!!』
『ああ、大丈夫だ。』
腕輪の中にいるルタが心配して声を掛けるが問題なく立ち上がる。
「んん"ッ!」
オカマ野郎は足に刺さった俺の剣を抜いて投げ捨てる。
「あんた・・・なんで・・・!」
オカマ野郎は俺の不意打ちに戸惑っている。
無理もない。
「魔覚に頼るからだ。暗殺者相手の訓練とかしてねぇだろお前。」
「あり得ない・・・魔法を使うあんたがなんで『魔力鎮静』を使えるのよッ!」
「誰が教えるかバァカ。」
そう、普通は無理な話だ。
魔法を使う奴の魔力は膨大で魔覚持ちにはいくら隠れたってバレる。
だが俺は今、己の魔力を封印する指輪をしている。
本来は自分の正体を隠す為の物だがこうやって魔力を隠して不意打ちをかます事も出来る。
「まさかあたしが戦闘でマウント取られるとはね・・・でも。」
オカマ野郎は剣を刺されて負傷した足に構わず立ち上がる。
「所詮は『不意打ち』。こうやって相対すれば意味なんか・・・ぅッ!?」
突如オカマ野郎の態勢がぐらつく。
「へっ。」
「あんた・・・まさか・・・!」
オカマ野郎の視線はさっき捨てた俺の剣の方へ向く。
「幻惑剤の材料になる『サイコマッシュルーム』をすり潰した粉を水に溶かして液状にした毒だ。血中に混ざった時点で毒が回る。本来は弓銃の矢尻に使うんだがな。」
「ハーッ! えげつねぇなお前!」
ライは愉快そうに称賛のような罵声を俺に浴びせる。
奴の視界は今水たまりの映像を見ているかのようにドロドロに歪んでいる筈だ。
「これで本当の意味で形勢逆転だ。」
俺はオカマ野郎に拳弓銃を向けて動きを封じる。
「何よ、私を殺さないわけ?」
「バーカ。殺そうと思えばさっきの一撃でやってるっての。」
「・・・そういうこと?」
「なんだウルド! どういうことだよ!」
「ハァ、お前わかってねぇなぁ。」
グラが状況を飲み込めず聞いてくるがライは理解したようだ。
「なんだよ! お前には分かるのか?」
「こいつには捕虜になってもらうってことだ! だろ?」
「ああ、他の雑魚と違って結構強かったし、こいつは幹部か何かだろう。情報もたくさん持ってるはずだ。吐かせりゃ戦況が大きく動く。」
「ぷっ、あははははははははは!!」
「あ?」
オカマ野郎は急に笑い出す。
「何がおかしい? 言っとくがおかしな真似しやがったら・・・ッ!?」
俺が忠告しようとした瞬間オカマ野郎の姿が消える。
「オカマ嘗めんじゃないわよッ!!」
「がぁッ!!」
オカマ野郎は急に後ろから現れて俺をまた殴り飛ばす。
「くっ・・・ッたく、しぶといオカマだな。」
かなりの馬力で殴られて痛いがなんとか立ち上がる。
「手加減する余裕なくなったから本気で行かせてもらうわよッ!」
「なッ!? ぐあっ!!」
オカマはまた目に見えない高速移動でグラの横に回り込んでグラを蹴り飛ばす。
「野郎!」
そこにライがすかさず銃を撃つがオカマ野郎はすぐ気づいて体をずらして回避する、しかし回避が上手くいかず弾丸が右肩に当たる。
「ぐッ!」
「ナイスだウルド!! 幻惑剤は効いてるみたいだ!」
「ああ。」
幻惑剤で視界がぐらついている。
なら当然弾道の焦点が合わないので紙一重で回避するのは困難だろう。
「さぁて、その目で弾丸が見切れるかなぁ?」
ライが容赦なく銃弾を二発放つ。
するとオカマ野郎はすぐに左右に体を振って弾丸を回避しながらライの懐に飛び込む。
「何!? うぉッ!?」
頭を狙ったオカマ野郎の拳はライの左頬にヒットし、そのままライを後ろの壁まで吹き飛ばす。
「くそっ! なんでだ!?」
ライが口から出た血を拭いながらオカマ野郎をやろう見るとハッとする。
なんとオカマ野郎は目を閉じていた。
「視界が悪ければ何も見なければいいじゃない!!」
「何その暴論!!」
「おしゃべりしてていいのかしら?」
ライが避難気味に文句を言うとオカマ野郎は正確に一致を察知してライに殴りかかる。
「あッぶね!!」
ライは横回転で転がりなんとか回避する。
そこに間髪入れずグラが飛びかかり槍を突き出す。
「魔力でバレバレよ!!」
オカマ野郎は即座に蔵の後ろに回り込みリバーブローでグラの脇腹を殴り、そのまま吹き飛ばす。
「くそっ、なんだこのオカマ!!」
「『手負いのオカマは恐ろしい』ってのはよく言ったもんだな。」
皮肉を吐きながらグラとライは立ち上がる。
「ええそうよッ!! オカマは嘗めてかかっちゃいけないのよッ!!」
「舐めたくは無いな、気持ち悪りぃし。」
「!!?」
イキったオカマ野郎の後ろからオカマ野郎を羽交い絞めにする。
「お前学習能力ねぇのか?」
「くっ!」
視界を絶ったのが仇になったな。
奴は聴覚と魔覚を頼りに攻撃を回避して戦っているが魔力鎮静で魔力を抑えて音を殺して近寄ればなんて事はない。
「今だグラッ!!」
「うああああああッ!!」
グラは一気に跳躍して思いっきり飛び掛かりながら殴りかかる。
「大声で位置バレバレよッ!!」
「ぐッ!!?」
オカマ野郎は羽交い絞めにされたまま両足を蹴り上げてグラを蹴り飛ば・・・そうとするが?
「くぅッ!!」
グラはオカマ野郎の左足を掴み、空中で踏みとどまる。
「うぉらあッ!!!」
拳じゃ届かないと判断してか、左手に持った槍でオカマ野郎を横殴りに殴る。
「ぶぉッ!? く、このぉ!!」
「うぉぁッ!?」
右頬を殴られてのけぞるがオカマ野郎はすぐに立て直して左足を大きく振ってグラを投げるように壁へ飛ばす。
「あんたもいい加減ッ!! 鬱陶しいのよッ!!」
「がッ!? ぶがっ!!」
更にオカマ野郎は俺の鳩尾に肘打ちを食らわせて拘束を振り切り、そのまま振り向き様に右フックで俺を殴り飛ばす。
「ああもう面倒くさい! さっさと決着つけさせてもらうわよ?」
オカマ野郎は構える。
「ッ!!?」
オカマ野郎は何故か目を見開く。
「ビリー大尉ッ!!」
「なッ!?」
奥からB.R.A.I.Nと思われる兵士が銃を構えていた。
「大尉を援護しろぉッ!!」
「くそっ!!」
奴らが銃を乱射するので俺達は近くの物陰に隠れる。
「あんた達! 逃げるわよ!!」
「は!? え、いや、了解!!」
オカマ野郎が撤退の指示を出すのに一瞬戸惑いつつも銃を撃ちながらオカマ野郎が逃げるのを援護する兵士。
恐らくオカマ野郎が敗走する姿なんて想像もしてなかったのだろう。
オカマ野郎が横をすり抜けたのを確認すると兵士たちも銃を撃ちながら徐々に下がりすぐに逃げて行った。
『・・・なんか変だったね。』
腕輪からルタが疑問を投げかける。
『確かにな、どういうことだ?』
あいつが自分から逃げる姿なんて見たことがなかった。
何かがおかしい。
「?」
「・・・。」
ふとグラの方を見るとグラも何やら不審そうな目でオカマ野郎が逃げて行った方角を見ていた。
多分俺達と同じような事を考えてるんだろう。
『ライ兄!! 無事!?』
「!」
通信機からディグの声がする。
「ディグ。状況は?」
『・・・やられたよ。』
「何があった!?」
『居住区を襲ったのは陽動、本命は医療区、まだ手術中で首輪がとれてない獣人、脱獄作戦中に負傷して療養中だったうちの構成員を攫うのが目的だったんだ。』
「くそ、そういうことか。被害状況は?」
『報告に上がってるだけで14人、その中に・・・。」
ディグの口ぶりが何かおかしい。
何か言いづらそうだ。
「なんだよ! どうした!?」
『・・・メロが連れ去られた。』
「なんだって!?」
あいつ・・・また攫われやがったのか!
「ん? グラ?」
グラの様子がおかしい。
四つん這いになって何かを探している。
「この辺が臭せぇな・・・。」
「???」
何かブツブツ言っている。
しかも鼻をすんすん嗅ぎたてながら何かを探している。
「・・・あった。」
「あった???」
何が?
「おいこれ。」
「ん? それがどうかしたのか?」
「な!? おいそれ・・・!」
ライがグラの拾ったものに何故か驚く。
「ちっ・・・あの野郎・・・!」
「『????????』」
俺と腕輪の中のルタは今一状況が理解できずに頭にハテナマークを浮かべていた。
~レレ カザ ギルド受付~
いつもの日常が続くと思っていた。
あの騎士団の団長に言い寄られ、それをルッカにからかわれ、 他の冒険者たちからの気になりながらも他所他所しい目とか気にしながら、それでもウルドを待つ毎日。
けど今の私は違う。
ペンを握り、書類に殴りつけるように文字を走らせ、書類を作っていた。
「レレ!! この書類、そっちのと一緒に業者に回してくれ!!」
「うん、分かった!!」
父さんが大量の書類を私の横に置くと急いで奥の部屋へ駆け込んでいく。
父さんも私と一緒で書類を作っている真っ最中だ。
討伐依頼の書類、街に被害が出たときの予算の申請、街からの物資の配達依頼、これだけやってもまだ足りない。
なぜなら王都を本部とするギルド協会から通達があったからだ。
それは・・・。
「大変だ!!!」
「・・・来ちゃったか。」
そう、私には今ギルドの扉を蹴破るように開けてきた自警団の男がこれから何を言うか分かっている。
「獣人が街の中に入ってきて暴れてるんだ!!!」




