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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
ロキウス編
60/101

#60 休息


~ビリー ???~


「ガッテェェェェムッ!! 獣人がッ!! サンプルがッ!! 研究資料がぁッ!!」

 薄暗くライトの明かりで所々しか見えない場所で目の前の女はあたしの前で研究資料と思わしき書類を舞い上がらせる。

 その様子をあたしは特に何ともない様子で耳を掻きながら見ていた。

「どうして逃したッ!! このクソオカマッ!!」

 女はあたしに掴みかかる。

 正直研究者のか細い腕だから痛くもないし凄味も無い。

「はいはいラベちゃん、落ち着いて落ち着いてぇ? 深呼吸~。」

「これが落ち着いてられるかこのクソオカマッ!!」

「ラベちゃん? オカマを悪口に使ったらダ・メ☆」

「黙れッ!! 獣人を逃がしておいてノコノコ帰ってきたゴミ風情がッ!! ・・・!?」

 怒鳴り散らすラベちゃんの腕を掴んでそのまま顔をキス寸前の零距離まで近づける。

「ラベちゃん? あなた、百匹の小魚と一匹の鯨、どっちが欲しい?」

「何が言いたいッ!!」

「捕まえた獣人たちね? 他の子と同じくらいでだいたいがつまらないゴミみたいなやつらばっかりだったけど一匹だけピカイチな子がいてね? 猟犬(ハウンド)でもないのにあたしと互角に戦ったのよ?」

「何!?」

 ラベちゃんはあたしの言葉に少し目を逸らしたけどすぐにあたしを睨みなおす。

「だがそれもお前は逃したってことじゃないかこのゴミッ!!」

「落ち着きなさい?」

「まだ何かあるのかッ!!」

「そうそうまだ何かあるのよ。」

「何が言いたいッ!!」

「逃がさなきゃいけない理由があったのよ。」

「何だそれは。」

「そいつね? 私と戦ってる時に結構無茶をしたらしくてね? かなりの重傷だったのよ。けどそれは魔覚を使った的な特殊な症状で私達の国じゃ治療法は不可能。であればどうするか、頭のいいあなたなら分かるでしょ?」

「・・・ッ!」

 ラベちゃんはあたしの言ってることの意味を察してハッとする。

 そして忌々しそうにあたしの手を振り払って離れる。

「ならそいつが完全に直ったのなら、今度こそ無傷のまま捕らえろッ!! できなければお前はゴミだッ!!」

「はいはい、お姫様の頼みじゃ仕方ないわね。いや 『女王様』って言った方がいいかしら? あんまりデイヴちゃんいじめないであげてね? まああの子だったら喜ぶでしょうけど・・・。」

「フン。」

 ラベちゃんは皮肉気味に鼻を鳴らすと部屋を出ていった。



~ウルド 抵抗組織(レジスタンス)基地~


「うぅ・・・ぅぁぁ・・・!」

 真っ白な部屋のベッドの中 俺は悪夢にうなされたかのように唸り声をあげていた。

 こんな状況になった原因は言うまでもなく深淵魔法だ。

 一発撃つだけでもきついのに夜中中に二発も撃てば魔法に必要な精神力を持って行かれてこのザマだ 。

 まじで頭がガンガンするし指一本動かせない。

 ちなみにメロも似たような状態でいつのまにか仲良くなっていたあの白髪の女の子に看病してもらっている。

 理由はこれも説明するのも馬鹿らしいが上昇(ライズ)の使い過ぎだ。

 いつもこれでバカを見ているからアホだなんだと言いたい所だが今回に関しては大目に見るべきだろう、グラを助けた名誉の負傷だ。

 因みにグラとも仲直りと言うかわだかまりが無くなったせいか、ちょいちょいグラが部屋に入って冷やかしているみたいだ。

 まぁ、楽しそうで何より。

 で、俺はと言うと・・・。

「プークスクスクスクスクスクス!」

「・・・。」

 ルタがタオルの入った槽を乗せた小さなテーブルの横で嫌味ったらしくわざとらしい含み笑いをしていた。

「かっこつけて無茶して誰かにお世話される気分はどうでちゅか~?」

「うるせえ・・・!」

 売り言葉に買い言葉で悪態を吐くが正直ぐうの音も出ない。

 昨晩グラに説教したばっかりなのに全く同じ体たらくだ。

 ルタもそれが分かってての皮肉だろう。

「はーいタオル替えまちゅね~♪」

「その赤ちゃん言葉むかつくからやめろ。」

「や~だよ! お兄ちゃんのこと馬鹿にしながら看病するの楽しいもん♪」

 仮にも我が妹ながら素晴らしい性格だな。

 文句の一つも言ってやりたいところだが生憎とその言葉を発する余裕もない。

「ご飯何がいい?」

「お粥で・・・。」

「・・・。」

 ルタはなぜか俺を見たまま固まっている。

「なんだよ。」

「いや、こういう時素直に答えてくるお兄ちゃん珍しいなって・・・。」

「なんだよ急に・・・看病拒むなってレレからの条約持ち出したのお前だろ?」

「いやそうなんだけどさ、お兄ちゃんって何て言うかさ普段ひねくれてるじゃん? だからそんなに素直だと逆に違和感があると言うか・・・。」

「悪かったなひねくれてて。」

「いやいいと思うよ? 普段ツンツンしている相手が弱ってる時にこっちに身を任せてくれるのってさ、なんか甘えてくるみたいで可愛いじゃん?」

「可愛い・・・ぅッ!」

 その言葉を聞いた途端に背筋がゾッとする。

「どうしたの? 急にそっぽ向いて。」

「いや別に・・・。」

「はは~ん。」

 くそ、勘付かれた!!

「さてはお兄ちゃん治療にかこつけて襲われた事でも思い出した?」

「いや違ぇし・・・。」

「確かデミオだったっけ?」

「・・・よく覚えてるな。」

「妹は何でもお見通しなのです!」

「黙れ偽妹・・・!」

「だってあの時は仕方なかったんだよ? 消毒薬付けた時に痛みを必死で我慢するお兄ちゃんの顔と声・・・最ッ高に可愛かったんだから!!」

 ルタは何かを抱きしめるように自分の身体に腕を回してくるくると回りだす。

「まじまじと観察してんじゃねえよ変態。」

「あの時は自分自身を抑えられませんでした!」

「まんま性犯罪者の言い訳じゃねえか。」

「ねえ。」

 ルタは覆いかぶさるように俺の上で横たわる。

「あの時の続きする?」

「おい。」

「分かってる分かってる! 『看病中の悪ふざけは禁止』、だったよね?」

「分かってるなら

「それに。」

 ルタは芋虫のように這ってくる。

「魔法で精神がグズグズな今のお兄ちゃんじゃ・・・。」

「ちょ、おい・・・!」

 顔を俺に近づける。

「いくら誘惑したところで・・・。」

 俺の顔の横で口元を俺の耳に近づけ、シーツ越しに俺の下の部分を(さす)る。



()()()()だろうからね。」



 艶の入った声で俺の耳に向かって囁く。

「おま、何言って・・・!」

「あれ? あれれー!? お兄ちゃん顔熱いよ!! どうしたの!?」

 ルタはわざとらしく俺の額と自分の額に手を当てて体温を比べる。

「熱がある! 一体誰のせい!? は! まさか何処かの国の刺客の仕業!?」

 ルヴァーナの刺客!

 俺の目の前の!!

「大変大変! 急いでお粥作らなきゃ!」

 ルタはわざとらしく慌ててベッドから飛び退く。

「・・・。」

 面倒なので敢えて突っ込まない。

 何にせよさっさと出ていってくれるなら何でもいい。

「あ、そうそう!」

「あ?」

 なんだよまだなんかあるのかぁ?

()()()()()()()いつでも言ってね?」

「はよ行け・・・!」

「にひ♪」

 薄目で小悪魔気味に笑うとルタは足早に部屋を出ていった。

「・・・やれやれだ。」

 ただでさえ酷い頭痛が更に酷く

「ウルドっち~! またコスプレしよ~!!」

 サンが女の子物の服を両手に持ってきて勢いよく入ってきた。

「・・・。」

 神様っているんだろうなぁ・・・とてつもなく性悪な性格のな!!!!



~キリア プロテア王宮~


 あれから獣人たちの暴徒は全て鎮圧され、人死はあれど被害は最小限に抑えられた。

 ・・・とも言い難い。

「今すぐに獣人を排除するべきです!!」

 謁見の間にツインズの声が響き渡る。

「聞けばアステリオンはロキウスとの戦争で疲弊していると聞きます。金や食料、物資欲しさに略奪に来たと考えれば全て筋が通ります!」

 ご立派な御託を並べてはいるがよくもまあいけしゃあしゃあとそんな言葉が出てくるものだ。

 ツインズを始めとした貴族連中の近衛騎士団は貴族街の上流階級の家々の者を中心に王宮へ避難させ、王宮ばかりを防衛をしていたため城下にはほとんど兵士を割いていなかった。

 それなのにいかにも城下に満遍なく防衛していましたよとばかりに声を荒げて主張している。

 自分達の事は棚に上げて王の不手際を主張してマウントを取って自分の発言権を強めようとしているわけだ。

「まあ待て、ツインズ団長。」

 王は落ち着き払って手をかざし、ツインズに待ったをかける。

「戦争中の国にむやみに横槍を入れれば外交的にも大きな問題になる。根拠となる物証がない以上、ここは慎重に行くべきだ。」

「王よ! 我が国が攻め込まれているのですッ! 悠長な事は言ってられませぬッ!」

「ツインズ団長の仰る通りです! アステリオンに攻勢の許可を!!」

 他の団長達も騒ぎ出した。

 だが・・・。



「静 ま れ 。」



「「「ッ!!!!」」」

 団長達は凍ったように黙り込む。

 王が一言を発したその時の視線が元凶だ。

 蛇が蛙を睨むような・・・いや、そんな生ぬるいものじゃない!!

 兎の前に対峙した獅子・・・それも違う!!

 そう、例えるなら・・・象が本来見えるはずも無い蟻を真っ直ぐに見て、今にも踏み潰そうとしているような圧倒的な威圧感だッ!!!

 この場にいた私ですらその圧力には胸が潰されそうだった。

「次に獣人達が攻め入って来たときに備えて入念に準備をしろ、捕虜を捕らえて何故攻め入ったのかを問いただし、その仮設の通りならば此方から攻める大義名分も出来よう。」

「くっ・・・ぅぅ・・・!」

 王の気に威圧されてか、はたまたその正論にぐうの音も出ないのか、ツインズを始めとして他の団長達も黙り込む。

「騎士達は現状維持、指示があれば追って連絡する。以上だ、下がれ。」

「「「・・・は。」」」

 王の言葉に異論を挟めずか、特に反論もなく騎士達は下がっていく。

「キリア団長。」

「!」

 唐突に呼ばれて王に向き直り、右手を床につけて跪く。

「話がある。バルコニーまで来てくれ。」

「は。」

 王が立ち上がり、玉座から降りて歩を進めると私もそれについていく。

 謁見の間を出て廊下を歩き、階段を上がってすぐの大扉を出るとバルコニーに出る。

 庭園を兼ねたバルコニーの飾られた花に囲まれた中心部で王は足を止める。

「さて。」

 王は私の方へ向き直る。

「すまないな。他の団長達には聞く余裕も無さそうだから移動させて貰った。」

 王は先程の威圧的な態度とは打って変わって気さくな笑みで話す。

「失礼ながら、お話と言うのは?」

「ああ、(くだん)の獣人だが、現場を()()()()()()キリア団長から見てどう思う?」

「!」

 引っ掛かる言い方だ。

 恐らくは他の団長達がどのように動いているのか見抜いているのだろう。

 しかし・・・。

「『どう』、とは?」

「ふむ、言い方を変えよう。町を襲った獣人達だが、何処か不自然な様子は無かったか?」

「不自然な事・・・。」

 獣人達と戦っていたときの事を思い出す。

 確かに言われてみれば無いとは言えない。

 いくら獣に近い人種とは言え、まるであれは・・・。

「例えば、『狂戦士(バーサーカー)のように正気を失っていた』・・・とかな?」

「ッ!? な、何故それを・・・!」

 謁見の間では報告はしていなかった。

 だから王が知っているのはおかしい!

「実は既にアステリオンからその手の暴徒が攻めて来たと報告を受けていたんだ。」

「では何故・・・!」

「騎士達に情報を与えなかった事に関してはすまない。何分、何処から情報が洩れるか分からないからな。」

「それほどまでに情報を公表したがらないのは何故ですか?」

「キリア団長、この世界において狂戦士(バーサーカー)になる原因とは何だと思う?」

「はぁ、『戦いに精神を病んだ者』、『悪逆の限りを尽くし戻れなくなった者』・・・あとは・・・。」

「『薬物や魔法などにより精神が壊れた者』、『魔物や悪逆な魔術士(メイジ)に操られている者』・・・とかな。」

「! 王はその線でお考えを?」

「いや、考えればいくらでも筋道はある。だが今私が言った線で行けばツインズ団長達に言われるがままアステリオンに攻め入ったとしよう。アステリオンからすれば私たちはどう映る?」

「『誤解して理不尽に攻め入ってきた侵略者』・・・ですか?」

「そうだ、あまりに早計な判断をしては我々は罪もない国の民に剣を振り上げることになるやもしれない。だから慎重に行こうと言ったのだ。」

「し、しかし今のままでは後手に回ったまま獣人達が国中を蹂躙するやもしれません。」

「ああ、だが私も何も手を打っていない訳ではない。」

「と言うと?」

「とある知り合いに頼んで私の所の密偵と一緒にアステリオンを調査してもらっている。」

「とある知り合い・・・その者は信用出来るのですか?」

「ああ、大丈夫だ。」

 王はそう言うとにこりと笑う。



「私の親友(とも)だからな!」



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