#58 命の天秤
~ゾルガ 車両内~
俺達は乗せられるままに車とか言う変な乗り物に載せられている。
他の獣人達も横一列に並ぶように座っている。
「なぁ。」
「あ?」
唐突にゴトマが声をかけて来る。
「良かったのか?」
「何がだよ。」
「自分の娘だぞ? 何処の馬の骨とも分からねぇ奴に預けちまって良かったのか?」
「・・・。」
「ふん。」
答えない俺にゴトマは小馬鹿にするようにそのデカイ鼻を鳴らす。
「笑えるよな。力で何もかもやってのけたお前が、いや、俺達獣人が力も無く他の奴を頼らないといけないなんてよ。」
「あ~全くその通りだ!!」
「あ?」
「ぐぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
俺は思いっきり笑う。
「なんだてめぇ、イカれやがったのか?」
「笑えるって言ったのお前だろうが!!」
「ちっ・・・。」
言質を取られてゴトマは舌打ちする。
「心配すんな! あいつは信用できる!!」
「あいつ? ああ、てめぇが娘のつがいに認めたあいつか?」
「あいつは強い!! 俺達が信用する理由なんざそれで充分だろ!!」
「ふん、てめぇとは意見が合いたくないんだがな、村の連中潰されてんの見たしな。」
「はっはっはっはっは!!」
「ふっ・・・はっはっはっはっはっはっはっは!!」
俺につられてゴトマが笑い出すと他の獣人達もつられて笑い出し、乗り物の中は一気ににぎやかになった。
~メロ ロキウス市街地~
私たちは今サンの運転する『ホバーバイク』とか言う宙に浮いた乗り物に乗っているのです。
「おいもっとスピード出ないのか!?」
「無理無理!! 既に定員オーバーなんだよ!? 無茶言わないでよ!!」
確かにホバーバイクはそんなに大人数が乗るような大きさじゃないのです。
せいぜい二人が乗れてやっとの運転席、その横にある荷物入れに私とグラを乗せて辛うじて四人乗れてる状態なのです。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
「グラ・・・。」
グラは朦朧とする意識の中、布を巻いた状態で息を切らしているのです。
師匠には『直接触れるな』と言われていたのですが理由はなんとなく分かるのです。
布越しでも熱いのです。
火神の限界が来ると体温が上昇しすぎて身体を焼き尽くされるって話、これを見たらどう考えても本当だと信じざるを得ないのです。
グラが今にも死にそうだって事が身に染みて分かるのです。
「グラ・・・しっかり、絶対助かるのです!」
「うる、せぇ・・・!」
「・・・。」
グラ、まだ私の事を・・・。
「お前がうるせぇ。」
「!!」
師匠!?
「て、めぇ・・・!!」
「あんだけカッコつけてそんなザマなんだろうがッ!! 黙って運ばれろ、脳筋女。」
「ぐっ・・・。」
グラは言葉を詰まらせるのです。
「師匠・・・い、いくらなんでも怪我人にヒドイのです。」
「黙れ。命より大事な意地なんざねぇ、それが分からんこいつが悪い。」
「それは・・・その・・・。」
合ってるような・・・でもグラの気持ちも・・・。
『そろそろ関所に着くよ! 止まって!!』
「ほい!!」
通信機からディグが指示するとサンはホバーバイクを道の脇に止めたのです。
「敵の数は?」
師匠はすぐに通信機に手をかざしてディグに聞くのです。
『ちょっと待ってて・・・くそ、多いな。』
「どれくらい?」
『生体反応約五十、そのうちA.Aが五体。普通に考えて戦闘は不可能だ。』
「じゃあ強行突破?」
『簡単に言うけど数が数だよ? それに関所の通路は戦車ががっちり塞いでる! 突破だって容易じゃない!』
「うーん、じゃあバレないようにホバー機捨ててすり抜けていくしかない・・・かな?」
『確かにそれが賢明だけど泉の魔力の反応がある場所までかなりある。歩いていくとかなり時間がかかるから間に合うかどうか・・・。』
「待て。」
「『うん?』」
師匠の言葉にディグとサンの反応が被るのです。
「『強行突破』だ。」
「『はあ!?』」
また二人の反応が被るのです。
「俺に考えがある。けど・・・。」
師匠は苦笑いを浮かべながら人差し指で頬を掻きながら目を逸らすのです。
「あんまりやりたくないんだけどな・・・。」
「?? 師匠? 何を企んでるのですか?」
「今に分かる。ほら、急ぐぞ。」
「え、えぇ? 何するのー?」
「関所に着いてもとにかく走れ。」
「うんん???」
サンも理解できないみたいなのです。
「行くぞ。出せ。」
「う、うん。任せたよ!? ホントに頼むからね!??」
サンは半ばヤケクソ気味にホバーバイクを走らせるのです。
―――数分後。
『もう目と鼻の先だよ!!』
「オーケー。」
「??」
師匠はそう言うとサンの後ろの助手席から立ち上がって身を乗り出して指輪を外したのです。
「解錠!!」
師匠は剣に手をかざして何か言葉を発したのです。
魔法の詠唱なのですか?
でもそんな魔法言語聞いたこと無いのです。
「天の怒り 裁きの鉄槌 断罪の使命を この剣にて 代行せん」
「!!」
剣が光り始めたのです。
師匠がよく使う付与の魔法なのですか?
でもなんか違う気がするのです。
「見えて来た!!」
「え!」
サンが声を上げると目の前には大勢の人だかりのような軍団が居たのです。
さっきディグが言ったようにA.Aもいるのです。
「雷光 銀 結合・・・『裁きの雷たれ魔の刃』!!」
「ッ!!?」
師匠が魔法の詠唱を終えると剣がさっきよりも強く光りだして雷を纏ったのです。
でもいつも師匠が使ってる雷の剣とは訳が違うのです。
巨大な塔のような途轍もないデカさの剣なのです!!
いや、雷が巨大な剣の形をしているって言い方が一番正しいのかもしれないのです。
でも・・・。
「これ・・・!!」
あの時の師匠の剣なのです!!!
私が最初にカザの近くで偶然見た、あの黒い鎧の男を一撃で倒したあの巨大な魔法の剣なのです!!!
『敵、動き有り!! 臨戦態勢だ!!』
ディグが状況を伝えるので敵側を見るとA.Aが三体物凄い速さでこっちに向かってきたのです!!
「邪魔だ。」
師匠が巨大な雷の剣を片手で軽く横に振るとその刃はA.Aの首元に当たり、焼き切るように三体全ての首を刎ねたのです。
「ひぃぃ!!」
巨大な長物を振り回しているせいか、物凄い暴風に振り落とされそうなのですッ!!
「さあ。」
「?」
師匠は口元をにやつかせながら剣を天高く掲げる。
すると剣は師匠の意思を察したかのようにさらに巨大化したのです。
「死にたい奴だけそこにいろ。」
「し、師匠・・・!」
師匠は邪悪な笑みを浮かべると剣を振り下ろすのです。
でも一気に振り下ろさずゆっくり振り下ろすのです。
剣もゆっくりと敵の軍勢の方へ倒れていくように振り下ろされていくのです。
まるで巨大な塔が遠めから見てゆっくり倒れて来るかのように・・・!
「うわああああああぁぁぁ!!!」
「撤退!! 撤退ぃぃぃぃぃ!!!」
敵の兵士たちは必死に走って散り散りに逃げ始めたのです。
関所の通路を塞いでいた戦車からも兵士が出てきて逃げていくのです。
それでも師匠の剣は止まらず、兵士たちが本来守っていた場所に倒れ込むように振り下ろされるのです。
「う、うぅ・・・!!!」
爆発のような轟音と共に瓦礫がはじけ飛び、爆風に押されながら必死に荷台にしがみつくのです。
爆破の煙が晴れると私たちが通ろうとしている場所には巨大な一本道のような大きなクレーターが残ったのです。
道を塞いでいた戦車も無残にそのクレーターに沿ってえぐり取られたかのような残骸が残っているのです。
「ビッグチャンスぅ!!」
サンはしめたとばかりにホバーバイクを走らせて一気に通り抜けていくのです。
「ぬ、抜けたのです・・・!」
関所の門があったと思われる瓦礫を抜けたのです。
「へっ、ざまぁねぇな・・・。」
「師匠!!?」
師匠が後ろに倒れて落ちそうだったのでなんとか荷台から乗り出して支えて荷台に乗せるのです。
「だ、大丈夫ですか!!?」
「ああ、ちょっと魔力使い過ぎた。休むわ・・・。」
「・・・。」
さっきの魔法、もしかしなくても魔力の消耗が激しかったのですね。
確かに使いたくないって言うのも納得なのです。
「く、くそ! うわああぁッ!!」
後ろからあとを追ってきた兵士がやけくそ気味に銃を撃って来たのです。
「ハッハーッ! この距離で機関銃バンバン撃ったって当たるわけ、あ。」
なんか一発ホバーバイクのお尻辺りに当たったのです。
「うぇッ!?」
しかも当たったところからちょっと爆発して煙が上がったのです。
「・・・。」
サンがガマガエルの様な口で黙り込むのです。
『サああぁンんんんん?』
通信機からディグの怒り、というか恨みの籠った声が聞こえるのです。
「だ、大丈夫大丈夫!! 走る分には・・・。」
『今『走る分には』って言ったかおい。』
「煙上がってるのですけど?」
「大丈夫大丈夫!! ・・・・・・・・・あ。」
「え?」
サンの『あ』と共にホバーバイクが徐々にスピードを落としていってついには止まってしまったのです。
「うわあああああぁぁ!! どうしよどうしよどうしよッ!! 助けてディグぅ!!」
『無茶言うなッ!!』
「修理!! と、とりあえず待ってて!!」
「待てるかよ。チッ、仕方ねぇ。」
師匠は身体を起き上がらせるとグラを背負ってホバーバイクを降りるのです。
「ウルドっち!?」
「サン、お前は引き続き修理しろ。直ったら追いついてくればいい。」
「う、うん・・・。」
そう言うと師匠は走り出したのです。
「わ、私も行くのです!!」
すぐに師匠に続いたのです。
「ディグ。泉までの距離は?」
『二キロ先、歩きだと結構かかるよ!?』
「泣き言言ってる場合じゃねぇ、方向指示だけ頼むぞ。」
『う、うん。そうだね、やるしかない!』
―――それからしばらく走ったのです。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
「ディグ、方角あってるか?」
『大丈夫、このまままっすぐ!!』
かなりの距離を走ったのです。
心なしか師匠も私も走る足が疲れて遅くなってるのです。
「ぐっ・・・!」
「ッ!? 師匠ッ!!」
師匠が膝から崩れたのです!!
「だ、大丈夫だ・・・!」
師匠は起き上が・・・。
「諦めて・・・たまるか・・・!」
ろうとしてるけど完全には起き上がっておらず、膝を引き摺るように進んでいるのです。
どう考えても普通に歩くよりも遅いのです!!
きっとさっきの魔力を使った時の疲労が回復しきってないのです!!
「へっ・・・。」
「あ? グラ? うおッ!!?」
ほくそ笑んだかと思うとグラはありったけの僅かな力を使って師匠の背中を蹴って背中からずり落ちたのです。
「何しやがる!」
「へへ・・・へ・・・。」
「グラ?」
グラは変に笑いながら状態を起こすのです。
「もう、いいよ・・・。」
「え?」
グラの意味の分からない言葉に呆気に取られていると・・・。
「ッ!! グラッ!!?」
既に事が起こっていたのです!!
グラの頬から僅かに炎が上がり始めたのです!
「グラ・・・!」
「見て分かんだろ・・・? もう限界だ。」
グラが皮肉気味に言うと頬の炎は首筋を通って肩まで進んでいるのです。
「チビ助・・・。」
「?」
「最後に一発・・・ぶん殴りたかったな。」
「・・・!」
グラ・・・そんな言い方、まるで・・・!
「てめぇ、ふざ
「ふざけんなですッ!!!!!」
「ッ!?」
師匠が怒るよりも先に叫んだのです。
「勝手な事言うなですッ!! 私グラとこんなお別れなんて嫌なのですッ!!」
「何言ってんだ・・・もう・・・。」
「うるせぇですッ!!!」
そういってグラを持ち上げるように肩に背負うとすぐに走り出すのです。
「うぐっ!!?」
熱い!!
グラの炎が上がってるところを触ってもいないのにそれ以外の部分も火に触ってるかのように熱いのですッ!!
でも・・・!
「うわああああああああぁぁぁぁッ!!!!」
足にありったけの上昇を使って走るのです。
正直あとの反動が怖いけどそんな事言ってられないのです。
『目標地点まであと二百メートル!! もうすぐだよ!!』
「ッ!!?」
突然私の外套が燃え始めたのです。
「グラ!?」
グラの身体がもう上から半分以上炎に包まれてるのです!!
「もう・・・やめろ・・・!」
「ッ!」
「もう・・・俺を放り捨てろ・・・でなきゃ死ぬぞ・・・お前まで・・・!」
「ッ!!」
『死ねッ!!』
突如グラに槍で貫かれて殺されそうになった時の事を思いだしたのです。
なんで!?
『死にたくないッ!!』
なんで今それを思い出すのですか!?
まさか私・・・こんな時にあの時みたいに自分が死にたくないなんて思ってるのですか!?
「何やってる・・・! 早く・・・俺を・・・!」
「・・・。」
グラが言ってるのです・・・。
思わず足が止まり、手の力が緩むのです。
そうです。
放せば楽に・・・。
そして私は生きて・・・。
『そうやって『罪』を捨てて、逃げるのデスか?』
頭の中に、声が響いたのです。
『逃げたければ逃げればいいのデス。』
この声は・・・。
『結局お前は
「黙れですッ!!!!」
そういってグラを抱えた腕に力を込めて再び走り出すのです。
今のはグラにも言ったけど、一番言い聞かせたのは自分の中に潜んでいる『卑怯な悪魔』にです!!
「死なせないッ!!」
そうなのです!!
何のために私は此処まで来たのですか!!
目的を見失うなこの私ッ!!!
「死なせないッ!!!」
『魔力反応地点に到達!! 泉に急いでメロッ!!』
ディグが案内するとすぐに泉が見えてきたのです!!
「グラは絶対ッ!! 死なせないのですッ!!!!!!」
グラと一緒に炎に包まれながら泉に飛び込んだのです!!
「・・・!」
口と鼻から空気の泡を出しながらゆっくり目を開けるのです。
グラ・・・無事なのですか?
「?」
何かが私の頭に優しく当たるのです。
「!」
グラの手なのです!
グラ・・・水の中で仰向けに脱力してるけど私を見てるのです。
しかもなんか、顔に力がないけど笑ってたのです・・・!




