#54 潜入
~ネルス プロテア城下町~
既に城下は建物に火が上がる程の被害が出ていた。
「た、助け・・・!」
「ぎゃああああぁッ!!」
「死にたくないッ!! 死にたく・・・おぐぇッ!!!」
「いやあああぁッ!! 殺さないでぇッ!!」
命乞いも空しく顔面に振り下ろされる鉈。
逃げる背中に叩きこまれる斧。
命を懇願する口にねじり込まれる剣。
息をするように人が死んでいく。
城下は阿鼻叫喚の地獄だった。
「グアアッ!!」
「うわああああぁッ!!」
今にも一人の男に狼の獣人が襲い掛かりそうな時だ。
「はぁッ!!」
盾を構えたまま獣人に思いっきり体当たりをかまして吹き飛ばす。
「き、騎士様・・・!」
「早く逃げろ!!」
「あ、ありがとう・・・!」
男は足早に逃げていく。
「がぁッ!!」
「な!?」
獣人は起き上がるなり俺のことなど眼中に無しとばかりに逃げる男を追う。
「このッ!!」
俺はすぐに獣人の進路を塞いで盾で獣人を止める。
「グウウゥウアアアアァッ!!」
いい加減俺を鬱陶しいと感じてか、獣人は何度も手に持った斧を俺に向かって振り下ろす。
「くっ・・・うぅ・・・!」
何度も斧を叩きこまれるも盾で防ぎながら凌ぐ。
普通に考えれば防戦一方だが・・・。
「『十字』ッ!!」
俺が合言葉を叫ぶと両サイドの後ろから隠れていた兵士が獣人に向かって剣を横に構え、十字の交差を描くように真っ直ぐ走り抜けながら獣人の横腹を切り裂いた。
訓練で兵士全体に叩きこまれている陣形の一つである『十字陣形』。
一人が盾で敵を押さえ、号令を出したら伏兵で襲い掛かる少人数の連携だ。
「グゥガッ!?」
「はぁッ!!」
「グガァッ!!」
獣人の態勢が崩れた隙に脳天に剣を叩きこんでとどめを刺した。
「くそ・・・!」
他の騎士団は何してるんだ!?
市街地を守りに来る人数が明らかに少ない!
獣人は彼方此方にいるってのに・・・!
「隊長!」
「部隊を三部隊に分けろ。第一分隊は西へ向かいながら獣人の掃討に当たれ、第二分隊は東、俺達第三分隊は南、各分隊長の指示に従え!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
部隊はそれぞれ分かれて走り出す。
「・・・!」
しばらく走ると敵を見つけた!
数は三体、此方の数は十人・・・なんとかいけそうだ。
「「「グアァッ!」」」
「な!!?」
更に奴等の後ろの路地の陰から五体出てきた!!
まずい!
数は此方が多いが獣人の戦闘力は一体に対して只人数人合わせてやっとの相手だ!
今の人数でこの数を相手にするのはキツイ!!
「くそ・・・!」
援軍を呼ぶか?
いや、こんな纏まった集団を1秒でも長く放置していたら市街地に甚大な被害が及ぶ!
「隊長、我々はどうすれば・・・!」
兵士も判断に迷っているようだ。
撤退するか・・・掃討するか・・・どっちも無理だ!!
こうなったら・・・!
「足止めだ!! とにかく時間を稼げ!! 『壁』!!」
俺が号令を掛けると兵士たちは壁の様に横一列に並び、前方に盾を構える。
「突撃!!」
「「「わあああああぁぁぁぁッ!!!」」」
俺が合図すると兵士たちは勢いよく走り出す。
「「「ガアアアアアァッ!!!!」」」
獣人達も応戦するように俺達に襲い掛かって来る。
「ぐッ! うぅ・・・!」
奴らの猛攻を盾で必死に防ぎながら耐える。
にしても凄い猛攻だ!
正直受け続けるのはキツイ!!
だが耐えるんだ!!
俺達が注意を引き付けていれば奴らも民間人を襲えない。
それに時間を稼げれば・・・。
「よく持ちこたえたな。」
「!!」
その綺麗な声が聞こえたかと思ったら既に事が起こっていた。
「「「ガアアぁッ!?」」」
一度に三、四体の獣人が断末魔を上げ、背中から血を噴出しながら倒れる。
「グァゥ!?」
獣人がその犯人に気づいたときにはもう既に遅かった。
一つの人影が獣人達の脇から脇をすり抜けるように通り過ぎると、獣人達の胸元や首元から切り傷が浮かび血が噴き出す。
一瞬のうちにして獣人の集団が全滅したのだ。
やったのは・・・。
「キリア団長!!」
兜を被っているので顔は判別出来ないが団長しかつけることを許されない胸に付けられた金の花の勲章、鎧越しでも分かるスラっとした体型、そしてなにより兜に覆われていない長い金の髪は彼女以外ありえなかった。
「兵士が少ないようだな。やられたのか?」
「いえ、東と西と南の三方向へ隊を分散させました。」
「なるほど。」
「隊長の兵は?」
「君たちと同じだ。他の区域を兵を分散させながら当たらせている。」
「・・・!」
この人部下も付けずに一人で獣人倒して回ってたのか!
なんて人だ・・・!
「今みたいな数の敵がまだいるかもしれない。微力ながら加勢するよ。」
「は、はい! 助かります! 微力だなんてとんでもないッ!!」
「ふふ、そうか。では行くぞ!!」
「はい!!!」
俺達はキリア団長と共に獣人を倒して回った。
~ウルド ???~
「此処が収容所か。」
俺たちの目の前にはコンクリート造りの巨大な建物が巨像の様に立ちはだかっていた。
メンツは俺とライとメロの三人だ。
表向きはだが・・・。
時間帯は午前一時、馬鹿どもが寝静まるには・・・もとい、潜入するにはうってつけの時間だ。
『あーあー、マイクテスマイクテス、聞こえてる? 三人とも!』
耳に付けた通信機から元気のいいサンの声が聞こえる。
あいつは狙撃手らしく、遠くで待機しているらしい。
どれくらい遠くかは知らないが・・・。
「おーおー聞こえてるよ。夜の眠いこの時間にけたたましい声がな。」
『目覚ましにうってつけだね!』
ライとサンは通信機越しにワイワイやっている。
「いやな目覚ましだな・・・大体目覚ましは朝に鳴らすもんだろうが。」
「聞こえる・・・ホントに聞こえるのです・・・!」
通信機に慣れていないメロは珍しい物に目をキラキラさせている。
まるで子供、いや、ふつ~~~に子供だな。
『あーあーマイクテスマイクテス、聞こえる? お兄ちゃん?』
『変な対抗せんでいい!! つか何回もこのやり取りやってんだから今更確認する必要ねぇだろ!』
腕輪からくだらない茶々を入れるルタにツッコミを入れる。
そう、ルタは俺の腕輪の中にいる。
表向きは留守番と言っていたが、こっそりついて来ていた。
まぁこっちの方が隠密行動には都合がいいからいいけど。
『ん? んん? 今更確認する必要ない? それはつまり、『心と心が通じ合ってる』って事だね!?』
『気持ち悪い言い方やめろ!』
『でも意味合いとしては間違ってないよね?』
『ただの念話だろ! しかも腕輪の機能の!!』
『間違ってないと思うけどなぁ・・・これそもそも好き同士じゃないと使えない機能だしぃ~。』
『だぁまぁれッ!!』
相変わらずうぜぇ・・・!
「ハァ・・・さて、まずは・・・。」
―――夕方頃。
あれから身支度を整え、会議室と思われる場所に俺たちは集められ、それぞれ長机に座る。
机の配置は二つの机が半分ずつの人数が向かい合うように配置されており、それを繋げるように直角の位置に司会進行のフレッドが座る配置だ。
「まずは獣人達が捉えられている収容所の警備システムについてだ。ディグ。」
「はい。」
フレッドが声を掛けるとディグは手元の端末をカタカタと音を立てながら操作する。
すると丁度俺達全員の目の前に映像が浮かび上がる。
映像は立体的で、収容所と思われる建物を映し出す。
「この収容所は普通に侵入しようとしても死角がない。まず、普通に室内に侵入しようものなら赤外線センサーがそこら中に張り巡らされ、振れれば一瞬で警報が鳴って侵入が明るみになる。」
「セキガイセンセンサー?」
「見えないレーザー・・・光線だな。それに当たったら侵入がバレる。」
「ちょっと待て! それって・・・!」
「避けようがないじゃないですか!!」
「「「・・・。」」」
「・・・ハッ!」
つい思わずメロと同じような反応をしてしまったが周囲から冷たい視線を察知して察した。
この視線・・・明らかに『バカな奴を見る目』だ・・・!
うわなんか恥ずかしいッ!!
でも仕方ないだろ!
ロキウスの技術なんか知ったこっちゃねぇし!!
『お兄ちゃんお可愛いこと! ぷぷぷ・・・!』
『うるせぇ!』
ルタも知ってたみたいだが大形察しがつく。
以前この国にも潜入してたっぽいし警備の仕組みも粗方知ってるんだろう。
『お前と 違ってこっちはカタギなんだよッ!!』
『冒険者ってカタギになるのかな?』
『やかましいッ!! ジャンルが違うんだよジャンルがッ!!』
「まあ大方二人が知らないのは予想できてた。」
「!」
俺たちの念話を他所にフレッドは返答を返す。
「そんな二人のために目の前に置いておいた。」
「・・・これ?」
フレッドが指しているのは何やらゴーグルらしきものだ。
何故か俺とメロだけ席を指定され、目の前にこれがあったから気にはなっていた。
「それを装着してみるといい。」
「??」
よく分からないが付けてみる。
「!」
ゴーグル越しに見える風景は何やら薄暗かった。
しかし本来見えるはずのないものが見えた。
収容所の映像の上あたりに細くて長い赤い光の線が何本もあった。
それが赤外線だ。
「このゴーグルは?」
「それを見えるようにするための、云わば赤外線スコープだ。」
「なるほど・・・これで赤外線の光を見ながらそれを避けて進むわけか。
「ああ、だけどそれだけじゃダメだ。」
「まだあんのかよ!」
「収容所内は全て監視カメラで見張られている。監視カメラと言うのは・・・。」
「ああ、それなら大統領の官邸でも見た。部屋の天井の四隅から俺達を覗き見るようにしていたアレだろ?」
「説明の必要は無さそうだね。」
「・・・っていうかそれじゃ無理じゃね? 要するにそのせいで俺達が侵入した時点で奴らに見られてバレるってことじゃないか?」
「大丈夫だ。君たちの侵入に合わせてディグがハッキングを掛けて何台かカメラを一時的に停止させる。」
「ハッキング?」
「奴らの監視カメラを操作しているコンピューターを遠隔操作する・・・って認識で大丈夫ですよ。」
ディグは眼鏡をクイっと上げて説明する。
「何台かって・・・全部停止させることは出来ないの?」
「怪しまれる危険性を避ける為だ。停止させたカメラの映像は何もない時の映像をループ再生させるものだが、彼らもそれに気づかないほど馬鹿じゃない。全部を停止させたら見回りの兵士すら映らないからハッキングを勘付かれるだろうさ。」
「なるほど・・・?」
いまいち分からんがとにかく全部止めるのはダメみたいだな。
「それから・・・。」
フレッドはそれからも作戦の続きを説明した。
―――そして現在。
(とりあえずまずはIDカードの強奪か。)
まず作戦の第一段階は警備員の一人を襲ってIDカードを奪う事だ。
だがそのIDカードも警備員によって行ける場所は限られているらしい。
(階級が上のやつほどいいIDカードを持ってる。コレばっかりは運だがな。)
『外を歩いてる奴は大体ハズレだよ。IDカードを奪われる危険度を考えて階級の低い警備員を配置してるんだ。』
(ちぇ、ケチな奴らだな・・・侵入者に恨みでもあんのか?)
俺達が物陰に隠れて移動する中、通信機越しのディグの説明に対しライは小声で皮肉を交えてぼやく。
(いや別にそんなの関係ないだろ。元々侵入者のいやがる事すんのが奴らの仕事みたいなもんだし。)
(かーッ! お前そこで正論言っちゃう? ノリ悪りぃなモテねぇぞお前?)
(うるせぇ関係ねえだろ!)
『喧嘩しないでよッ! 二人とも隠密行動する気あるの!?』
((うぃー。))
ディグに叱られて俺達は渋々返事を返す。
『とりあえず外の警備員が持っているID カードはせいぜい東側の宿舎棟ぐらいだと思う。けどそのID カードを盗めれば更衣室に忍び込めると思うからそこで上官のIDカードを盗めるかもしれない。それが手に入れば監視カメラを統括している監視塔の扉を開けるはずだよ。』
(すげえ調べあげてるな・・・。)
(ディグは天才ハッカーだからな!)
(ハッカー?)
(会議の時に話したハッキングのプロってやつだ。その気になれば軍部の情報なんて盗めるぜ?)
『おだてすぎだよ。それにあれすごい大変なんだからね?』
いやその口振り、実際やってる奴のセリフだよな?
ハッキングって何でもありか。
『・・・! 前方に生体反応!』
(隠れろ!!)
ライに指示されて物陰に隠れるとディグが言っていた方向に警備員が二人話をするように立っていた。
(何か重要な事話してるかもな。ディグ、音声拾えるか?)
『オーケー、任せて!』
ディグがそう言って通信機の向こうで何かをカタカタ操作すると通信機からザザザと変な音が聞こえてくるようになる。
するとそのザザザの音の中でわずかな男の声が混ざってきた。
そしてザザザの音が強くなると共に男の声がはっきり聞こえてきた。
『どうしてわざわざこんな現場まで?』
『いや何、お前に聞きたいことがあってな。』
『聞きたいこと? なんです?』
『この間付き合ってるって言ってた子と結婚するらしいじゃないか。』
『うーわ! うわ! なんで知ってるんですか!?』
『付き合い始めたの半年前だろ? よくプロポーズしたな。』
『いやもう俺にはこの子しかないと思って思い切って言って見たんすよ! したらオーケー貰えちゃって! いやホントダメもとだったんすけどね!!』
『ホントよくそんな無茶したな。まぁ上手くいったんならいいけどな。』
『伍長だってこの間結婚記念日だったんでしょ! 聞きましたよぉ?』
『お前も誰から聞いたんだよ!』
『ルヴァーナまで旅行行ってたんでしょ! あの奥さんと! 今度行くときは生まれた子供と一緒にですかぁ?』
『よせって!』
(((・・・。)))
なんだこのやり取り・・・。
(んだよノロケ合いかよ、くっだらねぇ。)
(女子かッ。)
『リア充死すべし。』
(ちょっと・・・サンが怖いのです。)
ライと俺は呆れ、通信機越しのサンの声に何故か殺意があったのでメロがそれに顔を若干青くさせていた。
『いやそれよりチャンスだよ! 伍長以上の階級なら監視カメラを管理してる監視棟まですぐ行ける!』
(うーし、なら仕留めるぞ。)
『うんうん! 撃っちゃうゾー☆』
ライは腰から銃を抜いて立ち上がる。
サンもウキウキしたような声を聞かせて来る。
(いや待て! 撃つのかよ!)
(大丈夫だって麻酔弾だ。)
(でも発砲音とか・・・!)
『大丈夫! 音を押さえる『サイレンサー付き』だから♪』
(・・・。)
原理はよく分からんが大丈夫そうだ。
(サン、『起きろ』。)
(?)
ライが何かをサンに命令する。
『ッ! ぅッ・・・ぁ・・・!』
(!?)
通信機越しのサンが何故か苦しそうにうめき声をあげる。
(おいライッ!)
(落ち着け、ちょっと待ってろ。)
(はぁ?)
しばらく様子を見るが・・・。
『・・・。』
通信機から何も聞こえない。
『読み込み完了。現在狙撃形態と確認。ご命令を、主。』
(!???)
声はサンのようだが様子がおかしい!
感情もない人形のように淡々と言葉を話し始めている。
(俺の前方十数メートル先の男二人、そのうちの左側を狙え。俺は右をやる。)
『同意、狙撃対象識別確認、視覚阻害要因ゼロ、照準調整完了、手振れ補正終了、対象の制圧までのカウントを開始、5・4・3・・・。』
サンは淡々と話し続け、狙撃までのカウントダウンを始める。
『2・1・・・発射。』
サンが合図を出すとライは銃弾を一発放ち、それと同時にサンからと思われる通信機からドコッと打撃に近い機械音が聞こえてくる。
(・・・。)
恐らく同時に撃ったんだろう。
その証拠に男二人は撃たれた事に気づかないまま倒れた。
『対象の沈黙を確認。次の命令を、主。』
(寝ろ。)
サンが指示を仰ぐとライがまた特殊な言葉で命令する。
『同意、機能停止します。』
そう言うとサンはまたしばらく黙り込む。
(おい今のって・・・!)
(ああ、あれな。あいつはちょっと特殊でな。)
(いやちょっとどころじゃねぇだろ! 人格変わってんじゃねぇか!)
『サンは脳の半分が機械で出来ているんです。』
(はぁ!? なんだそれ!)
『主に登録したライ兄が命令するとその機械の脳が起動するんです。』
(したらどうなるんだよ。)
(普通の人間に実現不可能な精密射撃、高度な計算、膨大な情報の記憶、難解な古代文字の解析までなんでもござれだ。)
(な、なんかカッコいいのです・・・!)
ライが説明するとメロがちょっと羨ましそうに目を輝かせている。
『あ、あれ? もしかしてもう一人のボク起動してた?』
(うぃ~っす、おはよ~さん。)
サンが気が付いたのを確認するとライが気軽に挨拶をかます。
(・・・。)
(うし、じゃさっさと回収すんぞ、IDカード。)
色々と思うところのある俺の視線を他所にライは軽口を叩いて男たちの方へ向かって行った。




