#50 罠
~ウルド 抵抗組織基地~
何処まで昇ったか分からない。
俺たちが寝ていたあの階層よりかなり高い所まで昇った。
そのうち空の果ての雲より上に来たんじゃないかと思うほどの所まで昇るとエレベーターは止まる。
鉄の柵の囲いのゲートが開くと俺たちはその先に続く扉への道を歩き出す。
「・・・。」
正直言葉が出ない。
全身に緊張が走って身体も上手く動かない。
さっきの話がどうしても引っ掛かるからだ。
この先に俺の事を・・・いや、アルトだった時の俺を知る奴がいる。
誰だ?
あれからディグにも聞いたが『会えば分かる』の一点張りで教えてくれない。
そんな事を考えているうちにカードキーの鍵を設けた扉の前に着き、またディグがカードキーを出して装置に差し込む。
すると簡素に出来ていた扉はすっと横に開く。
「!」
部屋に入るとかなり風変わりな空間に出た。
床には鷹をモチーフにした少し凝ったデザインのカーペットが敷かれており、ガラス細工のローテーブル、仕事机と思われる物も木細工だがカーブが凝ってかなり作りこまれている高級品だ。
「よく来たね。アルト君。」
その人物は頭から足先まで高さのあるガラス窓から町を一望できる場所で此方を向かずに言葉だけで俺達を歓迎した。
ディグとはまた違った全身黒のスーツ姿のその人物は細身で少し長めの黒髪を後ろに束ねた男だ。
「いや・・・。」
男は振り向く。
何処となく冴えない雰囲気の優男だ。
「今は『ウルド』・・・かな?」
「・・・。」
俺は固まって動かない。
表情も無表情のまま。
言われたくない名前を言われたのに嫌な顔一つせず表情を変えないのには理由がある。
「・・・・・・??????????」
「ふ・・・あははは!」
段々眉間にしわを寄せ、首を傾げる俺に男はウケたのか笑い出す。
「『こんな奴会ったっけ』って顔だね! まぁ無理もない。私はあの時目立たないようにしていたからね!」
「・・・。」
分からん。
ただひたすらに分からん。
誰だ???
なんでこいつは俺の事知ってるんだ?
「ほら、セレス嬢が大統領に協力要請で謁見した時だよ!」
「大統領・・・?」
そう言えばこの国の大統領に会った時だ。
確かあの時の大統領は・・・。
「・・・・・・・・・あ!!!!!!!」
「やっと思い出したかい?」
「あんたあの時大統領の左側にいた・・・!」
「へぇ、『左側』・・・そこまで覚えてるなんて意外と記憶力いいな君!」
昔大統領に交渉にする際、俺たちは官邸と呼ばれる城のような建物の大統領の部屋で大統領に会った。
この男はその時、大統領の左右についていた側近のような男の一人だ。
ついでに捕捉すればあの時は大統領と同じくらい身なりのいい軍服を着ていた。
大統領がセレスの話を中々受け入れないのに業を煮やして食って掛かった俺に右側の男は『無礼だぞ』と同じように食って掛かっていたが、反対側にいたこの男は顔色一つ変えずに突っ立ってその状況を傍観していた。
「あんたが・・・抵抗組織の総司令・・・!」
「そんな所! 驚いたかい? この国の大統領に従属していた男が実はこの国に一番盾突いている組織の親玉だってさ!」
「・・・!」
ぐうの音も出ないくらいその通りだ・・・!
あまりにもふざけた状況に混乱して声がうまく出ない。
「流石にあの時は名乗っていなかったから自己紹介しよう。フレッドだ、よろしく!」
フレッドは笑顔で握手の手を差し出す。
「・・・。」
先程の混乱も収まらずぎくしゃくとした動きのままだが一応握手には応じる。
「そちらのお嬢さんは?」
「妹のルタで~す☆」
ルタは何故かあざといポーズを決めて名乗る。
「妹・・・。」
フレッドは『ふむ。』とばかりに曲げた人差し指を口元に当てる。
「ウルド君の妹のルタさんか、よろしく!」
「は~いよろしく~♪」
フレッドが握手の手を差し出すとルタは愛想よく握手に応じる。
だが・・・。
『お兄ちゃん。』
「!」
突如念話で話しかけてくるルタ。
『この人苦手。』
『ドンマイ・・・。』
なんとなく言葉の意味は察する。
アルトの時の俺を知っている男だ。
今の言葉から察するに多分俺に妹がいない事も知っているだろうから大方ルタがどういう奴かも見抜かれている。
それだけにやりづらい相手なんだろう。
「さて、もっと話をして親睦を深めたいところだが早速本題に入ろう。」
そう言うとフレッドは机の方へ歩いていく。
「まず謝罪しておくが君達の事はライ達に監視してもらっていた。」
「・・・。」
「へへ♪」
ライを見るとライは悪びれなく笑いながら手をひらひらさせる。
成る程な。
そうでないとおかしい事はあった。
俺達が倒れたタイミングに現れてこの基地まで運ぶなんて偶然にしては出来すぎていたからな。
「つまり君たちと獣人の動向については粗方把握している・・・彼らは今にもこの国に攻め入る準備が出来ていてすぐそこまで来ているのだろう。」
「それはあんた達にも好都合なんじゃないか? 国のお偉いさんがふざけた組織の手で腐敗させられているこの国が滅茶苦茶になるのは・・・。」
「ダメダメダメダメ~。」
「!」
突然サンがフレッドと俺の間に割って入り、ぺろりと舌を出しながら俺を馬鹿にするかのように両手の平を顔の横でひらひらさせる。
「さっきの話を思い出してみろよ。」
「さっきの話・・・?」
ライに言われて起きた時の話を思い出す。
「俺たちはB.R.A.I.Nを潰したいんだ。で、この国に攻め入ってきた獣人の目的は?」
「・・・!」
その言葉にハッとする。
そしてそれと同時に事が起こった。
「ッ!!?」
突如何かが爆発したかのような轟音が遠くから聞こえる。
「あ・・・!」
窓へ駆け寄って外を見る。
爆発はここから少し離れた町の大きく長い壁の一部の辺りのようでそこから煙が上がっている。
やったのは言うまでも無く・・・!
「そう、此処へ来る前の君たちのように彼らもB.R.A.I.Nの存在を知らない。」
「ハッ・・・ハッ・・・!」
フレッドの言葉にいよいよ平常心が保てず息が落ち着かなくなる。
それがどう言う意味か分かってしまった!
「獣人達はB.R.A.I.Nの手の平の上で踊らされているんだ。」
「くっ・・・!」
すぐに走り出す。
「うわっ!!」
途中でディグにぶつかりながらもドアに走る。
「無駄だ、IDカード無しでこの部屋は・・・。」
「あ!!」
フレッドが忠告しかけた時、ディグが声を上げる。
次にディグが何かを言い出す前に俺は走りながらそれをすっと顔の横で出す。
「僕のIDカード!!」
そう、ぶつかった瞬間にスっていた。
「待てコラッ!!」
俺がIDカードを通してドアを開けて部屋から抜け出しているとライ達が追いかけて来る。
だが追いかけっこはすぐに終着点に達する。
「・・・。」
エレベーターだ。
操作盤の前まで来るとライは止まって不敵に笑う。
「バカが、お前じゃそれ操作出来ねぇだろ。」
「・・・。」
「さあ、鬼ごっこは・・・。」
「ッ!」
ライがゆっくりと一歩を踏み出した途端、俺は操作盤を操作する。
「だから無駄だって・・・・・・え?」
エレベーターは俺だけを乗せて下へ降り始める。
「ちょ、おい!? マジかよッ!!」
鉄柵から身を乗り出して俺を見下ろしながらライは驚愕する。
実はさっきライが操作していたのを盗み見ていた。
このまま地上まで降りて・・・って、え?
「は?」
ライの横から何かが鉄柵を乗り越えた。
「ルタッ!!?」
なんとルタが飛び降りて来た。
エレベーターは既にかなり下まで降りていたので俺の所まで落ちたらただでは済まない!
と言うか頭から落ちて来てるからまず死ぬッ!
「ふふ♪」
だがルタは不敵に笑って腕輪を前方に翳す。
「進入開始!!」
ルタの腕輪が光りだす。
「我は君 我が心は君 我が身は親愛なる者と共に」
ルタは光に包まれて光の球体となり、俺の腕輪に落下するように吸い込まれていった。
「お前・・・!」
『えへへ♪』
腕輪に向かって話すと笑うようなルタの声が聞こえて来た。
「何やってんだよ!」
『お兄ちゃん一人じゃ心配じゃん?』
「大きなお世話だッ!!」
『それにあのままあそこに残ってたら私、多分人質にされてたよ?』
「うっ・・・!」
確かに否定出来ない・・・!
『はーい謝って? 『何も考えず無茶してごめんねルタちゃーん』って!』
「言うかそんなことッ!! つか無茶っつったらお前だって一緒だろが! あんな飛び降り方しやがって!」
『心配した? ハラハラした?』
「調子乗んなッ!」
こいつ・・・昨晩の一件で味占めてないか?
『コホン・・・まぁとにかく? やることは決めてるの?』
「ああ、決まってんだろ?」
目を閉じて気持ちを落ち着かせてから力強く目を開く。
~グラ ロキウス市街~
しばらく戦士達が暴れると辺り一帯は建物から炎を上がって阿鼻叫喚に包まれていた。
弱弱しい只人共が虎や豹に狙われた鹿の如く逃げていく。
いい気味だ!
俺たちがやられたことはこの数倍も酷いことだ!
「ママァ・・・!」
「?」
近くから泣くような声が聞こえてそっちを見ると只人の女の子供が倒れた建物の瓦礫に足を挟まれて逃げられない母親の前で泣いていた。
「逃げなさい!」
「ママ! やだ! ママと一緒!」
「おーおー泣かせる泣かせるー!」
そいつらの元へ笑いながら近づく。
「ッ!!? 獣人ッ!!」
母親が俺を見てぎょっとする。
「ジェシィ! 貴方は逃げなさいッ!!」
「やだ! やだやぁだぁッ!!」
子供はまだ幼く、状況判断も親の事情も分かってないみたいで只々首を振って左右の地面を叩いて駄々を捏ねながら泣いている。
滑稽だな。
「お願いッ!! 私はいいから子供だけでも命は助けてッ!!」
母親が俺に向かって懇願してくる。
「ハァ・・・。」
俺はため息をついて近づく。
「やれやれ・・・無抵抗な奴をいたぶるなんて最低だよな。」
二人の前まで近づくと座りながら槍を下ろす。
「俺だってそんなことをすりゃ心は痛む。」
「・・・!」
母親は恐怖で強張った顔が緩んでぼーっと見る。
「じゃあ・・・。」
「でもな・・・。」
「?」
「それは相手がロキウスじゃなかったらの話だ。」
俺は槍を右手で顔の横に持って矛先を母親の前で泣きじゃくる子供に向けていた。
「さっきからピーピーうるせぇんだよッ!!」
「いやあああああああああああッ!!!」
母親が泣き叫ぶ声を聴きながら槍を突き出し、今にも子供を殺そうとした時だ。
「ッ!!?」
何か硬い物が俺の槍の矛先を止めた。
「やめろッ!!」
「てめぇ、ウルド・・・!」
ウルドは片手に収まるくらいの瓦礫の破片で俺の槍を止めていた。
「どういうつもりだッ!!」
なんでこいつがロキウスの人間を庇う・・・!
「まさかてめぇ・・・ロキウスに寝返ったのか!!」
「違うッ!!」
「じゃあなんでッ!」
「お前ら罠に嵌められてるんだよッ!!!」
「はぁ!?」
何言ってんだこいつ・・・?
「そこまでだッ!!」
「「ッ!?」」
声のする方を見るとロキウス兵達が何十人もこっちに向かって銃を構えていた。
「無抵抗な親子を・・・許さないぞ獣人ッ!!」
その中心には指揮官らしき女が俺に向かって憎しみに満ちた顔で俺を睨んでいた。




