#45 氷獄の鬼
~ウルド 岩山~
「くそっ! 何処だメロッ!!」
昼間からメロが居なくなっていたのでルタと一緒に必死に探していた。
大方の検討を付けて探しては居るが全く何処にいるか分からない。
調べによるとあいつは一瞬だけ村に戻ってしかも灯の儀について聞いていた。
なんであいつがそんな事を調べたのかも大体想像がつく。
だからこの岩山が一番怪しい。
景色のいい場所と言うから最初はひたすら山頂を目指して登ったが全然見当たらないので徐々に降りて行きながら探すが何処も似たような景色で何処も怪しすぎてまるで検討が着かない。
「今あいつがグラに会ったら・・・!」
「うん。」
最悪の事態を想像するがまだ遅くは無いはず。
場所が分かりづらいのはメロも一緒だ、まだグラと鉢合わせていないかもしれない。
頼む、間に合ってくれ・・・!
「ッ!?」
派手に岩が崩れる音がする。
「お兄ちゃんッ!」
「ああ、行くぞッ!!」
音のする方へ走っていく。
―――急いで駆けつけた所では案の定戦闘に入っていた。
だが・・・。
「あれは・・・!」
「ぐぁっ!!」
グラは吹き飛ばされて転げる。
そのグラの前に居たのは・・・。
「ふふ・・・ふひひへへ・・・!」
メロだった。
だがあいつと言うには姿が明らかに違いすぎる。
その身体には鎧の様に氷が張られ、腕も氷で巨大化しており、その腕だけで立っている様な状態だ。
背中にも氷で出来た竜の様な翼が生えていた。
更に顔は鬼の様な形相をした氷で出来た白い兜で覆われ、僅かにあいつと認識できるのはその元の背丈と兜に覆われていない口元のみだ。
「デス・・・デス・・・DEATHッ!!」
メロは右腕を振り上げると地面にたたき付ける。
「何ッ!!?」
腕の触れた地面が凍り、まるで水の波紋が移動するかのように氷が走り始める。
「「「うわぁッ!」」」
余りに訳の分からん攻撃だが三人共なんとか散り散りに跳んで回避する。
「ふふ、ふふへへはは!」
「!!?」
今度は翼を広げたかと思うと小さな氷柱を何発も空に飛ばす。
しかも氷柱はどういう原理なのか、急に軌道を変えて俺たちの方へ正確に飛んでくる。
「くそぉッ!!」
「ひゃッ!!」
ルタを掴んで丁度近くにあった岩影に隠れる。
「くぅ・・・!」
グラは槍を回転させて氷柱を弾き飛ばす。
しかし余りに数が多すぎるせいか、幾らかは喰らって身体の至る所にかすり傷が出来る。
「お兄ちゃん、あれ・・・!」
「あぁ、『扉の暴走』だ。」
メロがああなった原因は恐らくあいつの中に眠る『魔導の扉』だ。
本来、深淵魔法を習得するには己の精神と向き合うために精神の奥底に眠る魔導の扉を開く必要がある。
だが深淵魔法の適正がない奴、あっても録に修行もしていない奴は魔導の扉に行き着く事すら出来ない。
しかし何らかの拍子に精神が極端に追い込まれ、感情が激しく爆発するような時、意図せず魔導の扉に行き着いて扉を通ってしまう事がある。
こうなってしまうと危険だ。
脆弱な精神で扉の向こうの精神世界の住人に出会えば逆に己の精神が屈し、魔力が暴走して精神も崩壊した、言わば『深淵魔法の成り損ない』になってしまう。
「デス・・・DEATH・・・ひひははははッ!!」
「ッ!!」
メロは今度は自分の翼を巨大な腕で引きちぎる。
そしてそれを岩影に隠れている俺達に向かって投げてきた。
「伏せろッ!!!」
「うぎっ!?」
ルタを無理矢理押さえ込んで精一杯伏せると俺達の頭上を氷の翼が通り過ぎる。
岩は綺麗に、とまでは行かないが抉られるように真っ二つに斬れてその亀裂に沿って崩れていく。
当の翼はと言うとあんな派手な破壊をしたにも関わらず綺麗に弧を描いて飛びながらブーメランの様に元の背中にあった場所に戻り、繋ぎ目が凍って元通りになる。
「クソッ! 何でもアリかよ。」
流石はタリスベルトのギルド一番の魔術師の愛娘って所か?
潜在能力がずば抜けてやがる・・・!
「まぁ分かってたがこりゃ手加減してどうこうできる相手じゃないな。」
俺はすぐに指輪を外して封印を解く。
「ッ!!」
だが既に事態は動いていた。
「?」
月の光が遮られた事によりメロも事態に気付いて視線を後ろに移す。
グラが高く跳び上がって既に槍の矛先をメロに向けていた。
殺す気だ!
「やめろおおぉッ!!!」
俺の叫びも虚しくグラの槍はメロの脳天に突き落とされる。
だが・・・。
「ひひ、ひ・・・きひひひひ・・・!」
「何ッ!!?」
メロの氷の兜は恐ろしく硬く、グラの槍では貫けなかった。
それどころか槍の矛先が徐々に凍り始めている。
「くっそ、このッ!・・・しまッ!!?」
槍を凍らされて氷に取り込まれちゃ堪らんとばかりにグラはメロの肩を踏みつけて跳躍して離れるが巨大な腕に足を掴まれる。
「ひははッ! あぁははッ!!」
メロはそのままグラを容赦なく地面に叩きつける。
「ガハッ!! グガッ!!?」
派手に叩きつけられ、ボールの様に跳ねたグラだがそこからさらに巨大な腕に殴り潰される。
「デスッ!! DEATHッ!! 死ねッ!!」
「グッ!! カハッ!! ゲェッ!!」
メロは容赦なく何度もグラをその巨大な腕で殴り付ける。
「雷 剣 接続」
「ッ!?」
メロは俺の詠唱に気づき、一瞬手を止める。
「雷光の刃ッ!!」
魔法の発動と同時にメロの腕を斬り付ける。
「ッ!?」
上昇を使って放った斬撃なので真っ二つに出来るかと思ったが現実は甘くなく、僅かに抉り斬れただけだ。
それでも少し怯ませるくらいは出来た。
「炎球ッ!!」
俺の奇襲の間に詠唱を終わらせていたルタは炎の魔法を放つ。
「ッ!!?」
炎の玉が当たって爆ぜるとメロは更に怯んでグラから離れた。
奴に構えつつ視線をグラに移す。
「よぉグラ、死んでるか?」
「生きてるか聞け・・・グッ・・・!」
タフそうだからもしやと思ったがやはり生きていた。
だが動けそうにない。
良いような悪いようなだ。
「にしても・・・。」
さっきの一瞬で悪い事実を知った。
「雷が効かねぇ・・・!」
そう、効いているならあいつの全身に電流が走って痺れている筈だがそんな様子はない。
「お兄ちゃん意外とおバカだね。」
「あぁ!?」
「ちょっと溶けかけの水含んだ氷ならまだしも、あんなに純粋に凍りきった氷は電気を通さないよ?」
「チッ・・・!」
厄介だな。
「けど・・・。」
俺はメロの腕を見る。
さっきの炎が当たった位置が僅かだが硫酸でも掛けられたかのようにドロドロに溶けている。
「やっぱり氷だな。炎は効くみたいだ。」
「あのぉ~・・・お兄ちゃん?」
「今度はなんだ!!」
「効くのは効くみたいだけど・・・アレ。」
「!!」
「ひひ、は、ぁはは・・・!」
溶けている部分が凍り、傷が塞がるかのように段々と戻り始めている。
「嘘だろ。」
「生半可な炎じゃダメっぽい・・・。」
「どうすんだよ! 魔法だってそんなポンポン当てられるもんじゃねぇぞ!?」
魔法の欠点は連発出来ない事だ。
魔法の詠唱の間にああやって再生されちゃ何発撃とうが意味がない。
「連発出来ないなら・・・あ。」
「あ?」
ルタがハッとしたように何かを思い付く。
「お兄ちゃん! お願い!」
「なんだ。」
「あの怪獣娘ちょっと引き付けといて!」
「・・・。」
なんか様子を見る限り策があるみたいだ。
「しゃあねぇな・・・説明聞いてる暇無いみたいだし、なッ!!」
俺達が互いに離れるように後ろに跳ぶとその間を俺達の胴体程デカい氷柱が通り過ぎる。
放ったのは言うまでもなくメロだ。
話している間も油断せずメロの方はお互いチラチラ見ていた。
「業火 杖」
「!!」
ルタが魔法を詠唱し始めるとメロはそれに反応してすぐにそっちを向く。
「集束 座標」
「DEATHッ!!」
直ぐ様それを阻止しようと片腕で飛び上がってルタに向かって腕を突き出して襲いかかる。
「バーカ、背中ががら空きだ。」
「ッ!!?」
メロの更に上空に跳躍して俺はメロに斬りかかる。
「ぁははッ!」
メロは空中で標的をすぐに俺に切り替えてその巨大な腕で左フックを俺に放ってくる。
しかし俺は最初から捨て身で攻撃する気などない。
すぐに攻撃する構えを緩めて氷の腕に剣をぶつけて攻撃を捌く。
そして更にメロに向かって矢を放つとメロは右腕でそれを弾いた。
「ギヒッ! は、ぁはは・・・!」
結局メロは両腕を攻防に割いたため地面に着地するための支えの腕を失い、背中から無様に落下する。
「天 投下」
その間にルタの詠唱は終わっていた。
俺とメロの真上の上空に巨大な火の玉が現れた。
「なるほど・・・。」
そう言うことか。
『連発出来ないなら一撃で』ってか。
ごり押しだが確かに理に叶ってるな。
「隕炎降来ッ!!」
「ぁッぶね!!」
火の玉の落下と共に俺は即座に跳躍してメロから離れる。
メロは先程落下と共にバランスを崩しているのですぐに回避は不可能だ。
これは当たる!
「ひははッ!」
「ッ!?」
メロは巨大な腕と背中の翼を全て前方へ向けて盾の様に構えた。
防御する気だ。
火の玉が腕と翼にぶつかった瞬間・・・。
「なっ!? ぶわっ!!」
突如メロから霧が発生して辺りを埋め尽くす。
「くそッ! 何も見えねぇッ!!」
強力な冷気と熱気による水蒸気の霧だ。
けどそれにしたってこうも視界が悪くなる程か!?
「くっ!」
とにかく探知だ!
位置を確認するために魔覚でメロの魔力を探る。
「?」
元の場所にはいない。
移動したか!?
「お兄ちゃん大丈夫?」
「ッ!!」
ルタの声がしてそっちに意識が行った途端に気づいた!
「メロは
「逃げろルタッ!!」
「え?」
すぐにルタの方へ走る。
そっちにあったのはルタの魔力と・・・。
「DEATHッ!!」
メロの魔力だッ!!
「うわぁッ!!」
ルタはメロの巨大な氷の腕に掴まれる。
「ひひ、はは!」
メロの翼と腕はあの炎で消しとんでいたが右腕だけ残っていた。
「くっ、んんッ・・・!」
ルタはもがくが全く抜け出せない。
「ッ!!? あ、あ”あ”ぁッ!! う”あ”あ”あ”あ”ぁッ!!」
ルタは突然苦しんで叫び出す。
「こっちを見ろぉッ!!」
「ッ!!」
霧を縫ってメロの横から現れ、メロの左頬を上昇を込めた拳で全力で殴り抜く。
吹き飛ばされながらメロはルタを放す。
「ルタッ!!」
地面に落ちてぐったりしているルタを抱き起こす。
「大丈夫か!?」
「ハァ・・・ハァ・・。」
ルタは顔を赤くして息を切らしている。
「ごめん・・・お兄ちゃん・・・!」
「謝る前に自分の心配しろバカッ!!」
「ううん・・・そうじゃなくて・・・。」
「あ?」
そうこうしている内に霧が晴れる。
「ッ!? オイオイ嘘だろ・・・!」
目の前の光景に目を疑う。
「ひひひ、は、あぁはははははッ!!」
メロの左腕が再生していた。
「魔力・・・吸われちゃった・・・!」
「くそ・・・そう言うことか・・・!」
ルタを背負いながら剣を構える。
とりあえずルタを安全な場所まで運ばないと・・・!
「?」
ルタが突然俺の左腕を掴む。
「進入・・・開始・・・!」
「ッ!?」
ルタが詠唱するとルタの腕輪が光り出す。
「我は君・・・我が心は君・・・我が身は・・・親愛なる者と・・・共に。」
腕輪の光に包まれたルタは俺の腕輪に吸い込まれていく。
「これ・・・!」
ルタは俺の腕輪に入ることが出来る。
前に見た腕輪の力だ。
「お、おいルタッ!! 何やってんだこんなときに!」
『炎・・・剣・・・接続』
「ッ!?」
ルタの魔法の詠唱が直接頭に響く。
『爆炎の刃』
「なッ!?」
ルタが魔法を発動させると俺の剣が炎を纏い出した!?
そうか、腕輪の中でも魔法が使えるのか!
いや、それどころじゃないッ!
「ルタ・・・何やってんだ! 魔力ねぇんだろッ!?」
そう、魔法の使いすぎは下手をすれば精神崩壊を起こし、廃人となる事もあるので危険だ。
ましてやさっきメロに魔力を吸われているなら尚更危ない!
『助けるんでしょ・・・?』
「!!」
『じゃあ・・・覚悟決めろッ! バカ兄ッ!!』
「・・・すまねぇ。」
そうだ。
泣き言いってる場合じゃないッ!
俺はルタの炎が込められた剣を構える。
「けどルタ・・・今から言うこと忘れんな。」
『・・・?』
「俺を置いて逝くな。」
『・・・うん。』
「ひひ・・・あはは・・・!」
メロは両腕を使って跳躍して襲いかかってきた。
「行くぞクソガキ・・・!」
今その悪夢を覚まさせてやるからな。




