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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
カザ編
4/101

#4 悪鬼襲来


~ウルド カザ入口~


  依頼を終え、紹介状にある任務の完了を意味する署名を村長から貰い、帰ってきた。

「あれ、ウルドじゃん!」

 金髪の露出の多い軽装の女が駆け足で此方に来る。

「ルッカか。」

「何かしてきた帰り?」

「ああ、オーク討伐兼村娘救出って所だな。」

 そう言って署名の紙を見せる。

「へぇ~、送り狼にならなかった?」

「お前はよくもまぁナチュラルにそんなこと言えるな、村娘って言ってもあれだぞ? 十歳も行かないような子供だぞ?」

「じゃあロリコ

「言わせねぇよ!?」

「手ぇ出しなさいよ! 面白くないでしょ! 私が!」

「お前基準かよ! 誰がお前の娯楽で女児に手ぇ出すか!」

「ま、朴念人のあんたにそんな甲斐性ないか。」

「やかましい! ってかルッカお前・・・。」

 いつも見ているこいつとはちょっと雰囲気が違うような・・・。

「なんかお前・・・ツヤツヤしてないか?」

 顔の血色がいいせいなのか、光沢すら出ているようにも見える。

「えー? 何ー? 今更私の魅力に気づいちゃった?」

「いや、そうじゃなくて・・・。」

「ルッカは機嫌が良いのであるッ!」

「ダーリン!」

 ルッカが目を輝かせて振り向いた先には大きな盾を背負い、腰に手斧(ハンドアクス)を下げた大男が歩いてきていた。

 そしてそいつは俺の前に立つと何故か筋肉を誇示するかのような前屈みのマッスルポーズを決める。

「リガード・・・相変わらずそのポーズの意味がへぶっ!?」

「キャァァダーリィン! 今日も筋肉素敵すぎぃ!」

 ルッカはたまらず俺を押し退け、リガードの腕に抱きつく。

「ったく、相変わらずだな。で? 機嫌いいってのは?」

「知らぬであるッ!」

「は?」

「今朝依頼を取りに行くと言ってギルドに入り、出てくると非常に機嫌が良かったのであるッ!」

「なんだそれ、何があったか聞かないのか?」

「細かい事は心配無用(ノープロブレム)ッ! ルッカが幸せならそれでいいのであるッ!」

「そう言うもんかぁ?」

 普通気になると思うけどなぁ・・・。

「やだダーリン器広ぉい! 筋肉素敵ぃ!」

「ルッカお前は黙ってろ。あとお前の男選ぶ基準身体かよ!」

「あんたも筋肉付けないとモテないわよ~?」

「大きなお世話だ!」

「あっ、でもあんたその心配ないか!」

「は? どういう意味だよ。」

「ぷぷ、さぁてね♪ じゃ♪」

「おい!」

 含み笑い気味に言うと、ルッカは俺の制止などお構い無しにリガードにべたべたしながら去っていく。

 なんだよ心配ないって・・・。

「まぁいっか。」

 さっさとギルドに報告しに行くとしますか。



―――で、ギルドに着くと・・・。


「・・・。」

「・・・。」

 レレがカウンターの机に寝そべるようにして伸びていた。

 見た感じとてつもなく疲れ切ってグロッキー状態だ。

 ちょうど東国にある葬式の道具の『チーン』って音が合いそうだな。

「・・・何があった?」

「ルッカにいじめられた・・・。」

「またかよ・・・なんでいっつもそんな事になるんだ。」

「理由は聞かないで・・・。」

「・・・そうか。」

 気になるが敢えて聞かない。

 いや、聞いても何故か顔を赤くして物凄く拒まれて聞けないからだ。

 まぁ女同士だし、生理関係とか男に言えないような話かもしれんし、あまり深入りすると痛い目見るかもしれんな。

「依頼終わったんでしょ? 今準備するから・・・。」

「いやいやいいって! ちょっと休んでろよ!」

 無理のある笑顔で起き上がり、書類を出されるが流石にこんな状態のレレに手続き頼むのは気が引ける。

「大丈夫・・・。」

「じゃねぇだろ! ああもう!」

俺は懐からあるものを取り出してレレに渡す。

「これ・・・。」

強壮剤(スタミナポーション)だよ。行った先で買ったけど使わなかった奴だ、飲んどけ!」

「あ、ありがと・・・。」

「あと今日は報酬いらねぇから、今度出直す!」

そう言って踵を返して出ていこうとするが・・・。

「待って!」

「あ? だから手続き・・・は・・・。」

 引き止められて振り向くと目の前の光景に言葉が詰まる。

「ん・・・ぐっ・・・!」

 レレは俺が渡した強壮剤(スタミナポーション)を一気飲みしていた。

「・・・レレさん?」

「ぷぁっ!!」

 勢いよく瓶から口を放すとすぐに口を拭う。

「冒険者をサポートする立場なのに助けられてちゃ世話ないでしょ? 任せて!」

 ちょっと元気が出たのか、得意気にウインクすると書類を取り出して書き始める。

「お、おう。」

 レレの急な変化に戸惑いつつも俺も依頼先から貰った書類を渡す。

 レレは貰った書類と自分の書類を照らし合わせながら書類を書き進める。

「・・・ウルド。」

 書類を書きながら声をかけてくるレレ。

「なんだ?」

「ごめんね。」

「え? 何が?」

「今朝の事!」

「今朝? ああ。」

 あの妹について散々聞いてきた奴か。

 正直あの時はただあいつの正体を誤魔化すのに必死だったな。

「気にすんなって! 噂が立てばみんな気になるだろうからさ!」

「そうじゃなくて! ・・・その、ウルドに嫌われたら嫌だから・・・。」

「え?」

「あ、いや! 冒険者と仲違いはギルド職員として良くないって意味であって! 変な意味じゃないからね!?」

「変な意味? ってなんだよ。」

「わーわーわー今重要な計算してるから静かにしてー!」

「・・・。」

 まぁ、報酬貰えるなら何でもいいけどさ。



~とある自警団 街中心部~


「やいやいッ!! お前よそ者だな!?」

「おいよせよ!」

「怪しい格好しやがって! 顔見せろ!」

「だからよせって!」

「・・・。」

 因縁をつける相棒に俺は待ったをかける。

 確かに言う通り、目の前の奴は黒くてゴツい鎧に身を包んで魔物のような恐ろしい形相の兜のせいで顔が一切見えないので怪しい事には変わりない。

 でもだからといっていきなり喰ってかかっていい訳ではない。

「こっちから因縁吹っ掛けてどうすんだ! どけ!」

「ちょ!? おい!」

 相棒をどかして鎧に声をかける。

 ここは穏便に・・・。

「すまないね、旅の者だろ? でもまぁ念のためうちの兵舎まで来てくれるか? 顔を見せたくないならそれでもいい、何か身分の証明出来る物を見せて貰って怪しくないって分かったら何処に行ってもいいからさ! ね?」

「・・・。」

「えぇと・・・。」

 聞こえてないのか?

 いや、説明が悪かったか?

「ウゥゥゥ・・・!」

「!?」

 なんだ?

 急に唸り始めたぞ!?

 思わず一歩引いてしまう。

「どけ!」

 相棒が俺を後ろに払いのけて前に出る。

「やっぱり怪しいぞこいつ! すぐに取り押さえるべきだ!」

「待て!」

「あ? 今更穏便になんて・・・。」

「そうじゃない!」

 なんかヤバイ!

「やい! 抵抗は止めて大人しく・・・!」

 相棒が意気がっていると・・・。

「ゴアアアアアアッ!!!」

 奴の叫びが聞こえた時には遅かった。



~ウルド 自宅~


「ただい・・・。」

 言いかけてやめる。

 あいつに『おかえり~お兄ちゃ~ん!』って出迎えられるのが癪だからだ。

 とりあえず休もうかな?

 ルタに見つからないようこっそり自室に向かってと・・・。

「いや・・・。」

 そういえば道中や坑道歩いて結構汗かいたな。

 風呂入ろうかな?

 キッチンを避けてこっそり・・・。

「?」

 近くを通るが物音一つ聞こえない。

「・・・なぁんだ。」

 さてはあいつ出掛けてるな?

 そうと分かればもうコソコソする必要なんてないな!

 大手を振るって風呂場に向かう。

「風呂風呂~

「フ~ン♪ フンフ~

「「え?」」

 丁度脱衣室の入り際に服を脱ぎ始めた俺の前に、タオル片手に鼻歌混じりで風呂から上がってきたルタが現れる。

 勿論あられもない姿で・・・。



「キャアアアアアアァァァァッ!!!!!!」

「ギャアアアアアアァァァァッ!!!!!!」



 互いに悲鳴を上げ、俺は慌てて服を上半身だけ脱いだ状態のまま脱衣室から逃げる。

「お兄ちゃんの変態ッ!!」

「す、すまん!!」

 扉越しの妹の非難に対し反射的に謝ってしまう。

 本当は『なんで入ってんだッ!!』とか言いたかったが、なんとなく謝った方がいい気がした。

 ホントになんとなくだが。

「ってか早く服着ろッ!!」

「・・・。」

「?」

 急にルタは黙り込む。

 無言で着てるのか?

「ねぇお兄ちゃん。」

「なんだ?」

「見たでしょ。」

「ブッ!?」

 今の一言でさっきのルタの一糸纏わぬ姿が脳裏に鮮明に蘇る。

 俺より少し小柄な割にはスラっとした体のラインに細めの手足、胸はなかったけど全体的に綺麗な体つきで・・・って何思い出してんだ俺の馬鹿ッ!!

「み、見てないッ!!」

「私はバッチリ見たよ? お兄ちゃん鍛えてるんだね、結構いい身体してたよ。」

「ッ!!? 生々しい感想言ってんじゃねぇこの変態ッ!!」

「ねぇ。」

「なんだッ!」



「一緒に入る?」



「・・・は?」

 一瞬思考が停止する。

「お兄ちゃん?」

「ふ・・・ふふ、ふざけるなッ!! 誰が昨日会ったばっかりの女と風呂に・・・ッ!?」

 時間が経って冷静さを取り戻したせいか、会話の流れで奴の考えを察した。



「お前・・・わざとだな!?」



「あ、分かった?」

「ふざけんなッ!! 男の純情を弄ぶんじゃねぇッ!!」

「ぷぷ、ウブだねぇお兄ちゃんは♪」

「黙れッ!! お前が服着るまで絶対入らないからなッ!?」

 先程から激しかった心臓の鼓動もすっかり冷め、腹を立てながらその場を後にする。

 半裸だが服はルタのいる脱衣室だ。

 服を取りに自室に向かうが・・・。

「ウルド!! ウルドいる!?」

「?」

 玄関から扉越しでも言葉が分かるくらい大きな声で誰かがノックする。

「はいどちらさ

「大変大変!!」

 扉を開けた途端にルッカが飛び込むように入ってくる。

「どうした?」

「オーゥ、意外とシックスパック・・・。」

「見てんじゃねぇッ!!」

「なんで半裸なの?」

「風呂入ろうとしてただけだッ!! それよりなんだよそんなに慌てて!」

「あ、そうそう大変なのッ!!」

「だから何が大変?」

「やばい奴が街中で暴れてんの!!」

「やばい奴?」

「斧を持った黒い鎧の大男!! 錯乱してるけど恐ろしく強いの!! 自警団の奴等がすでに数人やられてんのよ!!」

「マジかよ!? 何処だそこ!!」

「街の中心部!!」

「分かった! すぐ行く!!」



~ルッカ 商店街~


 ウルドが準備をしているうちに現場へ行き、今は街の中心部から少し放れた商店街で屋根の上から奴のいる所を見る。

 普通は視認出来ない程の距離だが・・・。

「・・・。」

 目を閉じて心を静め、米噛みを数回二本の指でノックする。

 野伏(レンジャー)の師匠から教わった技だ。

 精神を安定させ、自身の視角と魔覚に意識を集中。

 そして見たい場所を意識すれば・・・。

「『千里眼』・・・!」

 目を開くと視界は現場から数メートルしか放れていない場所に移動していた。

 しかし実際は数百メートルも離れている。

 視覚のみが移動しているのだ。

 現場は荒れ放題で、戦えない一般人は既に逃げており、数人の自警団が剣を構えて鎧男を取り囲んでいた。

「・・・。」

 確実に狙撃するためにまずは様子を見る。

 すると程なくして一人が斬りかかる。

 しかし鎧男はそれを僅かな体のずらしでかわし、斧を持っていない左手で団員の腕を掴む。

「!」

 直後、信じられない行動に出る。

 その掴んだ腕に力を込めたのか、腕を握り潰し、真っ二つに切断してしまう。

 視覚のみなので音声までは拾えないが腕をもがれた団員は悲痛な叫びを上げているのが分かる。

 しかし、それだけでは終わらない。

 鎧男は奪った腕に握られていた剣を踞っている兵士の背中から胸にかけて貫かせた。

 恐らくやられた団員は即死だろう。

 更に鎧男は直ぐ様剣を引き抜き、今度は近くで構えていた団員に投げ飛ばす。

 見事に命中し、腹を貫かれた団員は苦悶の表情でその場に膝をつく。

 今の一連の戦闘で萎縮し、構えが守り気味になった残りの団員達。

 鎧男はそれを理解しているのか、一歩、また一歩と近づく。

 そして恐怖で動けなくなった団員の一人をまるで処刑するかの様に持っていた巨大な斧を大きく振り上げる。

「くっ・・・!」

 奴が歩くのを止めた今しかない!

 立ち上がり、即座に意識を指先にも集中させて弓を構え、矢を放つ。

 矢は途中に吹く風など者ともせずに真っ直ぐ飛び、今にも斧を振り下ろしそうな鎧男の左膝を 鎧の隙間を抜けて貫く。

「よし。」

 ただの矢じゃない。

 あれには『ドクガダケ』と呼ばれる茸の胞子を調合して作った痺れ薬が塗ってある。

 奴はこれで動けな・・・。

「!?」

 鎧男は一瞬ぐらついたがすぐに何でもないように立ち上がり、矢に気づいて引き抜く。

「!」

 しかもマズいことに此方を見ている。

 いや、矢の方向から逆算してその方角を見ているだけのはずだ。

「?」

 鎧男はまたも信じられない行動に出る。

 なんと矢を持って振りかぶると、此方に向かって矢を投げた。

「・・・バカなの?」

 こっちは数百メートル以上離れているのに届く訳が・・・。

「ルッカァ!!!」

 近くで別の伏兵用に待機していたダーリンが即座に私の前に立って盾を構える。

「ダーリン!?」

 信じられないけどダーリンの行動の意図を直ぐに理解する。

 ダーリンは魔覚と空気の流れを感じとる触覚を同調させることで危険を感じとる『脅威察知』という技術(スキル)がある。

 そのダーリンが私を守るって事は・・・!

「ぐぅッ!」

 『ガキィッ!!』と言う何とも言えない金属音と共にダーリンは踏ん張る。

 嘘!?

 本当に届いた!?

「・・・ルッカ、無事であるか?」

「あ、ありがとうダーリン!」

「良かっ・・・。」

 ダーリンは突然倒れる。

「ダーリン!?」

 即座にダーリンの状態を確認する。

「!?」

 なんと、先程の矢が盾を貫いて腕を貫通し、その先の肩の付け根も貫いていた。

 あり得ない!

「ただの投擲で・・・嘘でしょ!?」

 届かせるだけじゃなく鉄の盾まで貫くなんて、どう考えても並の腕力じゃない!!

「くっ! うぅ・・・!」

 とにかく直ぐに矢を身体から引き抜き、出血を防ぐために腰のポーチから応急措置の為の包帯をダーリンの身体に巻く。

 幸い急所は外れている。

 でも矢には痺れ薬が塗ってある。

 傷を塞げてもしばらくダーリンは動けない。

「くそぉ・・・!」

 とにかく奴のいる位置を千里眼で確認するが・・・。

「・・・いない?」

 先程の位置に視角を移動させたが奴の姿はない。

「くっ・・・!」

 今度は目を閉じて魔覚に全神経を集中させる。

 千里眼に比べて索的距離は落ちるが、周囲の生物が放つ魔力を感じとる『魔力感知』だ。

 街中で様々な人間の魔力があり、索的しづらいが、十時の方角から一つだけ変な魔力を感じる。

 黒く歪んだ何かが渦巻いているような淀んだ魔力・・・恐らくこいつだ!

 すぐに千里眼を展開し、魔力の元に視角を移動させると、奴がいた。

「・・・嘘でしょ!」

 なんと鎧を着ているとは思えないほどの恐ろしい速さで私達の方へ向かって来ている。

 しかも矢が通りづらい建物の屋根の下を上手く使って走っている。

 道を選ぶので迂回がちだが、確実に此方へ向かっている。

 さっき奴が方角だけ気づいたと思った私が愚かだった。

 確実に此方の正確な位置を把握している。

 此処にたどり着くのは時間の問題だ。

「ルッカ・・・!」

「ダーリン、マズいよ! アイツ、こっちに来てる!」

「逃げろ・・・!」

「ダーリン!?」

「我は動けん・・・お前だけでも・・・!」

「嫌よ! そんなこと出来るわけない! ダーリンが殺されちゃう!」

「ルッカ・・・!」

 ダーリンは身体が大きくてとても運べるものじゃない・・・!

 どうしよう・・・!



~鎧男 カザ商店街前~


「グウウゥ・・・!」

 鎧男は走る。

 唸りながらただ猛然と奴の元へ走る。

 矢など脅威ではない、矢を放った奴は自分を倒せる者ではない。

 そう分かっていても走る。

 鎧男が矢を放った奴に向かう理由はただ一つ。

 奴が『敵』だと言うことだ。

「グアアアッ!」

 商店街に入った。

 敵はあれから矢を放っていない。

 自分が投げ返した矢で死んだか?

「グウウゥ・・・!」

 だがすぐにその疑問を振り払う。

 鎧男にとってそんなことは関係ない。

 直接見に行って確かめればいい。

 奴が死んでいるなら興味はない。

 奴が生きてそこにいるなら殺す。

 奴が逃げているなら地の果てまで追って殺す。

 ただそれだけだ。

「ウゥ!?」

 脇道から殺気を感じた。

 すぐにその方角を向き、構える。

 するとそこから小さな矢が放たれる。

 だが鎧男は直ぐ様矢を手甲で覆われた左手で弾き飛ばす。

「ちっ・・・不意打ちは無理か・・・!」

 矢を放った敵は小道の影から姿を現す。

 外套(コート)を羽織っており、革の胴当てや胸当てなど、必要最低限急所の守りを固めた男だ。

 武器は腕に取り付けた小型の拳弓銃(ハンドボウガン)と片手で持てる程度の小振りの短刀(ショートソード)、恐らくは斥候(スカウト)剣士(ソードマン)の兼業だろう。

「よお、狂戦士(バーサーカー)。」

「グウウゥ・・・!」

 鎧男は男に向かって構える。

 狂戦士(バーサーカー)、戦場で精神が壊れる、違法な薬物による実験、魔力の高い魔物から呪いを受けるなど、様々な理由で凶暴化した者の総称だ。

 ギルドで登録される冒険者の正式な職業(ジョブ)ではなく、余りに暴走の酷い者には懸賞金もかけられるほどだ。

「ルッカの元へ行くんならどうぞご自由に・・・その時は遠慮なく短刀(こいつ)をてめぇのケツにぶちこんでやる。」

 男は鎧男に向かって挑発をする。

 恐らくは先ほどの矢を放った奴に近寄らせない様にするためだろう。

 さっきの不意打ちで油断すればいつ背中を狙うか分からないと言う事実を作られている以上効果的な挑発だ。

 だが・・・。

「オォ・・・オ・・・オアアアアアッ!!」

 鎧男は急におぞましい雄叫びを上げる。

「・・・。」

 男はその雄叫びを浴びても平然と短刀(ショートソード)を構える。

 だが鎧男にそんな事は関係ない。

「ア・・・アァ・・・!」

 鎧男は男を指差す。



「アァ・・・ア・・ル・・・・トォ・・・!!」



「・・・な!?」

 先程の雄叫びに動じなかった男は今度は今の言葉に声を上げる。

 男の挑発は鎧男には無意味だった。

 何故なら鎧男にとって、目の前のこの男こそ『本命』だったのだから。

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