#38 弱点
~ウルド 密林~
俺は性懲りもなくまた密林を歩く羽目になっていた。
「なあ、なんで俺を連れ出し
「いやあ、只人にも骨のある奴がいて嬉しいな!」
一緒に歩いていたゾルガは笑いながらバンバン俺の肩を叩く。
相変わらず俺の話は聞いちゃくれない。
「・・・。」
この他人のペースに合わせない感じ、昔の仲間にもいたな。
同じ戦士の男で、後先考えなくて戦いでも無茶やって他の仲間も頭抱えてた。
俺に上昇の訓練をしてくれたけどかなり無茶な修行させてきてその度に何度も死にかけた。
この場にそいつがいたらこのおっさんと馬が合うんだろうけどハチャメチャすぎて誰も手が付けられなくなってただろう。
「なあ、いいのか?」
「何がだ?」
「『戦争』だよ。聞いた話だとアステリオンは劣勢みたいじゃないか。」
「だからゴ族の村に殴り込みに行くんだよ!」
「はあ?」
意味が分からん!
なんで戦争が劣勢だからって他の村に殴り込みに行くんだ?
「敵がいる前で味方同士消耗し合ってどうすんだよ訳が分からん!」
「グラからゴ族の話は聞いてるか?」
「ゴ族? ああ、只人混じりがク族で純粋獣がゴ族って言う区別くらいだけど・・・。」
「じゃあゴ族とク族が仲が悪いってのは知らねえんだな?」
「え? そうなの?」
「ああ、ゴ族ってのは妙にプライド高くてな。ク族を只人に魂を売った裏切り者って毛嫌いしてんだよ。」
「・・・もしかしてロキウスとの戦争が原因?」
「いや、その前からずっと同じ調子だ、ただお前が言う通り、戦争で溝が深くなったのは事実だ。」
「じゃあ尚更殴り込みに行くのはおかしいだろ! なんでわざわざ喧嘩しに行くんだよ!」
「は? 寧ろ喧嘩しねぇと溝埋まらねえだろ?」
「・・・。」
オーケー獣人の脳みそになって考えよう。
村に入る前に通過儀礼で戦った。
そんで俺たちを認めて村に入れてくれた。
で、今も仲良くなるために喧嘩、つまりは・・・。
「『拳で語り合う』って奴か・・・。」
「そういうことだ! なんだ分かってんじゃねえか!」
「・・・。」
アホくせえ・・・。
この国の常識ってもしかしたら・・・いや、もしかしなくても他の国に比べて相当ズレてるな。
「つまりアレか・・・協力してロキウスと戦う為に部族の溝を埋めて回ってる。ってことでいいんだよな?」
「そうだ。今はいがみ合ってる場合じゃねえからな!」
「・・・話は分かった。で? なんで俺を連れて行くんだよ!」
「もうすぐクガルの村だ。なぁに、今に分かるさ!」
「はぁ!?」
意味が分からん。
そうこうしている間に村の前まで来た。
「?」
なんだ?
ゾルガのおっさんが急に立ち止まった。
「スウウゥゥゥゥゥゥ・・・!」
「・・・!」
なんだなんだなんだなんだ?
嫌な予感しかしない!
「おいくそ雑魚猪共オオオオォ!! よぉく聞けえぇぇッ!!」
「ちょ、おい!?」
開幕からいきなり挑発!?
「お前らの大ッ嫌いな只人連れて来てやったぞオオオオォッ!!」
「はぁッ!!?」
おい確かゴ族って只人嫌いの部族だろ!
いきなり喧嘩売りすぎじゃね!?
「んだとゴラァッ!!」
期待を裏切らずガラの悪い獣人が民家の陰から数人現れた。
情報通り顔まで猪の獣人、ゴ族だ。
「てめぇマカ村のゾルガだな!? ついにク族は只人に寝返ったのか!?」
「嫌々とんでもない!」
「???」
ゴ族のガンの付いた言葉にゾルガは先程の威勢は何処へやら、急に丸くなった返しをする。
「こいつはさっき捕まえたお前らへの手土産だ!」
「へ?」
え?
このオヤジ今なんつった?
「煮るなり焼くなり好きにするがいい!」
「ちょ!」
何口走ってやがりますかこのおっさん!!
「ほぉう・・・!」
ゴ族の猪はニヤリとして俺に近寄る。
「いやいやいやいやッ!!」
ちょっと待てッ!
このオヤジまさか裏切りやがった!?
「ちょっと待て俺は
「キャンキャンウルセェぞこのクソ只人がぁッ!」
「ッ!?」
猪男は思いっきり右フック気味に殴りかかって来る。
間一髪なんとか仰け反って回避する。
「ほぉ? かわしたのか?」
「話を聞けって!!」
「只人と話す口なんざねぇッ!!」
「くッ!」
今度は左の回し蹴りを放ってくる。
避けきれず腕で防御するがかなり強烈で、地面に踏ん張りながら数メートル吹き飛ばされる。
「痛てッ・・・。」
かなりの威力だ。
防御した腕がジンジンする。
上昇持ちなのはまず確定だろう。
「今の上昇無しで防御したのか? 面白ぇ!」
「こりゃ本気でやらないとな!」
「だから話聞けっての!」
「うるせぇ! 俺ら獣人の怒りを思い知れクソ只人がぁ!」
あー駄目だ、獣人ってのは完全に言葉が通じないみたいだ。
改めてそう思うのもつかの間、猪男たちは前のめりで構える。
腰を深く落とし、地面に拳を乗せるように添える構えは独特だった。
「ッ!」
刹那、俺は即座に危険を察知して横っ飛びに回避する。
瞬間的に俺の元いた場所は高速で何かが通り過ぎる。
目の前にいた猪男だ。
奴は俺を横切ったかと思うと、その後ろにあった大きめの木にぶつかり、木を木っ端みじんに吹き飛ばした。
「・・・・・・躱したな?」
猪男は頭に残った木片を顔を震わせて払って振り向きざまに俺を睨みつける。
「おいふざけんなよ!? それを俺にぶつける気だったのか!!」
吹き飛ばされた木を見た限り、人間が喰らえば当然骨折所の話では済まない。
こいつらマジで俺を殺す気だ!!
ってか分かってやっただろあの狼オヤジ!!
「・・・。」
ゾルガを見ると案の定ニヤニヤしていた。
ふざけやがって、俺が痛めつけられるのを見て楽しんでやがんのかこいつ!?
「おら一体だけじゃねぇぞ!」
「ッ!?」
もう一人がまた同じように突進してきた。
不意打ちだったために反応が遅れた。
なんとか回避しようと跳んだが回避し損ねて左肩に当たる。
「ぐあぁっ!!」
ぶつかった反動で回転しながら吹き飛び、地面にたたきつけられる。
直撃しなかったのにぶつかった場所は尋常にならない程の激痛を全身に伝える。
正直まともに動くかわからない程に。
「おいお前・・・まさか・・・。」
今の一連の状況をみて猪男の一人が察したようだ。
「上昇を使わないんじゃなくて使えないのか?」
「何ィ!?」
「・・・。」
仲間も続けて気づくと、どっと一斉に笑い出す。
「お前馬鹿じゃねぇの!? 剣腰に差してる癖に上昇使えねぇとかカスじゃねぇか!」
「・・・。」
まぁ半分当たってはいる。
正直余程の事がない限り使いたくないし、使えないと思われるのは認識として間違ってはいない。
だが馬鹿にされてムカつく物はやはりムカつく。
「おいおっさ・・・?」
やり場のない怒りでゾルガに文句を言ってやろうかと振り向いたが何か違和感がある。
「・・・。」
先程までニヤニヤしていたのに今は表情を曇らせている。
何か不満そうだ。
だがなんとなく察した。
「・・・アホくせぇ。」
このおっさんは期待していたのだ。
俺がこの猛牛のようなイカレ猪共相手にどう立ち回るのか見たかったんだ。
で、その想像以上に戦えていないから今は不満なんだ。
ったく、つくづく勝手なおっさんだ。
付き合ってられるか。
「・・・。」
俺は両手を軽く上げる。
「あ?」
「降参だ。」
戦うのが面倒なので早々に降伏する。
「んだてめぇふざけてんのか!?」
「俺はこの村に殴り込みに行くって言われて連れ出された流れ者だ、なのにこのおっさんが勝手な事言うから付き合ってられん。」
「おい! 勝手にバラすなよ!」
ネタバラしをされてゾルガは非難してくる。
「事前に言わないからだ。こんな勝手な喧嘩に付き合ってられるか。」
「てめぇ降参するってのがどういう意味か分かってんのか?」
猪男は俺を指さしながらガンを飛ばしてくる。
「命を差し出せって以外なら聞いてやる。」
「じゃあ金目の物を置いてけ。」
「好きに取れよ、金目の物があるならな。」
「へへっ、じゃあ剣・・・は安っぽいな、いらねぇや。ん?」
俺から追いはぎしようとした猪男はある物に気づく。
「なんだお前、洒落た指輪してんなぁ? え? これ貰うぜ?」
猪男は俺の指輪に手を伸ばすが・・・。
「おい。」
「あ?」
俺に声を掛けられ、猪男は手を止める。
「お前ら只人の言うことは信じないんだよな?」
「あ? 何を分かり切ったことを!」
「じゃあ一言忠告してやる、聞かなくても後悔すんなよ?」
「あ?」
「『この指輪を取ればお前らは地面に這いつくばって俺に謝罪する』。」
「あぁ? 俺らがお前に謝罪ィ!? 寝言は寝て言えや、お?」
猪男は俺に向かって零距離でメンチを切って脅しかかる。
だが俺にはこの姿が滑稽でならない。
「まぁどの道そんなこけ脅し聞く気ねぇけどな! おら!」
猪男は俺の指から引き抜くように指輪を抜き取る。
「ほぉら取ったぞ? で? 俺らがお前になんだって!?」
猪男は仲間と一緒にゲラゲラ笑いながら俺にイキった言葉を吐きかける。
「忠告はしたからな?」
あまりの滑稽なこいつらに思わず口元が少しだけにやける。
「あ?」
「後悔するなよ?」
~メロ 密林~
グラの頬の紋章の痣、『火神の手跡』を消すために私たちはこの村の近くの『浄化の泉』に向かっていたのです。
正直グラ一人に行かせればいいのですが、ルタがついていくと言ったので私一人が村に残るのも居心地が悪いので私もついてきたのです。
それはいい。
別にいいのです。
「ねぇ、浄化の泉って色んなところにあるの?」
「ああ、この国の伝承じゃ神ミノスが各地の戦いで散っていった戦士の墓の前で涙を流して泉が出来たそうだ。」
「神様って涙脆いんだね。」
「本当かどうかは知らねえよ。ただそんな伝承が残るくらい泉の効果は折り紙付きだ。」
この会話だけ聞くと平和その物なのです。
ルタもニコニコ笑ってグラと話しているのです。
でも実際は平和なんてとてもじゃないけど言えない状態なのです!!
「ふーん。」
ルタは相槌を打ちつつさっきから物凄い殺気を放っているのです・・・!
今にも『オマエヲコロス』と言ってしまいそうな、魔力とは別のドス黒いオーラ的な何かを感じるのです!
「でも俺らの村に一番近い泉でも村からかなり距離あって遠いんだよ。神様ももう少し近い場所で泣けっての。」
そしてなんでグラはこの殺気に気づかないのですか!!
鈍いのですか!?
鈍感なのですか!?
それとも殺気に耐性でもあるのですか!!!?
「うぅ・・・。」
「ん? どうした?」
グラが私の状態に気づいて声をかけてくるのです。
「なんでもないのです・・・。」
完全に歩く位置を間違えたのです。
私は今ルタとグラの間を歩いているのでルタがグラに向けている殺気の流れ弾を受けている状態なのです。
っていうかなんで私がこんな目に遭わないといけないのですか!
ルタとグラの事なのに完全にとばっちりなのですッ!!
・・・そもそもの原因はなんとなく察しが着くのです。
グラが師匠を押し倒してとんでもないことをしようとしたからなのですきっと・・・。
というか師匠ってどんだけ女に襲われてるのですか!!
ルタに宿屋で襲われたり銀蠍に連れ去られてたら危うく犯される状態だったり・・・!
師匠ってもしかして女性運が悪いのですか!?
きっとそうなのです!
そのうち師匠・・・ろくでもない女に貞操を奪われるのではないのですか!?
いや、そもそも師匠って女性経験あるのですか?
「・・・ハッ!」
そう言えば世の中には『英雄、色を好む』という言葉があるのを何処かの本で見た気がするのです!
英雄だった頃に言い寄ってくる女なんていくらでもいただろうから十分にあり得るのです!!
もしかしてその昔の女性経験から女を引き付けるのかも・・・!
だとしたら師匠はヤリチ●・・・!?
そのうち師匠も節操がなくなって私に・・・!
「着いたぞ!」
「何も考えてないのですッ!!」
「何言ってんのメロ?」
「何でもないのですッ!!」
「ここが『浄化の泉』だ。」
「この状況で話続くのですか!?」
「ん? なんだ?」
「い、いや、気にしなくていいのです。」
あまりのグラのマイペースぶりに驚きつつ目の前を見ると・・・。
「こ・・・これ・・・!」
目の前の光景に目を・・・いや、魔覚を疑うのです。
泉からは色々な色の魔力を感じるのです。
まるで泉一面に虹が溶け込んでいるかのような・・・例えがおかしい気がするのですがとにかくそんな、奇妙なほどの膨大な魔力を感じるのです・・・!
「な? 入る前から効果があるの分かるだろ?」
「た・・・確かに普通の泉とは到底思えないのです・・・!」
「ってなわけで早速・・・。」
「え・・・?」
グラは・・・あれ?
なんか服を・・・いや、服と呼べるのか分からないわずかな布を脱いで裸になったのです!
「ちょ・・・グラ!?」
「なんだ?」
「なんで脱いでるのですか!?」
「ホント只人はおかしなことばっかり言うな、水浴びすんなら普通裸になるだろ。」
「そ・・・そうなのですか?」
いや、私も実際に見たわけではないのですが、確か『森林浴』と言うのがこれだったような気がするのです。
アステリオンの獣人達にとってこれがお風呂と言うのなら確かに服を脱ぐのも納得出来なくはないのです。
「折角だからお前らも入れよ。ほら!」
「え、ちょ!?」
「嫌ああああぁッ!!!」
私たちの服は半ば強引にグラに脱がされ、密林の木々の僅かに見える空に舞ったのです。
―――数分後。
「ふぃ~! 生き返る~!」
泉に半分身体が出ていながら恥ずかしげもなくグラは水を自分の体に浴びせて水浴びを楽しんでいるのです。
私はと言うと・・・。
「うぅ・・・!」
体が見えては恥ずかしいので泉に隠すように体を沈めていたのです。
幸い・・・と言うと不本意なのですが身長が低いお陰でちょっと屈むだけで首から下まで水で隠せるのです。
「なんだよ。恥ずかしいのか?」
「当たり前なのです!!」
「んなこと気にすんなよ! 女同士だろ?」
「そんなこと分かってるのです! ・・・ってあれ?」
「ん?」
「頬の紋章が・・・!」
グラの紋章の異変に気付いたのです。
泉に入る前は絵の具を濃く塗りつぶされた感じの赤黒い感じの色だったのに今は色が薄れて少し明るい赤色の腫れみたいになってるのです。
「ああ、この泉から溢れてる魔力の影響だ。泉に入ってると色が薄れていずれ消えるんだよ。だから火神を使った奴は此処で紋章を消してるんだよ。」
「消さないとどうなるのです?」
「体温の調節が出来なくなって、内側から焼けるような熱さで人体発火、そのまま上手に焼けた肉になってめでたくお陀仏って寸法さ。」
「最後オブラートに包んで言っても恐ろしすぎなのです・・・。」
確かにそれは消さないとヤバイのです・・・!
「というか火の玉女はどうした? あれ。」
「え? ああ・・・。」
さっきからルタの様子がおかしいのです。
泉の近くでこちらに背中を向けたまま蹲っているのです。
「おーい! どうしたんだよ! 入らないのかー?」
「・・・。」
ルタは答えないのです。
・・・ハッ!
もしかして・・・!
「ははぁん、さては自分のその貧相な身体が見えるのが嫌なのですね?」
「ん? そうなのか?」
「今更隠してたって遅いのです! あなたが貧乳なのは既に服の上からだってお見通しなのです~! 変な意地張ってないでこっち来るのです~!」
「そうだそうだ~! 早く来~い!」
「・・・コロス・・・オマエラマジコロス・・・!」
「お、怒るのは怒るのですね・・・!」
それでも何故かルタは此方に向こうとしないのです。
「なんだよ、恥ずかしくねぇって・・・さっきから言ってるけど女同士だろ? ほら・・・。」
グラがルタの腕を掴み引っ張ろうとした瞬間・・・。
「嫌ぁぁぁッ!!!!」
「ッ!?」
ルタが何故か聞いたこともない悲鳴を上げてグラの腕を払って飛び退くように尻餅を着いたのです。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
「・・・ルタ?」
こんなルタの顔、見たことが無いのです。
僅かに息を切らしながら此方を見ている・・・と言うより泉を見ているのですか?
何か物凄く怯えているような・・・。
「もしかしてお前・・・。」
グラがルタの様子の理由に気づいたみたいなのです。
「水に入るのが怖いのか・・・?」




