#37 村長
~ウルド マカ村~
木のテーブルを囲み、藁で作られた日傘の下。
村の風景を眺めながら俺達は食事を取っていた。
この国は食糧を得る手段が狩りや採取と言うこともあってか果物と肉料理が中心だ。
野菜や米やパンがあっても良いとは思うが、どうにも農作業と言うのはこの国の人間には性に合わないみたいだ。
グラ曰く、『そんな長々時間の掛かる物作ってるくらいなら身体を鍛えた方がマシだ!』らしい。
噂以上にこの国の奴等は能筋らしい。
村を走る子供達は無邪気に追いかけっこをしているかと思えば走りながら殴り合いをしている。
「あれ良いのか・・・? 止めなくて・・・。」
「なんだ? お前『旗取り』知らねぇのか?」
「ジャンダ?」
「村の端の塀に旗を立てて逆の端から走って競争してそれを取ったら勝ち、ガキ共がよくやる遊びだ。俺も昔やったなぁ・・・。」
「殴り合いは良いのか?」
「馬ッ鹿お前! 寧ろそれが醍醐味だろ!」
「・・・。」
要するにルール無用のかけっこか。
確かに殴り合う子供達を見て大人達は止めるどころか笑いながら眺めている感じだ。
なるほど、戦士の国か。
子供のこんな遊びも容認するとかやっぱり能筋だ。
「それにしてもこの村の人達ってさ。」
「なんだ?」
「みんな見た目が只人寄りだよね。」
「・・・言われてみればそうだな。」
ルタに指摘されて気づいた。
此処に来るまでに狂戦士含めて何回か獣人と戦り合ったが、獣人も大きく分けて二種類いるみたいだ。
一つはルタの指摘した通り、獣の尻尾や耳がある物の、俺達只人の様な顔をして所々毛皮に覆われず肌が露出している獣人。
もう一つは顔も完全に獣で身体も毛皮に覆われたほぼ二足歩行の獣と言っていいような獣人だ。
この村の住人達は皆只人寄りだ。
「ああ、俺達は『ク族』だからな。」
「『ク族』?」
「獣人には『ク族』と『ゴ族』ってのがいるんだよ。」
「只人寄りがク族?」
「ああ、元々獣人はゴ族みてぇに完全獣の奴等ばっかりだったけど何処かの代で只人と交わった奴がいてな。それで生まれたのが俺達『ク族』って訳だ。」
「へぇ。」
「今でもク族の奴は強けりゃ他の種族でも交尾するぜ! ゴ族は一族の血筋云々で嫌がるけどな!」
「へぇ・・・。」
それでさっきあんなことを・・・。
「・・・ッ!!!」
ルタの方を見ると思わずゾッとする。
案の定狂気に染まった化け猫の様な眼でグラを睨んでいた。
『ルタッ! 落ち着けッ! 待機ッ! 待機ッ!』
『お兄ちゃんは黙ってなさいッ!』
『またこれかぁッ!!!』
念話のあのやり取りがまた復活する。
「ただなぁ・・・。」
「ただ?」
そんなやり取りも知らずにグラは話を続ける。
「今はク族も只人を嫌う奴は多い。ロキウスの奴等が村を襲って戦士を連れ去るからな。」
「・・・。」
確かにロキウスのやってることを考えれば当然か。
「・・・まぁ、無理な同情はしないさ。俺らも只人だし。」
酷い事はしているのは分かるが余所者が偉そうに同情していいことじゃない。
俺だって無闇に踏み込んで欲しくない事があるしな。
「けど、ロキウスのやってることは許す訳にはいかない。それは一緒だ。」
此処の奴等がどうあれ、結果的にルヴァーナ側も実害を被ってる訳だからな。
敵は同じだ。
「そう言ってくれると助かるな!」
「ッ!?」
後ろに何か大きな物が現れたかと思うと俺の頭全体を上から掴まれ、わしゃわしゃと髪を撫で回される。
「敵の敵は味方! 分かりやすくて良いじゃねぇか!」
「・・・。」
狼獣人の大男が豪快に笑う中、俺は黙って乱れた髪を手で直せるだけ直す。
グラの父親、ゾルガ。
このマカ村の村長であり、ク族の狼獣人の纏め役らしい。
早い話がアステリオンの重役の一人だ。
なんとなく分かるが一応、何故そんなに偉くなったのかとグラに聞けば『村中で殴り合いをして最後に勝ち残ったからだ』、らしい・・・。
やっぱり能筋じゃないか。
「なんだよ親父、混ざりに来たのか?」
「あー、そうしたいのは山々なんだがな。」
「なんだよ。」
「ちょっとお前の男借りていいか?」
「いいけどなんだよ、用件言えって!」
「いやちょっと待て、なんか勝手に話進んでないか?」
あまりに唐突な俺の扱いについツッコんでしまう。
「つーわけだ! 俺に付き合え!」
「あれ? 俺の声今聞こえてない?」
俺の人権総無視で話が勝手に進む。
俺の肩に腕を回してがははと笑うゾルガだがおいふざけんなよこの狼オヤジ・・・!
『お兄ちゃん。』
「ッ!」
ルタからの念話の声が聞こえ、ゾクッとしながらルタを見ると笑顔だった・・・・・・明らかに地獄の悪魔が天使の仮面を被った様な張り付けられた笑みでッ!!!
『・・・はい。』
『夜に物置の裏集合ね?』
『・・・。』
『返事は?』
『はい。』
死んだ。
死刑確定だわマジふざけんな。
別に俺何もしてないのに理不尽過ぎるだろ・・・!
「だから用件言えっての!!」
グラはグラで勝手に話を進められて不満を投げる。
「ゴ族の村に殴り込みだ!」
「・・・はい?」
話が全然見えないんだが・・・。
ゴ族って同じアステリオンの奴等だよな?
こいつらロキウス相手に戦争してんじゃなかったっけ?
内紛?
いや、そんな事してる場合か!?
「あ? それどういうことだ親父? 俺抜きで抜け駆けする気か!? ずりぃぞ親父ッ!」
いや無いわ。
内紛の雰囲気じゃ無いわこれ!
完全にお祭りのイベント的な感じで話してるわ。
戦争中にお祭り騒ぎしてんのこいつら!?
ヤバイ、ツッコミが追い付かねぇッ!!!
「お前火神使ったろ。」
「うぐ・・・!」
図星を付かれたかのようにグラは頬の紋章を手で押さえる。
火神・・・そう言えばグラがロキウスと戦ってた時使ってたな。
たしか上昇より強力な身体強化だったな。
「つー訳で、お前『一回休み』だ。キッチリ浄化しとけよ。」
「くっそぉ! 汚ねぇぞ親父ッ!」
「馬ぁ鹿! お前のは自業自得って言うんだよ! んじゃ、俺は行くからな♪」
「え、ちょ!?」
また話が勝手に進むと俺はゾルガに首根っこを掴まれて連れて行かれた。
~バンズ 裏山~
「「「1、2ッ! 1、2ッ!」」」
掛け声を出しながら俺達は山の中を馬も使わず走っていた。
ただ走っているだけじゃない。
足並みを乱さずに一定の歩幅、地面を蹴るリズムも全て均等に統一している。
兵達は統率力が命だ。
指揮した命令を全ての兵達が遂行する以上、行動の乱れは許されない。
これはそう言った理由から俺が兵達に徹底している訓練だ。
「全隊ッ! 整列ッ!」
俺が号令をかけると兵達は列を乱さず俺の方を向き、直立する。
俺達は町外れの裏山に来ていた。
兵達の訓練は大声を出すこともあり、街の人間の迷惑にもなるからだ。
それに街を離れる為の移動も訓練になるので悪くはない。
「伏せッ!!」
号令をかけると兵達は前に倒れるように伏せる。
俺も同時に伏せる。
「腕立て五百、開始ッ!!」
「「「1ッ! 2ッ! 3ッ!」」」
号令と同時に俺達は数を数えながら腕立て伏せを始める。
朝の訓練は決まっている。
腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットを五百回ずつ、素振り三百回を終えて実践訓練をする。
王宮の訓練施設を使う時と全く同じ風景だ。
「11ッ!!! 12ッ!!!」
・・・ただ一つを除いてはだが。
「14ッ!! 15ッ!!!」
一際大きな声を上げて腕立て伏せをしている大男はカザの冒険者、名をリガードと言ったか。
今朝訓練に出掛ける際、いきなり押し掛けて参加を志願してきたのだ。
『部外者に参加させる訳にはいかない』と一部の部下は反対したが己を磨く意思は殊勝な心掛けと見て参加を許した。
しかし・・・。
「21・・・。」
「22・・・。」
彼の気合いに気圧されてか、兵達は今一声に勢いが無い。
だがこれは俺としてはいい傾向だと思っている。
「声が小さいぞッ!! 23ッ!!!」
「「「24ッ!! 25ッ!! 26ッ!!」」」
俺が激を飛ばすと兵達も彼に負けじと声を張り上げる。
やはり彼を訓練に参加させたのは良かった。
競う相手が居れば自ずと士気が上がるものだ。
それから彼の影響は凄かった。
筋トレは勿論の事、実践訓練の時もその巨体に違わない強さで兵達を圧倒した。
それもあってか、次第に兵達の彼に対する視線が実力を認める物に変わっていった。
―――訓練を終えて兵舎に帰ってきた。
「訓練終了ッ!! 一小隊は西、二小隊は南、三小隊は東、四小隊、五小隊は北の正門を警護! 各員、緊急の戦闘時には必ず小隊長の指示に従うように、解散ッ!」
「「「ハッ!!!」」」
兵達はそれぞれの小隊で纏まりながら散っていった。
それを見届けるとリガードも去ろうとするが・・・。
「待ってくれ。」
俺が引き留めると彼は振り向く。
「単刀直入に言う。騎士団に入る気はないか?」
「む?」
勧誘だ。
彼は中々に実力がある、だがそれだけじゃない。
「我々が戦う理由は『敵を倒す』のではなく『護るべき者を守る』事が目的だ。訓練を見て思った。貴殿のあの堅牢な守りは我々に通じる物がある。」
そう、実践訓練の時に見た彼の戦い方だ。
巨体に任せて攻めるような戦い方はせず、攻撃は出来るだけ無駄なく手数を押さえ、守りを崩さず堅実に立ち回っていた。
彼が騎士団に居れば戦線がかなり下がりづらくなるだろう。
「うむ、断るのであるッ!」
「!」
駄目か、まぁ仕方無い。
「そうか、一応理由を聞いても良いか?」
「我には我の守るべき物があるッ!! それだけであるッ!!」
「守るべき物? なんだそれうぉっ!?」
呆気に取られた俺を後ろから誰かが押し退ける。
「ダーリン朝から見掛けないと思ったらこんなとこ居たの!?」
俺を押し退けたのはこの間絡んできた軽装備の女だ。
女はすぐにリガードの腕に抱きつく。
「騎士団の鍛練に参加していたのであるッ!!」
「えー?」
すると女は俺を睨む。
「ちょっとぉ、人のダーリン勝手に連れ出さないでくれる?」
「え!?」
あまりに謂れのない非難を受ける。
「ルッカ、鍛練に志願したのは我であるッ!!」
「え、そうなの?」
「良い鍛練だったのであるッ!! 己に益々磨きが掛かったのであるッ!!」
「そぉ? ならいっか! ね~ぇ、まだご飯食べてないから行こ~?」
「了解であるッ!!」
リガード達は俺の事など何処吹く風かとばかりに去っていった。
「・・・ふむ、あれか。」
「我には守るべき物があるッ! それだけであるッ!!」
彼女が彼の『守るべき物』。
恐らくは恋人なのだろう。
そしてそれが彼の動力源であり、あそこまで強くなった理由なのだろう。
恋か・・・。
「・・・。」
不意にギルドのレレ殿を思い出す。
ギルドに行ってみるかな・・・?
~ルッカ カザ~
「ねぇねぇダーリン?」
「む?」
「鍛練に行こうと思ったのってなんで?」
「筋トレが出来ると聞いたからであるッ!!」
「あはは! だと思った!」




