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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
アステリオン編
36/101

#36 通過儀礼


~エレノア カザ 商店街~


「ハァ・・・。」

 兵達に必要な買い物も一通り終えて帰る途中、路地裏で溜め息をつく。

 団長は初の失恋のせいか、落ち込み気味だし兵達には早くも噂になっている。

 と言うか街の人間まで噂し始めている。

 この街の人間は異様に耳が早いみたいだ。

「・・・。」

 なんだろう。

 凄くもやもやする。

 いや、団長がおかしな行動取って頭を抱えるのはいつもの事だ。

 変な失態を見せた事に腹が立つのはいつもの事の筈なのに何かが違う気がする。

 何かこう、何かに納得がいかないと言うか腑に落ちないような感覚がイライラの中に残っているというか・・・。

「あぁもうッ! 何なのこれッ!」

 頭を掻きむしって叫ぶがどうにもならない。



「その悩み、お応えしましょうか~?」



「ッ!」

「おおっとぉ!」

 後ろから声がして思わず護身用の細剣(レイピア)を抜いて振るが声の主は後ろに飛び退いて放れる。

 この身のこなし、一般人ではないッ!

「何者ッ! ・・・って、貴方は!」

 金髪の軽装の野伏(レンジャー)らしき姿・・・確かギルドに入って最初に絡んできた女冒険者だ。

「もう、からかい甲斐があるかと思ったら危ない騎士様だねぇ!」

「何の用ですかッ!」

「何やら頭を抱えていたようですが~?」

 女は意地の悪そうな笑みで私を見ていた。

「それが何ですッ!」

「私には心当たりが・・・いや、心当たりしかないんだなぁ~これが。」

「ふん、下らない・・・貴方と遊んでいる暇は無いんです。冷やかしなら他所を当たって下さい!」

 そう言ってさっさと女の横を通り過ぎようとしたときだ。



「それは嫉妬・・・またの名を『じぇらすぃ~』という!」



「!」

 思わず気になって足を止める。

「・・・何が言いたいんですか?」

「んふ。」

 女は鼻で笑うと再び私の前に立つ。

「知ってる? 野伏(レンジャー)って観察力の強い奴が多いんだよ?」

「それで私が嫉妬? 話が見えてきません。一体何が言いたいんですか?」

「それを説明するにはまずあんたとあのダンチョーとの関係を言い当ててからね。」

「私と団長との関係? パッと見の貴方に偉そうに決めつけられるのは心外で

「上司と部下、四~五年くらい一緒にいる。」

「ッ!!?」

 当たっている・・・!

 団長が今の地位に就任し、私がその補佐に任命されたのは五年前だ。

 上司と部下まではパッと見た位で分かるかも知れないけど一緒にいる時間までは分かる筈がない。

「・・・ビンゴ。」

「何を根拠に・・・!」

「一緒に仕事し始めたにしては歩く時の距離が近すぎる。あんた、身なりからして騎士として優秀そうだし上司になり始めた相手ならニ~三歩後ろを歩いてるはずでしょ?」

「・・・!」

「でも横に並んで歩いていた。それは相手に慣れて自分から話し掛ける事が多い証拠。大方あんたがダンチョーに小言を言ったりとかじゃない?」

 確かに団長が就任したばかりの頃は一緒に歩く時はニ~三歩後ろを歩いていた。

 でも最近は団長相手に小言を言うことが多く、そう言う時つい横に並んで話をするようになって気がつけば横を歩く様になっていた。

「それが嫉妬と何が関係してるんですか!」

「ここまで言って分からない?」

「だから何を言いた



「あんた、ダンチョーさんが好きなんじゃないの?」



「・・・は?」

 思考が停止する。

「え?」

「聞こえなかった? だからあんたダンチョーさんが

「二回も言わないで良いですッ! ってか何!? 私があの人を好き!? あり得ないですよッ! 確かに人間的には尊敬してますけどちょっと抜けてる所ありますし部下への訓練でスパルタしすぎて気絶させちゃうくらい加減知らないバカな所があってこっちは色々迷惑してるんですッ! この間だって私に断りもなく物資の仕入れを勝手に指揮取ってヘマしましたしッ!」

「あー、うん、分かった。それだけあんたがダンチョーさんの事スンゴイ見てるって事ね。」

「なんでそうなるんですかッ!」

「なんでも何も・・・。」

「とにかく今の発言、取り消して下さいッ!」

「断固拒否ッ!」

「~~~ッ! もうッ! 鬱陶しいッ! 私は忙しいって言ったでしょッ! もう行きますからねッ!」

 女の横をまた通り過ぎようとしたときだ。

「『ルッカ』。」

「・・・。」

 急に自己紹介されて足を止める。

「あんたの名前は?」

「・・・エレノアです。」

 職務上街の冒険者には教えた方が良いと思ったので私情を抑えて応える。

「ハイハイ、エレノアね。もし気持ちに素直になるなら応援するよ♪ 私もそっちの方が都合がいいし♪」

「都合がいい・・・?」

「な~んでもない。じゃね♪」

 そう言うとルッカは歩いて私の横を通り過ぎる。

「・・・。」

 あの女・・・何をふざけた事を。

 私が団長に恋?

「あのバカ団長に? あり得ないでしょ! はは、はははは!」

 呆れて笑い声を上げるが何か胸の中で虚しい感じがした。



~ウルド 密林~


 なんだかんだあったが、グラに貸しを作ったことにより、協力関係を築く事に成功した訳で、今俺達は彼女の案内で村を目指している所だ。

 それは良い、良いことなんだが・・・。

「・・・!」

 グラは気づいてないがさっきからルタは俺の腕を掴みながらグラを睨んでいた。

『ルタ・・・。』

『・・・。』

『歩きづらい・・・。』

『お兄ちゃんは黙ってなさいッ!』

『お前どんだけさっきのこと

『お兄ちゃんは黙ってなさいッ!』

『・・・。』

 念話で話してるがさっきからこの調子だ。

 いや確かにさっきグラに犯され掛かってたのは俺にも思うことはあるよ?

 でも此処で変に角の立つことしたらせっかく結べた協力関係も台無しになりかねんだろ。

「そろそろ着くぞ! あれが俺の村、マカだ。」

「はーッ! やっとかぁ!」

 結構歩いたが疲れた理由はそれだけじゃない。

 昨日はルタやメロも魔法を酷使したのにも関わらず野宿だったので充分休めて無かっただろうし、俺もさっきの戦闘で結構消耗していた。

 村に行けるなら充分休めるだろうし、これからの事を考えれば拠点になる場所も欲しかった所だ。

「やっと休めるのです・・・。」

 メロも俺と同じ考えみたいで早く休みたいみたいだ。

「おーおー、お前ら。偉く余裕だな。」

 グラは何故か意味の分からない皮肉を吐く。

「は? 何言ってんだお前、どう考えても余裕ねぇだろ。」

「お前こそ何言ってんだ?」

「・・・。」

 やれやれ、まーた話が噛み合って無いなぁ。

 どうやら俺らの言ってる事がグラ(こいつ)の常識とは違うみたいだ。

『なぁルタ、どう思う?』

 念話でルタに聞いてみる。

『お兄ちゃんは黙っ

『それもういいからッ!』

『うーん、よく分かんないなぁ・・・私貴族とかお偉方の情報は詳しいけど部族とかの風習とかは詳しく無いんだよね。』

『ちゃんと聞いてんじゃねぇかこの野郎、まぁ推理するしかないってことか。』

『良いね、当たったらで何か賭ける?』

『・・・まぁ良いけど。』

『当たったら相手に一回だけ言うこと聞かせるってのは?』

『お前がやる気出すなら何でもいい。』

『じゃあ私からね! 村の石像にお祈りして回らないといけないとかかな! 部族って信仰強そうだし。』

『んな特殊なもんか?』

『なに? お兄ちゃんはどうなの?』

『案外村の奴等に挨拶回りしなきゃいけないとかじゃね? それで長話してくるおばちゃんとか村長とかの相手しないととか・・・。』

『そんな普通の田舎の村じゃあるまいし・・・。』

『うるせぇなぁ・・・分からんから深く考えても仕方無いだろ。とにかく宿の確保が重要な以上こなすしかないだろ。』

『早くも諦めムード? こりゃこの勝負貰ったかな?』

「そろそろ着くぞ! 準備はいいか?」

「「「準備?」」」

 グラの言葉に俺達三人は同時に首を傾げる。



「村に入れると良いな♪」



「???」

 村に入れると良いな?

 何言ってんだこいつ?

「ほら、来いよ!」

 グラは手招きしながら村の門を潜る。

 俺達も訳が分からないまま村に入ろうとするが・・・。

「ストップ・ザ・お兄ちゃんズ。」

「「!?」」

 ルタが俺とメロの肩を掴む。

「ルタ?」

「何なのです?」

「メロ、あんたも魔力感知出来るでしょ?」

「え?」

 ルタに指摘され、メロは何となく目を閉じて魔覚に意識を集中させる。

「ッ!」

 メロはハッとして目を見開く。

「どうした?」

「五体ほど物陰に隠れてるのです・・・! 魔力が薄くて分かりづらいですけど・・・!」

「ッ!?」

 村には目視では人が一人も居ない。

 にも関わらず隠れ潜んでいる奴がいる・・・?

「へぇ・・・。」

 グラが悪そうな笑みでにやりと口元を吊り上げる。

「おいグラッ! どういうつもりだッ!」

「おーいお前らー! 不意討ちは無駄みたいだぜ? さっさとおっ始めろッ!」

「は?」

 グラが合図すると同時に村の奥から矢が放物線を描くように飛んできた。

「隠れろッ!」

 村を囲う塀に隠れて矢の射線上から逃れる。

「!!」

 獣人が塀の上から顔を出し、そのままよじ登って乗り越えてくる。

 塀の上から降ってくる勢いで攻撃されては堪らないので移動する。

 しかし先程の矢が来ないとも限らないので塀沿いに移動して俺達はそれぞれ武器を構える。

 槍持ちが二人、鉈持ちが二人、手斧持ちが一人。

(フラム) (カーン) 放出(ホレッシ)

 ルタが魔法を詠唱し始めると鉈持ちの一人が飛びかかり、ルタに襲い掛かる。

「はいダメぇッ!」

 即座に俺は鉈持ちの前に立ちはだかり、鉈を止める。

 魔法の詠唱妨害は戦いにおいては定石(セオリー)だ。

 それだけに分かりやすい。

 そして・・・。

炎球(フレイムボール)ッ!」

 ルタは魔法を放つ。

 放った先は・・・。

「ブガァッ!」

 俺の横にいた槍持ちだ。

 恐らくは鉈持ちが鍔迫り合いで俺を押さえている内に攻撃するつもりだったんだろう。

 炎の球体は奴の顔面に命中する。

「ぐわあぁッ!」

 奴の顔面は炎で燃え上がり、慌てて奴は火を消そうと地面に頭を擦り付けながら転げ回る。

「デトッ!」

 鉈持ちが槍持ちの名を叫び、そちらに視線を移すが・・・。

「余所見すんなよ。」

「ハッ!」

 奴が油断した隙に剣から放した左手で拳を固め、槍持ちの方へ殴り飛ばす。

「うわぁッ! 火がッ! 燃えッ! ワァッ!」

 槍持ちとこんがらがると鉈持ちにも火が移り、更に二人はパニックになって地面を転げ回る。

 こいつらは暫く再起不能みたいだ。

「・・・!」

 メロの方を見るとどうやら劣勢みたいだ。

「くっ・・・このっ・・・!」

 槍持ち鉈持ちに同時に襲いかかられ、二本の剣でなんとか攻撃を受け止めながら防戦一方だった。

 そこへ俺は拳弓銃(ハンドボウガン)の矢を放つ。

「!」

 槍持ちが気づいて此方を向き、槍を回転させて矢を弾く。

「残念。」

 矢は囮だ。

 俺は既に距離を詰めて槍の回転する逆の向きから剣を振る。

 槍の柄は木で出来ていたので真っ二つに斬れる。

 そして斬った勢いで身体を回転させ、蹴りを放つ。

 顔面を蹴られ、よろけた槍持ちは鉈持ちにぶつかる。

「え?」

 鉈持ちが突如ぶつかった槍持ちに気をとられた瞬間・・・。

「「せーのッ!」」

「しまッ・・・!」

 俺とメロは槍持ちと鉈持ちの真正面から飛び蹴りを喰らわせる。

 顔面に受けた敵二人は互いに後頭部をぶつけ、白目を向いたまま倒れた。

「お兄ちゃんやるぅ!」

「私もやったのですッ!!」

「お前ら言い争ってる場合かッ!」

 そう、油断してはいけない。

 あと一体・・・。

「ッ! しまった!」

 手斧持ちがルタの後ろにいた!

「ふぇ?」

 ルタが後ろを振り返るが奴は既に手斧を振り上げていた。

「ルタッ!」

 もうダメだと思った瞬間だ。

「ほい。」

 ルタは冷静に奴の手首を掴んで手首を往なして受け流す。

 更に奴の胸を軽く押すと奴が軽くよろける。

 そこへ・・・。

「フンッ!」

 ルタは距離を詰めて思いっきり足を上げ、奴の股間を蹴り上げた。

「ッ! ふぐっ・・・がッ・・・!」

 あまりの痛みに手斧持ちは武器を落とし、股間を押さえながら悶絶して地面に崩れ落ちた。

「ふふ、男に産まれて災難だったね。」

「やめてやれ、マジで痛いんだからなそれ・・・。」

 言葉とは裏腹に驚きは隠せなかった。

 さっきの動きは明らかに手練れの動きだった。

 手斧の力の向きを変えて受け流す技術。

 奴が斧を振り下ろして前のめりから体勢を立て直そうと起き上がる瞬間に奴を押して体勢を崩す動き。

 何かしらの体術の心得が無ければ出来ることじゃない。

「ッ!」

 門から誰か出てくる。

 先程の獣人達とは体格が一回り大きい狼の獣人の男だ。

「・・・!」

 此方へ一歩一歩歩いてくる動きの威圧感。

 鋭くも落ち着きのある眼光。

 明らかに他の獣人とは比べ物にならないほど強いのが本能的に分かる。

「・・・。」

 奴が目の前に立つので構える。

 しかし・・・。

「・・・。」

「・・・・・・え?」

 奴は何故か手を差し出してきた。

 え?

 何?

 握手?

「・・・。」

 応える様に手を差し出すと男は笑みを浮かべ、俺の手を握った。

「よく来たな、異国の戦士。俺達はお前らを歓迎する。」

「え? はぁ・・・。」

「良かったなお前ら!」

 グラがよじ登った塀から顔を出してきた。

 何故か満足気に笑っている。

「親父もお前ら気に入ったみたいだし、これからお前達は俺達の仲間だ!」

「あ・・・そう言うこと・・・?」

 なんとなく理解できた。

 さっきの戦闘・・・詰まる所、この村に入る前の通過儀礼みたいなもんか。

 戦士の部族だからって余所者を戦って試すとか能筋過ぎだろ・・・。

 まぁ何はともあれ、こうして俺達は村に歓迎された訳だ。

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