#35 媚び
~ウルド 密林~
「誰だ貴様は! 獣人ではないな!? 何故邪魔をするッ!!」
偉そうなロキウス兵が必死に起き上がりながら俺に罵声を浴びせる。
「ハッ、獣人だとか只人とか関係なくねこの状況。明らかに一人に対して寄ってたかって弱い者虐めじゃん!」
鼻で笑いながら皮肉で返してやる。
「お前には関係ないだろうッ!」
「所が関係あるんだなぁこれが! お前らがこの国に消し掛けた獣人の狂戦士な? こっちのルヴァーナにまで被害出してんのよ!」
「ふん、何の話か分からんなぁ!」
「バーカ、もうネタ上がってんだよ! 親切なロキウス兵さんが居てな! ぜーんぶ話してくれたよ! お前らがやってる研究、この国に戦争吹っ掛けた理由もぜぇーんぶだ!」
「嘘つけ、拷問して吐かせた癖に。」
「ふん、何の話か分からんなぁ!」
余計な水を差す女獣人に偉そうなロキウス兵の真似をして誤魔化す。
「で? どうするよ、ケルマン少佐殿。」
「ケルディウスだッ!」
「自分達の悪事が他の国の奴に知られた所でまだ戦争するつもりか?」
「・・・。」
「俺が余所の国に言いふらせば色んな国敵に回すだろうなぁ。」
此処で奴等が退き、ついでに奴が上に掛け合って戦争をやめようってなれば御の字だが・・・まぁ天地が引っくり返っても無いよな。
「ふん! 貴様、何か勘違いしていないか?」
「何を?」
「貴様の言うことは妄言だ! 我が国は貴様の言う様な事はしていない!」
「は? いやだからさ、ネタはもう上がってんだって・・・。」
「そんな事を言う奴はこの世に居ない!」
「いやいるだろ、今ここに・・・。」
「分からんか?」
ケルケル少佐は手を翳す。
すると取り巻きのロキウス兵達が俺に向けて銃を構える。
「貴様はもうこの世には居ない。」
「へーぇ・・・。」
成る程ね。
「つまりあれか? 『知っちゃった奴は生かしちゃ置かない』ってか、なら素直に言えば良いじゃん。つまらん体裁気にしないでさ・・・ホントお高く纏まった権力者ってめんどくせぇなぁ。」
「遺言はそれだけか? やれッ!」
ケルティ少佐が手を下ろすと一斉に兵達は銃を発砲する。
当然銃弾には当たりたくないので走って木の陰に逃げ込んで隠れる。
それでも奴等は銃を連射させ、俺が盾にしている木に容赦の無い銃弾を浴びせてくる。
「うひぃ~。」
スゲェ火力だ。
こっちも放出系の魔法で対抗したいけど手数が明らかに上だしまともに撃ち合うのは愚策だなこりゃ。
「なら・・・。」
俺は腰に取り付けてある皮の小物入れにいつも使っているある物を取り出す。
拳弓銃の矢だ。
こいつでただ撃ち合う訳じゃない。
「雷 矢 接続 秒刻 三 解放」
矢の先に手を添えて魔法を詠唱する。
「爆雷の矢」
矢尻が雷を帯び、光り始める。
「何かする気だッ!」
「弾幕を張れッ! 頭を出させなきゃ何も出来んッ!」
奴等の銃弾の雨がより一層強くなる。
だが関係ない、すぐに木から乗り出して奴等に向けて矢を放つ。
「うわっ!」
魔法で光る矢なんて見たことなかったんだろう。
ロキウス兵は大袈裟に避ける。
幸い矢は奴等をすり抜けて後ろの木に刺さる。
「ふん。」
それを横目にケルン少佐は鼻で笑う。
「ただのこけ脅しだ。弾幕を張れ!」
ケルバティ少佐の合図と共にロキウス兵は再び銃を撃ちまくるが・・・。
「「「うわあぁッ!!」」」
突然矢が爆発するように雷を起こす。
放っといて背にしていたロキウス兵は予想外だったんだろう、全員ビビって転げる。
「そうそう、ただのこけ脅しだ。」
「ッ!」
ロキウス兵の一人が俺に気づいた時、既に二人の兵士の頭を掴んで互いにぶつけさせていた。
「でも意味あったろ?」
俺が手を離すとロキウス兵は地べたに力無く落ちる。
「くッ!」
「おっと。」
一人が慌てて俺に銃を向けるが俺は慌てず銃口を持って射線を俺から逸らす。
そして間髪入れず二本指で奴の眼球を突いて目潰しを喰らわせる。
「ぐわあぁッ!」
ロキウス兵は目を押さえて苦しみ悶える。
「くそぉッ!」
残りの二人は短剣を取りだし、襲い掛かる。
小さな突きを二発ずつ突き出され、それを躱しながら様子を見る。
低い構えを崩さず大振りを避けた動き、成る程。
近接戦闘でもそれなりに訓練を受けている兵士だ。
「・・・。」
さらに首に横振り、左脇に突き、それらを躱す。
直後、右にいた奴が好機とばかりに俺のどてっ腹に短剣を突き出すが・・・。
「ッ!?」
「ハイ捕まえた。」
奴の手首を掴んだ。
そしてそのまま後ろに回って腕を極める。
「ぐっ・・・!」
「さぁて、とッ!」
極めたままロキウス兵をある方向へ向けるとドンッ! と銃声が響く。
「ぐわああぁッ!」
盾にしたロキウス兵は悲鳴を上げる。
そいつは腹部に弾丸を受けていた。
「うわぁ、ひっでぇな。部下撃つとか最低だなケルマンティ少佐。」
「お、お前が盾にしてるんだろうがッ! あと私はケルディウスだッ!」
ケルケラ少佐は小型の銃の銃口を向けたまま喚く。
「にしてもそれいいな!」
俺が銃に興味を持っている間に最後のロキウス兵が左から襲い掛かるが・・・。
「携帯にも良さそうだし・・・。」
兵士の短剣を膝で真上に弾き飛ばす。
「なッ!? ぐあっ!」
奴が驚く間も与えず頭突きをかます。
「くれよ、それ。」
盾にした兵士を放すと二人の兵士は同時に倒れる。
ついでに弾き飛ばした短剣をキャッチする。
「ふん、いきなり出てきて追い剥ぎ紛いとは、『盗人猛々しい』とはよく言った物だな。」
「えらく余裕だな。」
「知っているか? 優れた指揮官と言うものは・・・。」
ケルゲルム少佐は指をパチンと鳴らす。
「「「「ガアァァッ!!」」」」
「『伏兵』を常に構えているものだッ!!」
前後左右四方向の木の上から獣人が襲い掛かる。
「まぁ分かってたけど。」
即座に後ろに跳んで初撃を回避する。
「雷 短剣 接続」
短剣に手を添えて魔法を詠唱する。
「雷光の刃」
短剣が雷を帯び始める。
「ふん、魔法と上昇を使えるとは妙な奴だがどうでもいい。」
ケルメット少佐は鼻で笑う。
「貴様がどれだけ強かろうと・・・。」
話している間に獣人が襲い掛かる。
鉈の横振りを伏せて回避して転がりながら足を斬りつける。
「人間を遥かに越える膂力と速力を持つ獣人。」
ニ体目の斧の縦振りを左に回避して腕を斬りつける。
「それに薬物投与により更に強化して凶暴性を増大させた狂戦士。」
三体目の棍棒持ちの斜め振りを右斜め下に避けて脇腹を斬りつけて最後の一体の横を通り過ぎ様に肩を斬りつける。
「それを四体も相手にしてたった一人
「「「「ガアァァアアァッ!!!」」」」
斬りつけられた獣人達が全員感電して叫び始める。
雷を帯びた斬撃で斬りつけたからだ。
短剣なので剣ほど出力は無く、死ぬほどでは無いが気を失わせるには充分だ。
「・・・で・・・?」
獣人達は一斉に倒れる。
それと同時にケルナンデス少佐は言葉を詰まらせて固まる。
「あーすまんすまん。何言ったか聞いてなかったわ。もう一回言ってくれ。」
ホントは一言一句全てちゃんと聞いてたけどな。
「くっ!」
奴はまた銃を構えるが即座に詰めよって短剣を持った右手の裏拳で殴り飛ばす。
「無駄弾撃つなよ。俺が使うんだから、なッ!」
奴の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「な、何をするッ! 私が誰か分かってるのかッ! ロキウス陸軍中隊長、ケル
「あーあーあー、御大層な肩書き持ってるみたいだけどさ。」
持ち上げたケルマニウム少佐を地面に叩きつける。
「ぐがっ!」
「戦場で権力者の戯れ言通用すると思ってんのか?」
「くそぉッ!」
「おっと。」
ケルベロス少佐は何かを懐から出そうとするがその手に短剣を突き立てる。
「ぎゃあああぁッ!」
「応援呼ぶの禁止な。」
奴の代わりに懐から取ろうとした物を取り出す。
小型の通信機だ。
昔こいつで連絡取り合ってたロキウス兵を見たことがあるから知ってた。
すぐに通信機を投げ捨てる。
「さぁどうする?」
「だ、誰かッ! 誰か助けムグッ!?」
ケルミナス少佐は叫んで助けを呼ぼうとしたが即座に両頬ごと口を鷲掴みにして塞ぐ。
「これで助けも呼べない・・・さぁどうする?」
「・・・!」
「ど・う・す・る?」
「ッ! ・・・・・・。」
短剣首に突きつけ、睨み付けながら追い込むとケル・・・少佐は恐怖のせいか、白目を向いて放尿しながら気絶した。
「う~わ、最悪。バッチぃなぁ・・・。」
「おい。」
「あ?」
偉そうな奴から放れると女獣人が声をかけてくる。
「そいつを寄越せ! 八つ裂きにしてやる!」
「・・・。」
女獣人は牙を向きながら催促してくる。
「お前動けないから無理だろ。それにこいつを仕留めたのは俺だ。どうしようが俺の自由だ。」
「だからなんだッ! そいつは俺達の同志を・・・!」
「気持ちは分かる。でも俺は冒険者だし、本来はこの戦争に関しては中立の立場だ。無益な殺生は避けたい。」
「何!? じゃあそいつを逃がす気かッ!」
「いやいや、こいつムカつくしお前ら獣人にも媚びを売っておきたい。」
言いながら俺は女獣人の元へと歩き、目の前でしゃがみ、人差し指を立てる。
「そこでだ。」
「あ?」
~ケルなんちゃら少佐 ???~
「うっ・・・ぅん・・・?」
目を覚ますとそこは・・・。
「えッ!?」
頭の上に湖があった。
いや、私が逆さまになっているのかッ!?
「な、なんじゃこりゃあぁッ!!」
私はパンツ一丁の状態で蔦で身体中をぐるぐる巻きにされて湖の上に逆さ吊りにされていた。
「ひっ!?」
頭上の湖にちらっとヤバイ物が見えた。
鰐だッ!
奴は湖の水面から顔を出し、私を観察するように見ていた。
「あ、あっち行けッ! 私はお前の餌ではひぃッ!」
私の態度が気に入らなかったのか、はたまた餌としか見ていないのか、鰐は湖から跳び上がって私に喰いかかろうとしたが僅かに高さが足りず、そのまま湖に落ちる。
「くそぉッ! なんとかこの蔦を解いて上に・・・!」
と思ったが私の体を支えている蔦は一本の細い蔦でかなり心許ない。
なんか下手に動いたら千切れそうだ。
つまり動けないッ!
「だ、誰かッ!」
絶体絶命ッ!
「誰か助けてくれえええぇぇッ!!!」
~ウルド 密林~
「っとまぁ。運良く助けが来て助けて貰えれば生還だけど・・・あいつの場合は普段の行いが行いだし、もしかしたら仲間が来ても見捨てられるかも。まぁ、そうなったら自業自得って事で。」
「お前やっぱえげつないな・・・。」
動けない獣人の女を背負いながら俺は元来た道を歩いていた。
「こうでもしないとお前協力してくれないだろ? 恩を売ったんだ、ちゃんと返せよ?」
「お前、仲間から嗜虐愛好家って言われてないか?」
「・・・。」
『嗜虐愛好家さんかな?』
ルタの言葉を思い出す。
『お兄ちゃんの鬼畜ー!』 『ドS~!』 『ドS・・・』 『恐ろしい子・・・!』 『やっぱり嗜虐愛好家さんだね♪』 『変た~い!』 『シスコ~ン!』
「言われてねぇ。」
「へ?」
「言われてねぇッ!」
「なんでそんな必死なんだよ!」
「うるせぇッ!」
「まぁいいや。とりあえず・・・。」
「え?」
女は俺に捕まっていた手を放し、急に体重を後ろに掛けたかと思うと急にまた抱きついて体重を掛けてくる。
「うわっ!!」
急に前に体重を掛けられてバランスを崩して転ぶ。
それから女獣人とこんがらがる様な形で地面を転げる。
「何しやが・・・る?」
即座に非難しようとしたが目の前の状況に言葉を詰まらせる。
現在俺は仰向けに倒れ、女が四つん這いの状態で俺に覆い被さる様な形で跨がっている。
なんだこの状況。
「おい、どういうつもりだ? つかなんで動ける!」
そう、おかしい!
上昇の類いの反動でこいつは今手も足も動かせない筈だ!
「獣人は治りが早いんだよ。只人と比べた事無いけどな。」
「あ、そう。で? 何、この状況・・・。」
「お前、名前なんて言うんだ?」
「あ? あぁ、ウルド。ウルドだよ。」
なんで今名前聞いてきた?
「ウルドか、俺はグラ。」
「ああ、グラ? うん、よろしく。」
「お互い名前覚えたから良いよな?」
「は?」
そう言うとグラは俺から視線を下の方へ移動させ四つん這いのまま下の方へ身体をスライドさせようと動き出す。
「いや待て!」
「あ?」
俺が肩を掴んでグラを止めるとグラはめんどくさそうに俺を睨む。
「何する気だッ!」
「は? 決まってんだろ、『交尾』だよ。」
「はぁ!!?」
何言ってんだこいつッ!!!!!??
「どうした? 胸でも出さないと気分出ないか?」
「やめぃッ!」
そう言ってグラは胸を辛うじて隠している布切れを取ろうとするが俺は手首を掴んで阻止する。
「なんだよ!」
「いやいやいやいや!! おかしいってッ!! 何でいきなりこんな事する流れになるんだよッ!!」
「なんだお前、もしかして自分の強さを謙遜するタイプか?」
あーダメだ。
話が全ッ然噛み合ってねぇ!
「なんで! 俺が! お前の! 交尾する対象になるんだよッ!」
「強ぇから。」
「そんな理由で!!?」
「当たり前だろ? 強ぇ奴と交尾しないと強ぇガキ産めねぇじゃん。」
「それだと強かったらブ男やクズ野郎相手でもすることになるぞ!??」
「え? いいじゃん別に。」
「いや良くねぇだろッ!」
「なんだよ、俺じゃ不満なのか?」
「ッ!!」
言いながらグラは俺に覆い被さり、密着しながら顔を近づけて来る。
確かにがさつな所を除けば可愛い顔をしている。
顔が獣の獣人もいるが、こいつは耳は狼のそれだが他のパーツはほぼ只人寄りだ。
しかも胸元に当たっている胸が鎧越しなので感触までは分からないが柔らかさを見せつけるかの如く押し潰された風船の様に変型していた。
そのせいで視覚からでもその胸の大きさが生々しく伝わって来る。
「ん~? その顔、ちょっと気分出てきたんじゃないか?」
グラは小悪魔気味にニマニマと笑みを浮かべる。
顔が熱いので自分でも顔が赤いのは分かる。
いや仕方なくね?
見ず知らずの女でもこんなアプローチされたら男だったら反応しない方がおかしいだろ、って!
んなこと考えてる場合か俺ッ!!
「だあぁもうッ! 離れろッ!」
グラを押し退けるが、グラは上体を放した物の、俺の腰の部分を太股でガッチリ掴んで放さず、馬乗りの状態になる。
「なんだお前交尾初めてか? もしかして童●か?」
「なんで『交尾』とか原始的な言葉使う奴の口からそんな言葉が出て来るんだよッ!」
獣人の性知識の進み具合がいまいち分からんッ!
「いいからヤらせろよッ! お前の子種を俺の腹ん中に入れるだけだろ!」
「『だけ』レベルの話じゃねぇッ! やめろッ! ズボンを脱がすなッ!!」
どうしてこうなった!
助けた奴からなんで今犯されかかってんだ意味分かんねぇよ誰か助けてッ!
「炎球」
「え?」
魔法の詠唱が聞こえたかと思ったら炎が飛んできて俺の頭上の土に着弾して爆ぜる。
「あ!」
倒れた状態から見上げると視線の先にルタがいた。
「師匠・・・!」
ついでにメロもその隣で顔を赤くして手で目を隠すが、右手の指の隙間から覗くようにこっちを見ていた。
「ルタ・・・!」
「お兄ちゃん♪」
ルタは杖を此方に向けたまま満面の笑みだった。
「お前ら、ついて来て
「その女と何を、いや、ナニをしようとしてたのかなぁ~?」
ルタの笑みは一気に邪悪な鬼のような笑みに変わる。
「いちいち言い直さんでいいッ! つか誤解だッ!」
「そのまさに決定的な瞬間で言うんだぁ~?」
「滅茶苦茶な理由で犯され掛かってんだよッ! 助けてッ!」
「うん♪ とりあえずお兄ちゃん死刑☆」
「話を聞けぇぇぇッ!!!!」
このあと滅茶苦茶魔法撃たれた。




