#34 火神
~女獣人 密林~
「!」
匂う。
前からだ。
嗅ぎ慣れた獣人の匂い。
それと鉄と火薬の匂い。
間違いない、奴等だ。
「・・・!」
匂いの近くまで走ると止まり、伏せて四つん這いになりながら草むらに隠れて草葉の向こうの様子を見る。
「ハハハ!」
敵は三人。
奴等は焚き火を囲い、笑いながら食事をしていた。
「もう殆ど勝敗決まった様なもんだよな!」
「いや、寧ろこれ『競争』だろ! どんだけ獣人捕獲すんのかってな!」
「言ってろ! 俺が一番捕まえていち早く昇格してやる!」
「・・・。」
奴等の言葉を聞くだけで腸が煮えくり返りそうだ。
奴等にとってこの戦争は既に『狩り』になっていた。
認めたくないが事実だ。
この戦争は圧倒的にアステリオンが劣勢だ。
今や奴等にとって俺達は『敵』ではなく『獲物』になっている。
「馬鹿にしやがって・・・!」
更に腹が立つのは奴等の近くで直立したまま硬直している獣人だ。
奴等に捕まった獣人はみんな何かしらの洗脳を施され、奴等の合図でしか戦わない。
『己の意思で戦う信念』、獣人の誇りを踏みにじる俺達への最悪の侮辱だ。
憎い・・・憎い・・・!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!!!
「ガアアアアアアアアアアァッ!!!!」
「ガハァッ!」
奴等への怒りが爆発した時、既に俺はロキウス兵の背後から槍を突き立てていた。
槍で貫かれたロキウス兵は天を仰いで派手に血へどを吐く。
「こいつ、やりやがったな!」
ロキウス兵は奴等の呼び方で『タンマツ』とかいう変な薄い四角状の変な道具を出して指で押し始める。
獣人を動かす気だ!
「させるかぁッッ!!!!!」
タンマツを使おうとしたロキウス兵の一人に槍を投げ飛ばす。
槍は敵の喉を貫いて息の根を止める。
だが・・・。
「ガアアァッ!!」
「ッ!?」
獣人が一体飛び掛かって来たのに気づき、咄嗟に跳んで回避する。
「へへ、間に合わなかったな!」
ロキウス兵の一人がタンマツを使い終わってしまった。
「くっ!」
「グアァッ!」
投げ飛ばした槍を取りに行こうとするが獣人の一体がその横から襲い掛かって来た。
「チッ!」
危険を察知して後ろに跳んで距離を取ると襲い掛かってきた奴は槍への道を塞ぐ。
「さ~形勢逆転だなぁ~!」
ロキウス兵は調子に乗ってタンマツをひらひらさせて俺を挑発してくる。
「へっ、そうかよ。これで勝ったとか思うんだなてめぇはよ。」
「武器も持たないあんたがこの数相手に何が出来るんすかぁ?」
完全に調子に乗ったロキウス兵だが、こいつは知らない。
俺達獣人がどういうものかを。
「ガアアアアアアアアアアァッ!!!!」
咆哮し、全身に力を込める。
頭の中が溶けそうなぐらいに力を込める。
すると全身が急激に熱くなり、全身が炎に包まれた様に熱くなる。
「これが・・・『火神』だッ!!」
頬の皮膚が焼け、紋章の様な跡が残る。
上昇の更に上を往く、俺達獣人にしか使えない奥の手、『火神』。
魔覚の神経活性を利用して細胞に働きかけ、体温を上昇させて更に上昇の働きを活性化させる技だ。
獣人でも最も優れた戦士にしか使えない稀少な力だ。
「はは・・・身体強化か? た、ただの上昇だろ! んなもん怖くねぇ! やっちまえ!」
ロキウス兵は獣人を消し掛ける。
「ガアアァッ!」
獣人の一体が斧を振り下ろす。
しかし俺はそれを左手の二本指で挟んで止める。
「邪魔すんじゃねぇよ。」
俺は右手の拳を固めると獣人を殴り飛ばす。
すると獣人は木を何本も薙ぎ倒しながら遥か彼方へ吹き飛ばされる。
「な、なな・・・!」
ロキウス兵は口をあんぐりさせて固まる。
「これでも上昇と一緒だって?」
右手をバキッと鳴らせて奴を睨む。
「くそっ! 行け行けッ! 奴を止めろ獣人共!!」
「!」
「グアァッ!」
今度は斜めの左右と後ろの三方向から獣人が飛び掛かる。
「おらッ!」
先に来た右から鉈を振ってきた獣人の腕を掴み、そのまま振り回す。
すると残りの二体が怯む。
その隙に鉈持ちを地面に叩き付けて鉈を奪い、脳天に鉈を叩き付けて息の根を止める。
その瞬間、手斧を持った獣人が走ってきたので同じく走って迎え撃つ。
斧を右からの横に振ってきたのを鉈で止め、更にその腕を掴むと・・・。
「ッ!」
腕に噛み付く。
そしてそのまま斧を持った方の腕の肩を掴むと、腕を食い千切った。
「ガアアァッ!!」
奴が矯声を上げてよろけた隙に千切った腕の斧を持って首を跳ねる。
「グウゥ・・・!」
最後の槍持ちは慎重に構えている。
「どうした、お前も戦士なら掛かって来い。」
「グウゥ・・・ガアアアアアアァッ!!」
俺が挑発すると槍持ちは走って襲い掛かって来る。
走った勢いに乗せて思いっきり槍を突き出すが俺はそれを頬に当たるギリギリで回避し、腕を突き出す。
「ガ・・・クガ・・・!」
「眠れ・・・お前らの無念は俺が引き継ぐ。」
俺の腕は槍持ちの心臓を貫いていた。
腕を引き抜くと槍持ちは倒れるが、俺はそいつの槍を取る。
形見代わりだ。
「さて、頼みの取り巻きが居なくなった訳だが・・・。」
さっき居た場所を見るがそこに奴の姿は無かった。
「ハッ・・・今更かよ。」
―――「ハァ・・・ハァ・・・!」
ロキウス兵は息を切らしながら走っていた。
しかし・・・。
「煽っといて逃げんなよクズ野郎が。」
草を掻き分け、俺は奴の前から現れる。
匂いと魔力を関知して追跡して回り込んだからだ。
「ヒィッ!」
ロキウス兵は尻餅を着く。
「た、助けてくれッ! 俺には故郷に恋人が・・・!」
「泣き言はあの世で言ってろ。」
無駄な命乞いをするクソ兵の顔面目掛けて槍を突き出す。
しかし・・・。
ドクン
「ガッ・・・アァ・・・!」
自分の耳からでも分かる程の酷い心臓音と共に胸が苦しくなり、全身が痛み出す。
火神の反動だ。
上昇よりも力がある分恐ろしく身体に負担を掛けるので全身から凄まじい激痛が走る。
しかも身体の細胞にまで負担をかけた分皮膚にも火傷の様な激痛がある。
「くそ・・・!」
痛みに立って居られず膝を着く。
本来ならありえない。
反動が来るまでもう少しかかる筈だ。
だが連日戦い続けたせいで疲労していたせいだ・・・!
「へ・・・へへ・・・!」
ビビっていたロキウス兵は立ち上がって銃を構える。
「効果切れとかダッセェなおい!」
「まだだ・・・まだ・・・グッ・・・!」
槍を杖代わりにして立とうとしたが前のめりに転び、立てなくなる。
「無理すんなって! もうお前終わりだよ!」
「くそ・・・!」
「よくやったぞ二等兵。」
「?」
俺の後ろから別のロキウス兵が木々の間から現れる。
そいつは俺が追い詰めたロキウス兵より身成がよく、簡単に言えば偉そうな格好をしてる。
しかも下っ端のロキウス兵を数人後ろに付けている。
「ケルディウス少佐!」
目の前の奴は銃を降ろし、偉そうな奴に背筋を伸ばして帽子にピンと伸ばした指を当てる。
挨拶か何かか?
「たった今獣人を一体捕獲致しました! しかし兵二名が死亡! 猟犬四体が消失致しました!」
「ふむ。」
偉そうな奴が俺の前まで歩みより、顎に手を当てながら眺めるように見下ろす。
「それをこいつが一人でやったと言うのか。」
「ハッ! 予想以上に手強く、捕獲にはかなり手を焼かされました!」
「成る程、であればこいつはかなり優れた素体だ・・・うむ、良くやったぞ。」
「・・・!」
手下は褒められて笑みを浮かべるが・・・。
「上層部は功績を認めるだろう、『私』のな。」
「え・・・。」
偉そうな奴の言葉に手下は固まる。
「あ、あの・・・。」
「なんだ?」
「この素体を捕獲したのは・・・自分・・・ですよね?」
「何を言っている?」
偉そうな奴は鋭く手下を睨む。
「捕獲したのは私だ。違うか?」
「え・・・?」
「何か文句でもあるのか?」
「い、いえ・・・。」
手下は言葉を詰まらせ、視線を逸らして黙り込む。
しかし下唇を噛んで拳を震わせる。
手柄を横取りされて悔しいんだろう。
「ハッ!」
俺は鼻で笑う。
「自分は何もしない癖に手柄だ? 俺の同志消し掛けたこのクズも大概だけどその上を行くクズ野郎がいるなんてな!」
「うん? 何を言っているのか分からんなぁ。」
偉そうな奴は冷めた目で俺を見下ろしながらシラを切る。
こいつ、こういう事やり慣れてやがるな?
やっぱりクズだ!
「へっ、どうやらロキウスってのはクズの温床みてぇだなぁ、え? あーダセェダセェ! でも一番ダセェのはてめぇだ下っ端!」
手下に視線を移す。
「こんな骨みてえな細いジジイに何も言えねぇのか雑魚ッ! てめぇホントにキン●マついてんのか!?」
「何・・・!」
「あーあー、どうせついてても分かんねぇくらい小っせぇんだろうなぁ!! 恋人がいるだぁ? そいつもヤる時になっててめぇのヘナチ●見たらさぞガッカリするだろうぜッ!! 悔しかったらこの場で御開帳してみせろよ短小ち●ぽ野郎ッ!!」
「黙れェッ!!!」
手下は俺に銃を構える。
「おー殺すかぁ? やれよッ! その瞬間てめぇもそこの骨ジジイも手柄がパァだぜ?」
「撃ったって別に死んだりしねぇよバーカ!! これは麻酔銃だ! でも捕まえたら上に届ける前にボコボコにしてやるッ!!」
「おーやってみろやッ!! 手足が動けなくなったっててめぇの拳くらい噛み砕いてやらぁッ!」
手下と言い争っていたその時だ。
「雷光 剣 座標 天 投下」
「ッ!?」
何処からともなく魔法の詠唱が聴こえる。
「『天怒招来』」
魔法の詠唱が終わると凄まじい雷が落ちる。
「「「うわぁッ!!」」」
雷は命中せず近くに落ちたがロキウス兵達は身を縮めて怯む。
「よっと。」
「え?」
何かが俺に銃を向けていたロキウス兵の頭を鷲掴みにして持ち上げる。
「必さ~つ・・・。」
「え、ちょちょ、何!?」
そいつはロキウス兵を掴んだまま振りかぶる。
「ヘナ●ンブーメランッ!!」
「てめぇまで俺のことヘナチ「グハァッ!」」
アホな技名を叫んでロキウス兵を骨ジジイ達の方へ投げ飛ばす。
それを喰らった骨ジジイは取り巻き共々吹き飛ばされて転ぶ。
「お前・・・!」
俺を助けたそいつはあの時の罠野郎だッ!
「雷 剣 接続」
罠野郎は剣に手を添えて魔法を詠唱・・・って待て待て待て!
なんで戦士職の奴が魔法唱えてんだ意味分かんねぇよ!
「雷光の刃」
罠野郎の詠唱が終わると剣が雷を帯び始める。
「なんなんだてめぇ・・・!」
さっき密かに魔覚でこいつの魔力は見たがカスみたいな魔力だったぞ!?
なんでこんなこと・・・!
「・・・!」
念のためにもう一回奴の魔力を視ると己の魔覚を疑う。
とてつもなく強烈な魔力だった。
まるで金色の巨大な龍を見ているような魔力だった。
「何者だてめぇ・・・!」
「お前さ・・・。」
罠野郎は敵の方を向いたまま視線だけ俺の方へ向ける。
「馬鹿だよ、そんなザマで敵煽るとか。ホント馬鹿、バーカ!」
「なっ・・・!」
こいつ・・・!
「てめぇ、出てきて早々ムカつくな・・・!」
「馬鹿だけど・・・。」
罠野郎は視線を奴等に戻す。
「カッコイイぞ、お前。」




