#33 味方?
~女獣人 密林~
「・・・?」
瞼の向こうの眩しさに気付き、目を開ける。
日が昇りきって居ない感じ、今は朝か?
「ッ!!?」
寝袋に包まれ、しかもそれごと俺はどっかから持ってきたか分からん蔦でぐるぐる巻きにされていた。
「995・・・996・・・。」
「?」
数を数える声が聞こえたかと思うと近くで何者かが素振りを・・・。
「997・・・998・・・。」
ってちょっと待てッ!!
「999・・・せ
「あああああああぁッ!!」
「いぃ!?」
俺が叫ぶとそいつはびくりと動いてこっちを見る。
「って何だ、起きたのか。」
「てめぇ! あの時のッ!!」
そう、こいつはあの時邪魔して罠に嵌めたクソ野郎だッ!
「このクソ只人がぁッ! 俺を連れていく気かッ!!」
「連れていく? あーハイハイそう言うことね? オーケー事情は把握してる。」
「てめぇ一人で何納得してやがるッ!!」
「血の気多いなぁ、獣人ってみんなそうなのか?」
「うるせぇッ!」
野郎に罵声を浴びせながらこの意味分からん拘束を解こうとするがかなり念入りにぐるぐる蔦を巻かれて全然動けない。
「ドウドウ落ち着け、まずは話し合おうって。」
「こ・れ・が・落ち着いてられるかあぁ・・・! くっそぉ外せぇぇッ!」
「落ち着いたらな。」
「無・理・だッ!!」
「参ったなぁ・・・どうすりゃ良いんだこれ。」
俺が暴れ、男が呆れたその時だ。
「困った時の貴方の妹!! シスタールタちゃん参☆上!!」
「ぐへぇ!!?」
人影が木の上から降ってくると俺の腹の上に着地する。
とんでもねぇ激痛で一瞬目の前に火花が散ったような感じがした。
こいつ・・・あの時俺に魔法撃ってきた火の玉女・・・!
「おー、惨状惨状。」
男は明らか皮肉の込もった言い方で降ってきた女に無表情で拍手する。
「ふふん!」
男の言うことなど者ともせず胸を張る女。
「うん、分かってないみたいだけどいいや。」
「なに~? 分かんな~い♪」
「で? シスタールタとやらは何をしてこいつを大人しくさせてくれるんだ?」
「分かってないなぁお兄ちゃん! 動物は『愛』を持って接すれば良いんだよ!」
「ほう? どうやって?」
「お手本を見せましょう!」
そう言って女は・・・。
「ぐえッ!?」
両足を蹴りあげるのと同時にケツから落ちて俺の腹にのし掛かり、馬乗りになる。
「ど、動物に愛だ? 犬みたいに撫で回そうとしたって噛みついてやらぁッ!!」
女に牙を向くと女は何故かくすりと笑う。
「ぶっ!?」
何故か女は両手で俺の両頬を押さえる。
「覚悟は良い・・・?」
女はにやりと笑う。
明らかに獲物を見る肉食動物の目だ。
「???????」
え・・・?
こいつなんて言った?
覚悟ってなんだ?
え・・・・・・え・・・?
何が起こるんだ????
「んぐ?」
女の顔が近づいて来たかと思ったら俺の口が塞がれた。
「!!!??」
え、え!?
こいつ・・・キスして来やがったッ!?
「はぁ!? ちょ、おま・・・!」
男は顔を赤くして驚愕する。
奴もこれは予想出来なかったみたいだ。
「おいッ!!何のつもりだッ!!」
身を捩って抵抗しようとするが拘束されて動けないし顔はしっかり女にがっちり固められている。
こいつ何がしたいんだッ!
仮にも女同士だろ!?
正気か!!?
と思った瞬間・・・。
「んぐ!!? ムグウウゥウウウウッ!! ~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
口の中でずるずると激しい水音が聞こえた途端に頭が真っ白になり、俺の意識は一瞬途切れる。
「・・・・・・。」
口を放し、舌舐めずりをしながら女が離れると俺は寝袋の中で白目を向いたまま痙攣していた。
「ぅ・・・ぁ・・・・・・!」
何が起きた・・・?
口の中にぬるぬる何か入ってきたかと思うと一瞬でそのぬるぬるに俺の口の中全てが蹂躙されたみたいだった・・・!
「ほーら、大人しくなったでしょ♪」
「・・・。」
女は無邪気ににぱーっと笑って男に俺の様子を見せるが男は凍り付いたように無表情で俺を見ていた。
「『愛』って何だっけ?」
「ん~? 今夜にでも教えてあげようか~? それはもうネットリと・・・。」
「遠慮する。あと因みにそれ『調教』って言わないか?」
「そうとも言う!」
「尚更却下。」
「んもぅ、お兄ちゃんのいけずー!」
「ったく・・・まぁいいや。」
男は俺の隣まで歩いてきてしゃがむ。
「大人しくなった所で話を
「殺せ。」
「あ?」
「あんな辱しめ受けるくらいなら死んだ方がマシだ。」
「いやまぁ、うん、気持ちは分かる・・・でも聞いてくれ。」
「なんだよ。」
「さっきから誤解してるがな、今の俺らはお前の敵じゃない。見ろ。」
「!」
男が顎で指す方を見ると近くの木に槍が立て掛けられていた。
「話が終わったら拘束も解いてやるし槍も返してやる。」
「・・・信用すると思うか?」
「思うね。」
「何を根拠に・・・。」
「この場にあいつが居ないからな。」
「あいつ?」
辺りを見渡す。
「あ・・・。」
確かにいない。
「あのロキウス兵が・・・。」
「そう言うことだ。」
「奴をどうした。」
「それ含めて一から話すぞ?」
~ウルド 密林~
―――先日の夕方。
「おい。」
俺が声を掛けた時、既に俺はロキウス兵の背中に剣を突き付けていた。
「・・・なんのつもりだ。」
ロキウス兵は視線だけ此方に向ける。
「仲間と合流すんのになんでそれが必要なんだ?」
俺が指摘しているのは奴が引き摺る様に持って行こうとしていた獣人だ。
「敵を生け捕りに出来たなら捕虜にする。戦争じゃ当たり前だろう。」
「へぇ、そっか。」
「分かったのならもう行くぞ?」
「オーケーオーケーご自由にどうぞ。」
「・・・。」
俺が剣を離すとロキウス兵は『なんだこいつ』とばかりに俺を不審そうにみたあと、そのまま立ち去ろうとするが・・・。
「・・・?」
急にザクッと言う音が聞こえて足を見ると・・・。
「・・・って言うとでも思ったか?」
「ッッ!!!!???」
俺は奴の左の太股に剣を突き立てていた。
「ぎゃああああぁッ!!! うぐぁ、あ、足が、うあああああああああぁッ!!!!」
剣を抜くとロキウス兵は獣人から手を離し、足を抱えて転げ回る。
「俺らさぁ、とある目的があって来たんだよね。」
「な、なんだ目的って!!」
「ルヴァーナとアステリオンの間にある関所がさ、気の狂った獣人に壊されて近くの村がメチャクチャにされたんだよ。で、アステリオンに何が起こったか調べる為に此処に来たって訳よ。」
「それがなんだッ!! なんでそれを俺に言うんだッ! 獣人がやったんなら獣人に言えッ!!」
「狂った獣人に話が出来るんならな・・・で、話変わるけどこの獣人、さっきから戦ってて思ったけど狂ってないよな?」
俺とルタは気付いていた。
戦っている間、この獣人は言葉を話していた。
狂った獣人は『ガアァ!』とか『グアァ!』と言った声しか上げず言葉は話さなかった。
だがこいつは最初に『死ね! クソ只人がぁ!』と言っていた。
「そ、それがどうした!」
「いやな? お前らが何も知らないならさ、此処に来たとき見ないとおかしい光景があるんだよな。」
「な、なんだよ・・・!」
「『狂った獣人に襲われてるロキウス兵』だよ。俺らも此処に来るまでに何体かに襲われたけど、お前に会った時だよ。初めて狂ってない獣人を見たのは。これって果たして偶然なのか・・・そこん所どうにも引っ掛かってな。」
「何が言いたいッ!」
「一つ仮説が浮かんだんだよ。この狂った獣人供の経緯、ロキウスが一枚噛んでんじゃないかってな。」
「い、言い掛かりだッ!!」
「そうかもな。」
「そんな物、全部お前の想像じゃないかッ!!」
「だろうな・・・でもさ、仮説が浮かんだんなら、白黒ハッキリ着けたいじゃん? だからさ・・・。」
「ひッ!?」
横向きに寝転がっていたロキウス兵の目の前の地面に剣を突き立てる。
「知ってる事色々吐いてくんない? お前らがこの国に来るためにしてた『準備』の事も含めて、な♪」
俺は満面の笑みでロキウス兵に命令する。
「俺を拷問する気かッ!? 自分が何をやっているのか分かっているのか!? 戦争中の兵士に対する無関係の国からの攻撃は外交問題として重大な・・・ってちょっと待て、なんだその剣は・・・なんで電気がバチバチしてるんだ? それになんだそれは・・・そんな道具を何に使う気だ!! やめろッ! そのおぞましい形のぎゃあああああああああああぁぁッ!! やめ、言うこと聞く、ちょ、言うこと聞くからやめ、やめてええええええええええええぇッ!!!」
――――「っとまぁ、そんな感じでロキウスがお前ら獣人を拉致って改造。そんで狂った兵隊にしてる事が分かった訳だ。」
「おい回想の最後何したお前。」
「つまりお前らはこの件に関して完全な『白』。寧ろ被害者って訳だ。」
「聞けよ俺の話。」
「で、今この話をした事で俺らとお前は利害の一致した『味方同士』になったって訳だ。」
「味方同士だぁ? ハッ、馬鹿言うな。只人の言うことなんざ信じられるか。」
「おー? 良いのかそんなこと言ってぇ、その簀巻きのまま放置プレイしてやっても良いんだぞ?」
「ぐっ・・・!」
「良いのかなぁ、そんな状態で放っといたらロキウス兵はお持ち帰りしやすいだろうなぁ~。」
「ああもう分かった! 分かったから外せェッ!!」
獣人は芋虫の様にぐねぐね動いてもがく。
「分かったから暴れんなって・・・。」
拘束が解けないのに懲りない獣人に呆れながら俺は剣を鞘から抜いて蔦を切り始める。
「お兄ちゃん。」
「あ?」
突如ルタが話し掛けてくる。
「なんだよ。」
「気を付けてね♪」
「あ? 大丈夫だよ、間違って中身斬ったりとか間抜けな真似は・・・。」
「違う違う。」
「なんだ
「ガゥッ!!」
「え?」
丁度顔の近くの蔦を切っていた時だ。
奴は寝袋から首を僅かに伸ばして俺の右手に噛みついていた。
「あ"あ"あ"あ"ッ! 痛ってぇッ!」
慌てて離れたがそれがまずかった。
獣人は蔦が少し切れて寝袋の中の身体が僅かに動きやすくなったのを良いことに顔を出した寝袋の口からまるで蛇の脱皮の様にするりと出て拘束から脱出した。
すかさず近くの自分の槍を取ると俺達から距離を取る。
「へっ!」
一杯喰わせた事を良いことにほくそ笑む。
「てめぇ・・・!」
「ざまぁ見ろッ! 誰が只人の力なんざ借りるかバァカッ!」
言うだけ言って獣人は踵を返して走り出す。
「あばよッ! 次会ったらてめぇらの卑怯な罠ごとぶっ潰してやるから覚悟しとけッ!!」
捨て台詞と共に獣人は逃げて行き、あっという間に密林の奥へと消えていく。
「・・・。」
噛まれた手を押さえながら無言で俺は立ち尽くす。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ふふ・・・ふふふふ・・・。」
「お兄ちゃん? あ。」
笑い出す俺を見て察したのか、ルタは口に軽く手を添える。
「ルタ、そろそろ見回りが戻って来るから一緒にメシの準備頼むわ。」
「お兄ちゃんは?」
分かってる癖に敢えてルタは笑顔で聞いてくる。
「あいつ連れてくる。」
返答と同時に勢いよく走り出す。
「いってらっしゃーい♪」
ルタは笑顔で手をひらひらさせる。
―――「ふふふ・・・ははは・・・ははははッ!!」
密林の木々の間を走りながら笑う。
笑う俺の顔は目がガン極りで見開き、口は裂けるくらいまで口元を吊り上げられ、額にはこれでもかとばかりに血管が浮き出ていた。
「あいつ・・・マジ泣かす・・・!!!」




