#31 傷跡
〜メロ トネロ村〜
ルタは師匠に上手く説明してくれた。
さっきの獣人は精神的におかしかったのをいい事に戦っている最中に狂って何処かへ行ったと説明して納得して貰った。
けど現実はそう甘くなかった。
「おいおい何だよこりゃ・・・!」
村について馬車の荷台からから村を眺めると師匠は絶句する。
「村が・・・そんな・・・!」
農夫が馬車から降りて村を見渡しながら数歩歩いてその場に崩れる。
木造の家々は斧やらで叩きつけられて穴だらけ、人の死体が道端のゴミのように累々と地面に落ちていた。
「あいつらだ・・・あいつらが村を・・・くそぉ・・・!」
農夫は絶望して地面に崩れ、悔しそうに地面を両拳で殴る。
「・・・。」
こんな事思っちゃいけないのに思ってしまう。
『自分が殺した相手はこんな非道な行いをしていたのか』と。
(ね?)
「!」
ルタが肩に手を置いて耳元で囁く。
(分かったでしょ? あいつらをあのままにしてたらこの村みたいな事が起きてたんだよ?)
「・・・。」
まるで私のした事を間違っていないと言いたげな台詞なのです。
(あいつらは狂戦士・・・遅かれ早かれ賞金首になって別の冒険者に狩られてた・・・だから気にしなくていい・・・。)
でも、だからって殺さなくても・・・。
「まだ生きてる奴がいるかもしれない! 手分けして探そう!」
「ハーイ♪」
師匠が指示するとルタが愛想良く返事をする。
ーーー探索した結果。
農具の納屋や食料保管の為に設けていた民家の床下の収納庫等に隠れていた子供達を三人見つけた。
その子達の親はみんな死体で発見され、子供達は余りに残酷過ぎる現実にただ声を上げて泣くしかなかった。
「冒険者の兄ちゃん!」
子供達の中で一人だけいた男の子が師匠の前に出て話しかける。
先程の床下で小さな妹と一緒に隠れていた子供なのです。
「俺も連れて行ってくれ!」
涙を拭って懇願する。
「・・・。」
師匠は男の子の高さまで姿勢を崩すと黙って肩に手を置く。
「ッ!?」
師匠は男の子の頬を思いっ切り平手打ちした。
男の子は転んで頬を押さえる。
「大方『仇討ちがしたい』って理由だろうが。」
「・・・! それの何が悪いッ!」
「やめろ。」
「やだッ!」
「やめろって言ってんだッ!」
師匠は凄い剣幕で男の子の胸倉を掴む。
「お前がやろうとしてる事はな! 今以上に大事な物を失うんだッ!! 二度も三度も同じ思いがしてえのかッ!!」
「何だよッ! よく分かんないよッ!!」
師匠が乱暴に言葉を投げつけるが男の子は訳が分からず反論する。
「お前が昔の俺と同じだから言ってんだッ!!」
「昔の・・・兄ちゃん・・・?」
「お前みたいな理由で冒険者になって・・・大事な奴等が出来て・・・死んじまった・・・!」
「・・・!」
「だから・・・俺みたいにならないでくれ・・・頼む・・・頼む・・・!」
師匠は男の子の肩を掴み、祈るように懇願する。
確か師匠って魔王を倒した時・・・。
「・・・。」
男の子は黙り込む。
そこに農夫が肩に手を乗せる。
「子供達は俺がプロテアまで連れて行くよ。孤児院に引き取って貰えれば大丈夫だろう。」
「あんたはどうするの?」
「・・・。」
ルタが尋ねると農夫は被っていた麦わら帽子に手を添える。
「近くの村で仕事を探すよ。何もしない訳には行かないからな。」
「そっか。」
「あんたら、アステリオンに行くのかい? あの獣人達も多分アステリオンから来た奴らだ。あんな奴らが彼方此方にいる国になんか行ったら命の保証はねぇぞ?」
「確かに行きたくねぇけどさ、行くしかねぇのよ。回り道なんかしてる余裕ねぇからさ。」
師匠はため息混じりに説明する。
「そうか、ならせめて無事を祈ってるよ。」
そう言って農夫は子供達を連れて行き、彼らとは別れた。
〜??? 暗い部屋〜
暗闇の中、私は自分で作った紅茶を一口飲み、目の前のガラステーブルに置く。
「退屈だ・・・。」
退屈で仕方無い。
人間は退屈で仕方無い。
一言で言えば『つまらない』。
野望を持つにしても小規模すぎて欲が無い。
どれだけ強欲な人間が居たところで抱く野望と言えば『世界征服』程度。
そんなつまらない欲望如きで進んだ結果、人間がやることと言えば弱者を嬲り踏みつける程度。
全く以てつまらない。
「・・・フッ。」
だが人間は素晴らしい。
困難を前にすれば恐ろしく力を発揮する。
魔王を倒そうと動き出した英雄達なんて物は最高だった。
強大な力を前に少人数で挑み、無謀なのにそれをやってのけるから馬鹿げてる。
まだいるはずだ。
そんな途方も無いことを成し遂げる馬鹿と言う名のダイヤモンド・・・その光を秘めた原石が・・・。
その為にも・・・。
「『先進的な力』・・・『原始的な力』・・・。」
両方にはどちらが勝ってもおかしく無いよう力は分配しているはずだ。
これで分かる。
人間は『つまらない』か、『最高』か。
〜ウルド 関所〜
「・・・やっぱりか。」
近くの村に被害が出ている時点で予想はしていたが、案の定関所は滅茶苦茶にされていた。
国境を隔てる壁は滅茶苦茶に壊され、国境を渡る人間を選別する為に設けられた巨大な門は瓦礫の山となっていた。
勿論獣人達が勝手に入ってこないよう警備の為に兵士がいたのだが無残に殺され、瓦礫のオブジェクトの一部になっていた。
「たった数人でここまでやるか・・・。」
「ねぇお兄ちゃん。おかしいと思わない?」
「なんだ?」
「さっきの村と言い、明らかに数人程度が出来る事じゃないよね?」
「そうだ・・・そうだよ・・・あいつら・・・とんでもねえ数で来やがった・・・。」
「!」
近くの瓦礫を背に座り込んでいた兵士が喋った。
「おい大丈夫か!」
「いや・・・俺も・・・もうダメだ・・・。」
「ッ・・・!」
兵士の状態は最悪だった。
鎧を着込んでいるがその鎧ごと腹部を抉られ、内臓が少しはみ出している。
致命傷だ、助からない。
「・・・数はどれ位いた。」
「三十人・・・位だ・・・どいつも獣人・・・検問なんてお構い無しに・・・殺すだけ殺して・・・壊すだけ壊して・・・行きやがった・・・!」
「くそ、こりゃ一旦プロテアに戻ったほうが・・・。」
「ううん、お兄ちゃん。このまま進んだほうがいい。」
「は? 何言ってんだよ!」
「報告なら私がしておこう。」
「!?」
兵士の奥の瓦礫から男の声がするが誰もいない。
鴉が瓦礫の破片に乗っているだけだ。
この鴉が喋ったのか?
いや、そんな訳あるか!
「誰だ! 何処にいる!」
「馬鹿な奴だ。眼の前にいるじゃないか。」
「!? 鴉が・・・!」
「喋ったのです!!」
俺とメロは目の前の光景に目を丸くしているがルタは全く動揺していない。
「コルボー、出てきて良かったんですか?」
ルタは裏モードの顔で鴉に話し掛ける。
「緊急事態だ、そうも言ってられんだろう。」
「なんだルタ、お前の仲間か?」
「仲間って言うか・・・上司?」
「なんで疑問形?」
「コルボーだ。私の事は密偵程度に思ってくれて構わん。元よりそれしか出来んからな。」
「ああ、ソウデスカ・・・。」
まぁそりゃ鴉に出来る事なんてたかが知れてるよな。
「こちらの事は王に報告して手配して貰う。お前達は道中手間かもしれんが奴等の発生原因を調査し、元凶が居るようなら叩いてくれ。」
「ええ、そちらは任せましたよコルボー。」
ルタが返答すると鴉のコルボーは飛び去った。
「行くか・・・。」
「・・・待ってくれ。」
「!」
声を掛けられて振り向くと兵士は黙って自分の剣を取って俺に差し出す。
「頼む・・・。」
「・・・。」
『介錯』だ。
「・・・分かった。」
剣を受け取って鞘から取り出すと、振り上げてから兵士の脳天目掛けて振り下ろした。
勿論即死だ。
「師匠・・・。」
メロが不安気に声を掛けてくる。
「・・・こいつが望んだ事だ。俺だって本当はこんな事やりたくない。」
「はい・・・。」
メロはしゅんと表情を曇らせ視線を逸らす。
「・・・メロ。」
メロの肩に手を置く。
「お前は戻れ。」
「!」
その一言にメロは目をカッと見開いて俺に向き直る。
「師匠!? もしかして今の見て私に覚悟が足りないと思ったから言ってるのですか!?」
「いやそうじゃなくて
「私だって出来るのです! 私も・・・あ、えっと・・・。」
「?」
何言ってんだこいつ。
「落ち着け! 何かは知らんがそうじゃない。この先命の保証が出来ないから言ってるんだよ!」
「なんなのですか! よく分からないのです!」
「じゃあ私が説明したげる!」
「ルタ?」
ルタが割って入る。
「私達の目的は本来アステリオンを通るだけだったの。けど急にそれが『アステリオンの調査』になった。」
「それがなんなのですか!」
「分からない? アステリオンは紛争地域、でも通り過ぎるだけなら敵を避けてでも出来るでしょ?」
「けど『調査』になったら話は違う。下手すりゃアステリオンの獣人共の懐に飛び込まなきゃならなくなる。」
「???」
俺とルタの説明にメロは訳が分からず頭にハテナを浮かべてぽかんとする。
「あぁもう!」
メロのアホさにイライラして頭を掻きむしる。
「いいか! それだけ戦闘の危険性が上がるんだよッ! 足手まとい連れて行けるわけねぇだろ!」
「足手まといにはならないのですッ!」
「いいや! なる!」
「ならないのです!」
「なる!」
「ならない!」
「ハイストップ! 一旦クールダウンね!」
「「ぶっ!?」」
互いにメンチ切って言い合う俺達の間に突如割って入ったルタは俺とメロのそれぞれ片手で顔面の両頬を鷲掴みにする。
「お兄ちゃん、とりあえず連れてっちゃえばいいよ!」
「はぁ!?」
「ルタ・・・!」
ルタのあり得ない提案にメロは目をキラキラさせる。
「どうせついて来る以上こう言う状況は起こり得る訳だし、場慣れさせた方が良いでしょ♪」
「正気かお前! 下手すりゃ死ぬぞ!」
「良いから良いから♪ これもメロの修行のうちって事で♪」
「・・・。」
言ってること滅茶苦茶だが言葉の勢いに押されてついメロの方を見る。
「・・・!」
メロは気合いの入った視線で俺を真っ直ぐに見る。
「チッ・・・勝手にしろ。」
「師匠・・・!」
「ただし、無理だと思ったら元来た道を引き返してでも此処に連れ戻すからな!」
「ハイです!」
メロは笑顔で額に指先を伸ばした手を当てて敬礼する。
その姿を見て渋々関所を進む。
『ったく、どう言うつもりだ。』
久々に腕輪を使った念話でルタに話し掛ける。
『どうせ無理に引き返させてもこっそりついてくるからね♪』
『・・・容易に想像出来るのが嫌すぎるな。』
『だったら連れてって監視下に置いた方が良いよね?』
『そう言うことか・・・。』
こいつはこいつなりに考えてた訳か。
『あと、メロの事もあんまり過小評価しない方が良いよ?』
『なんだよ、お前がこのチビ助の肩持つなんて珍しいじゃねぇか。』
『一つ、いい話をしてあげようか?』
『なんだ?』
『ふふ。実はね・・・。』




