#3 日常と暗躍
~ルタ 商店街~
「コレください!」
「あいよ!」
パンと野菜を買ったあと、魚屋で手のひらサイズの魚を数匹店主に頼むと、店主は愛想よく袋に纏める。
「ネェちゃん見ない顔だな! 引っ越してきたのかい?」
「はい、商店街とギルドの間にある離れの家に。」
「離れの家? って確か冒険者の・・・。」
「ウルド、私の兄なんです!」
「そうだウルドだ! お前さんあいつの妹さんか!」
「はい、ルタって言います! 兄もよく此処に?」
「ああ! でもあいつ稼ぎ悪いからっていっつもケチ臭い安物ばっかり買ってくんだよ! まぁいつも贔屓にしてもらってるから文句も言えんけどよ!」
「へぇ、そうなんですね。」
「ルタちゃんはなんで最近こっちに?」
「はい、その・・・言いにくいんですが・・・私母子家庭だったんですけど、母が病気で三日前に他界してしまって・・・それで身寄りがなくて兄のところに・・・。」
「はぁ・・・そりゃ悪いこと聞いたな・・・グスッ・・・お詫びにこいつはサービスだ! 兄貴と水入らずで食ってくれ!」
店主が涙ぐんで先程のより少し大きめの魚を一匹袋に入れてくれた。
「ありがとうございます!」
「おう!」
魚屋を後にする。
「・・・?」
町の外灯の上にカラスが止まっており、ガァと汚い声を上げる。
「・・・。」
少し様子を見る。
カラスは路地裏と私を交互に見始めたかと思うと、路地裏へ飛び去る。
「ハァ・・・。」
カラスに指示されるまま着いていく。
―――しばらく後。
結構歩き、人気が無い場所まで来ると、先程のカラスはごみ箱の上に立っていた。
「あの魚屋、偉く同情してくれたじゃないか。ほぼ全て、根も葉もないでたらめの作り話とも知らずにな。」
カラスは最低でも四十は歳を取っていそうな野太い男の声で話し始める。
「・・・こんな汚い場所まで呼ぶことないでしょ? 『コルボー』。」
「まぁそう言うな。」
「報告まで時間の猶予はあったはずですが?」
「なぁに、お前の手際ならもう第二段階まで行ってると思ったから様子を見に来たんじゃないか。」
「ええ、彼には渡しました。怪しんでましたけど、ちゃんと着けましたよ?」
「『感応器』・・・流石に事が起こるまでは正常に稼働するか分からん・・・失敗のリスクを避けるためにも今出来る事をやっておけ。」
「無論です。」
「よし、本部には予定通り・・・いや、『予定以上』と報告しておこう。」
「お任せしますよ。」
「頼んだぞ、『猫』。」
コルボーはバサバサと羽ばたき、私の上を通りすぎる。
「その肩に世界の命運が掛かっていることを忘れるな。」
「・・・。」
彼が去り、黒い羽根だけが残ったことを確認すると懐からあるものを取り出す。
ペンダントだ。
小さな鳩がぶら下がり、胸部に小さな宝石の着いたシンプルな作りだ。
本来は銀製だが、所々ボロボロでメッキが剥がれている。
「『お兄ちゃん』・・・か。」
~ウルド ギルド窓口~
「さぁて、依頼依頼・・・。」
窓口横の掲示板に貼り出された依頼を確認する。
大型魔物の討伐依頼は無し、まぁこの辺は平和で何より。
「ん?」
『救助依頼』・・・?
『オーク一団壊滅70銅貨、拐われた村娘救助により追加報酬20銅貨』・・・悪くないな。
「よし。」
依頼の張り紙を剥がし、カウンターへ持っていく。
「レレ、これ頼む。」
「・・・。」
「?」
レレは無言で依頼の紙を受け取り、書類を記入する。
「・・・はい。」
「お、おう。」
レレに依頼人への紹介状を受け取る。
「じ、じゃあ行ってくる・・・。」
よく分からんが不機嫌な気がする。
あまり深く関わると変な流れ弾喰らいそうなのでさっさと踵を返す。
「ねぇ。」
「・・・なんだ?」
思った側から呼び止められる。
なんか嫌な予感がするので振り向かず応える。
「聞いたんだけど、妹さんが引っ越してきたんだって?」
「そうだな・・・もう噂になってんのか。」
ルタの奴・・・いや、あいつが何かしなくてもこうなるか。
この街は一人が知ったことがたちまち皆知ってしまうような場所だ。
簡単に言うと井戸端会議情報網、つまりはみんなおしゃべりなのだ。
・・・にしたって早すぎるだろ。
「・・・私は直接見てないけどさ、どんな子なの?」
「まぁ、ちょっと変わった奴かな?」
「どんなとこが?」
「・・・。」
『お兄ちゃ~ん♪』とか言いながら笑顔で愛想振り撒くあざとい妹キャラかと思えば剣を向けられても平然と人の心を抉り潰すドス黒い会話をしてくる怪しい奴・・・とか言えねぇよな。
さて、どうしたものか・・・。
「・・・上手く言えない。」
臆病?
逃げ腰?
腰抜け?
なんとでも言え!!
俺の人生のモットウは『命大事に』だ!!
生き残る為に手段を選ばない事の何が悪い!!
「ふーん・・・。」
「・・・。」
なんだよ『ふーん』ってッ!!
つか何この空気!!?
なんで浮気を詮索される男みたいな雰囲気出てんの俺!!!?
意味分かんねぇよッ!!
「もう行
「可愛い? その子。」
「ッ!」
くそぉ、引き留めんなよめんどくせぇなッ!!
「どうなの?」
「ま、まぁ・・・。」
うん、見た目は悪くないな。
顔立ちもいいし、目もくりくりしてて可愛らしい。
愛想の良いときの笑顔は可愛く見えなくもない・・・裏の顔さえ知らなければな!!
「ねぇ。」
「なんだよ。」
「手ぇ出したりしてないでしょうね?」
「バカッ!! んなことするかッ!! 兄妹だって・・・ぅッ!」
向き直って即座に誤解を解こうとするが、瞬間的に昨晩のルタが籠落しようと密着して俺の身体を撫で回してきたあの光景を思い出し、咄嗟に言葉が詰まる。
「何顔赤くしてんの?」
「・・・いや、ホントしてないからな?」
「ま、あんたが妹とイチャついてようがぁ!? 私には関係ないしぃ?!」
「ああもう、なんなんだよ面倒くせぇなぁッ!! もう行っていいか!?」
「勝手に行けばぁ?」
「へいへい行きますよッ!!」
ホントに良く分からないが面倒くさいので逃げられるなら好都合だ。
さっさと逃げるようにギルドから出ていった。
~レレ ギルド窓口~
ウルドの姿が見えなくなった途端に自分の行動に頭を抱える。
「ぅあああ・・・!」
やってしまった。
聞かずには居られなかった。
妹とは言えウルドが女の子と一つ屋根の下とか・・・って何考えてんのよ私!
そもそも仕事中に聞くことじゃないでしょバカ!
ギルド職員たる者、いつ如何なる時も毅然として構えるべし。
公私混同なんてもっての他!
って、別にウルドを取られたくないとか?
そんなんじゃないけど?
「御免下さい。」
「ハイ! 冒険者ギルドへようこそ!」
即座に切り替えて笑顔で来客対応する。
「ウルドが登録しているギルドって此方でしょうか。」
「? ハイ、そうですが?」
見たことない女の子だ。
髪の毛も綺麗に整えて外出用なのか、ちょっとカジュアルな服でまるでお人形さんのような可愛さがある。
「お兄・・・兄のウルドの元に引っ越してきたルタと言います!」
「えッ!?」
噂の張本人来たああぁ!
てか確かに髪と眼の色ウルドと一緒だ!
なんで気づかなかった私のバカ!
てか今の何?
『お兄・・・』って言いかけたけど、まさか本人には『お兄ちゃん』呼び!?
「あの・・・。」
「あ! その、そっか! ウルドの妹さんかぁ! あいつにこんな可愛い妹がいるなんてね!」
「その、要件なんですが・・・。」
「ハイハイ! 何ですか!?」
「兄がお世話になっているそうなのでお近づきの印も兼ねて簡単な物ですがパンケーキを作ってきました! よろしければ皆さんで食べてください!」
「え、あ、ありがとう! 頂きますね!」
妹さんから差し出されたパンケーキの包みを受け取る。
「・・・。」
「あの・・・何か?」
「あ、いや、その・・・。」
じっと見ていたのを気づかれる。
どうしよう。
やっぱり聞いてみようかな?
「家でのウルドってどういう感じ?」
「兄ですか? そうですねぇ・・・。」
「・・・。」
本当は『ウルドの事どう思ってる?』とか聞いてみたいけど、直接聞いて引かれるのは流石に嫌なので変化球で攻めてみる。
「優しくて面倒見がよくて私なんかには勿体ない程の兄です、急に押し掛けた私の事も優しく迎え入れてくれましたし。『たった一人の妹だから』って大事にしてくれてるんです、だから・・・ってやだ、何言ってるんだろ私!!」
「・・・。」
「どうしました? えーと・・・。」
固まってた私を見て妹さんは心配そうに声をかけて来た。
無表情を装ってるけど正直頭の中は危険信号でパニック状態で収集が付かない状態だ。
「・・・レレ。」
「レレさん?」
変化球でカマ掛けたらド直球の答えが帰ってきた。
この子・・・かなりヤバイ!!
どう考えてもお兄ちゃん大好きブラコン妹だッ!!
ウルドは朴念人だから手を出さないかもだけど、寧ろこの子の方が危ない気がするッ!!
下手に拗らせたらこの子から手を出しかねない!!
っていやいや違う違うッ!!!
近親相愛は危険でイケない事だからダメって意味だからねッ!!?
っと、落ち着け私。
「な、なんでもない!! なんでもないから!! ごめんなさいね! 変なこと聞いて!」
「いえ、お邪魔でしたら私はこれで・・・。」
「ハーイ! またいつでも来てくださいね♪」
愛想よく手を振って送り出すと、妹さんは軽くお辞儀をして去っていく。
「・・・。」
いない?
誰もいないよね・・・?
「あぁあぁああああああぁッ!!!!」
机に何度も頭を打ち付ける。
だから今仕事中だってばッ!!
なんで余計なことするかな私のバカバカバカバカ!!
「・・・。」
踞っている間にふと視界に入ったので先程貰った包みを開けてみる。
中には一口サイズのパンケーキが何枚も入っていた。
恐らくは切り分ける手間を省くための気配りだろう。
「・・・。」
本来は他の職員に配ってから食べるのが筋だが、気になって最初の一口を食べる。
「・・・!」
美味しい!
これだけでもあの子がかなり料理出来るのが分かる。
「うぅ・・・。」
あんな子に毎日美味しい料理食べさせてもらったら流石にウルドも・・・。
「ってバカァッ!!」
自分を思いっきりビンタする。
仕事中に変なこと考えるなって散々自分に言い聞かせてるでしょうが!!
さっきから余計な事ばかり!
「さぁて切り替え!」
顔を上げて両頬を叩き、気合いを入れる。
「・・・!!?」
ちょうど目の前に・・・。
「よ♪」
ルッカがいた。
しかも微妙ににやついている辺り結構ヤバイとこまで見られてる。
「・・・。」
わーい、今日は厄日だー!
~ウルド ボックル古鉱山~
ボックルと呼ばれる村の依頼人である村長から聞いた話によるとオーク逹は昔鉱山に開けた坑道を根城に活動しているらしい。
三匹が村を襲ったが、自警団が負傷者を出しながらもなんとか追い払った。
しかし畑の作物をいくつか奪われ、偶々現場にいた村娘も拐われたようだ。
「ったく・・・。」
坑道と言えば人が石炭やら鉱石やらを掘るために彼方此方を掘り進んだ穴だ。
道はいくつにも別れて計らずも迷路のようになっている。
しかも今は使われてない鉱山のせいか、灯りも取り付けられておらず、松明を持って探索しなければならない。
まったく面倒な場所を拠点にしてくれたものだ。
「!」
奥の曲がり角から灯りが見えると同時に俺は岩陰に隠れ、松明の火を消して様子を見る。
すると松明を持った魔物が此方に歩いてくる。
人の倍近くはある背丈で風船のように腹の肥えたあの姿、間違いなくオークだ。
数は一体、恐らくは侵入者用の見回りだろう。
武器は棍棒一つ、オークとしては定番だ。
奴等は人間の何倍もの腕力を持っており、人間が非力な事も知っている。
数人の侵入者が来たところで一人でもなんとかなると踏んでの単独行動だろうが、そこが奴等の間抜けな所だ。
案の定、息を潜めて隠れていれば俺のいる岩をすっと通り抜けていく。
その隙を逃さず、俺はゆっくりと足音を立てず近づく。
充分に仕留められる間合いまで近づくと、ゆっくり短刀を右手で抜いて逆手に持ち、オークの背中の左側から胸にかけて一気に貫く。
「~ッ!」
オークはうめき声を上げる。
剣を抜くと噴水の様に血が吹き出してオークは倒れる。
心臓を貫いているので恐らくは即死だ。
「・・・人間様を舐めてるからこうなる。」
剣についた血を払いながら皮肉を吐く。
奴等の『人間が束になったって自分には敵わない』と言う傲りの結果だ。
数人体制で注意して見回りすれば俺が隠れている事も分かっただろうに。
こんな調子でオーク逹を一体一体確実に仕留めながら奥へ進んでいく―――
見回りの来た方向を頼りに狩り続けていくとオークの姿は見かけなくなる。
坑道の入り口は一つしかないので別の場所を見回りしている奴はいないと考えていいだろう。
数は7体、恐らく見回りはこれで全てだろう。
結構奥まで歩くと奥から一際大きな灯りが見える。
「・・・。」
オーク逹が戦利品を肴に酒盛りをしていた。
馬鹿な奴等だ。
見回りが全滅しているとも知らずに。
敵は8体、まともに相手するのは少し骨が折れそうだ。
そこでだ。
俺は敢えて踵を返して走り去る。
別に逃げる訳じゃない。
しばらく距離を取ってあるものを取り出す。
瓶だ。
中には濁った液体が入っている。
蓋を取ってその液体を目の前に流す。
道一杯に流しきると、今度はそこから少し距離を取って別の物を取り出す。
爆雷筒だ。
さっき拾った物だ。
恐らくは昔使われた物だろう。
それを一本置き、残りは筒をナイフで開けて、中の爆薬を線を引くように道に落としていく。
そうしながら先程のオーク逹の手前の潜伏地点まで戻ると丁度爆薬が切れる。
そしたらあとは松明の種火に使うマッチで火薬に火を着ける。
すると火は火薬の軌道に沿って導火線の様に先程の爆雷筒の元へ走っていく。
程無くして遠くの方で『バンッ!!』と小さな爆発音が聞こえる。
「!!」
オーク逹は音に気づいた。
「~~!」
「~~~!」
奴等の言葉で何か話している。
恐らくは『なんだ今の音は!』とか『何かいるぞ!』とかだろう。
そして5体ほどが急いでドスドスと五月蝿い足音で音のする方へ走っていく。
当然横に隠れている俺のことなどお構い無しにだ。
最後尾のオークが通りすぎると、俺はその後を密かに追いかける。
すると・・・。
「~ッ!?」
先頭のオークが転ぶ。
何かにつまづいた訳じゃない。
滑って転んだのだ。
俺が先程ぶちまけた液体のせいで。
一人が転ぶと、続けざまにあとの奴等も滑ったり前の奴につまづいたりして転ぶ。
奴等がもがいている間に俺は松明に火を着けて近づく。
「オーク共 滑って転んで 地獄行き」
即席の句を読んで悠々と歩いて近づき、松明を奴等に放り投げる。
するとオーク逹は大きな炎に包まれる。
「~~~~~~~ッ!!」
奴等は汚い断末魔を上げて黒こげの死体になった。
もうお察しだろうが先程の液体は『油』だ。
しかも飛びきりよく燃える奴だ。
奴等の死亡を確認して奥へ進む。
先程残った方のオーク逹は恐らく様子を見に行った奴等が帰って来ない事で警戒しているはず。
陽動も不意打ちも不可能だろう。
だからもう隠れるのはナシだ。
剣を抜いてゆっくり歩きながら堂々とオーク逹の前に現れる。
「~~~!」
残ったオークは慌てて声を上げる。
完全に俺を捕捉したようだ。
「来い、アホ共。」
右手の剣を肩に、持ってない方の左手の人差し指で手招きしながら挑発する。
「~~~ッ!」
状況が状況だけに言葉を理解したのか、オーク逹は激怒して俺に襲いかかってくる。
奴等が持っている棍棒やら斧やらを振り下ろす瞬間、俺は左に思いっきり飛んで回避する。
そして転げ様に左手に持った拳弓銃から矢を放ち、一体の右太股に命中させる。
続けて後ろに回って振り向き様のもう一体の脇腹に命中させる。
それでもオーク逹はお構い無しに縦振り、横振りに武器を振り回してくる。
縦振りを身体をずらしてかわし、横振りを伏せてかわし、最後の縦振りを転がってかわして距離を取って起き上がる。
「~?」
オークの二体が急に体勢を崩して膝をつく。
「~~ッ!?」
残りの一体が『どうした!?』とばかりに声をかけるが、オーク逹はすぐに倒れて動けなくなる。
「わかんねぇか? 『毒』だよ『毒』。」
そう、矢じりには毒が仕込んである。
回りは遅いが全身に回れば動けなくなり、死に至る。
「~~~!」
最後のオークは忌々しそうに俺を睨む。
「お前が最後の一体だ。」
剣を向けるとオークは斧を両手に構える。
矢を放っても弾き返すつもりだろう。
だが俺にはもうそんなつもりはない。
「~~~~ッ!」
オークは雄叫びを上げて斧を振り上げ、俺目掛けて振り下ろす。
俺は剣を逆手に持ち上に向かって盾の様に構える。
だがこの方法は愚作だ。
あの斧が剣に当たれば剣は砕けちり、斧を諸に喰らってしまう。
そうでなくても構えた剣を力で叩き込まれ、自分の剣を頭に喰らって脳震盪で死にかねない。
相手もそれが分かっているから途中で動きを止めない。
だがそれがいい。
奴の斧が俺の剣に触れた刹那。
「ッ!」
剣に奴の力が更に加わる瞬間、俺は身体をずらして斧を往なしてかわす。
オークは俺を潰す勢いで振り下ろした余り、体勢が崩れている。
その隙を逃さず、俺は斧を往なした勢いで身体を回転させ、オークの首を斬る。
短刀の為、首を一刀両断には出来なかったが、首半分を切り裂く。
これで充分だ。
頸動脈を斬られて奴は血飛沫をあげて倒れる。
「さて。」
先程毒矢を受けたオーク逹を見ると、一体は泡を吹いて死んでいたが、もう一体は這いずって逃げようとしていた。
人間を見下したような奴等なのにいざという時に姑息なモンだ。
だが俺はそれを背中を踏みつけて阻止する。
「どうせ死ぬんだ。楽になれよ。」
そう言って無慈悲に剣を振り下ろす。
いや、あのまま毒でじわじわ死ぬ方が苦しいから慈悲深いな。
「ハイ、『オーク一団壊滅』完了っと。」
これで70銅貨は確定。
証拠にこの辺の三体のオークの鼻をナイフで削ぎとって袋に詰める。
「あとは・・・。」
『村娘の救助』、死んでなきゃいいけど。
「・・・?」
少し探すと近くから『グスッ・・・グスッ・・・』とすすり泣く声が聞こえる。
近くに小さい洞穴があり、松明を翳すと女の子がいた。
しかも鳥籠のように吊るされた檻に入れられている。
「おーい。」
「!」
俺が呼び掛けると女の子はハッと俺を見る。
「助けに来たぞー。」
「ホント!?」
「ああ。」
閂を掛け、南京錠を着けて開けられないようにしてある。
だが幸い檻は木で作られた粗末な物なのでなんとかなりそうだ。
「待ってろ。」
そう言うと俺はさっきのオークが持っていた斧を持ってくる。
「ちょっと怖いかもしれんが、我慢しろ!」
女の子に忠告したあと、俺は斧を檻に向かって振り下ろす。
「ひぅっ!」
女の子は出来るだけ斧から離れながら身を縮めて怯えている。
でも我慢してもらうしかない。
一回では壊れないが二回、三回と叩きつけると檻は砕け、続けざまにバラバラになって女の子は地面に落ちて尻餅をつく。
「わあああん!!」
檻の壊し方が怖かったのか、はたまた落ちたのが痛かったのか、女の子は盛大に泣き出す。
「よーしよしごめんなー、痛かったかー? 怖かったかー? でももう大丈夫だぞー。」
俺は女の子を抱き締め、頭を撫でながら適当にあやす。
「それにしても・・・。」
『村娘』って聞いたけどこんな十歳も行かないような小さな女の子とはなぁ・・・。
オークやゴブリン逹は時に年頃の娘を拐って娼婦のように手籠めにするが、流石にこの子はないよな・・・。
良いとこ食料代わりとかその辺りだろう。
奴等がロリコ・・・いや、その線はない!!
絶対にないッ!! ・・・よな?
「まぁいいや。」
考えても今となっては無駄なので女の子を背負う。
「さ、母ちゃんの元へ帰ろうなー。」
「グスッ・・・うん。」
しばらく歩くと・・・。
「えへへ♪」
女の子は甘えるように俺の背中に頭をくっつけてくる。
「どうした?」
「ありがとう! お兄ちゃん!」
「・・・。」
お礼を言われる。
嬉しいんだがちょっと・・・。
「すまんが、『お兄ちゃん』はちょっと・・・。」
そう、その呼び方に嫌ぁ~な記憶があるからだ。
「じゃあ、『おじちゃん』?」
「いや、そうじゃなくて・・・。」
俺はまだ十九だ。
流石に『おじちゃん』は遺憾である。
「じゃあなんて呼べばいいの?」
「うーん・・・。」
数歩歩く間に悩んだ結果。
「『冒険者さん』・・・かな?」