#26 本物の英雄
~レレ カザ ギルド窓口~
「ハイ、これ紹介状ですね。行ってらっしゃい!」
手早く書類を書き上げて槍使いの男に渡す。
「うっし! さっさと片付けて旨いもん食いに行こうぜ!」
「全く君は・・・無駄遣いばかりして装備の修理の時に金がなくなってても知らんぞ?」
「へぇへ、毎度小姑みてぇにうるせぇなぁてめぇはよ。」
仲間の弓使いの男と他愛のないやり取りをしながらギルドを出ていく。
「ふーッ! 一段落かな?」
最近は余計な悩みもなく仕事がスムーズに進む。
ルッカの相方のリガードも怪我がすっかり治って復帰もしてる。
街もあれから大工や土木の作業員の人達が頑張って修復も順調。
余計な仕事もなく、何もかもが順調だ。
「・・・。」
けどそれが還って辛くもある。
ウルドがいた時は悶々として仕事が手に付かなかったけど日々変化するあの顔を見るのが楽しかった。
「はぁ・・・。」
机に顔を伏せる。
「今頃どうしてんだろうね、あの馬鹿は・・・。」
~ウルド 西の洞窟~
スケルトン達は俺を驚異と見たか、ルタの相手をしてた奴等も含めて一斉に襲い掛かる。
剣持ちは横凪ぎに剣を振るい、斧持ちは武器を振り下ろし、槍持ちは三体とも槍を突き出す。
「調子に乗るなよ屑共が。」
俺は全ての攻撃を捌いていた。
剣の横凪ぎは刃に乗ってかわし、二体の斧持ちの攻撃は手に持った剣と即座に取った鞘を膝に合わせて防いだ。
最後の槍は全て纏めて掴んでいた。
全て感覚上昇で軌道を見切って居たから出来た芸当だ。
「雷 剣 接続」
敵が鍔競り合いで動けないのを良いことに詠唱を始める。
「雷光の刃」
俺が身体を回転させると同時にスケルトン達は雷の轟音と光と共に吹き飛ぶ。
電撃が効いているようでスケルトン達は死んではいないが痙攣している。
「そ、その剣は・・・!」
メロは俺の剣を見て声を上げる。
俺の剣は雷を纏い、金色に輝いていた。
「『エクスデュラン』なんて御大層な名前じゃねぇよ。閃光の剣は俺の魔法で強化しただけのただの剣だ。それと・・・。」
俺は走り出す。
「分かってんだよッ!」
俺が向かっていく先は弓銃持ちのスケルトン達だ。
岩影から既に照準を合わせていた。
だが今の俺にはそんなの関係ない。
上昇で強化された脚力でジグザグに高速で走りながら照準を揺さぶる。
更に曲がる間隔を変則的に変えて『パターンを読んで撃つ』なんて真似もさせない。
結局照準を合わせられないスケルトン達は闇雲に矢を放つが感覚上昇で矢の軌道を見切って避けているため当たる訳がない。
全員矢を一発ずつ撃ちきってしまい、次の矢を装填しているがもう遅い。
「さて・・・。」
俺は後衛のスケルトン四体全員の後ろに回り込んでいた。
「お前らにはお礼をきっちりしないとな♪」
普段絶対やらない満面の笑みで左手の指を顔の横でバキバキ鳴らせる。
「わー、この人さっきの事まだ根に持ってるー☆」
ルタが場違いに無邪気な笑みで茶化してくる。
だって仕方ねぇじゃん?
両肩と両足に一本ずつ、背中に二本、奴等がやってくれた『物的証拠』がし~っかり残ってるんだからな♪
「オラァッ!!!」
左手でスケルトンを一体鷲掴みにして、さっき姑息に隠れていた岩に叩きつける。
続けて掴んだまま他のスケルトンに振り回して殴り付け、バランスを崩した二体目の首を剣で跳ねる。
更に掴んだスケルトンをそのまま盾にして残りの二体に突っ込む。
「オォラ撃って見ろよこらァッ!!」
掴まれたスケルトンは生きていたようで、俺の手から逃れようと両手で俺の手を引っ張るが引き剥がせない。
当然だ。
上昇で握力を強化しているので竜種でもない限り引き剥がすのは不可能だ。
掴まれた続けて振りほどけず良いように痛め付けられて利用される。
人間がされようものならさぞ屈辱的な嬲られ方だろう。
だが俺は知っている。
奴等が俺を嬲る為にわざと急所を外していた事を。
だからそう言うのも兼ねたお礼だ。
「ッ!」
さすが外道共のスケルトン。
同族の命も顧みず撃ってきた。
「ひっでぇなぁッ! 仲間の命が惜しくねぇのかぁ!? このゲス野郎共がぁッ!」
とか言いつつ俺も人の事は言えない。
感覚上昇で矢の軌道を見切って盾にしたスケルトンをずらして代わりに受けさせ、さらに一本狙いが外れている矢にもわざとずらして当てている。
「はいお前死んだ。」
一体のスケルトンに詰めより、盾にしたスケルトンごと押し込んで後ろの壁まで勢いよく走って叩きつける。
さらに叩きつけた瞬間首に剣を押し込んで二体とも貫いた。
スケルトン二体の胴体は壁に押さえつけられた首を残して無惨にも地面に崩れ落ちる。
最後の一体は距離を放そうと背を向けてまで必死に走りながら矢を装填している。
「そんなに急いで何処行くんだい?」
逃がすわけがなかった。
即座に追い付いて余裕かまして肩を掴む。
「おっと。」
言葉とは裏腹に顔色一つ変えずに剣を振る。
斬撃は咄嗟に振り向いたスケルトンが構えようとした弓銃を右腕ごと斬り落とす。
そして間髪入れず足払いをかけて転ばせると馬乗りになってマウントを取る。
「さて、お礼参りの締めはやっぱり・・・。」
何故か剣を地面に突き立てる。
「これだよなぁ!!」
鬼の形相で笑いながら両手をバキバキ鳴らす。
嫌な予感がしたスケルトンはすぐに手のひらを此方に向けて防御姿勢になるが俺に慈悲の心は一粒もない。
「はははははははははははははははははははは!!!」
自分でも気味が悪いと思えるような笑い声を上げながら上昇を込めた拳でスケルトンを何度も殴り、今まで溜まった憤りを一気に叩きつける。
十秒と経たない内ににスケルトンの頭は粉々に、文字通り粉になった。
「雷 剣 接続」
弓銃持ちを全滅させたのを確認すると剣を抜き、また魔法を詠唱する。
「雷光の刃」
剣は再び雷を纏う。
「ふうぅぅ・・・。」
息を大きく吐いて先程上がりきったテンションを抑える。
「あらら、ドSタイム終了?」
ルタがさっきと同じ調子で茶化してくる。
「黙れ、今のはムカついたからやっただけだ。さてと・・・。」
ルタに言い返すと俺は先程雷の斬撃を喰らわせた近距離武器のスケルトン達の方を見る。
電撃による麻痺はそれほど長続きもしないようで、スケルトン達は丁度今起き上がってきた。
「第二ラウンドだ。」
奴等に剣を向けると先程の攻撃に対しての屈辱か、スケルトン達は怒りに身を任せて襲いかかってくる。
剣持ちの縦振りを身体を横にずらしてかわすと頭を鷲掴みにして地面に叩きつけてから斧持ち一体に向かって投げ飛ばす。
投げ飛ばされた剣持ちとぶつけられた斧持ちは派手に転んで軽く気絶する。
槍持ちの一体が槍を突き出すが俺は敢えて地面を蹴って前に出る。
槍が腹部に刺さる寸前の所で右足の中段蹴りで槍を蹴り飛ばし蹴った勢いで身体を回転させながら剣を振ってスケルトンの頭を斬り飛ばす。
休む間もなく残りの二体が斬り上げと振り下ろしで俺に斬りかかるが俺は一歩引いて剣を横に向けたまま敢えて斬撃の軌道上に置いて槍を受け止める。
「・・・。」
瞬間俺はにやりと笑う。
次の瞬間、剣から槍へ電撃が伝わり、スケルトン達は諸に雷の電撃を浴びる。
槍が斬り落とされないよう鉄で出来ていたのが仇になった。
鉄は電気をよく通す。
今の俺には格好の得物だ。
先程の一瞬とは違い、今度は数秒ほどじっくり浴びせている。
結果スケルトン二体は黒焦げになり、崩れてただの炭になった。
今度は斧持ちだ。
二体いるがさっき剣持ちを投げ飛ばして片方は倒れていたので襲い掛かって来たのは一体だ。
勢いよく斧を振り下ろして来るが感覚上昇を使っている俺には止まって見える。
横にずれて回避すると続け様に横凪ぎに振ってくるがそれも跳んでかわす。
それと同時に足を蹴り上げ、スケルトンの胸部を蹴る。
スケルトンがバランスを崩したと同時に着地すると俺は胸ぐらを掴み、頭を大きく後ろに振って全力の頭突きをかます。
頭蓋骨の上半分が砕け散ったスケルトンは動かなくなり、地面に倒れる。
次に来たのは剣持ちだ。
先程から闇雲に攻撃した他の奴等がやられたのを見て慎重に構えている。
奴だけ鎧を着ている辺り騎士の類いだろう。
流石に冷静だ。
俺も奴同様に剣を軽く片手で前に向けて構える。
少し沈黙したあと、先に仕掛けたのはスケルトンだ。
低く構えていた所から剣を切り上げる。
だがその斬撃は間合いからして俺には届いていない。
スケルトンもそれは分かっていた。
剣を振り切らず途中顔の高さで止め、剣を突き出す。
斬り上げに見せかけたフェイントだ。
「見え見えなんだよッ!!」
感覚上昇を使うまでもなく、紙一重で避けて懐に飛び込む。
スケルトンは咄嗟に剣を引こうとするが間に合わない。
俺の剣は無慈悲にスケルトンの首を跳ねた。
最後の一体は斧持ちだ。
他のスケルトンが全滅して俺に勝ち目が無いと察してか一歩、また一歩と後退する。
俺もそれに合わせて一歩ずつ前進する。
するとスケルトンはとんでもない行動に出る。
なんと踵を返し、斧を振り上げて走り出す。
「えぇ!?」
標的はメロだ。
先程の弓銃持ちの的にするために俺を誘った手口だ。
だが無駄な事だ。
その要の弓銃持ちは全滅している。
それはスケルトンも分かっている。
『なら何故』と言うのは愚問だ。
答えは分かりきっている。
『どうせ死ぬなら確実に一人道連れにしてやる』って事だ。
だがメロまであと数歩の所でスケルトンの身体は何故か宙に浮き、足が地面から離れて前へ進めなくなる。
「おい。」
犯人は言うまでもなく俺だ。
即座に追い付いてスケルトンの後頭部を鷲掴みにして持ち上げていた。
スケルトンはそれでも斧を投げてメロに当てようと振りかぶるが無情にもその腕は斬り落とされる。
俺は知っている。
斧持ちは二体いたがさっきメロを何度も狙ったのはこいつだ。
「悪いのはこっちの腕か? それともこっちか?」
もう一本の腕も斬り飛ばす。
「それともすぐこっちに行くこの足か!」
両足も斬り落とす。
そしてそのまま地面に叩きつけてから足でひっくり返して仰向けに転がすと口に剣を突き立てる。
完全には貫いていない。
刃は歯と歯の間で止まっている。
「最後に言うことはあるか? 『ごめんなさい』? 『アーメン』?」
その皮肉に対してスケルトンは口をカタカタ鳴らすが骨だけで声帯が無いせいか言葉らしい言葉は帰ってこない。
「ハッ・・・『死人に口無し』ってか・・・あばよ。」
剣をそのまま押し込んで貫き、スケルトンの頭は上下真っ二つになった。
「・・・はあぁ。」
息を深く吐いて天を仰ぐとすぐに指輪を取り出して左指の中指に嵌める。
「ぐっ・・・うぅ・・・!」
頭と身体が重くなり力が抜ける。
辛いがすぐに戻ってある人物の方を向く。
「あ・・・あぁ・・・!」
偽アルトだ。
奴はさっきは丸くなって震えていたが途中から俺の戦いを見ていたようで尻餅を着いたまま開いた口が塞がらなかったようだ。
俺が近づくと「ひぃぃ!!」と声を上げて土下座する。
無理もない。
デミオで一回会ってるんだからな。
「出来心ッ! ほんの出来心だったんですぅッ!! まさか貴方様が本物だったなんて・・・許してッ! 申し訳ありませぇぇんッ!!」
地面にゴリゴリ額を擦り付けて謝りまくる。
「ヒィ!?」
俺が剣を目の前に突き立てると偽アルトはまたもや悲鳴を上げる。
怒ってると勘違いしたんだろうがそうじゃない。
「よっこらせっと。」
剣を支えに腰を下ろす。
正直上昇の使いすぎで疲れたから杖代わりにしただけだ。
「顔上げろって、別に怒ってねぇよ。」
「へ?」
肩に手を置いてやると偽アルトは顔を上げる。
「正直あんたのやってることは都合が良かったんだ。英雄だとか言われんの嫌いだから・・・でもな。」
「で、でも?」
「聞くところによるとあんた酷い目に合ったらしいじゃん?だったらもうやめた方が良いぞ?あんた見るからに弱そうだし。なんつーか・・・自分の名前で誰かが不幸になったりしたら俺も目覚め悪いしな。なんつって、はは・・・。」
明らかに臭い台詞を吐いた自覚はあるので最後に言葉を濁して頭を掻きながら情けない笑い声を上げる。
「アルド様ぁ・・・!」
俺の言葉が慈悲深いと感じたのか偽アルトは鼻水を流して涙を流す。
「今は『ウルド』って呼んでくれ、あんたの名前は?」
「ギ、ギャバラです・・・!」
「ギャバラ・・・。」
『酷い名前だな』・・・と言葉が口に出る寸での所で飲み込む。
「じゃあそのギャバラ・・・の名前が世に広まる様に頑張れ。冒険者が無理そうなら他の仕事でもいいから。」
ぶっちゃけあの戦い方だと冒険者で名を馳せるのは無理そうだから然り気無く保険をかけた。
「ハイッ!」
ギャバラは俯いたまま涙を流し、力強く返事をした。
一通り用が済んで立ち上がるが・・・。
「ウルドさん・・・いえ、『師匠』・・・!」
「・・・。」
メロの声がするが振り返らない。
バレた。
辛うじて隠していた正体がバレた。
その事実にまだ目を向けられないからだ。
「俺はお前の師匠じゃねぇ・・・。」
「私を弟子にしてくださいッ!」
「断る。」
そう言って振り返る。
「お願いですッ!!」
「駄目だ。」
「あなたじゃないと駄目なんですッ!!お願いですッ!!」
「だから言ってるだろ。師匠になれそうな奴なら俺が探して
「お兄ちゃん後ろッ!!」
「!!?」
ルタの警告を聞いて咄嗟に振り向く。
僅かに視界の隅にそいつが居ることに気がついた時には遅かった。
「がっ!!」
「見せてもらったぞ・・・英雄アルト。」
「銀蠍・・・てめぇ・・・!」
銀蠍は背中に回って短剣を刺していた。
短剣を引き抜かれると全身が痺れ、意識が遠くなり、立っていられずその場に倒れる。
くそ・・・油断した・・・!




