#25 悪逆の亡者
~メロ 西の洞窟 最深部~
「あわわわ・・・!」
なんかヤバい!
ヤバいのです!
ドス黒い魔力が部屋中に溜まって今にも吐きそうなのですッ!
「なんだ!?」
師匠を始めとしてこの場にいた全員が変化に気づく。
周りに何かがまるで沼から這い出るように空間を無視して現れる。
「スケルトン・・・?」
そいつらは鎧やら外套を纏っているけど露出している顔や手足は骨、スケルトンなのです。
数は十体、でも武器は剣や斧、槍や弓銃と様々なのです。
「なぁんでぇスケルトンかよ!」
偽アルトは呆れながら立ち上がる。
「・・・。」
確かにスケルトンは一体一体は弱い。
ゴブリンより少し強い程度でEクラスならちょっと手こずる程度でDクラスの冒険者なら楽々倒せるレベルなのです。
「こんなのぐらいなら俺だって! 喰らえぇ!」
偽アルトはまたちょこちょこ走りで黒い鎧のスケルトンに斬りかかるが・・・。
「ぐぇっ!?」
師匠に首根っこを捕まれて引き戻され、後ろに投げられる。
次の瞬間、偽アルトのいた地面が途端に爆ぜる。
「ひぃ!?」
偽アルトは状況を把握したのか、情けない声を上げる。
先程の地面が砕けた原因は鎧のスケルトンがあり得ない早さで剣を振り下ろしたからです。
「・・・やっぱりな。こいつら、ただのスケルトンじゃねぇ。」
「・・・!」
師匠の言葉通り、スケルトンの雰囲気が異常なのです。
先程の鎧のスケルトンは両手で剣を持ち、まるで剣術のお手本の様に正面に剣を構えているのです。
それに槍持ちも腰を据えて構えたり、弓銃持ちも常に武器を目線の先に構えて狙いを定めているのです。
こんなの普通あり得ない事なのです!
だってスケルトンって普通は武器なんか構えず棒立ちのまま操り人形の様に歩いて来て武器を振り回してくる筈なのです!
「なんなのですかこいつら・・・まるで人間みたいなのです!」
「そりゃお前元は人間だしな。」
「師匠ッ!そんな事言ってる場合なのですか!?」
確かにスケルトンは洞窟や迷宮で命を落としたせいで埋葬されなかった冒険者が白骨化して蘇った者って聞きますけど・・・ってそんな考察今要らないのです!
「ってちょっと! 師匠!?」
師匠はスケルトンの群れに向かっていく。
「聞いたことがある、邪悪な人間の魂を封じ込めた魔石があるって・・・。」
ルタがさっきの魔石について話す。
「え!? なんなのですかそれ!?」
「虐殺の限りを尽くした暗黒騎士や悪逆で名を知らしめた罪人は死んでもこの世に対する執着が強くて埋葬しても強力な不死になるらしいの。だから魔石に死体と魂を封印しないといけないって・・・多分さっきおデブが壊した石だねきっと。」
「最悪なのですッ!!」
「いやあれは事故! 不可抗力だ! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇッ!!」
「十中八九お前のせいなのですッ!」
「喧嘩してる暇あったら手伝えお前ら!!」
私達が言い争っている間にも師匠は戦っていた。
剣や槍を紙一重でなんとか避けつつ弓銃持ちから狙われないように移動、完全に防戦一方なのです。
「ゴメンゴメン! 炎 杖・・・」
ルタも杖を取り出して参戦する。
「私も・・・くっ・・・!」
た、立てないのです・・・!
「どうした!」
師匠が私の近くまで下がって確認しに来る。
「ダメなのです! さっき銀蠍に毒を受けて手足が動かないのです!」
「何ッ!? てめぇ余計な事を・・・! ってあれ?」
師匠は辺りを見渡したが銀蠍らしき影が見当たらないのです。
「あんにゃろッ!逃げやがったな!?」
「銀蠍は基本不意討ち専門だからね。」
ルタが説明する。
「ちきしょぉッ! あんの女アアアアァッ!」
師匠の叫びが虚しく木霊した。
~??? 王宮 訓練所~
王宮の大きな芝生の庭を私は歩く。
此処は兵士の訓練所で様々な訓練道具が置いてある。
「盾の守りを緩めるなッ! 反撃するギリギリまで守りを固めろッ!!」
訓練所では兵士達が剣と盾を持って実践訓練をしていた。
兵士に激を飛ばしているのは王立騎士第六師団の団長を勤めるバンズ団長だ。
私はその補佐を勤めている。
「あの。」
「ああ、エレノアか。」
声を掛けると団長は私に気づく。
「伝令を頼んですまんな。」
「いえ、仕事ですから。」
大臣から団長に伝令があったが団長は現場に対する責任感が強く、兵士達から目が放せないため私が代わりに伝令を受け取りに行った。
「大臣はなんて言っていた?」
「王から団長直々に任務が下ったそうです。」
「任務?」
そう言って丸めて皮の紐で止められた羊毛紙の書類を渡す。
「フム、これは忙しくなるな。」
「何の任務ですか?」
「『カザの警護』だそうだ。」
「カザ? あの辺境の街ですか?」
「ああ。」
「何故?」
「凶悪な組織に目をつけられたらしい。カザの自警団や冒険者では対応しきれないそうだ。騎士団の半分はそのまま任務に向かい、あとは王宮に残す。」
「団長はどちらに?」
「現場だ。」
「カザへ?」
「何かおかしいか?」
「その・・・団長が自ら向かわなくても
「馬鹿ッ! 事態が深刻なのはカザの方だッ! 王都だろうがカザだろうが助けを求める声は一緒だ! だから俺はこっちに行くんだ!」
「は、ハイ・・・失礼しました。」
団長はこう言う人だ。
権力を基準として考えず人間を平等に天秤に掛ける人だ。
だからこそ部下の前でも必要以上に威張らず、その代わり訓練の扱きにも遠慮がない。
部下達もそれが分かっているから団長を『鬼団長』と呼び恐れつつも尊敬し慕っている。
「王宮か街か・・・それで『街』を選ぶとは如何にもバンズ団長だな。」
「ッ!」
後ろから馬鹿にするような声が聞こえて振り返るとそこには護衛を左右に付けた鎧姿の顔が細身の男がいた。
王立騎士第三師団団長、ツインズだ。
「私なら当然『王宮』を取るがな。」
ツインズ団長は鼻で笑いながら顎を上げ、見下すように此方を見る。
「王が私に一任した任務です。私の判断で遂行します。」
「フン、それで? 街に貴様が行くことの意図は?」
「街を襲撃しようとする組織が得体の知れない者達である以上、中途半端に戦力は割けません。」
「王宮の守りは?」
「兵を半分残します。それに他の師団からは別段遠征や視察などの任務は聞きません、王宮の守護はそちらを信頼しても良いでしょう。それに王都には結界があります。守りは磐石と言えるでしょう。」
「フン、『自分が抜けても王宮の戦力に差し障りはない』と言いたげだな。」
「ッ!」
ツインズの嫌味な言い方に食って掛かりそうな私を団長は肩を掴んで止める。
「言葉の通りです。各師団の団長は貴方を含め優秀な方々が揃っています。下手な敵襲が来たところで何の問題もないでしょう。」
「当然だ、平民上がりの貴様とは違って選りすぐりの人材ばかりだ。」
「であれば安心だ。王宮のこと、よろしく頼みます。」
「・・・ッ!」
嫌味の数々を悉くかわされ、ツインズは苦虫を噛み潰した様に団長を睨み、団長に歩み寄って零距離で眼力をぶつける。
「調子に乗るなよ平民上がりの田舎者が・・・! 貴様の様な下賎の輩が王宮で役職に就いている事すら不条理なのだ! それを肝に銘じておけ。」
「・・・。」
団長は押し黙ったが、顔色一つ変えず真っ直ぐにツインズの目を見る。
「フン、貴様には田舎の警護がお似合いだ。」
団長の心を折れないと見るやツインズは負け惜しみに捨て台詞を吐いて去っていった。
「全く・・・あの男はいつもいつも・・・!」
「構わないさ、彼は貴族の出だ。彼なりに自尊心があるんだろう。」
「・・・。」
納得は出来ないが団長の意向なら黙っておくべきだろう。
「とりあえず王宮は副団長のネルスに任せるとして、お前も補佐は副団長の元にいた方がいいだろう。」
「何故?」
「向こうはいつ戦場になるか分からん、お前の管轄の仕事は安全な王宮からでも出来るからな。」
確かに私の仕事は主に食料や弾薬の手配などの事務職だ。
けどこの人は分かっていない。
「どうした? エレノア?」
私の表情を察してか団長は尋ねる。
「お断りします。」
「な、何故だ!」
「団長は私が居ないとすぐ勝手な事をするでしょう。この間だって私が目を放した隙に物資を必要以上に仕入れて倉庫に余らせましたし。」
「うっ・・・!」
私の指摘に団長は矢で射抜かれた様に呻く。
「私も見張りがてら団長についていきます。良いですね?」
「・・・わ、分かった。」
『鬼団長』と呼ばれた人もこの時だけは素直だった。
~メロ 西の洞窟~
戦況は最悪なのです。
スケルトンの奴等想像以上に手強いのです。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
「あはは、ちょっとヤバいかな?」
師匠達が息を切らす間もなく斧持ちのスケルトンが襲い掛かる。
狙いは・・・。
「ひぃ!」
私なのです!
「くそがッ!」
師匠は体当たりで私に襲い掛かるスケルトンを突き飛ばすけどそれだと・・・。
「ぐあッ!」
弓銃持ちが隙を突いて矢を放って師匠の身体に当ててくる。
同じ手口でさっきから五発くらい受けてるのです。
「炎 杖・・・。」
ルタが詠唱し、魔法を撃とうとすると・・・。
「放・・・ああもうっ!」
剣持ちと槍持ちがルタに襲い掛かる。
前衛の師匠が引き付けられないから詠唱を中断して回避に専念する。
さっきから同じ調子で何度も魔法を撃つのを邪魔されてるのです。
偽アルトは・・・!
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
私の近くで団子の様に丸まって震えているのです。
今の私が言うのも何ですけどホンット使えないのですッ!
「くそっ、『悪人の魂のスケルトン』か・・・!確かに外道の集まりだな・・・戦い方に節操がねぇ・・・!」
「強すぎ! しかもこれ相手に防衛戦とかマジ無理なんですけどぉ!」
「!」
ルタの言葉で自分の状態が歯痒くなる。
そうなのです。
今師匠は私が動けないから私を守りながら戦ってるのです。
「弱音吐くんじゃねぇッ! 諦めたらこのまま全滅だぞッ! くっ・・・!」
斧持ちがまたわざと私の方を狙って師匠を誘い出す。
けど師匠は私を守るために斧を止める。
「ぐっ! うぅぅ・・・!」
例の如くまた弓銃持ちから矢を受ける。
「師匠ッ!」
師匠を心配しながら場違いな事を考える。
師匠は何故こんな相手に苦戦しているのか分からないのです。
こんなにも追い詰められているのに何故私が最初に見たあの時の戦い方をしないのですか?
もしかして本当に師匠は・・・いやこの人はあの時見た私の師匠ではないのではないのですか?
本当にこの人の言う通り、私が人違いをしただけなのですか?
だったら・・・!
「・・・るのです。」
「あ? なんか言ったか?メロ?」
「私を見捨てて脱出するのですッ!」
「!?」
私の言葉に師匠は目を見開く。
「何言ってんだ馬鹿ッ!」
「動けない私はもう見捨てて欲しいのですッ!」
「正気かお前ッ!」
「もうあなたには迷惑掛けられないのです・・・だからあなた達だけでも逃げて下さい・・・。」
「メロ・・・。」
「お母さん・・・必ず見つけてください・・・天国から応援してるです・・・ウルドさん・・・!」
泣きそうなのを必死に堪えて笑う。
「ふざけんなあああああああぁッ!!!!」
「!」
ウルドさんの怒号にスケルトンを含めこの場にいた全員が硬直する。
「お前の夢は・・・こんなもんで諦められるってのかッ!」
「それは・・・。」
「綺麗事で片付けて死のうとすんじゃねぇッ!! お前のそれは『負け犬の遠吠え』だッ!!」
「だ、だってぇ・・・!」
ウルドさんの言葉責めに堪えていた涙が流れ出す。
「もう嫌だ・・・嫌なんだよッ! 目の前で勝手に死なれんのはッ! どいつもこいつも・・・人の迷惑考えやがれッ!! 馬鹿がぁッ!!」
「!」
ウルドさん・・・泣いてるのです・・・!
「お前に死なれるくらいなら・・・。」
「!?」
ウルドさんは指輪に手を掛ける。
「クソッタレの英雄にだって舞い戻ってやるッ!!」
そう言って指輪を外した。




