#22 語られる真実
~ウルド 王宮~
グランツ=ロウ=ルヴァーナ七世。
ルヴァーナ国、第七王位継承者。
六年前に前王が暗殺され、若冠二十歳にして急遽王位を継ぐも優れた治世で国を纏めあげた歴代でも逸材の王と言われた人物。
眼光は鋭いが均整の取れた顔からは気品と威圧感が感じられ、金色の髪と合わせると獅子を彷彿させる。
「何を話すか・・・そうだな、お前は何を聞きたい?」
「はい、えぇと・・・。」
半年前の事?
ルタを派遣してきた理由?
いや、違うな。
そうだ。
「俺を魔王にしようとしている奴等の・・・えぇと・・・。」
「『原初の悪魔』だな。」
「そう!それ!それです!」
「フム、確かに敵については知ってもらいたいな。」
グランツ王はベンチに座ったまま、前屈みになって膝に両肘をつき、両手を合わせる。
「まず『原初の悪魔』と呼ばれる由縁だ。」
「はい。」
「その名の通り、この世界で一番最初に現れた『悪魔』だ。」
「一番最初に現れた悪魔・・・?」
『一番最初』・・・何か引っ掛かる言い方だな。
「言葉の意味に気づいたようだがそれについては後に説明しよう。」
「は、はい・・・。」
勘が良いな王様・・・。
「古代、魔法も何も無かった時代だ。何者かが禁忌の術を公使して奴はこの世界に降り立った。」
「それってヤバイことなんじゃ・・・!」
「そうだな。何故そんな事をして奴を呼び出したのかは判明していない。だがその力が凶悪だと知った人間達は当時の技術を駆使して封印の術式を作り上げ、奴を封印した。」
「封印した?」
「だがその封印は長くは持たなかった。奴は封印した人間達を怨み、異界から別の悪魔を沢山呼び出して世界に反逆した。」
「それ、人間に勝ち目あるんですか?」
「そうだな、魔法や魔覚のある現在ですら勝ち目があるか怪しい相手だ、当時の人間達にとっては絶望的な状況だっただろう。」
恐ろしい話だ。
だがこれで納得した。
後から悪魔を呼び出したのであれば奴が『一番最初』と言うのは筋が通る。
「だが神の力を授けられた聖女の力によって悪魔達は滅ぼされた。」
「滅んだ?じゃあどうして今、原初の悪魔は存在するんですか?」
「奴は魂だけの存在となって生きていたんだ。いや肉体は滅ぼされいるから少し語弊があるがな。」
「まさか・・・!」
「気づいたな?」
「再び肉体を得るために人間に乗り移る・・・そうして生まれたのが・・・!」
「そう、『魔王』だ。」
「・・・。」
俺達が戦っていたのはそんな太古の昔からの存在・・・いや、何か引っ掛かる。
「あの・・・。」
「なんだ?」
「そんな太古の昔からいる存在なら・・・何で最近になって・・・。」
「そうだな。魔王が現れたのは今から丁度十年前、それまでは世界にその存在すら確認されていなかったからな。」
「はい・・・。」
そう、魔王は十年前に突如現れ、世界に宣戦布告をした。
霧魔を消しかけ、破壊と侵略の限りを尽くした。
十年もそんな厄災が存在し続ければ今もその爪痕が残るだろうが人間側もそれほど甘くはない。
神々の恩恵を授かった組織、『聖堂教会』によって魔王の拠点の周囲に結界が張られ、その被害は抑えられていた。
しかし一年前にその結界は破られ、世界は再び魔王の驚異に晒されていた所を俺達が苦闘の末に倒したのだ。
「話す前に頼みがある。」
「頼み?」
「決して怒らないで欲しい。」
「!?」
何だ・・・?
何を話す気だ!?
「原初の悪魔は確かに数代魔王を作っていた。魔王を倒すだけでは原初の悪魔本体を倒すことは出来ない。しかし、ある方法を取ることによって世界は奴の脅威を受けずに済んだ。」
「ある方法・・・?」
「魔王となった依り代ごと封印することだ。」
「封印? でもそんな事をすれば奴は十年前よりも前から何処かにいた筈だ!」
「そうだ。ある場所に封印されていた。」
「何処に!?」
「『聖堂教会イングリッド国支部』、王都メルキデスにある大聖堂の地下千メートルの地中だ。」
「イングリッド国・・・!?」
それって・・・!
「王都の近くにあった『カカル村』・・・確かお前の生まれ故郷だったな。」
「あ・・・あぁ・・・!」
~アルト カカル村(十年前)~
澄みきった空、村の外を見渡せば山。
それが俺の村の全てだった。
友達は王都に行きたいって言う子もいるけど俺は別にそんな事を思ったことは無かった。
生活は貧しくて父さんも母さんも余裕が無いのが分かっていたから畑仕事を手伝っていた。
「アルト。」
「ん、何? 母さん?」
一緒に畑を耕していた母さんが唐突に話しかけてくる。
「いつも手伝わせてごめんね?」
「どうしたんだよ急に。」
「無理して手伝わなくても良いからね?」
「変な事言うね、あ、もしかして俺、母さん達困らせてる?」
「そうじゃない! スゴく助かってる! でもその、同じ年頃の子供達も遊んでるからアルトもたまには・・・。」
「父さんと母さんが頑張って働いてるのに俺だけ楽出来ないよ!」
「アルト・・・。」
「それに手伝いだって好きでやってるから気にしないで!」
「アルト・・・!」
母さんは俺を抱き締める。
「ごめんね・・・うちが貧しいせいで苦労かけて・・・!」
「泣いてんの?」
「ごめんね・・・。」
「もう、今日は泣き虫だなぁ母さんは。」
俺は母さんの背中を優しく擦る。
「アルト! メリル!」
「父さん?」
畑の肥料を取りに行っていた父さんが急に走ってきた。
「あなた、大丈夫!?」
「どうしたの?父さん。」
父さんは息を切らしていた。
凄く慌てて来たのが分かる。
「二人共すぐに
「!?」
父さんが言葉を言い切る前に俺達は事態に気付く。
「逃げろ!」
父さんの後ろには霧を纏った黒い狼が三体飛びかかっていた。
その日のうちに俺の故郷は正体不明の魔物達に滅ぼされた。
~ウルド 王宮~
頭の整理が追い付かない!
なんだそれ?
つまりあれか?
俺は魔王の近くで暮らしていたって言うのか?
いや、そんな話じゃない!
「大聖堂の奴等は・・・その事を知ってて・・・?」
「そう、隠蔽していた。」
「・・・ッ!」
拳を握りしめ下唇を噛んで耐える。
今にも怒りが爆発しそうなのを必死に抑える。
「まぁ、隠蔽と言うのも少し語弊があるな。何分古代の事だ。当時の人間も魔王の存在は庭かに信じがたかったし、言った所で誰も信じないと思ったんだろう。」
「・・・じゃあ封印が解けたのも。」
「恐らくは半信半疑で定期的に施していた封印の儀式をいい加減にやった可能性がある。」
「ふざけるなッ!」
余りの怒りに王様の前で暴言を吐く。
「そんなふざけた奴等の為に・・・俺の故郷は・・・仲間は・・・みんなは・・・それにセレスだってッ!!」
「聖女か。」
「あいつは魔王を倒す方法を探して旅をしていた・・・でもそれもあのいい加減な奴等の尻拭いじゃないかッ!」
「そうだな・・・そうとも言える。」
「くそっ・・・くそぉッ!」
どうしようもない怒りの拳を大理石の地面に叩きつける。
「これで分かっただろう? 聖堂教会は人々の為に戦った奴等だけじゃない。誰かに自分達の責任を押し付け、背負わなくても良かった重荷を背負わせる者もいるんだ。」
「馬鹿らしい・・・そんな奴等の為に戦ったって思うと・・・!」
「聖堂教会だけじゃない。この先もお前を良いように利用しようとする奴がいる。そんな奴等の手には決して堕ちるな。敵は魔王だけじゃない。」
「・・・。」
言われなくてもそうするつもりだ。
いや、カザを出る前から決意していたことだ。
「ふぅ・・・途中からお前には重い話になったな。別の話をしよう。」
「別の話?」
「お前を騎士団長に勧誘した話・・・覚えているか?」
「はい。あの時断りました。」
「安心しろ、もうこの話は持ち掛けない。」
「ならどうしてこの話を・・・?」
「何故そんな話をしたか分かるか?」
「・・・ルタから聞きました。俺を管理する為だと。」
「猫からか。」
「猫?」
「いや、気にしないでくれ。我々の彼女の呼び方だ。」
「はぁ・・・。」
『猫』って・・・。
まぁ言われてみればそう見えなくもないが・・・。
「話を戻そう、確かに最初はお前を管理する為だった。」
「最初は?」
また引っ掛かる言い方だ。
「ああ、そうすればお前を原初の悪魔から守りやすくなるしな。だがあの時のお前と話すうちに別の理由も出てきた。」
「別の理由?」
「一言で言うなら・・・『放っとけなくなった』って所だ。」
「は?」
何言ってるんだこの人?
「半年前の脱け殻の様なお前の顔を見るとな・・・昔見た私の家族と影が被ってな・・・。」
「・・・。」
またこの話か。
本当にどんな顔してたんだ俺。
「騎士団と言う形でも居場所を作れれば変わると思っていた。だがそれも要らぬ世話だったと分かる。今のお前を見るとな!」
グランツ王はその気品ある顔には似合わないような楽しげな表情で笑う。
「今の・・・俺。」
「お前にとって、カザの街はそれほど大事な場所なんだな。」
「・・・はい。俺の帰るべき場所です。」
「ならば守ってやらなければならんな。」
「え?」
「当たり前だろう。お前がいた街だ。敵もお前が立ち去ったからと言って襲いに来ない保証はない。」
「うっ・・・!」
確かにそうだ。
あの時は責任を感じて出ていく事ばかり考えていたが翌々考えればカザは今安全とは言えない。
本来の力の俺であれば多少なりとも防衛出来るだろうが、あの街の冒険者や自警団達の力で奴等の襲撃を防ぎきるのは不可能だろう。
「カザの街に兵を派遣して護衛してやる。」
「え・・・?」
一瞬思考が停止した。
「え、あの、カザに兵を派遣?」
「そうだ。」
「いや、その、良いんですか?」
貴重な兵士を態々田舎街に派遣するなんて普通はあり得ないことだ。
「当然だろう、奴等の標的にされる可能性がある以上守りを固めるべきだ。」
「それはそうですけど・・・。」
大胆不敵な王様だ。
王宮には色々と大臣やら政治やらの柵もあるだろうにこうも決定が早いのには驚かされる。
「気にするな。言っただろう? 『放って置けない』って。」
「あ、ありがとうございます。」
何にしても有り難い事だ。
カザに何かあったら俺も嫌だ。
レレ達が居て始めてあの街は俺の帰るべき場所だからな。
「それにお前は貴重な『兄友達』でもあるしな。」
「『兄友達』? 王様にも妹が?」
いや、て言うか俺の妹は王様が派遣した偽者なんだが・・・って突っ込むのは野暮だが。
「ああ、年の離れた妹でな。」
「はぁ。」
「これがまた可愛くてな!」
「え? は、はぁ・・・。」
イヤな予感がする。
「普段は家臣達の前もあって気丈に振る舞っているがたまに甘えて来るのがたまらないんだ!」
すぐにイヤな予感が当たった。
それから小一時間ほど俺は王様の妹に対する愛を語られた。
そして嫌と言うほど理解した。
グランツ王はシスコンであると。




