#21 姫と猫
~ウルド 王宮前~
「ハァ、結局連れてきちゃったんだね。」
城門前で待っていたルタはメロを連れてきた俺に呆れて溜め息をつく。
「仕方ねぇだろ。様子見に行かなかったら危なかったんだからな、ある意味。」
「ある意味?・・・そっか!貞そ
「それ以上言うんじゃねぇッ!」
ルタに突っ込みを入れつつもメロを見ると・・・。
「王宮・・・。」
メロは人の背丈の十倍はあるであろう大きな城門を見上げて固まっていた。
「・・・。」
ま、こう言う反応だろうな。
今頃王様に呼ばれて来たとか思うんだろうけどその通りに言ったらダメだな。
とりあえず・・・。
「ゴンザエモンは王宮の地下に拠点を構えてるんだ。」
「地下? 王宮って地下があるのですか?」
「ホントは他言無用の内容だ。ゴンザエモンは機密主義者だからな。」
「ホントにゴンザエモンっているのですか~?」
「居るっての!」
流石に疑われる。
『もう流石に厳しいんじゃない?どうせ連れてったらバレちゃうし・・・。』
念話でルタが呆れ気味に言葉を投げてくるが・・・。
『フッ・・・誰が連れていくって言った?』
『へ?』
『とりあえず城門を通ろう。』
『??? うん。』
俺の言葉に戸惑いつつもルタは案内するように先行する。
城門は大きな扉があるが閉じられており、両脇に人間用の出入り口がある。
そこに検問として兵士が配置されており、王宮の出入りを取り締まっているようだ。
ルタは右側の門番の兵士に通行証を見せる。
「確認した、通れ。」
門番は横にずれて道を開ける。
俺達は扉を通ろうとするが・・・。
「?」
突如俺はメロの肩を掴む。
「師匠?」
「すいません。門番さん、ちょっと良いですか?」
「なんだ?」
俺の行動に戸惑うのはメロだけでなく門番も同じだ。
「こいつは通さないで貰えますか?」
「え? 師匠?」
「その娘は同行者ではないのか?」
「ハイ、こいつは俺達が会う相手に呼ばれて無いので。」
「そうか。」
「師匠!?」
俺達が門を通り抜けるとすぐに門番は道を塞いだ。
「師匠ッ! 話が違うのですッ!!」
メロは強引に通ろうとするのを門番に邪魔され、その脇から顔を出して喚く。
「誰が『ゴンザエモンに会わせる』なんて言った? 当初の予定通りだ。お前はそこで待ってろ。」
「師匠ッ!」
喚くメロを無視して俺は門を通り抜けた。
「お兄ちゃんわっる~い!」
メロが聞こえない距離まで歩くとルタは早速茶化してきた。
「うるせぇ、アイツを王様に会わせる訳に行かねぇんだよ!」
「別に王様は怒らないと思うけどなぁ~。」
「馬鹿ッ! そう言う問題じゃねぇ!」
王宮の入口に続く長い階段を登りながらこのあともルタから散々茶化された。
~メロ 王宮前~
「きぃ~~~~ッ! 師匠の裏切り者ォッ! むあああぁッ!!」
あまりにも悔しくて転げ回る。
チャラ男達から助けてくれた時に連れてってくれると思ってたのに結局連れていく気なんて無かったのですかッ!!
「師匠・・・!」
やっぱり何か隠してるのです!
この先に行ければ師匠が英雄アルトだって言う決定的な現場を押さえられるのは間違い無いのです!
それにはまずあの門番をどうにかしないと!
「門番さぁん・・・。」
「む?」
まずはこの手なのです!
前屈みにポーズを取り、ウィンクする。
色仕掛け作戦なのです!
「通してくれたらぁ、イイことして、ア・ゲ・
「ハンッ・・・。」
「鼻で笑いやがったですねッ!?」
「子供が色仕掛けなんぞ十年早い。もっと成長してから出直して来い。」
「腹立つッ! 滅茶苦茶腹立つのですこいつッ!」
どいつもこいつもついでに師匠も私の事子供扱いしてムカつくのですッ!
・・・ハッ!
凄く良いこと思い付いたのです!
「門番さん!」
今度は門番に向かって胸に抱きつく。
「だから色仕掛けは・・・。」
「エヘっ♪」
にぱーっと子供の様な笑みで顔を上げる。
「・・・なんだ?」
門番は訳も分からず眉を潜める。
「お願ぁい、通してぇ?ダメ?」
上目遣いで思いっきり声色を変えて子供っぽく甘える様にお願いする。
「うっ・・・!」
門番は頬を染めてたじろぐ。
効いてる!
やはり完璧な作戦なのです!
色仕掛け作戦PART2!
『セクシー路線』がダメなら『可愛い路線』なのです!
私の尊厳を犠牲にする諸刃の手段ですが背に腹は変えられないのです!
さっき私の事子供扱いしたことを後悔するがいいですッ!
「だ、ダメだッ! 規則だから
「ヤダヤダヤァ~ダァ~! お願い聞いてくれなきゃヤァダァ~ッ!門番さんの意地悪ぅ!」
「うぅ・・・!」
顔を胸にぐりぐりさせながら追い討ちをかけると門番は更に拒みづらくなる。
「だから規則だから、な?ダメなんだって・・・!」
先程の毅然とした態度が何処へ行ったかと思うほど拒否が弱々しい。
これならいける!
最後の追い討ちを・・・!
「・・・やっぱ無理なのです。」
「へ?」
門番が戸惑うのを他所にゆっくり私は門番から離れる。
「ぐああああぁッ! こんなの私のキャラじゃないのですううぅッ!」
頭を抱えて転げ回る。
先に限界が来たのです!
こんな見た目のコンプレックスを認める様な真似出来る訳が無かったのですッ!
精神的な負傷がでかすぎる!
馬車の上で魔法撃ちまくってた時の方が何倍もマシなのですぅッ!
「その・・・なんだ・・・ドンマイ?」
「やめてぇッ! その慰め方滅茶苦茶傷つくのですぅッ!」
門番にトドメを刺されて私は更に転げ回った。
~カトレア 自室~
「ハァ・・・。」
ベッドに横たわり、枕を抱き潰しながら項垂れていた。
それは分かっています。
大小はあれど兄さんが私以外に好意を向ける相手がいることも。
そもそも一国の王です。
他人を好きになれなければ出来ない職務です。
分かっています。
でも・・・。
「ハァァ・・・。」
兄さんに甘えられる時間が待ち遠しい・・・。
「拗ねてふて寝をしてるお姫様は此所ですかぁ?」
「ッ!」
即座に起き上がり、声のする方を見ると声の主はいつのまにか天井に作られていた扉から蝙蝠の様に逆さまに顔を出して此方を見ていた。
「うげ・・・猫・・・!」
「今は『ルタ』です・・・よっと!」
女は天井から落ちてくるとその名の通りさながら猫のように手足を上手くついて物音一つ立てず器用にしなやかに着地する。
「戻って来てたのですね。」
「えぇ、彼を連れてきたんですから当然でしょう。」
猫は不敵に笑いながら此方に歩いてくる。
「出来れば貴女は戻って来て欲しく無かったのですが・・・。」
「あらあら~、私そんな嫌われる事しちゃいました~? なるべく王族にはご無礼の無いよう気を付けているのにぃ~。」
「白々しい・・・!」
わざとらしくカマトトぶる猫に苦虫を噛み潰した顔をせずには居られなくなる。
そう、私は彼女が嫌いだ。
私の兄に対する想いを会ってすぐに見抜くや否やこうして毎日の様にからかっていたからだ。
今回は少しの間任務に出ていたので平穏が保たれて居たのにまたうんざりする日々が始まる。
「何しに来たんですか?」
「彼が王に会っている間はすることがありませんしぃ、久しぶりに女の子同士でガールズトークで盛り上がっちゃおうと思いまして!」
「お断りですッ! 私は今機嫌が悪いんです! 猫は猫らしく気ままに何処かへ立ち去って下さいます?」
「でしたら気ままに気ままに~そいやっ!」
猫は私の隣に飛び込むように寝そべる。
「この部屋を寝床にしま~す!」
「ちょっとッ!」
ベッドから追い出そうと引っ張ったりぽかぽか殴るがビクともしない。
「仮にも王族の寝具に無遠慮すぎでしょ貴女ッ!」
「んもぉ~姫様冷たい~!」
「貴女がそう言うことするからでしょッ!」
「それで?」
「ッ!?」
猫は急に起き上がり、私の肩に手を回して抱き寄せ、一歩間違えれば唇がくっつく程の距離まで顔を近づける。
「ち、近い! 近いですよ!」
「ご機嫌が悪いのは一体何故でございましょ~か?」
「・・・!」
猫は私の顎にちょんと指を当てていつものうすら笑みを浮かべる。
「・・・分かりきってるくせに。」
「え~分かんないです~! 教えて下さ~い!」
わざとらしく無邪気な笑みを浮かべて質問してくる猫。
「ああもうッ! うっとおしいッ! 離れなさいッ!」
「うわっと!」
たまらず猫を強引に引き剥がす。
その拍子に猫は倒れるがすぐに起き上がる。
「ま、茶化すのはこの辺にして・・・。」
「・・・。」
「気に入らないんでしょう? 愛しのお兄様を独占してる彼が。」
「貴女には関係無いでしょう?」
「別に良いじゃないですか! 友達に会う程度の事でしょ? それに別に異性じゃなくて男同士ですしぃ・・・ハッ! 姫様まさか・・・!」
「?」
「彼と王様がそんな風になるの想像して・・・!」
「そんな風・・・?」
「またまた姫様~! ほら王都の書店の隅にもあるじゃないですか~!」
「書店の隅???」
「官能小説のさらに隅にある~男の人同士が絡む所謂『ボーイズラ
「やめてぇッ! 例え妄想の中でも兄の事を汚すのは許しませんッ!!」
「ま、まぁ私も? 姫様の趣味まではどうこう言うつもりはありませんし・・・?」
「変なタイミングで優しくならないで下さいッ! あと私にそんな趣味ありませんッ!!」
「あはは! ホントに姫様って可愛いですね♪」
「お世辞になってませんッ!」
そう言って立ち上がる。
「あらどちらへ?」
「職務の時間です!」
「あらあら、もうそんな時間でしたか。」
猫は薄目になって怪しく微笑む。
「もっとお話したかったな~!」
「貴女もさっさと出ていって下さい! さもないと兵士を呼びますからねッ!」
「わ~こわ~い!」
猫は笑いながら心にもない台詞を吐く。
「フン・・・。」
苛々しつつ私は部屋を出た。
~ウルド 王宮~
「やあ、会いたかったぞ! こんな場所に呼び出してすまないな。」
「いえ。」
俺が呼び出されたのは王様が玉座に座る謁見の間、ではなく・・・。
「皆のいる場所では堅苦しい話しか出来なくてな。」
「はぁ・・・。」
俺が今いる場所は王宮の上辺りから外に出たバルコニーだ。
とは言っても庭のように広く、飾り付けにも気を使っているのか所々に色々な花が生けてあった。
「此方からも無礼ですいません。王様に会うのにこんな・・・。」
そう、俺は顔中布を巻き付けていた。
「ははは、構わないさ! お前も色々苦労しているのだろう。」
「・・・。」
王様は笑いながら許してくれたがやはり失礼なので俺は布を取った。
「久しぶりに見たなその顔・・・半年ぶりか。」
「はい。」
「さて、何から話そうか。」
王様は優しく微笑んだ。




