#2 妹と言う名の・・・
~ウルド 自宅~
目覚ましの音で即座に目を覚まし、時計を止める。
早起きをしたい質なので街の小さな時計屋に安物ながら音の出る目覚まし時計を買っているので非常に役に立っている。
今は朝の6時、ギルドは当然まだ開いていないがこんな時でもやることはある。
武具の手入れ、依頼用の道具の準備、手入れした武具の具合を見ながらの鍛練。
やることは多いがその前に済ませるべきことは何を置いても・・・。
「お兄ちゃんご飯出来てるよー!」
「・・・。」
朝食の準備・・・先を越されたか・・・。
パタパタと扉の向こうから足音が聞こえて来たかと思えば扉が乱暴に開かれる。
「朝だぞー! ってあれ? もう起きてる?」
「ああ、残念だったな。」
「むー、せっかく寝てるお兄ちゃんの上にダイビングして起こす妹イベントやろうと思ってたのに・・・。」
「なにが妹イベントだふざけんな! てかお前何時に起きた?」
「5時だけど?」
「ジジイかッ! なんでそんな早く起きる必要があるんだよ!」
「洗濯物干してー、ご飯作ってー、お兄ちゃんの服用意してー、そんでそれが終わったら6時だからお兄ちゃん起こすのに丁度いいと思って!」
「それ妹じゃなくて最早侍女だろ。」
「妹メイド!」
「黙れ。」
あざとくポーズを決めるルタに俺はドスの入った声で悪態をつく。
「あーもう! 話してる間にご飯冷めちゃうよ! ほらほら!」
「うるせぇ引っ張るな!」
こうして否応なしにリビングへ連れて行かれる。
「はいそれじゃ、いただきます!」
テーブルに俺を座らせ、向かい側で手を合わせるとルタはパンを片手に目玉焼きを美味しそうに食べる。
「・・・。」
渋々食べながら昨日の事を思い出す。
―――先日の夕方。
「お前は一体誰だッ!!!」
剣の構えを緩めず恐怖を押さえた精一杯の声で問いただす。
「・・・。」
ルタは目を軽くとじて一瞬鼻で笑うと、薄く目を開き、まっすぐ此方を見る。
「急に妹が出来て驚きました? フフ、まぁ居るわけないですよね・・・貴方に妹なんて。」
急に大人びた口調になる。
その薄ら笑みを浮かべた表情は先程自分を『お兄ちゃん』だとかふざけた事ほざいてた無邪気な少女とは似ても似つかない顔だ。
「んなこた分かってるッ!! 何者だって聞いてんだよッ!!」
「魔王を倒して王都プロテアに報告しに行った時、近衛騎士団の団長職にスカウトされましたよね? 貴方・・・。」
「あ、あぁ・・・そうだな。でもその話は蹴った。」
そう、言葉通り俺は魔王を倒してギルドに報告を入れたあと、事の顛末を全て王に話した。
王は大いに喜び俺にお前は英雄だ、勇者と呼ぶに相応しいなど有らん限りの賛美の言葉を俺にかけた。
そして望むのならば俺のために騎士団を作り、その団長の座を与えようと言ってくれた。
だが俺はその話を断った。
「王が貴方にこの話を持ちかけた理由・・・貴方に分かりますか?」
「そんなもん、普通に考えて・・・。」
「『実力を認められ、気に入られたから』・・・ホントにそれだけだと思います?」
「なんだよ、他に理由でもあるのか?」
「貴方は大陸全土を溶岩で巻き込むほどの火山の噴火をそれ以上の冷気を放ち一瞬で凍らせて封じ込める魔法の杖があったらどうします?」
「は? なんだよ急に・・・。」
「山のように大きなドラゴンを一太刀で切り裂く伝説の剣を貴方ではない誰かが持ってたら?」
「・・・『物騒だから関わらない』。そんなスケールのデカい話は一個人の俺の手に余るからな。」
答えないと話が進まない気がするので答える。
「一番その人からされたくないことは?」
「・・・そういう事か。」
回りくどかったがこいつの言わんとする事を理解した。
「『その剣を向けられること』・・・そう、貴方は魔王を倒せるほどの力を持った方、つまり魔王以上の驚異にも成りうるからです。」
「つまりあれか? 王様が俺を騎士にしようとしたのも、俺を手元に置いて管理しようって魂胆だったって訳か。」
「ええ、ですが貴方はその話を蹴った。つまり未だ世界の脅威の芽ということです。」
「で、お前はそんな俺が国々に弓を引かないように見張るお目付け役ってか?」
「ホントにそれだけだと思うのなら貴方はお気楽ですね♪」
「は?」
「ふふ・・・。」
そう言うとルタはゆっくりと此方に歩いてくる。
そして目の前に立つと手を伸ばしてくる。
「手元に置けない脅威なら『破壊』するか、『無力化』した方が良いでしょ?」
「!」
こいつまさか・・・俺を殺しに来た刺客か!?
「でも・・・。」
「?」
ルタが伸ばした指先は俺が腰の鞘から抜こうとしている剣に触れる。
「貴方を殺すなんて骨が折れますけど、もっと簡単な方法だってあるでしょ?」
ルタは俺の後ろへゆっくり回りながら剣に触れていた指先を這うように俺の腕へ、肩へ移動させ、首筋に到達させると撫でるように触る。
「簡単な・・・方法?」
「そう・・・例えば私みたいな『女』を使って。」
もう片方の左手を俺の脇から蛇のように腹に滑り込ませる。
「『籠落』させたりとか。」
耳元で艷の入った小さな声で囁く。
「ハッ。」
鼻で笑いながらルタを振り払い、背を向けたまま離れる。
「悪いがその手の交渉は却下だ。好きでもない女を抱く趣味はないし、俺はもう色恋沙汰には身をおかない事にしてるんだ。」
「ええ、ええ、知ってますよ? 貴方が愛する人はこの世でただ一人。」
「・・・。」
「聖女セレス。」
「ッ!!!」
ルタの発した言葉と同時に俺は剣を抜き、切っ先をルタの眼球の数センチ先で止める。
「・・・一度目は許す。けど次にその名を口にすれば今度は殺す。」
「・・・。」
「・・・。」
『こいつはヤバイ』。
普通は剣を向けられたこいつが思うことなのだろうが、あろうことか、剣を向けた俺がそう思っているのだ。
何故なら普通の人間ならいざ知らず、多少斬り合いに慣れた奴でもいきなり目の前で剣を抜けば驚かずとも身構える物だ。
だと言うのにこいつは身動ぎひとつせず表情の変化はおろか、瞬きひとつしていない。
「わー怖い怖い。こんなものすぐに仕舞って下さいよ。」
「・・・。」
目がそう言ってねぇだろ。
「ちっ・・・。」
忌々しいが剣を鞘に戻す。
こいつの要求を飲んだ訳じゃない。
脅しが全く効かないからだ。
「それに、ただ貴方を監視する為だけじゃありません。」
「・・・なんだよ。」
「貴方のカウンセリングも兼ねてるんですよ。」
「カウンセリング・・・?」
「魔王との戦いで貴方は数々の辛い経験をしたはずです。歴史上でも戦いに精神を病んだ英雄が無法の輩に堕ちたと言う例があります。王は貴方にそうなって欲しくなくて私を寄越したのです。」
「それでカウンセリング? 悩み相談でもしてくれるのか?」
「そうですね、必要ならそれもしましょう。ですがそれだけじゃありません。」
「他に何があるんだよ。」
「貴方の為に暖かい料理を作り、貴方の為に服を縫ったり、必要なら貴方を抱き締め、慰めましょう。」
「ただのカウンセリングでなんでそこまでするんだよ。」
「貴方の『妹』だからです。」
「は?」
「家族として一緒に過ごせば貴方の苦しんでいる事も分かってきます、それを分かち合い、癒せればいつか貴方の奥底にある傷も癒せるはずです。」
「・・・それで隙あらばメロメロにして無力化してやろうと?」
「ええ、理解が早くて助かります。」
「・・・今更だけどこれ、本人の俺に話して良い内容じゃねぇよな?」
「隠してたってどうせ詮索してくるでしょう? だからこっちからバラしたんです。」
「ハッ、潔いことで・・・。」
「ふふ♪」
俺が皮肉を吐くとルタは先程の不適な笑みとは違う、無邪気な少女の笑みを浮かべる。
「けどその話は却下だ。」
「・・・はい?」
俺の返答が予想外なのか、ルタは表情こそ変えない物の、目を見開いて俺を見る。
「急に来て家族だ? 大きなお世話だ。別に今の生活に不満なんてないし、一人で暮らしてたってなんの不便もしてない。」
「・・・。」
やれやれとばかりに言葉を並べる俺をルタは黙ったまま真っ直ぐ俺を見ている。
「・・・チッ。」
バレてるな。
その射抜くような視線は明らかに俺を見透かしているものだった。
「もう、うんざりなんだ・・・家族だとか仲間だとか、そう言うのに関わるのは。」
「・・・。」
「どうせ知ってるんだろ? 俺があの戦いでどんな思いをしたか・・・。」
「ええ、ですが調べなくても今ではそこら中の吟遊詩人が唄っています。確か結末は英雄壇の最終章・・・。」
「・・・。」
ルタは目を閉じ、胸を手に当てる。
「聖女~にみ~ちびかれるせ~ん~し~♪ 魔王~の~し~ろの~前に~た~つ~♪」
「ッ!」
ルタが歌い出すと俺は耳を塞ぐ。
「城を~かけあ~がり~ 魔王の元へ~ 我ら~が~勇者ゆ~か~ん~♪」
「やめろ・・・!」
「しかし~て~魔王~は~ 凶なる力~♪」
俺の静止など無視して歌い続けるルタ。
「次つ~ぎに~散ってゆく~四人の勇者~♪」
「やめてくれ・・・!!」
「残さ~れた~希望~の~勇~者は~ 閃光~の剣で~ 魔王~を討つ♪」
「もういいやめろッ!!」
「最後~に~ 大地~に~立~ちし~勇者 栄えあ~る~その名~は~『英雄アルト』~♪」
「やめろおおおぉぉぉぉッ!!!!!」
後悔、怒り、恐怖、憎悪、嫌悪、悔恨、絶望、数えきれないほどのどす黒い物が混ざりあった感覚に俺は発狂して剣を抜き、ルタに向かって振り下ろす。
「ッ!」
だが間一髪で理性を取り戻し、寸前で止める。
「ハァッ・・・! ハァッ・・・!」
己の殺意を必死に抑え、今にも振り下ろしそうな剣を止めたまま息を切らす。
「・・・また失うのが怖いんですよね?」
「やめろ・・・それ以上言うな・・・言ったら俺はお前を・・・!」
「そんなに大事な物を作るのが怖いんですか?」
「やめろぉッ!! それ以上喋るなァッ!!」
「・・・。」
俺ががなり立てるとルタは何故か聞き分けよく口を閉じる。
「もう、誰かと・・・誰かの傍で生きるのは嫌なんだよッ!! ほっといてくれッ!!」
嫌な記憶で頭がいっぱいになり、震えと同時に涙が流れ出す。
「・・・。」
ルタはそれを静観するように眺めていた。
「出ていけ・・・早く出てけッ!! 俺がこの剣を抑えられてるうちにッ!!」
「分かりました。」
「!!?」
予想外の返答だった。
俺があっけにとられている内にルタは踵を返して家の出入り口の方を向く。
「分かりますよ? 今の私は、あなたの安息を脅かす『お邪魔虫』。自我を押し付けるのはカウンセリングとは言いません。」
「・・・?」
やけに聞き分けがいい。
けどそれが不気味でもある。
「・・・。」
ルタは出入口まで歩を進めるが突如止まる。
「最後だからいうんですけどね。」
「・・・あ?」
「私、戻ったら処刑されると思うんです。」
「は!?」
何を言い出すんだこいつは!?
「なんだよ・・・それ・・・!」
「私のこの任務。王が他国に黙って行っている密命なんです。」
「どういうことだ? なんでそれが処刑に繋がる・・・!」
「実を言うと貴方を戦力や力の象徴として手元に置きたがる国って結構いるんです。そう言った国からすればこのように貴方と密かに接触を図った行為は『抜け駆け』。当然怒る国もあればこれ幸いにと王の不祥事にかこつけて情勢を操作する対立国もいるでしょう。私はその『生きた証拠』、生かしておけば都合が悪いんです。」
「・・・!」
「だから、この任務を放棄して戻ったら証拠隠滅の為に消されると思います。」
「な・・・!」
あまりの急展開に言葉が出ない。
「ごめんなさい。同情させるとか、そんなつもりはないんです。ただ・・・。」
そう言ってルタは俯く。
「この世で誰かと話す・・・最後の機会だったから・・・。」
「!」
そう言ってルタは俺の方へ向き直る。
「さようなら、ひとりぼっちの英雄さん♪」
ルタは俺に優しく笑いかけた。
その表情はその年相応の顔ではなかった。
まるで世の中の闇を知り、疲れ切ってしまった悪い意味で大人びた笑みだった。
「今日私が此処に来たことは忘れてください。では・・・。」
そう言ってルタは踵を返し、今にも歩を進めたその時だった。
「・・・!」
数秒意識が途切れたような感覚だった。
気が付けば後ろの方で落ちた剣がカランと金属音を立てて倒れていた。
そして俺の右手はルタの左肩を掴んでいた。
「・・・なんですか?」
ルタは顔と肩だけ振り返り、冷めた目で俺の手を見て問いかけて来る。
「・・・!」
無意識の行動だった。
一瞬手を放そうと少し思ったが・・・。
「・・・ッ!」
すぐにルタの肩を握る。
「・・・ふざけんなよ?」
「何がですか?」
ルタは身体をこっちに向けて大人びた笑みで俺を見る。
その眼はまるで何もかも見透かされているかのような眼だ。
明らかにとぼけている。
「俺がこうするって分かって言っただろ・・・!」
「何のことですか?」
「ふざけんなッ!! 勝手に俺に関わって来て、そんで目の前で俺のせいにして死にに行く気かッ!! そうやって広げたばっかの俺の古傷に塩を塗ったつもりかッ!!」
「別にそんなつもりはありませんよ? 『赤の他人』の私が勝手に死にに行くだけです。」
「・・・!」
そうだ。
赤の他人・・・だったら俺の知った事じゃない!!
「ああ、そうかよ!」
ルタの肩を半ば突き飛ばすように放す。
「だったら死ね!! 勝手にくたばってろッ!!」
すぐに踵を返してルタに背を向ける。
「・・・ええ、そうします。」
背中から冷めたルタの声が聞こえるとゆっくりと足音が聞こえる。
立ち去るみたいだ。
だが―――。
「―――だから、なんですか?」
ルタが訝しげに問いかける。
「・・・!」
それもそのはずだ。
何故なら俺は既にルタの方を向いており、ルタの肩を掴んでいたからだ。
「どうして肩を掴むんですか?」
ルタは力の無い声で俺に問いかける。
だがその声は透き通るように俺の胸をすり抜けて行くような感じがした。
まるで胸の内を見透かされているかのように・・・。
「・・・ぐっ・・・!」
数秒瞼を泳がせた後に歯噛みしながら瞼を強く閉じる。
目の前にいる今日あったばかりの少女。
全くの『赤の他人』だ。
だが俺を知って俺と関わってしまった。
だからもう他人じゃない。
だから見捨てられない。
「・・・。」
ルタは無言で俺に微笑みかける。
分かっているからだ。
俺がこうしてしまう人間だってことが・・・。
「ふざけんな・・・!」
こいつは『脅迫』という物を心底理解している。
俺の心の奥底にあるものを理解し、それに直に脅しかけて行動を強制してくる。
それが出来るこいつの言葉に対し、俺に『ノー』と言う選択肢は無かった。
「畜生・・・!」
完全に詰みな状況に悔しくて拳を握る。
「・・・ああ、分かった、分かったよ・・・くそっ・・・!」
うんざりしながら俺はルタの両肩を掴む。
「否応なしにやらされてんのは分かったよ・・・けど勝手に死なれるとか目覚めの悪い事されるよりはマシだ・・・。」
震える手でルタの肩を握る。
「なってやるよ・・・!」
無意識に肩を握る手に力が入る。
「お前の兄だろうが何だろうがなってやるッ!! だから・・・だから簡単に死のうとすんじゃねぇッ!! もっと命を大事にしろッ!!」
「・・・優しいんですね。」
ルタは呆れたように力の抜けきった目で俺に向かって微笑む。
「う、うるせぇッ!! お前があんな脅迫してくるからだろッ!!」
「いいえ、貴方が優しいから『あんな脅迫』が効いたんです。」
「てめぇ・・・!」
明らかに相手の良心的な部分に付け込んだ悪質な脅しだ。
「でも、そうやって他人の命を庇える優しい人・・・。」
俺の手を払いのけて踵を返しながら言うとルタは再び振り返って笑みを向けて来た。
「私は好きですよ♪」
「は・・・?」
不意打ちだった。
先程の枯れ切った笑みとは違う、歯を見せ、無邪気で小悪魔のような少女の笑みだった。
不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
「では此処に宣言します。」
ルタは一歩下がってまるで舞台上の役者のようにスカートを左手で軽くつまみ、右手を横向きにしておなかに手を当ててお辞儀をする。
「これより、妹として・・・。」
「!?」
ルタは急に頭を上げて腰に手を当てながらどや顔で俺を指差す。
「世界を守る為にあなたをシスコンにします!!」
「言い方ァッ!! それ誤解されるからァッ!!」
俺のツッコミもお構い無しにルタは俺の胸に飛び込むように抱きつく。
「だからよろしくね、お兄ちゃん♪」
「まだやんのそのキャラッ!!!」
―――そして現在。
夕べのあの裏の顔なんて嘘のようにルタは朝食を子供みたいな顔でがっつくように食べている。
「・・・。」
いつまで観察してても仕方無いので俺もスープを口に運ぶ。
「・・・。」
ムカつくが旨い。
肉や野菜でしっかり出汁も取ってあり、味付けも辛すぎず丁度いい。
確かにこういう事をするために派遣されて来たと言うのも頷ける。
あ、そうだ。
「なぁ。」
「ん?」
俺が声をかけるとルタは目玉焼きを食べようとした手を止める。
「こうして形だけだが兄妹になった訳だけど。」
「うん。」
「ルール作らないか?」
「ルール? なになに?」
食い物から口を離して喰い気味に聞いてくるルタ。
「まずお前、俺を『アルト』って呼ぶの禁止な。今のこの街での俺は『ウルド』だ。」
「嫌なの?」
「ああ、俺にとっては捨てた過去だ。その代わり、お前の正体も周りには言わない。俺の妹だって言ってお前に口裏合わせる。」
「おお! 本格的に妹認定されたわけだね!」
ルタは目をキラキラさせて喜ぶ。
「・・・。」
やっぱ裏の顔見たあとだと無理があるなこのキャラ。
「じゃあ私からもいい?」
「なんだ?」
「んーとね・・・。」
ルタは立ち上がったかと思うと、近くのタンスの引き出しを開けて何かを取り出して持ってきて俺に手渡す。
「これ着けて!」
「なんだこれ・・・腕輪?」
ルタが持ってきたのは銀色のブレスレットだ。
「それにこれ・・・なんか魔力が漏れてないか?」
実際に見えているわけではないが確かにそれが分かる。
魔力は目に見えないが、視覚や聴覚とは違う第六感、『魔覚』で感じとる事が出来る。
人によっては鋭い、鈍感があり、俺は平均レベルだ。
この腕輪からは僅かだがまるで蝋燭の煙が一筋湧くかのように魔力が漏れ出ている感じだ。
「大丈夫! 呪いアイテムとか拘束具とかじゃないから!」
「・・・。」
怪しい。
超が付く程めちゃくちゃ怪しい。
「大丈夫だって安心してよ! ほら!」
ルタは左腕を見せる。
同じ腕輪がその腕についている。
「同じ物だよ! ね? なんとも無いでしょ?」
ただ形だけ似せた紛い物なら魔力の違いで一発バレだが、同じような魔力を感じる。
皮肉にも自分の魔覚で信じざるを得ない訳だ。
「はぁ・・・着けりゃいいんだろ?」
渋々腕輪を着ける。
着けているのを見せられているとはいえ、騙されてたらと少し怖かったがなんともなくて安心する。
「で、着けたからには教えろよ。これなんだ?」
「お守り!」
「お守り?」
「お兄ちゃんを守るための・・・。」
一瞬真顔になるルタ。
「・・・? なんだよそれ。」
「さぁて買い物買い物! 朝市の食材安いからね!」
ルタはまたもや急に立ち上がり走り去るように部屋を出ていく。
「あ、おい! つか金はどうすんだ!」
「大丈夫! ちゃんとお兄ちゃんの貯金箱から抜き取ったから♪」
「うおぉい! それ寧ろ大問題だろうが! 人の金勝手に使うなぁ!」
「いってきまーす! お兄ちゃんもお仕事頑張ってね♪」
捨て台詞のように言うだけ言って玄関のドアの閉まる音が聞こえてくる。
「・・・マジでなんなんだ。」
妹も腕輪も。