#19 デッド・ヒート・ラン
~ウルド 道中~
「うぅ~・・・。」
プロテアに向かい、ゆっくりと進む馬車の中でメロは頭を抱えて踞って唸っていた。
「どうした~?」
「早起き普段してないから頭ガンガンするとかじゃな~い?」
馬車の後ろの出入口に座り、のんびり外の景色を眺めながら俺とルタは棒読みで白々しく心にもない台詞を吐く。
「ある意味頭がガンガンするのです・・・!」
メロは親の仇でも見るような眼で俺達を睨む。
「そうかぁ、そりゃ良かったな~。」
「良い訳ないでしょッ!」
当たり前にキレたメロは四つん這いのまま俺の背中まで高速で這ってきた。
「大体どれだけ私の安眠妨害すれば気がすむのですかッ! 今朝のは百歩譲って私が起きるのが遅いとして、昨夜ベッドの上でアダルティーな光景見せつけて来たのは何処の誰ですかッ!」
「大きな声で言うんじゃねぇ! つかあれは一種の事故みたいな物で
「所でメロ。」
「なんですか?」
「今朝は変な寝言言ってたみたいだけど・・・。」
「ッ!」
ルタの質問にメロは顔を真っ赤にする。
「どんな夢見てたのかなぁ? んん?」
「そ、そそ、それは・・・夢だから覚えてないのです。」
メロは真っ赤な顔で視線を反らし、冷や汗を流しながら目をグルグルさせている。
分かりやすい。
「起こす直前だったのにぃ?」
「覚えてない物は仕方無いじゃないですか・・・。」
その顔とあの寝言じゃどんな夢見てたのか容易に想像着くけどな。
本来なら止めに入るが昨夜の事に話を戻されちゃ面倒だから他人のフリ~。
「うぉわッ!」
馬車が急に止まり、その拍子に中は大きく揺れ、危うく外に放り出されそうになる。
「うぎゅぅ・・・。」
「ちょ、何処触ってるのですかッ!」
ルタもメロに絡んでいたせいか、揺れのせいでこんがらがっていた。
その拍子にメロの小さな胸を鷲掴みにしていた。
「おい商人さん! 何してんだッ!」
馬車の前に出て商人に抗議する。
「・・・おい、アレ!」
「ん?」
商人が指差す方角を見ると何か群れのような物が空を飛びながら此方に向かっていた。
「望遠鏡、あるか?」
「あぁ。」
商人はもしもの時に持ってきていたのだろう。
近くの荷物から出して俺に渡す。
「鴉の群れ・・・。」
と思っていたが・・・。
「って訳でも無さそうだな。」
望遠鏡に写っていたのは飛竜の群れ・・・いや。
「騎竜兵・・・!」
飛竜の上にローブを纏った奴等がそれぞれ剣を持って飛んできている。
その数は二~三十程いる。
しかも望遠鏡越しだと言うのにしっかり此方と目が合っている。
どうやら通りすがりの方々では無さそうだな。
「此方に来てる!」
「そりゃマズイ! 迂回しよう!」
商人が手綱を握り直して馬を動かそうとしたが後ろから延びる手に止められる。
「ダメダメダメェ・・・迂回しても平野だよ? 逃げたって何処までも追ってくるから。」
ルタが後ろから場違いに笑いながら状況を分析する。
「・・・何か策があるような口振りだな。」
正直嫌な予感しかしない。
「うん、とりあえずどいて!」
商人を退かしてルタは手綱を握る。
「ハイヤァッ!」
ルタは手綱を振って馬を思いっきり走らせた。
~偽アルト ???~
「んぁ・・・?」
ゴトゴトと揺れる音と共に目が覚める。
「え・・・え・・・これどういうこと?」
どうやら大きな馬車らしき所で俺は荷台の中にいる。
いやそれは良いんだ。
それだけは・・・。
「なんじゃこれッ! なんで馬車の中で檻に入れられてんの!? しかもご丁寧に手足もしっかり枷で拘束しちゃってさ!」
「代わりに説明ご苦労。」
「あ! お前あん時の!」
あの時最後に見た黒い戦闘服の銀髪女だ!
胡座を書いて煙草を吸っていた。
ってかその短いスカートでそんな座り方したら見え・・・!
「見ての通りだ、お前を拉致させて貰った。」
「貰ったじゃないでしょ! 何してくれてんの!?」
「随分と肝っ玉が小さいな。本当にあの英雄なのか?」
「何ぃ!?」
こいつ、舐めやがって!
いや・・・舐めたいほどイイ身体しやがってッ!
目にもの見せてやる!
「英雄に随分な事をするなぁ、えぇ?」
「そうだな。」
「世界を救った英雄をこんな目に合わせれば世界を敵に回すぞ!」
「問題ない。手は用意している。」
「・・・。」
こんちくしょぉ!
淡々と返しやがって!
逆に俺が手の上で踊らされてるみたいじゃねぇか!
ってちょっと待て?
「なんだ? 手は用意しているって・・・。」
「お前だ。」
女は俺を指差す。
「俺?」
「英雄アルトを我が国の戦力に加えれば世界各国を黙らせる事は可能だ、そもそも最初からそれが目的だからな。」
「な、成る程・・・この英雄アルトの実力に惚れ込んで勧誘か、確かにそれは当然かもな!」
「ああ、我が国に着いた時には相応の仕事をして貰う。」
話が呑み込めた。
つまりは俺を・・・いや、英雄アルトの力が欲しくてこいつは俺を誘拐したわけだ。
これから英雄として大口の仕事がわんさか・・・!
「単独で竜退治、Aランク以上の魔物の大群・・・それから・・・。」
「・・・。」
いや無理ッ!!
確かに英雄アルトの名を使ってランクの高い仕事を工面して貰ったがそもそも俺はDランクでギリギリ単独で出来るCランクの依頼しかやってねぇ!
竜退治とか無理無理!
かくなる上は・・・!
「どうした?」
女は俺の様子を察してか身を乗り出して檻越しに俺の顔を覗き込む。
「すいまッせぇん!!」
拘束された足を上手く折り畳んで正座をして頭を深々下げる。
「なんだ?」
「俺は『英雄アルト』じゃないんですッ! ちょっと出来心と言うか、ちやほやされたくて名を語ってただけの偽物ですッ!」
「・・・ほぉ?」
女は立ち上がる。
「ハッ!」
馬鹿か俺はッ!
相手は勧誘しようとした奴を拉致するような奴たぞ!?
今のこの状況でそんな事言えば怒らせて・・・いや下手したら殺される・・・!
今からでも言うか!?
『なぁんちゃって』って!
いやかなり本気で謝ったから厳しい!
でもやるしかない!
さっきの謝罪を吹き飛ばすほど陽気に朗らかに・・・!
「イィッツジョォーk
「まぁ、この駄作を見た時から薄々勘づいてたがな。」
女は近くに掛けてあったある物を手にとって見せる。
「お、俺の『エクスデュラン』・・・!」
俺の言葉もお構い無しに女は剣を抜いて光っているのを俺に見せつけるように眺める。
「魔石でもない光る石を入れただけの、剣と呼ぶにもおこがましい飾り物・・・こんな物を掲げた奴が英雄アルトな訳ないだろ?」
「・・・。」
何もかもバレテェラ・・・あはは。
ってかさっきの勧誘って寧ろこいつの方が『イッツジョーク』じゃねぇか!
「まぁ、最初からお前を連れていくつもりなど無かった。」
「じゃあなんで!?」
「真似をするからには何かしらの情報を持っている可能性があるからな、それを聞き出そうと思っていた。何分情報によると奴は目立つことを嫌い、素顔の公表も拒否していたそうだからな。」
じゃあつまりあれか。
こいつには俺が街中であんなに目立ちまくってた時点で正体バレてた訳か。
これ寧ろ早めに謝って正解だったかも。
「さぁ話せ。今話せば命も取らずに逃がすと約束しよう。」
「って言っても・・・俺も吟遊詩人の歌を参考に想像でやってただけだし・・・。」
「そうか・・・じゃあ仕方無い。」
「あ、解放してくれる?」
「本国に連れ帰って拷問する。それでも情報が無ければ処刑する。」
ぎゃあああぁ!! 状況悪化したあああぁ!!
「いやいや本当に知らないんだってッ!!」
「知らないなら知らないなりに情報を吐け、奴の痕跡に繋がる何か有益な情報をな。」
「言ってることトップ・オブ・ザ・理不尽じゃないですかヤダァッ!!」
「死にたくないなら頭を全力で回転させて考えろ。お前が生き残るにはもうそれしかない。」
「ヒィッ!」
短剣を檻越しに突きつけられる。
檻が狭い上に手足も拘束されてるから投げられようものなら避けるのも防御も不可能だ!
しかも昨夜の事を考えるとこれどう考えても毒付いてるぞ!
ヤバイ、マジで殺される!
考えろ考えろ考えろ考えろッ!!
何か何か何か何か何かッ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!!
「そう言えば街中で妙な因縁を吹っ掛けられたッ!!」
「・・・それは情報か?」
「情報も情報、ベリー情報ッ!何せそいつは俺を一発で偽物だって見抜いてきた奴だ!」
「お前を偽物呼ばわり・・・そう言えば居たな、そんな奴が。」
女も現場を見ていたみたいだ。
「そう! あの青髪の冒険者見習いみたいなちっこい奴! あいつだ! きっとあいつ何か知ってる筈だ!」
「・・・。」
女は短剣を仕舞い、立ち上がると口に手を当てながら考え込む。
「・・・成る程、お前に聞くよりはかなり有意義かも知れない。確かに有益な情報だ。」
やったぜ!
「じ、じゃあ・・・!」
「あぁ。そうだったな。」
女は檻を・・・。
「え?」
外まで引き摺っている。
ちょっと待って?
俺の思ってる展開と違うってちょっと待っ
「じゃあな。」
女は俺を馬車の外のスレスレまで持っていくと檻ごと外に蹴り出しやがった!
「ぎゃあああぁ! 痛いッ! グヘッ! グフォッ!」
檻はゴロゴロと転げ、俺はその中で有りとあらゆる所を打ち付ける。
「サービスだ、お前の愛刀も返してやろう。」
そう言うと女は俺のエクスデュランを檻の近くまで放り投げる。
「おいッ! 話が違うぞッ!」
まだ声が聞こえる距離なので必死に女に抗議する。
「おかしな事を言うなお前は。『命を取らずに逃がす』、約束は違えてはいないぞ。」
「そうだけどッ!」
「心配するな、幸い此処は街からそれほど放れちゃいない。冒険者が来れば助けて貰えるだろう。じゃあな、精々祈れ。」
「ふざけんなぁぁッ!」
あの女許せねぇッ!
いつか逆の立場で思い知らせてやるッ!
具体的には縄で縛ってそれからあいつを
~ウルド 道中~
「やっぱこうなると思ってたんだよなぁチキショォッ!」
ルタの考えた作戦、それは・・・。
「この数相手に正面突破とか無茶苦茶なのですッ!」
平野を馬車が颯爽と駆けながら飛竜達が群がっている異様な光景。
それを俺とメロが馬車の上で魔法や矢で近付かせないように迎撃している。
「どうせ何処逃げたって追ってくるよ!だったら行きたい所に行けば良いじゃない!ね☆」
「『ね☆』じゃねぇ!闇雲に走ってるだけじゃねぇかッ!」
「闇雲? ノンノンそれは違うぜぇお兄ちゃぁん?」
「またキャラおかしいぞお前・・・。」
「もうすぐだよ!行きたい所!」
馬車はある所を目指して走っていた。
そこは・・・。
「ヲイ・・・。」
「なに? お兄ちゃん?」
「まさかあそこ通る気じゃねぇだろうな?」
「木だけに?」
そう、木だ。
それも大量の木の生えた『森の中』!
このバカは彼処を馬車で突っ込む気だ!
「ふざけんなッ!クソッ!」
今更騎手を変えても馬は言うことを聞かない!
「氷 剣 放ぐぇッ!?」
メロの首根っこを掴んで馬車の荷台に避難する。
「うおぅッ!」
「びゃあああぁッ!」
「ヒイィッ!」
森の中に入ると馬車は大地震でもあるのかってぐらいに揺れる。
メロは泣き叫び、商人は荷台の物置の柱にしがみついて情けない声を上げる。
「ハイヤァッ!」
ルタはそんな揺れも物ともしないのか、手綱を振って馬を走らせる。
馬車は何度もS字を描くようにジグザグに木々をすり抜けていく。
途中で馬も荷台も木に激突しないのが不思議なくらいに器用にすり抜けていく。
「奴等は・・・!」
荷台の後ろからどうにか外を見るとその効果は的中だった。
奴等は逆に大群で来たのが仇となり、木々を上手く避けきれずどんどん激突して墜落していく。
「はは・・・。」
こうして見ると間抜けな奴等だ。
「また会おう! 騎兵諸君ッ!ハーッハッハッハー!!」
ルタは何処ぞの怪盗にでもなった気で高らかに笑うが・・・。
「いけねっ! 出ちゃった!」
うっかり森の外に出てしまう。
やった・・・じゃない!
「マズい! メロ! 出るぞ!」
「うぐ、はいです・・・。」
追手を完全に振り切って居ないのでメロと一緒にまた馬車の上に登って迎撃に出る。
敵は三体、二十以上居たとは思えないほどの数だ。
「氷 剣 放出・・・氷弾!!」
メロが氷の弾丸を飛竜一体にに向かって放つと片方の翼に当たる。
するとその翼が瞬時に凍り、片方の翼しか動かせない飛竜は上手く飛べず、騎兵諸とも墜落する。
「よし!」
「うぐぅ・・・!」
「メロ?」
メロはその場に膝を突き、倒れそうになったのでなんとか支える。
「魔力の限界か・・・。」
さっきの迎撃で魔法を撃ちまくっていたから当然だ。
「まだ・・・私、やれるのです・・・!」
メロは強がるがとても動けそうじゃない。
魔力の使いすぎは精神に大きな負担をかける。
精神の疲弊は肉体に影響が出やすく酷いときはメロの様に立つことすら出来なくなる。
「無理すんな、あとは任せろ。」
メロをその場に寝かせると残りの二体に向かって拳弓銃を構える。
実を言うと俺も限界が近い。
矢の残りが今装填している三本だけしか無い。
外せても一発だけ・・・だが。
「落ちろッ!」
矢を放つと飛竜一体の首元に命中して撃墜する。
「もう一発ッ!」
更に撃つが・・・。
「うわっ!!」
馬車の車輪が石を踏んだようで大きく揺れる。
その揺れで照準が狂い、矢は騎兵の斜め上を通りすぎる。
その隙に飛竜は一気に距離を詰めてくる。
「くそ、当たれぇッ!」
今度は揺れでも大丈夫なように身体を低くして矢を放つ。
上手く当たった。
矢は飛竜の右目に命中し、飛竜は苦しみ悶えながら高度を落とす。
「やった・・・!」
と思った直後・・・。
「げっ!」
飛竜に乗っていた騎兵が飛竜を捨てて飛び上がり、剣を振り上げて此方に飛びかかってくる。
「ウオオオォォォッ!!」
「くっ!」
立ち上がり剣で応戦し、最初の一撃を止めるが捨て身で剣を振り下ろす騎兵の勢いに押しきられて後ろに倒れる。
「うああああぁぁッ!!」
マウントを取った騎兵は咆哮して俺に何度も剣を振り下ろす。
「くっ!うぅ・・・!」
剣で何度も防ぐが防戦一方だ。
「仲間がッ! 繋いでくれたッ! 好奇だッ! 思い知れッ!『大罪人』ッ!」
「ッ!」
こいつの声と形相で何やら背中にゾクッと来るものがあった。
この憎しみに満ちた顔は・・・。
『うわああああぁぁあああぁッ!!!』
あの時の俺そのものだった!
「あぁッ!うわあああぁッ!」
あまりの恐怖に叫び、目を瞑りそうになりながら何とか剣で応戦する。
だが状況は変わらない、このままだと・・・!
「ホァタァッ!」
「ッ!」
聞き覚えのあるふざけた声が聞こえると騎兵は右に吹き飛ばされ、馬車から落ちる。
どうやら蹴り飛ばされたようだ・・・誰が蹴ったかと言うと・・・。
「ルタ・・・お前、なんで?」
確か手綱握ってた筈じゃ・・・!
「商人さんに代わって貰ってる、危なかったねお兄ちゃん!」
「あ、あぁ。助かった。」
「それにしても何だったのかな、あいつら・・・。」
「あいつに組伏せられた時に顔が見えた。」
「顔?」
「あぁ・・・。」
奴の顔は肌が浅黒く、頬に刺青のような黒い曲線の模様があった。
「あいつら・・・『魔族』だ。」




