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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
道中編
18/101

#18 雨の荒れ地


~ウルド 路地裏~


「見てたのか・・・!」

「そうだよ? 目を覚ましてから宿にいなかったから探してたんだよ? もう心配で心配で・・・!」

 わざとらしくよよよと泣き出すルタ。

「・・・チッ。」

 ルタのくさい猿芝居に全てを察して呆れながら頭を掻く。

「ハァ・・・ちきしょう。狸寝入りかよ、うぜぇ・・・!」

「んふ、私を出し抜くなんて一億光年早いよお兄ちゃん?」

 先ほどのくさい嘘泣きから一変して得意気にルタは笑みを浮かべる。

「距離だろそりゃ! ったく、最初っから尾けてやがったな?」

「如何わしいお店に行くかと思ったら酒場に行くんだもん、案外つまんないねお兄ちゃんって!」

「悪かったなつまんなくて。」 

「『酒場の中に偽物がいた。』」

「!?」

 突然脈絡もなく図星を突かれて戸惑う俺を面白がってか、ルタはうすら笑みを浮かべる。

「で、『その偽物がなんか腹立つ事を言ったから宿に戻らずに荒れていた』・・・正解?」

「・・・正解だよ、馬鹿野郎。」

 つい昼間の出来事だ、そこから推測されたって何ら不思議な事じゃない。

「偽物が勝手に騒ぐのは大歓迎じゃなかったの?」

「俺の名前を勝手に使うのはいい・・・けどな。」

 真っ直ぐにルタの方を向く。

「『アルト』は英雄なんかじゃねぇッ! 寧ろ本物の英雄は死んでいった仲間達(あいつら)だッ! それをあの野郎・・・犬死にした雑魚みたいに言いやがって・・・!」

「なるほどね、あの偽物が魔王との戦いを知ったかぶって偉そうに語っちゃった訳か。そりゃ頭に来るよね。」

「お前に何が分かるッ!」

「うん、分からない!」

「ッ!?」

 なんだこいつ・・・!

 開き直りやがった!

「分からないから・・・。」

「!?」

 ルタはゆっくり歩いて近づくと俺を抱き締める。

「ごめん・・・私にはこうすることしか出来ない。」

「・・・ッ!」

 俺の怒りは収まらない。

 完全に火に油な行為だ。

 でも抵抗出来ない。

 拒めない。

 引き剥がそうとルタの背中の裾を引っ張ろうとするが手が止まる。

 不毛だからだ。

 あいつらを侮辱したのはあの偽物だ。

 ルタじゃない。

 こんな状況で関係ないルタに八つ当たりしたって何の意味もない。

「でもお兄ちゃん、一言だけ言わせて。」

「なんだ?」

「仲間のみんながそこまでして魔王を倒したんだから・・・お兄ちゃんが魔王になったら全部台無しになるんだよ?」

「!」

 そうだ。

 魔王の残党に魔王にされたら、あの時の戦いが無駄になる!

 それは絶対に駄目だ!

「だからみんなの為にも・・・今度こそ全部終わらせよ?」

「あぁ、分かってる・・・言われなくてもな。」

 ルタは離れる。

「さ、宿に戻ろ!」

 ルタは優しげににかっと笑って手を差し出す。

「・・・おぅ。」

 素直にその手を取るとルタに手を引かれながら宿に戻った。



 部屋に戻り、さて寝ようかとベッドに向かうが。

「お兄ちゃん。」

「ん? なんだ?」

 ルタに止められる。

「手。」

「え?あぁ。」

 すっかり忘れていた。

 さっき壁を殴りすぎて手の甲の指の付け根が血だらけだった。

「こんな事もあろうかと・・・。」

 ルタは荷物をごそごそと漁ると得意気に包帯と消毒薬を取り出す。

「へへ♪」

「・・・ホント抜け目ないな。」

「本来は戦いとかの怪我用に買っといた奴だよ?」

「そうかよ。」

 言いながら貰おうとして手を伸ばすがルタは包帯を引っ込める。

「・・・なんだよ。」

「治療は私がやるの!」

「自分でやるから良いって!」

「レレさん。」

「う゛・・・!」



『ウルドは妹さんの看病を甘んじて受けること!』



 レレの言葉を思い出す。

「あの条約まだ続いてたのか。」

「当然!」

「汚ねぇ・・・。」

「さ、ほら座って座って! 着座(シット)着座(シット)!」

 ルタは自分の寝ていたベッドに座って向かいの俺のベッドに座れとばかりにボフボフと叩く。

「犬じゃねぇ! ったく。」

 渋々隣に座る。

「痛てっ・・・!」

 早速消毒薬を傷口に塗られて染みる激痛に声を上げる。

「ほら我慢我慢!男の子なんだから!」

「お母さんか!」

「ノンノン、妹です!」

「前にもこのやり取りやってなかったか?」

「そうだっけ?」

 話してる最中に右手に包帯を巻き終え、左手を差し出す。

「んっ・・・!」

 今度は消毒薬を塗られても声を上げずに我慢する。

「・・・。」

 ルタは突然手を止める。

「ルタ? ひぃッ!」

 どうしたのか聞こうとするといきなり塗るのを再開するがまた手を止める。

「ひゃぃ・・・!んぃっ・・・!」

 妙だ、さっきより薬を塗るペースが遅い。

 しかも俺が痛みに声を上げるように絶妙な間を開けてくる。

「てめ・・・ぎぃ・・・!」

 さては遊んでやがるな!?

「いい加減に・・・うぉ!?」

 文句を言おうとしたら何故か押し倒される。

「・・・何の真似だ?」

「ねぇお兄ちゃん・・・。」

「あ?」

「『お医者さんごっこ』・・・する?」

「は?」

「勿論・・・。」

 ルタは俺の上着のホックを外し、下着(インナー)の裾をめくり上げて素肌を晒す。

()()()の方の・・・。」

「は!?おい待て、どういうつもりだ!」

「だって・・・痛いの我慢してるお兄ちゃん可愛くて・・・。」

 言いながらルタは馬乗りになる。

「虐めたくなっちゃった♪」

「じ、冗談だろ?おい!」

 言ったはいいがとても冗談には見えない。

 頬を赤く染め、嬉しそうに楽しそうにペロリと舌舐めずりして見下ろすその目は明らかに愛玩(ペット)を見る目だ。

 今まで俺をからかおうとしてたこいつとは明らかに目が違う!

 ヤバイ・・・!

 完全にスイッチ入ってらっしゃるッ!

「やめろって!」

「患者さぁん、痛いところは此処ですかぁ?」

 ルタは俺のお腹をねっとりといやらしく(さす)るとそのまま舌を出して近づける。

「くぅ・・・!」

 まさにヤバイと思った瞬間、俺の脳が本能的に高速回転する。


 強引に引き剥がすか!?

 いやこいつは色々隠した能力がある、勝率は曖昧だ!

 こいつからやめさせるようにした方が確実かもしれない!

 だが何を言う!?

 ルタを止める言葉、何か誓約的な言葉ならこいつは裏側の人間だ、聞きそうだ!

 誓約的な言葉・・・そうだこれなら・・・!


[この間僅か0,1秒]


「『看病中の悪ふざけ禁止』ッ!」

「ッ!」

 ルタは舌を止める。

 間一髪、ルタの舌は俺の身体に触れる一歩手前だった。

「・・・だったよな?」

 冷や汗を流しながら不敵に笑う。

 レレが俺達に言い渡したもう一つの条約だ。

 ルタは恨めしそうに俺を見上げる。

「お兄ちゃん・・・ズルい。」

「お前が言うな。」

 何はともあれこれで試合終了。

 最悪の事態は避けられ

「んん、さっきからうるさいのです・・・なんなのです・・・か?」

 メロが眠気眼で仕切りのカーテンを開けるが、目の前の現場に硬直する。

「「あ・・・。」」

 途中で止めたとはいえ現場は元に戻っておらず、俺がルタに押し倒され、服も若干脱がされ今にも襲われそうになっていた状態のままだ。

「師匠・・・何してるのですか・・・!」

 メロが顔を赤くしてわなわなと震える。

「ち、違う!誤解だ!」

 誤解じゃないけど誤解だ!

「そう! 途中で止めた! ノーカウント! ノーカン! ノーカン!」

 ルタも必死に弁解する。

 いやお前はほぼ弁解の余地ないけどな?

「嫌あああぁッ! 師匠の破廉恥いぃぃッ!!」

「誤解だあああぁッ!!」

 この後、なんとか誤解は解けたがこの叫びが元で宿の他の客も起きてしまい、俺達全員宿の店主にこっ酷く叱られた。



~偽アルト デミオの街~


「また来るぜぃ! 子猫ちゃん達ぃ!」

 酒も飲んで女の子とワイワイ騒いで気分よく店を出る。

 やっぱり英雄の名ってすげぇ。

 田舎でうだつの上がらなかったあの時とは大違い!

 英雄の名前だけでギルドも色々融通効かせてくれてやりたい依頼も取れるから金には困らないし、何より女が寄って来るのが気分が良い!

 まさに薔薇色!

 ビバ英雄ライフってな!

「へへへ!」

 剣を抜いて掲げる。

 すると桜光石が空気に反応して剣を七色に光らせる。

 冒険者になる前に実家の親父が無理矢理家の鍛冶屋を継がせようとした時に叩き込まれた技術の賜物よ。

 この『エクスデュラン』はまさに名声を運んでくれる家宝だ。

 いや、もう家を飛び出してから二十年以上にもなるから()宝もへったくれもないな。

 これは俺だけの宝物だ。

 実家には絶対にあげませ~んってな!

「それが噂に聞く『閃光の(つるぎ)』か?」

「お?」

 つい間抜けな声を出しそうになったがいかんな。

 今のは女の声、ならば・・・!

「この英雄アルトに何かご用かな子猫ちゃん?」

 最高にイカすポーズで声のする方に振り向くが・・・。

「あれ?」

 声のする方には誰も居ない。

「ぶきッ!?」

 背中から何かを刺された!?

 そんな馬鹿な!

 俺の前には誰も居なかったのに声のする後ろには誰も居なくて振り向くと後ろから刺されたって、自分でも何言ってるか分からねぇ!

 っておいなんかおかしいぞん?

 意識が朦朧としてきて・・・!

「ふふぇあ・・・!」

 その場に倒れる。

 するとコツコツと石造りの道路に響く固い靴音が近づいてきて音の主が俺の前に止まる。

「悪いが一緒に来てもらうぞ。」

「・・・!」

 朦朧とする意識の中、その女を見上げる。

 その女は身体のラインが分かるほど薄地の黒い戦闘服を着ていた。

「英雄アルト。」

 その銀色の長髪と合わせると艶やかで美しい女だった。



~ウルド ???~


 俺は古い城の中にいた。

 歪な紫色の霧の立ち込める暗い城だ。

「またこの場所かよ・・・!」

 これは夢だ。

 それが分かるほど何度も見た夢だ。

『どうして・・・。』

「ッ!」

 耳を塞ぐ。

『どうして助けてくれなかったの?』

「やめろ・・・!」

 耳を塞いでも頭に直接響いてくる。

『なんで俺達だけ・・・!』

「もうやめてくれ・・・!」

 俺の前後左右の地面から這い出るように四つの人影が現れる。

 背後からは上半身のみの人影。

 右からは左腕が付け根の先の胸元まで無い人影。

 左からは焦げ臭い匂いに身体の地肌が剥がれ、骨まで露出した人影。

 正面からは枯れ木のように痩せ細った人影が真っ直ぐに俺を見る。

『ねぇ・・・。』

 正面の人影はゆっくり歩いてきて俺の胸に手を当てる。

『なんで君だけ生きてるのかな?』

「やめろオオオォ!!」

 目を閉じて耳を塞いで叫ぶ。

「『解錠(アンロック)』ッ!」

 精神の奥底にある『魔導の扉』に命令をすると俺の意識は急に途切れる。



―――


「また来たのか。」

 声がして目を開けると俺は馬に乗っていた。

 身体を大きな布切れで覆っていた。

 雨が降っていたからだ。

 それも生易しい物じゃない。

 雷が鳴るほどの激しい雨だ。

 馬は雨の中をゆっくりと歩いている。

 そして声の主は俺の前に乗って馬の手綱を取っていた。

 金色の龍を象ったような立派な鎧に身を包んだ歴戦の勇士のような姿だ。

「此処は『逃げ場』じゃないんだぞ?王よ。」

 そいつは振り向く。

 鎧に違わず龍の様な凄みのある兜を被っており、顔は見えない。

「・・・すまん、ジャッジ。」

「フン・・・。」

 ジャッジと呼ばれたその男は踵を返し、再び前を向く。

「・・・。」

 後ろを振り向くと同じように馬に乗った者や徒歩の者もいた。

 全員雨風を防ぐために薄暗い色のローブを身に纏っている。

 その数は物凄い数で、俺のいる所からだと向こうの端が見えないほどだ。

 皆この雷雨の荒れ地を歩き続けている。

 此処は『魔導の扉』の向こう側の世界。

 簡単に言えば俺の『精神世界』だ。

 魔法の最奥、『深淵魔法』を修得する過程で出入りが可能になったのだ。

 そして彼等はこの精神世界の住人、云わば全てが俺の心の一部の存在だ。

 いつもあの悪夢を見ると魔導の扉を開いてこの精神世界に逃げ込む。

 だが先程ジャッジが言っていたように此処は逃げる場所ではない。

 寧ろ立ち向かわなければならない場所だ。

 俺は彼等の集合体。

 彼等が全て集束して俺。

 俺は彼等を統べる存在。

 だからこそジャッジは、いや彼等は俺を『王』と呼んでいる。

 俺は彼等を導かなければならない立場なのだ。

「お前達には迷惑かけてばかりだな。」

 そう、この場所では最も責任のある立場でありながらあの悪夢から逃げる為にこの場所を使っている。

 そんな俺は最低の卑怯者だ。

 夢と分かっていながら覚めることの出来ない悪夢。

 あの悪夢の声を遮ってくれるからだ。

「もう慣れた。」

 ジャッジは淡々と返事を返す。

 きっと呆れているんだろう。

「あの悪夢を見なくなれば俺達はたどり着けるって信じてるからだ・・・皆。」

「・・・。」

「だから歩き続けている。」

 彼等が歩き続けているのには理由がある。

 目指している場所があるからだ。

「あの雨雲を過ぎた・・・青空を見る為に。」

 俺は自分に言い聞かせる様に言った。

 この雨の降り続ける荒れ地。

 これも俺の精神が作り出した場所だ。

 つまり俺の心の中には雨が降り続けている。

 だから彼等がいくら歩いた所で不毛なのだろう。

 だが彼等は歩くのを止めない。

 俺に体現して見せているからだ。

『止まらなければいつかたどり着ける』と。

 だからこそ俺も進み続けなければならない。

 この雨を越える為に。

「もうすぐ夜が明ける。」

「あぁ、すまなかった。俺も頑張るから、もうしばらく耐えてくれ・・・みんな。」

「あぁ。」

 ジャッジの短い返事を聞くと俺は目を閉じた。


―――


「・・・。」

 目を明ける。

 宿の中で俺は目を覚ました。

 朝が早いせいか日は登りきっておらず、薄暗い。

「朝だぞーお兄ちゃん!」

 ルタは元気よく仕切りのカーテンを明ける。

「もう起きてるよ。」

「あらら残念。」

 何が残念なのやら。

「で、こっちは?」

 メロの仕切りのカーテンを開けるが・・・。

「うーん、師匠・・・むにゃむにゃ・・・。」

「・・・。」

 まだ寝てた。

 つか、なんで夢の中に俺が出てくるんだこいつ・・・。

「ダメです師匠・・・私・・・弟子なのです・・・。」

 夢の中の俺は一体何をしてるんだ?

「師匠の・・・変態・・・むにゃむにゃ・・・。」

 ほうほうそうかそうか。

 つまり夢の中で俺はこいつに如何わしい事をしているわけか。

 なるほどなるほど。

(だぁれ)がお前みたいなアホに手ぇ出すか・・・!」

「ちんちくりんの分際でお兄ちゃんにあーんなことやこーんなことされる夢を見るなんて・・・許せん。」

「・・・。」

 いやお前は実際にやろうとした前科あるからな?昨晩。

 ・・・とりあえず。

「「・・・(コクリ)。」」

 俺とルタはお互いにアイコンタクトを取って頷くとメロに近づき、左右を陣取って片手をわきわきさせながら構えると、そのままメロに向かって獣の鉤爪のように突き出す。



「「起きろォ!!」」

「ニャ゛ア゛ア゛ア゛アァッ!!」



 世にも恐ろしい方法でメロを起こした。

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