#17 偽英雄
~??? 路地裏~
「思ったより早かったな・・・。」
薄汚れた建物の壁を背に呟く。
奴が王都に向かっていると言う情報があったのでこの街で張っていれば必ず来ると思っていた。
「英雄・・・アルト。」
~ウルド デミオの街~
日が一番昇る昼過ぎ頃、ヨグ村の北西に位置する街、デミオに着いた。
カザよりも大きな街で、中々に人混みも多く活気のある街だ。
「意外と距離あったな。歩きだとしんどいなぁ・・・。」
「疲れた~、お兄ちゃんおんぶして~!」
「誰がするか!」
「師匠~、お腹空いたのです~。」
「もうちょっと我慢し
ぐぅ~~
「う゛・・・!」
腹の虫が鳴っちまった。
「師匠~。」
「お兄ちゃ~ん。」
服を引っ張りながらせがむルタとメロ。
「・・・。」
異論の余地ナシ・・・だな。
「ハァ・・・分かったよ、取り合えず飯だな。」
仕方無く飯屋を探しに歩き出すと・・・。
「キャアァ!『英雄アルト』よ!」
「ッ!?」
え!
街に入って即バレ!?
「キャアァ!」
「?」
丁度右後ろにいた若い女達は何故か俺の横を素通りしていく。
「なんだ一体?」
どうやら俺の事じゃないらしいが・・・。
「英雄アルト? 師匠なら此処に・・・。」
「だぁから違うっての!まぁともかく、どんな奴かは気になるな。」
どんな偽物かだけど。
「あっちだね、行ってみよ!」
ルタが指差す方へ行ってみると人だかりが出来ていた。
人混みの隙間を縫って覗いてみる。
「そう・・・俺が・・・『英雄アルト』だぁ!」
「・・・。」
居丈高にポーズを決めながら天を指差すその男は、金ぴかの鎧にサングラスをかけたくしゃくしゃロン毛の・・・ブ男だッ!
『おいルタ。』
『オーケーお兄ちゃん、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか。』
メロに聞かれちゃ不味い内容なので念話でルタと話す。
『あ・れ・は・ねぇッ! ねぇよッ! バカにしてんのか!』
『うん、あれはナイナイ・・・。』「ぷぷ・・・。」
『笑ってんじゃねぇッ!』
『笑ってない笑ってない!』
大体なんだあの鎧!
肩とか胸元ちょっと開けてヘソチラまでしてセクシー感出てるけど体型が小太りなのが還ってイラつくんだよぉ!
「おっとまた名乗っちまった・・・つい!婦女の声に押されて!」
ブ男はまたポーズを決めてカッコつける。
如何にも『俺カッコいいぜ』ってばっかりに髪を靡かせるように揺れる動きとかマジで腹立つ!
その顔でやるなその顔でッ!
『大体二枚目とかが見た目に自信持ってやるならまだ分かるよ!? あんなブ男が俺とかバカにしてるの通り越して虐めレベルだぞ!?』
『本人的には自信があったんじゃない?』
『しかも顔のパーツと言い格好と言い、何一つ似てるとこねぇしッ!』
『そこはまぁ・・・うん。』
『せめて何かフォローしてくれ・・・。』
『だって・・・ねぇ?』
どうやらフォローのしようが無いみたいだ。
『あいつマジでドブに足突っ込んで転けねぇかな・・・。』
『それにしても羨ましいんじゃない?』
『何が?』
『ほら。』
「キャアァ!アルト様ァ!」
数人の若い女がブ男の腕に抱きつく。
いやいや嘘だろ!?
ブ男だぞブ男!!
お前ら目ぇ大丈夫か!?
「鎧セクシー!」
「サングラスイカスゥ!」
「顔・・・金鎧カッコいい!」
あ、顔には触れない。
意外と目はまともだったわ。
「よしよし、全く堪え性のない子猫ちゃん達だなぁ。」
やかましい!
お前のその顔と腹で言える台詞じゃねぇだろッ!
鏡見て出直してこいッ!!
「ぷくくくく・・・・!」
『やっぱり笑ってんじゃねぇかッ!』
『ごめんって! でもスゴいよね、『英雄アルト』って名前だけでもあれだけの力があるんだもん。お兄ちゃん本来モテモテだった訳じゃん! それをあんな面白ブ男に・・・。』
『別に羨ましくねぇし。』
『あれれ? 強がり?』
『違ぇよ! 寧ろあんなちやほやされるの嫌でカザに逃げたんだからな!』
『まぁそれを言われると何も言えないんだけどさ。』
『名声とかも興味ねぇし、あんなバカが身代りになってくれるなら願ったり叶ったりだ。』
『ほうほう、有名人が騒がれ過ぎて寧ろ静かな暮らしがしたくなっちゃったパティーンですにゃぁ?』
『何キャラだお前のそれは・・・ってちょっと待て。メロの奴何処行った?』
『あれ? そう言えばいつの間にかどっかに・・・。』
『ん? おいあれ・・・!』
『お?』
メロがいた。
何処かって?
そりゃお前あのブ男の前・・・っておいッ!
不味い不味い不味い!
強ォォ烈に嫌な予感がするッ!
「なんだいお嬢ちゃん。君も混ざりに来たのかい?」
ブ男が話しかけるとメロは真っ直ぐにブ男を指差す。
「このニセモノッ! 英雄アルトの名を語るなど不届き千万なのですッ!」
やっぱり言いやがったあの馬鹿野郎オオオオォ!!
「ニセモノ? 俺がかぁ?」
メロの言葉に人だかりの奴等はざわつきだす。
「そうなのです! お前みたいなデブ男の癖にセクシーイケメンぶってる奴が英雄アルトな訳ないのですッ!」
それには大いに同意。
「何を根拠に言ってるんだい?」
「それは・・・。」
「偽物である証拠は?」
「うぐ・・・!」
メロが劣勢のようだ。
「因みに俺にはッ! 英雄アルトである証拠があるッ!」
ブ男がまぁたカッコつけたポーズをしながらメロを指差す。
「な、何なのですかッ!」
「ふっふっふ・・・これだぁ!」
そう言うとブ男は背中の鞘から何やら派手な装飾の剣を抜いて掲げる。
すると剣が光り出す。
「この剣こそがかの魔王を打ち倒した『閃光の剣』、語られる事のなかったこの剣の名は『エクスデュラン』だっ!」
すいません・・・本物の『閃光の剣』は田舎の武器屋のおっちゃんが作った二束三文の短刀です・・・。
『あの剣、中に『桜光石』が入ってるね。』
『ああ。ちゃちなカッコつけ武器だな。』
『桜光石』、北国の鉱山で取れる鉱石で、空気に触れると反応して光を放つ石だ。
恐らくは剣に小さな穴でも開けて置いて特殊な加工で真空状態にした鞘から抜いた時に空気に触れさせて光らせているんだろう。
『・・・それにしても。』
光は青や赤や紫など光は虹のように色鮮やかだ。
『盛りすぎだろ。』
『色んな色の奴使ってるね。』
『『閃光』があんな七色であってたまるか。』
「これで分かっただろう?俺こそが英雄アルトだッ!」
ブ男は剣を掲げてここ一番とばかりにポーズを決める。
「そんな剣インチキなのですッ!」
剣のからくりを理解しているようでメロは食って掛かる。
「そんな下らない小細工で光らせているだけの剣が閃光の剣な訳がないのですッ! 師匠の剣はムグッ!?」
「あーすまんな!連れが粗相をしちまったみたいだな!」
メロがこれ以上何か言う前に人混みを抜けて口を押さえて黙らせる。
「ん? その子の連れかい?」
「師匠!?」
「あぁ、こいつ時々イタズラで人前でバカな事言うからやめろって言ってんだけど聞かなくてな!」
「ウグゥ! ムグゥ!」
俺の弁解にメロは納得いかず呻き声を上げて暴れるが強引に押さえ込む。
「全く気をつけてくれよ~? つまらない誤解で俺の名に傷がついたら嫌だからな!」
「お前が傷つけてんだよ・・・。」
相手に聞こえないように小声で言った。
「あ?何?なんて?」
ブ男はなんか気持ち悪い動きで聞き返す。
「別に、何でもねぇよ!冒険頑張ってくれ!英雄アルト!」
メロを押さえつける手とは正反対の笑顔で激励する。
「おう!任しとけ!」
ブ男は胸に手を当ててポーズを決める。
「ウグゥウゥムガァッ!」
暴れるメロを引きずって人混みを抜けていった。
~??? 海辺の修道院~
「シスター!」
「あら。」
裁縫をしていると後ろから声を掛けられ、振り向くと小さな子供が三人笑顔で立っていた。
「どうしたの?」
「お花摘んできたの!」
子供のうちの一人の女の子が花を数本私の前に差し出す。
「あらまぁ、ありがとう! でもどうしたの?今日に限って。」
「お礼!」
「お礼?」
「うん! いつもご飯作ってくれたり怪我したら手当てしてくれるから!」
「まぁまぁ、そんな大した事してないわよ。」
「じゃあお花受け取ってくれないの?」
「ううん、嬉しいわ。ありがとう!」
花を有り難く受け取る。
「この花、山まで取りに行ったの?」
「うん! シスターに喜んで欲しくて見たことない花いっぱい探したの!」
「あらあら、ありがとう!でもね・・・。」
子供達を優しく抱き締める。
「修道院からあまり離れちゃダメよ? 山には怖い魔物もいるから、貴方達に何かあったら私は悲しいわ。」
「シスター・・・。」
「僕達が山に行ったの嫌だった?」
「ううん。皆が私の為にしてくれたことは嬉しいわ、でも私が一番嬉しいのは皆がいつまでも元気でいてくれる事だから。」
「うん。」
「お花ありがとう。何処かに飾っておくから。」
「うん!」
子供達から手を放す。
「さぁ、まだご飯まで時間があるから浜辺で遊んで来なさい。」
「うん!」
子供達は元気に部屋を出ていった。
「・・・。」
花を眺めながら物思いに老ける。
海辺の誰も住まなくなった廃家を頑張って修道院にしてから十年以上たつ。
今では捨てられたり親を亡くした子供達の第二の故郷とも言えるほどになった。
これほど嬉しいことはない。
「・・・。」
しかし私には子供達に愛される資格などない。
私は・・・。
~メロ 定食屋~
「ハグ・・・ムグ・・・!」
街中の定食屋でがっつく様に焼き飯を食べていた。
「・・・よく食うなぁ。」
師匠はスプーンを手に持たずにくわえながら頬杖をついて私の様子を見ていた。
「成長期か?」
「違うのですッ! ・・・ムグ、これは、やけ食いなのですッ!」
師匠の失礼な発言に牙を向きつつも食べる。
「ぷぷ、自分でやけ食いとか言う奴初めて見た。」
「黙るのです貧乳!」
「あ゛ぁ!?」
「ストップ・ザ・お前ら。」
失礼な貧乳に食って掛かると師匠に止められる。
「ハァ・・・お前さっき俺がお前用にお子様ランチ頼もうとしたのまだ怒ってんのか?」
「そっちじゃないのですッ!」
って言うかそれも頭に来るけど!
「師匠は悔しく無いのですか!?」
スプーンを師匠に向けながら抗議する。
「何が?」
「師匠のニセモノが出たのですよッ!? しかもあんな如何にも三流な奴に真似されてバカにしてるのにも程があるのですッ!」
「英雄アルトの偽物だろ! 俺には関係ねぇ!」
「またそうやって誤魔化す!」
「誤魔化してねぇ!」
いつも師匠はこの調子だ!
此処まで私が核心に近づいているのにあくまで自分がアルトじゃないって言い張っている!
「それにしてもだ、お前よくすぐに分かったよな。」
「何がです?」
「アイツの剣がインチキだってことだよ。」
「当然なのです!あのニセモノが持ってた剣、明らかに桜光石を使ってたのです!」
「それがすぐ分かるって事は故郷は北国かな?」
ルタが鋭く突っ込んでくる。
「気に入らないけど間違ってないのです。私の故郷は『タリスベルト』なのです。」
「タリスベルトか、彼処は魔物がかなり強い所だな。」
「はいです。極寒に耐えられる様に進化した屈強な魔物揃いなのです!でも父と母はその魔物達にも比毛を取らない強さで私の自慢・・・!」
言った途端に父と母の事を思い出した。
「・・・でした。」
「あ・・・。」
言葉に勢いが無くなった私を察して師匠は『しまった』とばかりにくわえていたスプーンを落とす。
数秒ほど居たたまれない空気が続く。
「ハイハイ暗い話はナシナシ!」
「!」
ルタがパンと手を叩いて空気を入れ替える。
「さっさと食べちゃお! ご飯覚めちゃうから!」
「お、おぅ・・・。」
「そ、そうですね。」
食事を再開した。
~ウルド デミオの街~
今はすっかり夜だ。
街で情報を集めた所、明日の朝に商人が仕入れのためにプロテアに向かって馬車を出すと言う話を聞き、その商人に馬車に乗せてくれないか交渉すると道中の護衛を条件に快諾してくれた。
と言うわけでそれまでやることも無いので軽く食料やその他消耗品を買って宿を取った。
「・・・。」
宿の中で皆眠っていたが俺は目を覚ます。
「くぅ・・・くぅ・・・。」
「スゥ・・・スゥ・・・。」
「・・・よし。」
部屋の仕切りから聞こえる寝息から眠っていることを確認して上着を着て部屋を出てそのまま宿を出る。
目的地は酒場だ。
別に酒が飲みたい訳じゃない。
「・・・。」
丁度明かりが灯っていた『サラマンダー』と看板が掛かった店に入る。
店に入ると辺りを見渡す。
陰気臭い男や頭の悪そうなおっさんが派手目の女を横につけて駄弁っていた。
「ゲハハハハ!」
「・・・!」
聞き覚えのある声で下品に笑うのが聞こえる方を向くと、奴がいた。
昼間のブ男、偽アルトだ。
女を数人囲わせて酒を片手に騒いでいた。
思った通りの行動だな。
「・・・。」
バーテンダーの真ん前のカウンター席に座る。
「注文は?」
「一番安い酒をコップで一杯。」
「あいよ。」
注文するとバーテンダーはすぐに瓶からコップに酒を入れて目の前に出す。
「・・・。」
ほんの少し酒を口に入れながら偽アルトを見る。
「魔物も悪い奴も俺の『エクスデュラン』でバッタバッタよ!何せ俺は、英雄!アルトだからな!」
昼間の痛々しいカッコつけポーズをまたやっている。
「キャァ! 頼もしー!」
何も知らない女共は一緒に騒いで偽アルトの腕に抱きつく。
「ねぇねぇ! 魔王を倒した時の話聞かせて!」
「おぅおぅ仕方のない子猫ちゃんだ。特別に話してやろう!」
すると偽アルトはどかっと前屈みに座り込む。
「毒の霧に覆われた魔王の国、彼処には聖女の加護を受けた俺達だからこそ入れたんだ。」
「うんうん!」
「それでそれで?」
「そこには魔王と何百の魔物が居たんだ!俺達は必死に戦って魔王の元までたどり着いたが魔王の強烈な魔法で仲間は簡単にやられちまった。」
偽アルトは項垂れる。
「だが!」
直ぐ様立ち上がって剣を鞘に納めたまま掲げる。
「俺のこのエクスデュランは魔王の力と相反する強烈な力があったためにそれを防いだ!」
「すごぉい!」
「そして魔法が効かなかった事に狼狽えた魔王に俺は剣を突きだして魔王の心臓に一刺し! 一撃の元に葬りさったのだ!」
「キャァ! カッコいい!」
女が偽アルトに抱きついて頬擦りする。
「ッ!」
話を聞くと堪らず俺は酒を一気に飲み干して代金を乱暴にカウンターに置く。
「お、お客さん!?」
目の前にいたバーテンダーは突然の事に狼狽える。
「・・・。」
走って出たい衝動を押さえながら店を出る。
偽アルトはそんな俺の様子に気づきもせずに女共と盛り上がっていた。
宿まで歩いて戻ったが宿を通りすぎる。
俺が向かった先は人気のない路地裏だ。
人目につかない所まで入っていくと・・・。
「クソがッ!」
壁を拳で思いっきり殴る。
『魔王に俺は剣を突きだして魔王の心臓に一刺し! 一撃の元に葬りさったのだ!』
「ざけんなッ!」
壁をまた殴る。
奴は知らない。
魔王がどれだけしぶとく、俺達がどれだけ苦労して倒したのかも。
『魔王の強烈な魔法で仲間は簡単にやられちまった。』
「アアアァッ!」
声を上げて壁を殴り続ける。
拳からは血が出ている。
だがそんなことは関係ない。
あの言葉だけは許せなかった。
俺の仲間を、家族とも友人とも言えるほどの苦楽を共にしたあいつらを侮辱したあの言葉は許せなかった。
簡単にやられただって?
冗談じゃない!
あいつらは魔王に負けずしぶとく戦ったんだ!
自分だけの力で魔王を倒したみたいに言いやがって!
寧ろあの戦いはあいつらが魔王を瀕死まで追い込んだから倒せたんだ!
それをただの引き立て役みたいに言いやがって・・・!
「こんなところでやけ酒煽って暴れてるのはだ~れっかな?」
「!?」
振り返るとそこには・・・。
「ルタ・・・!」
「にひっ♪」
月明かりの下でルタは無邪気に笑っていた。




