#15 鴉と猫
~ウルド ヨグ村~
結局一番危ない奴を逃がしてしまった訳だが当初の目的だった『村娘の救出』、ついでに『山賊の壊滅』も出来て村にとっては一件落着だ。
「うん、旨い!」
魚の身を口に入れ、ご飯を掻き込む。
俺達は今村長の家に泊めて貰い、食事でもてなされていた。
食べたかった川魚の塩焼き、取れた作物で作られた煮物や漬物、それをその道二十年のベテラン主婦の奥さんが作るものだから旨くない訳がない。
「よぐ食うなぁ冒険者さん! 作りがいがあるべ!」
テーブルの近くの台所で村長の奥さんが調理器具を洗いながら笑っていた。
「それにしても若ぇのに立派なもんだぁ、兄妹で冒険者だなんて。」
「い、いえそんな・・・。」
「えへへ。」
隣に座っていた村長に感心されるが照れ臭い。
ルタも嬉しそうに笑う。
まぁ兄妹なのは嘘なわけで、ちょっと心苦しい訳だが・・・。
「兄ちゃんも大変じゃねぇべか? 妹二人も面倒見ないとだし。」
「ぶっ!」
つい米の飯を吹きそうになる。
「妹じゃないのです! 私は『弟子』なのです!」
元凶が斜め向かいで村長に怒る。
夜も遅いので結局このチビッ子は外で一晩明かすのも可哀想だからと宿泊に同行させていた。
「ほぉ、お弟子さんかい。」
「そして師匠はかの有名な英雄ア
「わーわーわー妹ですッ!! 一番下のッ!!」
「師匠?」
「ちょっとお前こっち来ーい!」
「え、えー?」
チビッ子を引っ張って部屋の隅に連れ込む。
(俺はアルトじゃねぇ! 此処でその名前を出すな!)
隅側に顔を向けたままチビッ子の首に腕を回して引き寄せ、小声で注意する。
(師匠? あ。)
何を察したのかチビッ子はポンと手を合わせる。
(分かったのです!)
目をキラキラさせるチビッ子。
何が分かったのやら。
(師匠は正体を隠したいのですね? 辺境の村に英雄が来たとあったら変に気を使われちゃうから!)
(だから英雄じゃねぇって!)
駄目だ、話が微妙に噛み合ってねぇ!
確かに正体隠したいのは事実だけど・・・あ、待てよ?
(・・・いや、それでもいいから話を合わせてくれ!)
(了解なのです!)
(お前は一番下の妹、オーケー?)
(ハイなのです!)
(よし。)
納得行かない所はあるが話が纏まって席に戻る。
「兄ちゃん達どうしたべ?急に殺気だっとったけど。」
「いいえ。」
「何でもないのです、それよりさっきは誤解させてたのです。私は、妹なのです。」
「え? でもさっき、弟子って・・・。」
「妹、兼弟子なのです。」
「俺の剣の弟子でもあるんです。本来は父が俺に教えていた剣なんですが、父が早くに他界して教えられるのは兄である俺だけなんです。」
「はぁ、そりゃ悪いこと聞いたなぁ。」
「いえいえ、妹も剣を習うに当たって自分に厳しい所もあって、『兄妹である前に弟子』だって聞かなくて・・・。」
「へぇ、立派な妹さんだなぁ。」
「いいえ、妹の意志も汲んで此処は弟子と言ってあげて下さい。」
「兄さんも立派だなぁ。」
「いいえ、そんな・・・。」
よし、なんとか持ち直した。
『よくもまぁそんなに嘘がポンポン出てくるねぇ。』
「!」
ルタの声が頭に直接伝わる。
そうか、別にルタが腕輪に入ってなくてもこの念話は出来るのか。
『お前に言われたかねぇよ! 『偽妹』!』
『正確には『偽妹一号』だけどね♪』
『やかましい!』
『しょうがないからお兄ちゃんに口裏合わせて上げよっかな?』
『余計な事言うなよ?』
『大丈夫だって♪』
『・・・。』
嫌な予感しかしない。
「立派だなんてとんでもないですよ!」
「んぇ? そうなんかい?」
ルタが笑いながら切り出す。
「昔は兄妹喧嘩も酷かったですし、妹もよく弱音吐いて泣いてましたよ!」
「ッ!」
ルタの言葉に少女がムッとする。
だが反論せず耐えている。
恐らくは俺との口約上、下手に『違う』と言って話が食い違っちゃいけないと思って黙っているんだろう。
「それに八歳までおねしょしてましたし♪」
「あれまぁそれはそれは。」
ルタの話に村長の奥さんが笑い出す。
「・・・くぅッ!」
少女は歯を喰い縛って耐える。
ルタの奴、反撃出来ないの分かってやってるな?
『おい。』
『なぁにお兄ちゃん?』
『やめてさしあげろ。』
『いやいや、兄妹エピソード語っておいた方が現実味出るでしょ?』
『あぁもう、好きにしてくれ。』
ルタの奴、昼間の事まだ根に持ってやがるな。
どんだけ胸の事気にしてるんだこいつ。
~プロテア王 宮殿~
一時はどうなることかと肝を冷やした。
だが彼女の迅速な対応で首の皮一枚繋がったと言った感じだ。
一日でも対応が遅ければ今頃世界は再び魔王の驚異にさらされていた事だろう。
「兄様、まだ書斎に居られたのですか?」
「!」
不意の声につい驚いて肩をビクッと動かしてしまう。
全く王として情けない。
「カトレア、起きていたのか?」
椅子を引いて身体を声のする方へ向ける。
目の前にいたドレス姿の少女はカトレア、私より十歳年の離れた妹だ。
成人してないのにしっかりした、私には勿体無い程の妹だ。
「兄様が寝室に入られていないから心配して来たのです!また無茶をして居られるのでは無いかと思えばやっぱりです!」
「はは、お前には敵わないな。」
「無茶を為されて病気になれば、王室はおろか、民草も崩壊致します。」
「それは少し大袈裟だ。」
「いいえ、事実兄様は父上亡き後も優れた治世で国を立て直したのです。今や兄様無しでは国は回りません!」
「持ち上げ過ぎだ。それに、私自身に此処まで頑張れる力は無い、勿論大臣や兵達の奮闘もあるが、私を此処まで頑張らせてくれるのはいつだってお前だ、カトレア。」
「私・・・ですか?」
「何度挫折に倒れそうになってもお前が傍らで支えてくれた。だからこそそれに応えようと頑張れるんだ。」
「そ、そんな・・・私は大したことは・・・。」
「お前は私にとって最高の妹だ、どうかこれからも私を支えてくれ。」
「はい、それは勿論!」
カトレアは一層背筋を伸ばして応える。
だが、少しすると急に周りをキョロキョロしてそわそわし始める。
「・・・安心しろ、この時間は人払いをしている。」
「じゃあ・・・。」
カトレアは急にいそいそと近づくと私の胸に飛び込むように抱きつく。
「エヘヘ・・・兄さんの胸の中~♪」
「全く、いつまで経っても甘えん坊だな。」
カトレアの頭を撫でながら笑う。
「兄さん最近根詰めてたから甘えられなくて寂しかったんですよ?」
「悪かった悪かった! だが私も寂しかったんだぞ?」
「本当?」
「あぁ本当さ!」
「もう、兄さんってばお上手なんだから♪」
カトレアが甘えてくれるこの一時。
これがあるから私は毎日頑張れるのだ。
~ルタ ヨグ村~
私達は一緒の部屋で寝ていた。
村長の家とはいえ、裕福な村と言うわけではないので小さな個室でハンモックを上手くぶら下げて眠る形だ。
「・・・。」
二人が寝静まったのを確認して目を開ける。
そして直ぐ様部屋を出て家の外に出る。
寝室に入った時、窓に黒い羽が添えるように置いてあるのを確認していた。
『報告に来い』と言う合図だ。
夜とはいえ誰に会うかも分からないので出来るだけ人気のない納屋の近くに移動する。
するとそれを理解したように鴉がやって来て荷車の取手に止まる。
「疲れて眠る直前に報告の催促・・・婦女に非常識じゃありませんか?」
「お前は夜型の人間だろう? 猫。」
「何しに来たんです?」
軽く腕組みをしてコルボーに問いただす。
「王が偉くお前を褒めていたぞ? まぁ、一歩間違えれば世界の危機となる事態だったからな。」
「そんな労いの言葉の為だけに、態々こんな時間に呼び出したんですか?」
「まさか、忠告に来ただけだ。」
「忠告?」
「あまり深入りし過ぎるなよ?」
「・・・分かっています。」
そう、彼はあくまで任務の目標に過ぎない。
人並みの心を持って人並みの情をかけてはいけない。
裏の人間にとって何よりの常識だ。
非情に徹しなければ足元を掬われるからだ。
「だがこの任務はその辺りの匙加減が難しい。目標に対する気持ちが離れればそもそも任務にならない。だが近すぎるのも還って危険だ。」
「程々に・・・ですよね?」
「そういうことだ。感応器の力が及ぶ程度に留めておけ。第一お前は目標に対して・・・。」
コルボーが言いかけた途端、彼が止まっていた荷車が真っ二つになり、その切り裂かれた軌道はコルボーの横スレスレだった。
荷車が崩れても、コルボーは不貞不貞しく荷車の取手に止まっていた。
「・・・図星か?」
「『猫』をあまりからかう物じゃないですよ?」
貼りつけた様な笑顔で返す。
「フッ・・・それでいい。」
そう言うとコルボーは飛び去る。
「その殺気こそ、『猫』に相応しい。」
「・・・。」
今日の報告は気分が悪かった。
「・・・。」
コルボーが居なくなってまたあの鳩のペンダントを取り出す。
「・・・。」
ペンダントを強く握る。
「・・・・・・・・・ッ!!!」
下唇を噛み、ペンダントを握る力が段々強くなる。
噛む力も段々強くなってきて、今にも血が出そうだったその時だった。
「ルタ!」
「ッ!」
急に声を掛けられて身構える。
彼だ。
「良かった、探したぞ。急に部屋から居なくなるんだからな!」
「ごめんごめん! ちょっと夜風に当たりたかったから!」
いつもの彼の前でのルタの顔で応える。
「こんな風通しの悪い所で?」
「あ、あはは・・・。」
「?」
様子から察するにどうやらコルボーとの面談は見られていないようだ。
「まぁいいや。まだ此処に居るなら俺は戻るぞ?明日も朝早ぇから・・・ふぁーぁ・・・。」
「お兄ちゃん。」
「あ?」
「肩貸してあげよっか?」
「・・・。」
彼は黙り込む。
「まだ負傷・・・残ってるんでしょ?」
「・・・はぁ。」
シラを切る気も失せたのか、彼は溜め息をつく。
彼はディラガの攻撃、即ち上昇の使い手からの強打を受けたのだ。
腹部に一発、背骨に一発、顔面に数発、端から見たら大した攻撃には見えないだろうがその痛みはいくら治りが早くても数日は続く。
「これもこの腕輪の仕業か?」
彼は腕輪を眺めながら呟く。
「ううん、妹としての勘!」
「ぬかせ・・・グッ・・・!」
「お兄ちゃん・・・!」
崩れるように倒れそうだった彼を抱きつくようにして支える。
こんな負傷を受けて尚、山賊のアジトに侵入して村娘達を助けたのだ。
表向きは何ともない顔をしていても内心どれだけ無理をしていたか分からない。
「クソ・・・気が緩んだ途端にこれか。」
彼は息を切らしていた。
「お兄ちゃん・・・。」
彼は隠すのが上手かった。
きっと明日以降もこれに気づくのは私だけだろう。
「お疲れ様。」
彼の肩に顔を埋め、耳元で囁いた。
~少女 ???~
「魔法だよな?」
やめて・・・。
「剣!貴方には剣を磨くのが相応しいわ!」
やめて・・・。
「魔法だ!」
もうやめて・・・!
「あなたは黙ってて!」
お願い・・・やめて・・・!
「お前こそ!」
やめて!!!!
「ッ!」
目を覚ますと何か額に液体がある感じがしたのに気づくと汗を大量にかいていた事を知る。
「!」
辺りを見渡すと誰も居なかった。
「師匠・・・!」
もしかして置いて行かれた!?
「ヤバイのです・・・!」
このまま置いて行かれたら本当に雲隠れされかねない!
折角見つけたのに・・・!
「行かないと・・・行かないと・・・!」
急いで外に出る支度を整えて部屋を出ようとドアに手をかけるが・・・。
「え?」
私が開けた訳じゃないのにドアが急に開く。
「あ。」
目の前には師匠と、その肩を支えている貧乳妹がいた。
私に気づくと師匠は妹の支えを離れて立ち上がる。
「お前、起きてたのか・・・ってかその格好・・・!」
「師匠・・・!」
「うわっ! 何だよ!」
師匠に抱きつく。
「え? 何これ、どう言うこと?」
「さぁ?」
師匠と妹は戸惑う。
「!」
師匠はあることに気づく。
「お前、震えてんじゃねぇか。」
「震えて・・・ないのです。」
「なんだ? 怖い夢でもみたか?」
「何でも・・・無いのです・・・!」
「ったく、しゃあねぇな。」
「!」
師匠は私の頭に手を置くと、優しく撫でる。
「師匠?」
「勘違いすんなよ? この家にいる間だけ、お前は俺の妹だからな。甘えるんなら今のうちだ。」
「妹じゃないのです・・・弟子なのです・・・。」
「へいへい、落ち着いたら寝ろよ?」
「・・・はい。」
なんかよく分からないけど、ズルいのです。




