#12 拳士vs策士
~ウルド ヨグ村~
「ぎゃああああっ!!」
情報は集まった。
準備も整った。
ならあとは勝つのみだ。
「な、なんだてめぇは!」
「あー、お前ら台詞にマニュアルでもあんの? その台詞今日聞いたの三回目だよ。」
駆けつけた山賊の男達に剣を片手に頭を掻きながら腑抜けた返事を返す。
しかしその周りには・・・。
「こ、こいつ・・・!」
「これを一人で・・・!」
伸した山賊が六人程俺の周りに倒れていた。
あたかも一度の戦闘でぶっ飛ばされたかのように。
そう、ハッタリだ。
本当は一人一人不意打ちでボコって気絶させた奴等だ。
最後の一人には叫び声を上げさせる為にわざと剣を腕に突き刺してから気絶させている。
だがこうやって配置する事に多いに意味がある。
「お前らじゃ役不足だ。出せよ、お前らの頭・・・『ディラガ』を。」
「ほう! 面白ぇじゃねぇか!」
俺が名前を言うと男達を押し退けて一人の大柄な男が現れる。
眼帯から頬にかけて刻まれている一本傷、間違いなく奴が連中の頭目、ディラガだ。
「兄貴・・・!」
「そこで伸びてるどの馬鹿が俺の事喋った?」
「本人の意向により教えられませーん。」
「教えろよ、殺すから。」
「そんなんだから口止めされるんだぞ~? あーやだやだ、いるんだよな~、恐怖政治を人望とかと勘違いしちゃう奴。」
「でもちゃんと手下は言うこと聞くぜ?」
「はーいそれが勘違いデース、学習能力ゼロですかー?」
「んなもん要らねぇよ♪」
「ブガッ!」
そう言うとディラガの左に立っていた男が一人吹き飛ぶ。
「俺らの世界に必要なのは力だけだからな!」
ディラガは血に塗れた拳を出す。
「やーれやれ、ガキ大将はゲンコツかまして叱られなきゃ分かんないのかね。」
剣を構える。
「おーやってみろや。俺にぶちかませるもんならな!」
奴も構える。
「へっ。」
奴との一騎討ち、狙い通りだ。
その為にわざわざハッタリをかましたのだ。
何もせず前に出れば奴はまず手下をけしかけただろう。
一対多の戦闘なんて普通は馬鹿のやることだ。
だが束になって叶わないと言う姿を見せれば奴等は余計な犠牲を出さず一番強い戦力である頭目を出してくる。
見事に作戦は刺さった。
あとはこいつを倒すだけだ。
「・・・。」
武器は持っていない。
素手で勝負する気だ。
成る程、武道家か。
しかもさっきの手下をやった動きを見る限り上昇の使い手、少なくとも腕に関してはかなりの使い手だ。
「・・・。」
お互いに動かない。
手の内が分からない以上迂闊に動けば危険なのを分かっているからだ。
「ッ!」
俺とディラガは同時に切り込む。
先に仕掛けたのは俺だ。
僅かな尺の差を生かして突きを放つ。
だがディラガはそれを紙一重で回避する。
「ガッ!?」
身体が吹き飛ぶ、腹部に拳打を受けた。
先程手下をやったのと同じ奴だ。
俺の剣が宙に舞う。
数メートル吹き飛んで転がってから倒れる。
「・・・。」
ディラガは構えを解く。
「へっ、やっぱりな。」
ディラガは鼻で笑う。
「お前のぶちのめした手下共はハッタリだな?大方個別に不意打ちかまして伸した・・・ッ!」
言葉の途中でディラガは放たれた矢を上手く反応して掴んで止める。
俺の拳弓銃の矢だ。
「・・・へへっ。」
口から出た血を拭って立ち上がる。
「わざわざ手の内見せてくれてありがとよ。」
「チッ・・・。」
俺の言葉の意味を理解してディラガは舌打ちする。
「てめぇ・・・僅かに後ろに跳んで勢いを殺したな?」
そう、奴の攻撃が分かっていたからこそ読んで威力を緩和するために後ろに跳んだ。
「さぁて、こっからは趣向を変えていこうか。」
「あ?」
ディラガは俺の言葉を理解出来ていない。
「こういう事だよ!」
更に矢を放つ。
「へっ。」
ディラガは得意気に矢を止めるが・・・。
「あ?」
俺は逃げる。
「逃がすかよ!」
奴は追いかけてくる。
俺が納屋の物陰に逃げるのを追いかけると奴は俺を見失う。
「馬鹿が、隠れようが無駄だ!」
奴は魔覚に意識を集中させる。
だが・・・。
「チッ、魔力鎮静か・・・めんどくせぇ。」
精神を落ち着けて魔力感知から逃れる隠密技術、魔力鎮静。
普段の指輪で封印している俺も何も出来ない訳じゃない。
魔力を封じている今の俺だから出来る技もあるのだ。
「ッ!」
何か物音が聞こえてディラガは隣の民家の方を見て構える。
だが石が落ちただけだ。
「!」
奴は影に気づいて上を向く。
俺が降ってきたからだ。
落ちる最中に俺は矢を放つ。
咄嗟だったが奴は身体をずらして回避する。
だがそれだけでは終わらない。
俺は更に奴の脳天目掛けて肘打ちを放つ。
しかしこれも更に身体をずらして回避する。
「へっ!」
俺が着地した瞬間に奴は足を高く振り上げて踵落としを放つ。
しかし俺はわざと体勢を崩して転がって回避する。
その最中に拾っていた先程の矢を奴の腹部に投げる。
だが奴は難なく掴んで止める。
「くっ!」
アレが来ると分かってすぐに立ち上がってバック転で回避する。
すると俺が元いた場所に拳の大きさのクレーターが出来る。
「無駄だ無駄だ!」
ディラガは矢を片手でへし折る。
「飛び道具も俺には効かん!」
「成る程、感覚上昇も使えるのか。」
上昇にも種類分けがある。
戦闘用に腕力や脚力と言った身体的な能力を強化する運動上昇、視覚や聴覚など神経を強化する感覚上昇がある。
奴が矢を掴めるからくりは恐らく視覚や反射神経を強化する感覚上昇の類だろう。
「言っとくが上昇の反動待ちも無駄だぜ? 全力で使っても十分は持ちこたえられるからな。」
「・・・。」
上昇の反動は自分の肉体が過剰な運動神経の働きに耐えられずに痛みが起こる物だ。
反動を起こさないようにする為には、要するに肉体が耐えられる物になればいいだけだ。
奴の腕の太さ、服の胸元から見える大胸筋から察するに、奴は相当鍛えている。
ハッタリではなさそうだ。
確かに時間稼ぎも無駄だろう。
「万事休すか?なら良いもの見せてやるよ。」
「!?」
ディラガの姿が消える。
「なんだ、見えなかったのか?」
後ろから声がする。
「グアッ!」
背中から奴の拳打を受けて吹き飛ぶ。
その拍子に民家の壁にぶつかって壁をぶち破る。
「んー、今度は良い手応えだった。さて、そろそろ・・・。」
ディラガは俺がぶち破った壁から家に入る。
「ん?」
そこに俺の姿はなかった。
「へぇ、タフだなぁ。」
「ハァ・・・ハァ・・・。」
俺は民家の入り組んだ道を走っていた。
奴のあの動き・・・恐らく運動上昇と感覚上昇の応用だ。
身体能力をいくら上げても身体の速度を上げるのには限界がある。
自身が知覚できる以上の動きが出来ないからだ。
だが反射神経を上昇で強化することによってその限界を引き上げる事が出来る。
正直上昇無しの今の俺の状態で奴と対峙するのは無謀だ。
だが奴を倒す方法が無い訳ではない。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
彼処へ・・・あの場所に行きさえすれば・・・!
「鬼ごっこは終わりか?」
「!」
ディラガは俺の目の前に回り込んでいた。
「くっ・・・!」
咄嗟に矢を放つが・・・。
「馬鹿かお前。」
奴は俺の矢を回避し、一気に間合いを詰めてきた。
まずい!
「もういいよ・・・飽きた。」
「ぐぶぁっ!!」
奴の拳打を顔面に諸に喰らって吹き飛ばされる。
「さぁて、これから・・・。」
俺が吹き飛ばされた場所、そこは・・・。
「公開処刑だ!」
さっき奴と対峙した場所だ。
先程俺にビビっていた山賊達だが今は不様に元の場所に戻された俺を見て楽しそうに下品な笑みを浮かべる。
「やっぱり兄貴だ!」
「やっちまえ兄貴!」
「命乞いでもしてみろよ正義の味方気取り!」
好き勝手に言ってくれる。
だが俺は腹が立たなかった。
「へ・・・へへへ・・・。」
俺は笑って立ち上がる。
怒りを通り越して笑っているのではない。
「なんだ?殴り過ぎて頭おかしくなったか?」
「いや、安心しろよ。これは面白いから笑ってんだ。」
「この状況が面白い? それこそイカれてんじゃ
「こうもお前が此処まで乗せられてくれるとさ・・・ははっ、はははっ!」
そう、俺はこの場所に来たくて敢えて奴にぶっ飛ばされたのだ。
俺はちょうど足元にあった自分の剣を拾う。
「今更剣なんか拾って何が出来るってんだ。」
「宣言するぞ、お前は敗けが決定した。」
俺は剣を鞘に納めて構える。
「・・・居合いだと?」
東国の剣技である『居合い』、剣を抜く瞬間の勢いを利用した最速の一撃を放つ早業だ。
「てめぇ舐めてんのか? さっきからやり合ってたがお前上昇使えねぇだろ。そんな小細工ごときで俺と速さで渡り合う気か?」
「ああ、これをやったらお前には百パー勝てる。」
「この状況でまだハッタリか?流石に無理があるだろ!」
「どう思うかお前の勝手だ、どうした?それともビビってんのか?」
「あ゛ぁ?」
奴は血管が浮き出る程怒りの溜まった表情で俺を睨む。
「その減らず口・・・ぶち殺さねぇと直んねぇみてぇだな。」
ディラガは構える。
「来いよ腰抜け!」
「へっ、今すぐに黙らせてやるよッ!!」
奴の姿が消える。
仕掛けてきたのを察知して剣を抜く。
すると・・・。
「ガァッ・・・!」
奴は俺の斜め後ろに現れ、何故か派手に転ぶ。
「・・・?」
周りの手下はどよめき始める。
何が起こったか分からないみたいだ。
「ぐあぁっ・・・目が・・・くっ、うああぁッ!!」
ディラガは目を押さえて苦しみながらのたうち回る。
「へっ。」
俺は剣を正面に構えたままほくそ笑む。
剣は完全には抜かれていない。
半分だけ、刀身だけ見えれば良いとばかりに少し抜いた程度だ。
それに奴の血など一滴もついていない。
―――奴が攻撃する刹那。
俺は剣を抜かず鞘ごと正面に構え、剣を僅かに抜いて刀身に奴の顔が写るように横に構えた。
すると刀身が眩しく光り、奴の視覚を奪う。
時間は丁度夕方頃、日が落ちかけて丁度奴の真後ろに太陽があった。
「・・・ッ!!」
奴は急に顔を歪ませ、苦し紛れに走る軌道を変えた。
「てめぇ・・・汚ねぇぞ・・・!」
目を押さえてディラガは喚く。
「おーおー、外道がモットウの山賊様からまさかそんな言葉が聞けるとは光栄だねぇ。」
大方奴は俺が速さで勝負してくると思い込んで目に上昇を集中させていた筈だ。
そこへ俺が剣に太陽の光を反射させて逆光を浴びせた訳だ。
視覚を極限まで強化させた状態で見せる強力な光は、目にとてつもない負傷を与える。
奴が今抱えている目の痛みは、俺が想像したく無いほど壮絶な物だろう。
「さて、降参するか?」
「舐めるなああぁッ!」
ディラガは立ち上がって飛びかかる。
「目が見えなくたってなぁッ!!」
俺に向かって正確に拳を放ってくる。
「・・・。」
先程の見えない拳程の速さではないので回避は楽だ。
だが殴った先に大きなクレーターを作る。
「危ないだろう?」
「おしゃべりしてて良いのか?」
奴はまた俺の顔面に向かって正確に拳を放つ。
「目が見えなくたってお前の位置は把握出来るんだよぉッ!!」
「だろうなぁ?」
「!」
拳を回避して俺は敢えて奴に零距離まで近づいて左の耳元で囁く。
そして奴の右の耳元にさっきの少し鞘から出した剣を翳す。
その剣を拳で思いっきり殴って鞘に戻す。
乱暴に叩き戻された剣はガキィンと轟音を上げる。
「ぐっ・・・グガアアァアアァッ!!」
奴はまた倒れて苦しみ出す。
「てめっ・・・! またやりやがったなぁッ!!?」
今度は両耳を押さえてのたうち回る。
そう、奴は目が見えなくても音で感知も出来る。
さっき俺は小石で騙し討ちを仕掛けた時の奴の反応を見ていたのでこれは容易に理解していた。
そこで今度は大きな音で奴の耳を破壊した。
「お前手の内見せすぎなんだよ。」
そう、奴が自信家で自分の力を俺の前で散々誇示していたからこそ奴は此処まで不様な姿になったのだ。
どれか一つでも隠し玉に取っておいたら勝敗は分からなかっただろうに。
「さてと、約束通り・・・。」
「ッ!?」
ディラガの背中を足で押さえつける。
「とっておきのゲンコツをくれてやるッ!」
俺は鞘に納めた剣を構えると、その先端部分を奴の脳天に無慈悲にぶち込んだ。
「グガッ!!」
奴は白目を向いて気を失った。
正直普通の人間には撲殺するレベルの凶行だが、山賊の頭ならこれくらいやらないと気絶しないだろうから必要な処置だ。
「さぁて、自慢の兄貴とやらが倒れちゃったわけだけど・・・。」
観客だった手下共を睨む。
「ひっ・・・!」
「ぎゃああぁ!」
「む、無理だぁ!俺は逃げる!」
山賊達は慌てて逃げ出す。
奴等は余程ディラガの強さを信頼していたのだろう。
それがやられればこのザマだ。
「逃げるか、そりゃ逃げるよな。」
俺は奴等から視線を外さず空を指差す。
「逃がすつもりねぇけど。」
「炎 杖 放出・・・。」
ルタの魔法詠唱が近くから聞こえる。
事前に打ち合せしていたのだ。
「炎球!」
物陰から出てきたルタは空に向かって炎の球体を放つ。
これは合図だ。
誰に対してかと言うと・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
奴等は村の門に向かって走っていた。
しかし・・・。
「なっ!?」
「どうなってんだこれ!」
門が閉まっている。
「おい見張り! 何やってんだ開けろッ!」
山賊達は必死に門を叩いたり押したりしているが開かない。
「さぁて。」
「!?」
奴等は俺の声がする方を向くが、そこに居たのは俺だけじゃない。
鉤や桑を持った戦意充分の村人達がいた。
この村人達は捕虜として納屋に閉じ込められていた。
先程の下準備の為に山賊達をボコる際に助けた。
偶然じゃない。
最初に捕まえた山賊からディラガのついでに場所を聞き出していたからだ。
助ける際に協力を頼んだら快く引き受けてくれた。
門が閉まっているのも村人達の仕業だ。
ダグが教えてくれた抜け穴から外へ出した半数を門の近くで待機させていた。
ルタが出した合図と同時に村人達は見張りをボコって門を閉めたのだ。
村の出入り口は抜け道を知らない以上この門しかない。
つまり奴等にはもう逃げ場はない。
「お仕置きタイムだ!行くぞみん
「「うおおおおおぉッ!」」
村人は勢いよく・・・。
「あ、あれ?」
俺よりも勢い良く山賊達に向かっていく。
「グアッ!」
「このッ!このクソトンチキめッ!」
「ぎゃぁっ!」
「んだぁッ!作物の収穫時に来やがってコンチキショーめッ!」
「ゆ、許し・・・グゲッ!」
「村の貴重な食いもん食い荒らしおってッ!思い知るべッ!このッ!」
ボコボコに殴られる山賊達。
「あ、あのぉ・・・。」
やべぇ・・・。
完全に置いてかれてる。
結局最後は村人達の怒りの制裁により山賊達は壊滅した。
「勝ったどぉ!」
「うおおおおおぉ!」
村人達は勝利に酔いしれる。
「冒険者さん!」
「貴方のおかげだぁ!」
「ありがどな!」
村人達は俺の元に集まって嬉しそうに感謝の言葉を浴びせてくる。
「え・・・あ、ぁ ぁうん。」
なんか違うが一応相槌を打つ。
山賊達を倒して村の人達を助けたのになんか立場がない。
逞し過ぎだろこの人達。
もしかしたらこの人達だけで村守れたんじゃね?
いや、ディラガが居たからそれは言い過ぎかもしれんが・・・。
「冒険者さん、助けられてこんな事頼むのも酷かもしれんが頼まれてくれんか?」
「え、何?」
「おらたちが捕まってる間に村の娘が何人かどっかに連れてかれちまったんだぁ!」
「奴等何処かに住処があるに違ぇねぇんだ!」
「マジかよ・・・。」
「頼む!村の娘達も助けてやってくれぇ!」
「礼ならいくらでもする! お願げぇしますだぁ!」
「しょうがねぇなぁ、じゃあ、助けたら・・・。」
必死に頼む村人達に人差し指を一本立てる。
「一晩泊めてくれ、どうせすぐ助けても夜遅くなるし。」
「ええ! そりゃ勿論!」
村人達は大いに喜んだ。
まぁ、面倒だけど仕方無いか。




