#11 襲われた村
~ウルド 道中~
「で?」
目の前で座り込む少女に俺は尋ねる。
「戦った訳だけど、結局の所何を根拠に俺を師匠と呼ぶ?」
「えぇ!?」
俺の返答に少女は驚いて目を丸くする。
仕方無いだろ。
答えはさっぱりなんだ。
「あれ見て分からないのですか!?」
「あれ?」
うーん、特に印象と言ったら剣をザクザク・・・?
いや関係ないか?
「私、師匠と同じ戦い方が出来るのです!」
「同じ戦い・・・。」
思い当たること・・・あった!
「何の事だ?」
だがシラを切る。
「とぼけても無駄なのです! 私は見たのです! カザの街を出たところで師匠は鎧男と戦い、剣と魔法を両方使って戦っていたのです!」
「・・・。」
まずい。
完全に見られてる。
「私は探していたのです。私が目指している戦い方の出来る方を・・・!」
「上昇と魔法を両方使いこなせるってことか? いないんじゃないか? そんな冒険者。」
そう、普通は出来ない事だ。
人間は生まれや育った環境の違いによって上昇や魔法に向き不向きが出るため、冒険者達は必ず戦士職、魔法職に別れる物だ。
稀に両方使える者はいるが、一人前の冒険者になるに当たってどちらかの道を諦める。
何せどちらの修行も片手間に出来る物ではないからだ。
両方を使いこなせるようになるまで修行している間に同期の冒険者にどんどん置いて行かれる事もあり、戦士職、魔法職どちらも兼業とする冒険者はいない。
まぁ、俺は色々な事情で両方使える訳だけど・・・。
ともかく、さっきこいつが魔法を使った事に面食らったのはこういった常識があったからだ。
「ですが、街中でとある吟遊詩人の唄を聞いたのです。『閃光の剣で魔王を打ち倒した英雄』がいると・・・。」
「ぅ・・・!」
心当たりが有りすぎる・・・!
「『閃光の剣』・・・きっとそれは魔法を使える剣士の技・・・まさに私が目指している戦い方その物だったのです!」
「へぇ、それでその英雄様を探していたと・・・。」
「はい、そしてあの時見た魔法による雷の剣、あれこそが正しく『閃光の剣』! そう、あなたこそまさに『英雄アルト』!!」
「違います。人違いです。その魔法使った奴も見間違いです俺じゃありません。」
苦しいが言い訳をする。
「いいえ、正真正銘あなたなのです!」
「そんなわけ・・・!」
あ、そうだ!
「じゃあお前の魔覚に聞いてみな?」
「魔覚・・・ですか?」
「もし俺が魔法使えるなら魔力がどんなもんか分かるだろ?」
「むむ! そうなのです! それが何よりの証拠!」
少女は目を閉じて魔覚に意識を集中する。
「・・・あれ?」
少女はぽかんとして目を開ける。
多分こいつからは俺に出ている魔力は微弱な物しか感じない筈だ。
「クソみたいな色の魔力が微かに煙の様に漏れてるだけなのです・・・。」
「おーおーひっでぇ言われよう・・・でもまぁそう言うことだ。魔術師の知り合いにも『とてもじゃないが魔法を使える魔力じゃない』って烙印押されたよ。」
まぁ嘘っぱちなんだが。
「確かにこんな魔力では魔法なんて使える気がしないのです。」
「だろ?」
よし、良い流れ!
「分かったらとっとと・・・。」
油断した隙に少女が立ち上がり、俺の左手に手を伸ばそうとしているのに気づき、右手で頭を鷲掴みにして左手から離す。
「な・に・し・や・が・るッ!!」
「うぎぎ、その指輪を取るのですッ・・・!」
やっべぇ!
「師匠はあの戦いのあと指輪を着けていたのです! 恐らくその指輪が封印的な何かなのですッ・・・!」
「んな訳あるかッ! これは・・・あれだ! 親戚の形見で無くすなって言われてる大事な指輪なんだよッ!」
嘘!
嘘デース!!
本当は大正解!!
貴方様の仰る通りの封印の指輪デース!!
「だったら指輪を取ってる所を見せるのですッ!」
「ふざけんな! 指輪に触るな!」
くっそぉ!
駄目だ!
現場を押さえられている以上何言っても論破される!
「ッ!」
ルタの方を見る。
(な・ん・と・か・し・ろ!)
口パクでメッセージを送る。
するとルタは口パクで返事を返し、最後にあざとくポーズを決める。
(あ・き・ら・め・ロン☆)
こんのくそがあああああぁぁぁ!
お前さっきこいつにメンチ切ってたろうがああああぁぁ!
くそっ、こうなったら!
「あ! あんな所に俺とそっくりな男が!」
「え! どこどこ!?」
言ったコンマ数秒の間にルタにアイコンタクトと指による指示を出す。
少女が俺の指を指した方向を向いた隙に速攻で逃げる。
ルタも指示を理解して一緒に逃げている。
「あ! 師匠ぉ! おのれ卑怯なのですッ!!」
少女は気づいて追いかけてくる。
・・・マジで引っかかるとは思わなかったが。
「俺は弟子なんか取らん! 出直して来い!」
「お兄ちゃん、とんずらこいて言う台詞じゃないと思うよ?」
「やかましい!」
「ふははは! 甘いのですッ!」
「!」
少女は俺のすぐ右に走りながら追い付いていた。
恐らくさっきの手合わせの様に足に上昇を使ったのだろう。
「上昇も使わず私から逃げ切ろうなんていぎッ!?」
少女は何故か呻き声をあげて転ぶ。
「へっ。」
すぐに原因が分かったので思わずほくそ笑む。
「あ゛あ゛あぁ!痛いッ!痛いのですッ!」
足を抱えて少女は喚き出す。
「 バァーカッ!! 上昇の使いすぎだ! そのまま寝てろ!」
上昇は身体機能の代償としてとてつもない負荷をかける。
当然一点に上昇を使い続ければその負荷は馬鹿にならない。
さっきの手合わせの際、上昇で足に負荷をかけたのに今のような追跡に上昇を使えば激痛のあまり立っていられなくなるのは必定だろう。
「こんな道端に動けない女の子置いてくとかあなたそれでも人間なのですかぁ!?」
「心配すんな! 数分すりゃ痛くても動ける程度には回復する! それまで精々襲われない様に祈っとけ!」
「この鬼畜うううぅッ!!!」
「あ~あ~遠いから聞こえませぇんッ!!!」
耳を塞いで走り去る。
「ドS・・・。」
「ん? ルタ、何か言ったか?」
「な~んでも♪」
ルタは小悪魔のように舌を出した。
~少女 道中~
「うぎぎ・・・!」
諦めない!
諦める訳にはいかない!
せっかく師匠を見つけたのに逃げられる訳にはいかないのです!
「ぐぅ・・・!」
足は動かせないので腕で張って進む。
走って逃げる師匠には追い付けないだろうけど何もしないよりマシなのです!
「・・・!」
少し進むと道脇の森の薮からガサガサと音が聞こえる。
「おい、人が倒れてるぞ。」
「女の子だ女の子!」
男が数人出てきた。
「どうした? 動けないのか?」
「は・・・はは・・・!」
嫌な予感がするのです・・・!
「近くの村まで送って行ってやるよ。」
カザに向かう途中に聞いた話だとこの人達は多分・・・。
~ウルド ヨグ村~
「お、見えてきたな!」
さっきの一件から暫く歩くと、木で囲いを作った村が見えてきた。
多分地図的にヨグ村だろう。
彼処は川魚が旨かったっけ?
「?」
誰かが走ってくる。
子供だ。
「あ!」
俺達に気づくと少年は此方に急いで走ってくる。
「助けてッ!」
少年は俺の服を掴んで息を切らす。
「どうした?」
「大丈夫?」
「兄ちゃん達冒険者だろ!? 村を助けて!」
「落ち着け! 何があった?」
「居たぞ!」
「!」
声がする方を見ると柄の悪い男が三人、鉈や手斧を持って走ってくる。
「あ、そう言うこと。」
冒険者の経験上すぐに状況を理解する。
すぐに男達に向かっていく。
「なんだてめぇは!」
男の一人が俺を指差してがなり立てる。
が俺は。
「がふっ!?」
しゃべっていた男の鳩尾に思いっきり膝蹴りを喰らわせる。
更に男が痛さのあまり前のめりになったのを良いことに首筋に肘打ちを喰らわせて気絶させる。
「怒鳴り散らして脅す暇があったら武器使え。」
「てめぇ!」
怒った男は鉈を振り下ろす。
だがそれを捌いて手首を掴み、相手の攻撃の勢いを利用して投げ飛ばす。
「ぐぇっ!」
投げ飛ばされた男はみっともない声を上げて地面に体を打ち付ける。
「このっ!」
最後の男は斧を振り下ろしてくるが、俺は自分の剣ではなくあるもので止める。
「なっ!?」
男は声を上げて驚く。
俺が持っていたのは先程の男が持っていた鉈だ。
投げ飛ばす際に奪い取っていた。
「お前らにゃ武器抜くのも勿体ねぇ。」
「舐めやがってぇ!」
男は怒りに任せて斧に力を込める。
押しきるつもりだ。
正直そんなに力が強い訳じゃないが、さてどうしてやろうかと思った矢先。
「炎 杖 放出・・・炎球!」
「!」
詠唱が聞こえたかと思うと炎の球体が男の右から襲いかかる。
「ぐえっ!」
炎が男の脇に当たると爆弾の様に爆ぜ、たまらず男はよろける。
その隙を逃さず俺は鉈の峰で男の側頭部を殴って気絶させる。
「ルタ?」
ルタの方を見るとやはり魔法を放ったらしき杖を持っていた。
片手サイズのロッドの様な小さな杖だ。
「えへへ♪ かじった程度だけど出来るんだ♪」
「マジか・・・。」
ますます食えない女だなこいつ。
「動くな!」
「!」
声のする方を見ると先程の鉈を奪ってやった男が少年を捕まえ、今にも絞めようかとばかりに首に腕を回していた。
「動いたら・・・!」
「動いたらなんだ? 武器もないのに。」
「こ、ここ、こいつの首をへし折る!」
「・・・。」
「兄ちゃん! 俺の事なんかいい! こいつをやっつけて!」
「!」
少年は吠えるように叫ぶ。
「この先の俺の村がこいつの仲間に襲われてる! こいつをやっつけて村の皆を助けて!」
「てめぇ! 本当に殺すぞ!」
男が少年に視線を移した刹那。
「よく吠えた。」
「なっ!?」
もう俺は男の目と鼻の先の距離にいた。
一瞬だけ指輪を外して上昇を使い、距離を詰めたのだ。
男が目を見開いて驚いている間もなく鉈を男の脳天にぶち込む。
勿論峰打ちなので気絶する程度で死なない。
「す・・・すげぇ・・・!」
少年は口を開けて呆然としている。
「ボーッとすんな、手伝え。」
「う、うん!」
荷物から登山用に用意していたロープを出して男達を近くの木に縛り付ける。
「名前は?」
「ダグ!」
「よしダグ、道案内を頼めるか?」
「うん!」
ダグに案内してもらいながら村に向かう。
~少女 洞窟~
最悪なのです。
この辺りには山賊がアジトを構えてるって聞いてたのを忘れてたのです。
「くっ・・・!」
身動き一つ取れない!
足は縄で縛られ、手は後ろで手枷を嵌められている上に檻の中、脱出など不可能なのです。
それを同じ檻の中で見ながらゲラゲラ笑う山賊共。
本当に下品な奴等なのです!
「くっ・・・殺せ!」
「あぁ?」
どうせこいつらの好き勝手にされるくらいなら・・・!
「なら望み通り・・・!」
山賊が鉈を振り下ろす。
「ひぃ!?」
鉈は私の顔の数センチ前に叩きつけられる。
「はは! ビビってんじゃねぇか!」
「おいこいつ漏らしてるぜ!」
「・・・!」
恥ずかしさで顔が暑くなり、顔が赤くなっているのが分かる。
でもそれ以上に悔しさが込み上げてくる。
「私をどうする気なのですか!?まさか・・・!」
「まさか? まさかって何?」
「・・・ッ!!」
「もしかしていやらしいこと考えてんの?ませてんなぁ最近のガキは!」
「ガキ!?」
「大丈夫だって安心しろよ! 俺らロリには興味ねぇから!」
「ロリ!?」
こいつら・・・!
「許さん・・・許さんのです・・・!」
「あ?」
こいつら・・・私に絶対言ってはいけない禁句を連発しやがったのですぅ!
「痛ってぇ!!」
山賊の一人の脛に思いっきり噛みつく。
「このガキィ!!」
「こうなったら首一つになってでもお前らぶっ殺すのですッ!」
「面白ぇ! やってみろ!」
―――数分後。
「ぁ・・・ぅ・・・。」
見事にボコボコにされて地面に寝そべる私。
「ったく、生意気に暴れやがってクソガキが!」
「ガキって言うなぁ・・・!」
「お前みたいなガキにも特殊な買い手が着くからな!商品は精々大人しくしてろよ!」
山賊達は檻から出て入口に鍵をかけ、去っていった。
「くぅ・・・!」
屈辱なのです・・・!
あんな奴等・・・万全の私なら・・・!
~ウルド ヨグ村~
「・・・入り口は封鎖されてんな。」
門の脇に二人、座り込みながら槍を片手に見張っている。
正直倒すのは簡単だ。
だが下手に戦って仲間を呼ばれでもしたら面倒だ。
「裏に村の子供にしか分からない秘密の入り口があるんだ、こっち!」
「ナイス。」
先程の門とは逆方向の場所に案内されると、壁に人が一人入れるだけの小さな穴が空いており、門でも構えているかのように粗末な骨組みの木で塞がれている。
直ぐにその蓋を外して一人ずつ入っていく。
「!」
最後にルタが入った時、近くでゲラゲラ笑う声が近づいてくる。
(隠れろ!)
小声で指示を出して近くの納屋の陰に皆で逃げ込む。
さっきの賊の男達と同じ風貌の男が軽い足取りでやって来た。
顔が真っ赤な辺り結構な酒を飲んで出来上がっている感じだ。
奴は村の囲いの壁に向かって立ち小便を始める。
「ん?」
男はふと横を見て違和感に気づく。
先程俺達が入った抜け穴だ。
「なんだ?この穴はぶッ!?」
男が抜け穴に気づいた瞬間、背後から忍び寄っていた俺は口を塞いで納屋の陰に引きずり込む。
「誰だてめぇ!」
「ちょっとお話をしようじゃないか。」
「フグッ!?」
喉元に剣の刃を数ミリ近くまで突きつける。
今は情報が欲しい。
敵の戦力が分からない以上、無策に挑むのは危険が高い。
この手段が一番効率が良い。
「・・・。」
下手に声をあげれば殺される事を察して男は大人しくなる。
それを確認して口から手を離す。
「何人で来た。」
「に、二十人・・・。」
結構多いな。
「それだけの数で来たなら指揮取ってる頭目がいるはずだ。そいつの名前、顔の特徴、今いる場所を言え。」
「や、やめてくれ・・・!兄貴の事喋ったら殺されちまう・・・!」
「ほう・・・。」
「ムグッ!?」
再び男の口を塞ぐ。
「ブグゥゥゥァ!!」
男は口を塞がれたまま叫ぶ。
俺が剣で左足を刺したからだ。
「お前の命だぁ・・・どう使おうがお前の自由だぁ。」
「ウグゥゥ!!」
刺した剣を動かして傷口を拡げる。
余りの痛みに男は呻き声を上げながら涙を流し始める。
「此処で洗いざらい喋ってあとで兄貴に殺されるか・・・。」
剣をグリグリ動かす。
「グゥゥフゥ!!」
「兄貴を庇って此処で死ぬか・・・お前の勝手だ。」
剣を止める。
「喋るなら首を縦に・・・。」
「グゥッ!?」
剣を抜いて男の目の前に翳す。
男の足の血で剣はドロドロと赤い液体を滴らせている。
「死にたいなら首を横に振れ。」
「・・・ッ!」
男は口を塞いだ俺の手に押さえられて頭を動かしづらいながらも必死に首を縦に振る。
「お兄ちゃん。」
ルタが唐突に声をかける。
「あ?」
「やっぱり嗜虐愛好家さんだね♪」
「ハァ・・・お前もう黙れよ・・・。」
水を差されて気が抜けながら振り向くと場違いに無邪気に笑うルタと化け物でも見てんのかってぐらいに泣き顔でビビりながらダグが俺を見ていた。




