#101 なれ果て
~ライ ???(五年前)~
「ハァ・・・ハァ・・・!」
息を切らしながら辺りを警戒する。
俺がいるのは今、木々に囲まれ、ツタの生えたジャングルの中。
手には銃を持っているが上下を覆う薄い青緑の一枚布、普通の人間から見たら異常に見えるのか?
いや、そんな事はどうでもいい。
俺は今、戦闘中だ。
こんないつ魔物に襲われるかも分からないような場所に居ればそれも納得かもしれないが戦っている相手は生憎そうじゃない。
何と戦ってるかと言うと・・・。
「くッ・・・!」
同じ場所にいつまでも留まっていたら拉致が開かないので意を決して木陰を離れて走り出す。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
辺りを見渡し、敵を探しながらジャングルを走る。
「くそッ!! 何処だ!?」
いても立っても要られず、声を上げると・・・。
「敵がそんな親切に教えてくれる訳ないでしょ?」
「ッ!?」
背後から声が聞こえて即座に構える。
だが・・・。
「ブベッ!?」
頭に銃を撃たれて間抜けな声を上げる。
銃に鉛弾が入っていたなら即死だったろうがそうはならなかった。
銃から放たれたものはインク、要はペイント弾だ。
無様にそれを受けた俺の頭はピンク色のインクを眉間から滴らせていた。
「はいこれで十七回目。」
目の前の女は呆れ気味にため息をつく。
「いちいち数えんなよ、ムカつくな・・・!」
「はいはい。」
女はなおも呆れ気味にため息をつく。
そいつは長い後ろ髪をバンドでまとめていること以外は俺と服装、格好に関してはほぼ一緒だ。
歳も俺と大して変わらなさそうだが年上か年下かは分からない。
まあ言って俺自身も正確な年は分からないけどな。
『はいはい二人ともお疲れ様。』
周囲から響き渡るように女の声が聞こえるとジャングルはまるで霧が払われるかのように視界から消え去り俺たちのいる場所は真っ白で何もないだだっ広いだけの空間になる。
俺たちを作り出した研究員である『母さん』が用意した仮想空間だ。
『リファは相変わらず戦い方が上手ね♪ いい実戦データが取れてお母さんも鼻が高いわ!』
「母さんあんまり持ち上げないで。それに良い実践データなんて取れてないでしょ。相手がこいつじゃ。」
リファは嫌味ったらしく言うと馬鹿にしたような目で俺を見る。
『そんなことないわよ! ライだって頑張ってるし、段々実戦のコツとかも掴めてるから着々と追いついてるわよ! だからライも自信持って!』
「・・・。」
アナウンスから聞こえてくる母さんの声に励まされるが、正直言って哀れみにしか聞こえない。
「チッ・・・!」
『あ、ライ!』
母さんの引き留める声を無視してただイライラしながら部屋を出ていく。
ーーー部屋を出て暫くして・・・。
俺は人気のない廊下の脇にある椅子に腰掛けながら項垂れていた。
「くそッ・・・!」
ほぼ毎日の日常になっている行動だ。
あの上から目線のリファに実戦訓練で一度も勝てていない。
あの女、いつか完膚なきままに負かして泣かす。
その憎悪混じりの信念の元、どうやったら勝てるか頭の中で思考を巡らせる。
この間は隠れ続けている内にジリ貧でやられた。
だから今回は探す事を考えて移動したけどそれが仇になって見つかって背後を取られた。
隠れ続けるのも駄目、探し回るのも駄目。
「だったらどうすりゃ良いんだよ・・・!」
悩んでも悩んでも答えは出ない。
「よっ!」
「んへっ!?」
聞き覚えのある声と共に左頬に冷たい感触が走る。
「また一人作戦会議?」
「・・・うるせぇ。」
犯人はリファだ。
その手には俺に当てて来た缶ジュースがあった。
当然ムカつくので受け取らない。
「・・・。」
けどリファは『飲みたくなったら飲みなさい』とばかりに俺の隣に置く。
そして隣に座るともう一つの自分用に用意したジュースの缶を開けて一口飲む。
「ねぇ、ライ。一ついい?」
「ああ? んだよ、偉そうにご高説でものたまうつもりか?」
「そう、ご高説。」
「勝手に喋ってろ。どうせ聞かねぇから。」
「じゃあ勝手に喋る。」
「ケッ。」
皮肉の一つも効かないみたいだ。
因みに『勝手に喋ってろ』ってのは抵抗しても無駄だから。
こいつは逃げようが捕まえて来るし、喋らせまいと口を塞ごうとしても避けられる。
何をしても無駄だからだ。
「あんたさ、今のままで満足?」
「あ?」
何言い出すんだこいつ?
んなわけねぇだろ。
あんだけ人をコケにして上から目線で物言ってる相手にいう事か?
「ああ、そだね。敗けっぱなしは悔しいし、当面は『あたしに勝つ』って目的があるからそれがモチベになっちゃってるんだよね。」
「・・・ケッ。」
結局嫌味じゃねぇか。
「『結局嫌味じゃねぇか』。」
アホらしい。
「『アホらしい』。」
「・・・考え読んでんじゃねぇよ。」
「な~んか誤解してるみたいだけど?」
「何なんだ、何が言いてぇんだよ。」
「『今のままで満足か?』っていうのはね? このまま訓練されて兵隊になって戦場で戦って人を殺しまくる・・・本当にそれでいいの? ってこと。」
「仕方ねえだろ。」
「どうして?」
「どうしてってお前・・・俺たちはそう作られたからだろ?」
「だからって本当にそうしないといけない?」
「なんだよ、お前反逆でも考えてんのか?」
「反逆、うーんちょっと近いかな?」
「マジかよ・・・。」
「施設の中のテレビ、あんたは見てる?」
「興味ねぇ。」
「もったいないな~! 色々教えてくれるんだよ? 外の世界で面白いことがいっぱいあるって。」
「なんだよ面白い事って。」
「美味しいご飯を食べる店があったり~、綺麗で可愛い服とか着れる場所とかがあったり~、動物とかと遊べるような場所もあったり~、この国の娯楽だけでも十分面白いよ?」
「なんだよ、それで普通の人間みたいに生きたい~とか思っちゃうわけ?」
「そうだよ? 憧れるのは自由でしょ?」
「アホらしい。」
「ふーん・・・。」
リファはジト目で俺を見ていた。
「本当にアホらしいかどうか確かめてみる?」
「なんだよ。」
嫌な予感がする・・・って思った時には既に遅かった。
「はい連行シマース!」
リファは俺の首根っこの裾を掴んで引き摺りながら既に目的地に向かって廊下を歩き出していた。
「いや興味ねえつってんだろ!! 放せコラ!!」―――
---「オーッスみんなー集まった」
リファに無理やり連れられて部屋に入った先には・・・。
「あれ? ライ?」
「珍しい!」
俺達と同じ被検体の仲間がいた。
「いつも一人で廊下にいるくせによぉ~。」
仲間のうちの一人、ガスが半目でにやけながら茶化して来る。
「うるせえ!! リファに無理やり連れて来られたんだよ!!」
「あはは!! だろうね!!」
同じくこの場に居たネマが笑いながら納得する。
「ふんッ!」
それを見て俺は鼻を鳴らして視線をそらす。
「こぉら!! 突っぱねないのライ!!」
「痛てッ!!」
愛想のない俺に腹を立てたのか、リファが耳を引っ張る。
「何しやが
「ハーイ!! それじゃあテレビ界開始しまーす!!」
俺の文句は無視され、リファが仕切るように言うとガスが天高く何かを掲げる。
「お菓子よし!」
ガスが持っていたのはチップス型のお菓子だ。
そう言うとネマも続くように何かを掲げる。
「ジュースオッケー!!」
ネマが持っていたのはコーラだ。
どいつもこいつもだらだらとテレビを見る気満々の準備万端の状態だ。
「何見る!?」
「ドラマだろ最初は!」
「もぉガスったら大人ぶっちゃってぇ! アニメ見ようよー!」
「大人ぶってない!! 面白いだろ最近あった・・・
「でもあれ私女優の性格きつそうだからキラーイ!」
「キャストじゃないって!! 内容が・・・!」
「じゃあ間を取ってグルメ番組!!」
「いやなんでだよ!!」
「リファが見たいだけでしょ絶対!!」
「あんたたちが喧嘩するからでしょ~?」
三人は全員見たいものはバラバラで何を全員で見るか争っている。
「くだらねえ。」
俺はそれを尻目にそっぽを向いて寝転がる。
「じゃあライに決めてもらう?」
「・・・ッ!」
リファが余計なことを言った。
おいふざけんなよ?
そんなことしたら絶対・・・。
「ライ!! ドラマだろ!!」
「アニメだよね!!」
そう言って争っているガストねまが飛びかかるように掴んできて俺をゆすってきた。
「るっせえな、俺どうせ見ねぇから興味ねえよ!」
「おいおーい、連行されてきたとは言えせっかく来たんだから見ようぜぇ?」
「つれないなぁ。」
明らかにノリが悪い俺を二人は当然のように避難してくる
「ライ?」
「何だよッてぇッ!! 痛ッてッ!!」
リヴァが突然ほっぺたを引っ張ってきた
「あんた私に負けてるんでしょ?」
「だったらなんだッ!!」
「敗者は勝者の言うこと聞きなさい!!」
「んな賭け事承諾した覚えねぇよ!!」
「あんた私に勝ちたいんでしょ?」
「はぁ?」
なんだこいつ?
何言ってんだ?
「だったらさ、私が一日何してるか観察でもしたらいいんじゃない?」
「あの勝負とそんなこと何が関係ある!!」
「意外なところで私の弱点見えてくるかもよ?」
「うっ・・・。」
そう言われると何故か心が揺らいできた。
いやふざけんなよ!?
何言い負かされたみたいになってんだよふざけんな!!
「まあそうやって意地張ってるうちは強くなれないよね残念残念!!」
そう言ってリファは仲間の元に戻って行く。
「じゃあ第・・・何回か忘れたけど、何見る審議会始めまーす!!」
そう言っていリファは意味不明なことをまたやり始めた。
「へっ。」
勝手にやってろ。
俺は再びそっぽを向いて寝転がる。
『あんた私に勝ちたいんでしょ?』
その言葉が妙に胸の奥に残った。
くそ・・・。
『弱点見えて来るかもよ?』
くそ・・・くそ!!
『そうやって意地張ってるうちは強くなれないよね残念残念!!』
くそくそくそくそ!!
「ッ!!」
俺は即座に起き上がってリファたちが真剣に何かを話し合いながら囲んでいるリモコンを奪い取る。
「ライ!!」
「ちょっと何してんの!!」
「俺チャンネル知らねぇから適当に押すぞ!!」
そう言ってつけたテレビに浮かんだのは・・・。
『八時だぞ!! 全員召集!!』
軍服を着た偉そうな中年の男が飾りのようなふざけた刀を前に突き出しながら声高らかに叫んでいる姿があった。
だがその周りは戦場のそれではなくまるでライブをするかのようなステージの上だった。
「お笑い番組・・・。」
「一番候補にないやつじゃん。」
そう言ってネマとガスはぶうたれる。
「まぁしょうがないじゃん? さっきライに決めて貰おうって言っちゃったし。」
「むぅ。」
「しゃあないか。」
リファが二人をなだめると、ネマとガスが仕方ないとばかりに納得する。
「いや、なんだよこれ、お笑い番組か?」
「そうだよ? 『八時だぞ!全員招集!』知らないの?」
「興味なかったから知らね。」
「まあいいじゃん! 面白そうだから見ようよ!」
結局見る番組はそれに決定し、俺はめんどくさい気持ちを押し殺していやいやながらテレビを見た。
だが十分後―――。
「・・・。」
俺は無言、無表情でテレビを見ていた。
今は四人組でコントをしている状態だ。
それぞれ異国の冒険者の格好をして今にも戦っているような場面だ。
『おい誰だ!! 今俺の背中に魔法撃ったやつは!!』
そう言って鎧姿の男は魔法使いらしき男三人に食ってかかる。
『お前か!!』
『いや違います。』
『お前か!!』
『いやいや違う違う違う。』
『お前か!!!』
『いやいやいや違います違いま
『お前だろ!! 杖からめっちゃ煙出てんじゃねえか!!』
鎧男は三人目の魔法使いの頭を引っ叩いて罵声を浴びせる。
そりゃそうだ。
鎧男の言った通り三人目の魔法使いの杖からは煙がわざとらしくめちゃくちゃ出ていたからな。
『いやいや違いますって、これ杖すり替えられたんですって!』
『いやそんなわけねぇだろ!! 前からお前その杖持ってt痛って!!』
鎧男は食ってかかる途中に突如声を上げる。
それもそのはずだ。
魔法使いの男の一人に浣腸されたんだから。
『どっちがやった!! お前か!!』
『いや違います。』
『お前か!!』
『いやいや違
『お前だろ!! その指の形なめてんのか
鎧男の言った通り二人目の魔法使いの男は浣腸の指をそのまま胸の前にキープしていた。
『いやいや違うんですってこれ、手をすり替えられたんですって!』
『んなわけねぇだろ手すり変えられるわけねーだろ馬鹿野郎痛いッ!!』
浣腸の犯人の男に食ってかかっていると鎧男はまた後ろから殴られる。
『いやいや違い
言い訳しようとする最後の一人の魔法使いの男は弁解するまもなく頭を真上から引っ叩かれる。
『お前しかいねえだろ!! そんな鈍器みたいな杖で殴りやがって!!』
『いやいや違うんですってこれ
『もういいよッ!! 戦ってる最中にお前ら何痛ったッ!!』
そうやって食ってかかっている鎧男に先ほど文句を言われていた魔法使いの一人の男が鎧男をぶん殴る。
『お前ら、ちょ、痛ッ!!』
鎧男が反論するまもなく魔法使いの男たちはヨロイ男を杖で袋叩きにした。
もう戦いの場面とか関係なく収集のつかない状態になっていた。
「ぷはははははッ!!!」
ネマは先ほどの浣腸の場面の時点で既に笑い転げていた。
「ネマ、ちょ、笑い過ぎ、ぷくくくッ!! ははは!!」
ガスも少しは耐えていたがだんだんデマに釣られて腹を抱えて笑っていた。
「くっ、くくっ、ぷくくッ!!」
俺も最初こそは笑うまいと耐えていたが最後のどうあっても収拾がつかない場面になるとさすがに・・・!
「あ! ライ笑った!!」
「ッ!?」
ネマに指摘されてはっとする。
「わ、笑ってねぇ!!」
「ふふっ。」
ネマに食って掛かる俺の様を見てリファは噴き出すように笑いだす。
「・・・なんだよ。」
「あんた、そうやって笑うこと覚えた方がいいよ?」
「ッ!?」
リファに言われてしてやられた事に気づいた。
「てめぇ、ハメやがったな・・・!」
「どうだろうね♪」
余裕そうに笑うリファが気にくわなくて益々腹が立った。
こいつ・・・いつか泣かす!!
~ウルド B.R.A.I.N基地~
「七・・・八・・・。」
俺たちが戦っている最中、フレッドはセルケトを観察しながら何か数を数えていた。
「十一・・・十二、なるほど・・・。」
何かを納得したようだ。
「何だよ!! 何を納得してんだ!!」
「このセルケトとやら、最近作られたものみたいだね。」
「なんでそれがわかるんだよ!!」
奴の体の中のこぶの一つを一人だとすると奴の体の中には十二人の人間が使われている
「なんでそれで最近作られた物ってわかるんだ!!」
「分からないか? 十二人・・・。」
「・・・ッ!?」
フレッドに強く指摘されて思い出すことがあった。
「まさか・・・!」
「そうだ。」
フレッドは表情を消してセルケトを見上げる。
「こいつの材料は先日の襲撃で拉致された獣人とうちのスタッフだ。」
「嘘だろ・・・!」
「しかも奴め、なかなかえげつないことをしている。」
「どういうことだッ!!」
「こいつの材料にされたうちの仲間達はまだ生きてる。おそらくは生きているからこそ体の一部として機能しているんだろうね。」
「そんな・・・! 助ける方法とか・・・!」
「そんなものはない。あの姿を見ると良い。」
そう言ってフレッドはセルケトの外郭から露出している人間を指差す。
「あ・・・ぁぁ・・・ぅぁ・・・ぁ・・・。」
その目はどこを向いているかもわからずまるで不死族のようにかすれた声を上げていた。
「既に自我は奪われて体は完全にやつの一部として同化してしまっている。奴から一人一人切り離してしまったとしても生命活動を維持できず死んでしまうだろうね。」
「けどあんたの部下なんだろう!!? 助けたいと思わないのかよ!!」
「無理だ。」
「簡単に諦めッ!?」
俺が言おうとした瞬間に右頬に鈍い痛みが走る。
「お兄ちゃんッ!!」
転んだ俺のもとにルタが駆け寄る。
「ここは戦場だ。非常になりたまえよ。」
殴ったのフレッドだ。
殴ったグーの拳を崩さずに冷たい視線で俺を見下ろしていた。
「ティルの件はたまたま君達の持っていたその腕輪がうまく機能してくれたから助けられたものだが今回のは事情が違う。君もわかるだろう?」
「けど・・・それでも・・・!」
「魔王と戦った君なら・・・。」
「ッ!?」
こいつ、なんで今その話を・・・!
「君なら戦場で仲間の死を何度も見てきただろう? なぜそこまで他人の命に思い入れができる。」
「・・・!」
何も言えずにただうなだれることしかできない。
そうだ。
こいつの材料にされたのは俺の身内じゃない。
ここまで義理立てする理由なんかない。
分かってるんだ。
けど、それでも・・・!
「居たんだ・・・!」
「?」
絞り出した俺の言葉にフレッドは何も言わずに眉を顰める。
言いたいことがあった。
「泣いてくれたやつがいたんだよ・・・!」
それでも言いたいことがあった。
「赤の他人のはずの死んだ俺の父さんと母さんを・・・泣いてくれた奴がいたッ!! そいつの涙が嬉しかったから・・・俺はあんたたちの仲間の命だって!! 軽く見ちゃいけないんだッ!!」
胸倉を掴み、必死に叫ぶ俺をフレッドは黙って見下ろしていた。
「総司令、指示を。」
機動隊員の一人が痺れを切らしたのか、フレッドに指示を仰ぐ。」
「できるだけ弾幕を張れ、ライが戦いやすいように援護するんだ。」
「了解。」
そう言うと機動隊員たちはまるで機械のように揃って隊列を組んでセルケトに銃を撃ち始めた。
「・・・。」
ライも黙ってセルケトの周りを旋回しながら銃を撃ち始めた。
「おいお前らふざけんなよッ!! なんですぐそうやって仲間を殺そうと・・・!」
「君の思いはもう分かった、だが彼らは殺して楽にしてやらなければならない。その事実は揺るがない。」
そう言ってフレッドは俺の掴んだ胸倉の手を振りほどき、横を通り過ぎるが・・・。
「けど・・・。」
そう言って俺の右肩に手を乗せる。
「私の部下のために泣いてくれてありがとう。」
そう言ってゆっくりと通り過ぎていった。
その手を視線でおって振り返ると信じがたい光景があった。
機動隊員たちだ。
「・・・。」
数秒程、まるで感情のない人形のように銃を撃ち続けていたが・・・。
「う・・・うぅ・・・!!」
一人からえずくような呻き声が聞こえると・・・。
「うぐぅ・・・!!」
「ぐぅ・・・くっ・・・!」
それに連鎖して他の仲間たちもしゃくりあげるように梅声をあげて呻き始める。
そして・・・。
「うわああぁぁ!!!!!」
「あああああああああぁぁぁッ!!! うああああああぁッ!!!」
一人が叫ぶと続けざまに仲間達も叫び始めた。
それに合わせて銃を撃つ姿はやけくそにぶっ放している姿にも見えた。
こいつらは非情なんかじゃ決してない。
当たり前だ。
いやおうなしに戦わされている仲間を殺そうとしているんだ。
辛くないわけがない。
それでも彼らは覚悟を持って戦っていた。
「畜生・・・!」
ふざけんなよ・・・!
「畜生畜生・・・!!!」
この中で一番情けないのは俺かよ・・・!
「畜生ッ!!!」
「うあああああぁッ!!!」
俺はセルケトの方へ向き直り、がむしゃらに突っ込んでいく。
しかし・・・。
「ッ!!?」
突如鳴り響いた銃声により事態が大きく動く。
機動隊の撃った銃弾ではない。
むしろ銃弾が飛んだのはその後ろ側の方。
フレッドたちの背後からだ!
そしてその銃弾はあろうことかフレッドと機動隊めがけて浴びせるように放たれていた。
「フレッドッ!!」
俺が突如声をかけて振り向くとその視線の先には信じがたい光景があった。
「見つけたぞ!! 国家に背く反逆者共!!」
B.R.A.I.Nの兵士だった。
「くそッ!! もう追いついて来やがったのか奴ら!!」
いやそれどころじゃない!!
「フレッドさん!!」
ディグがフレッドの上半身を抱きかかえて必死に声をかける。
フレッドも撃たれていた。
「フレッドさん!! なんで僕をかばったんですかッ!!」
「・・・。」
心配そうに声をかけるディグの顔にフレッドは手を伸ばし触れる。
「私がいなくても・・・君が代わりに指揮を取れる・・・だが・・・君の代わりはどこにも・・・いない・・・!」
息も絶え絶えで話した後フレッドは俺の方を見た。
そして俺の方へ手を伸ばすように突き出し。
「後は・・・頼む・・・!」
そう言うとまるで糸が切れた人形のように脱力した。
「・・・!」
おいマジかよ。
さっきまであんなに飄々と話していたあの男が・・・そんな・・・!
呆気なさすぎる!!
「裏切り者の筆頭を倒したぞ!!」
「これでお前たちも終わりだな!!」
敵の兵士どもはフレッドを殺したことにより勝利を確信したような歓声を上げる。
だが・・・。
「「てめえらあああああぁぁぁッ!!!!」」
俺とライは同時に激高しフレッドと仲間たちを撃った糞野郎どもに突撃する。
しかし・・・。
「二人とも後ろだッ!!! 左右に跳んでッ!!
ディグの声が聞こえて俺たちは我に返り左右に跳ぶと後ろに迫っていたセルケトのはさみが空を切った。
「くそッ!!」
「空気読めやこのクソ蠍ッ!!」
俺とライはセルケトの方に向き直る。
「そっちの主戦力も今はこっちの生物兵器の相手に忙しいようだな。降伏しろお前たちにもう勝ち目はない。」
敵の指揮官らしき男が下卑た笑みを浮かべて俺たちに幸福を促す。
だが・・・。
「ライ兄とウルドさんはそのままセルケトの足を止めていて。」
「!」
突然ディクが指示を出してきた
「機動部隊の半数は弾幕を張りつつ残りは負傷者を物陰に隠した後に戦線復帰、ルタさんとサンは弾幕の援護を頼む。」
その指示の声は淡々としていてまるで冷静に業務をこなすかのような抑揚のない声だった。
「おいディグ!」
「聞こえなかった? ウルドさんはライ兄と一緒にセルケトの足止めだ。」
「!! ・・・くっ。」
冷静に話すディグを見て察する。
ディグだって辛いんだ。
それでも感情を押し殺してフレッドの代わりの指揮官として冷静に、冷酷に徹しているんだ。
「ああ、指揮は任せたぞ。」
俺はそのままディグに背を向け、セルケトと相対した。




