#10 押し掛け弟子
~ウルド 道中~
「さぁて、取り合えず目的地は・・・。」
「王都プロテアかな? 王様は敵の事よく知ってるからね!」
「じゃあ其処に行くには・・・。」
「村や街を三つほど跨いだ先だね! 徒歩だけじゃ一日で街ひとつぐらいかかるかな、運よく行商人の馬車が捕まえられれば頑張って二つほど街を進めるかも!」
「馬車かぁ、こればっかりは運だな。」
「気長に行くしかないよ。」
「なぁ。」
「うん?」
「そろそろ突っ込んでいいか?」
「なぁに?」
「いつ現れたッ!!」
お気づきだっただろうか。
俺が家を出たとき、俺は一人だった。
ルッカやレレに見送られる時も俺は一人だった。
本当はいたのに皆で無視して居なかったことにはしていない。
本当に一人だったのだ。
で、道中歩いているといつの間にかルタは着いてきていた。
「ふっふっふ! 答えを知りたい?」
「いや、今はいい。」
「そっかぁ、そうだよね♪」
珍しくこいつとは意見が合う。
何故なら・・・。
(今日も尾けて来てるな。)
(うん。)
小声でルタと打ち合わせる。
ここ数日、何者かが俺達を尾行しているのだ。
だが敵の刺客とは考えにくい。
あまりにも尾行が下手くそすぎるからだ。
尾行や監視と言った隠密行動に特化した斥候なら、『魔力鎮静』という精神を沈めて魔力による気配察知を遮る技術を持つ。
そう言った斥候には基本中の基本の技だが・・・。
(懲りない馬鹿だなぁ・・・いくら物陰に隠れたって魔力駄々漏れでバレバレだっつの。)
そう、今尾行してるやつはそんな事は一切していない。
今は脇道の草影に隠れているのが分かる。
青白い小さな光の様に中心から拡がって行くような魔力、数日間尾けられているので同一人物だと分かる。
言っておくが魔覚を封印している俺がここまで正確に気づく程だ。
どれだけド素人か分かるだろう。
今まで声をかけなかったのは泳がせた方が良いとか打算的な考えは一切ない。
哀れすぎて気付かない振りをしてやっていたからだ。
でなきゃ此処まで尾行を許す訳がない。
因みに家でルタと秘密の会話をしていた際は窓も閉めていたし、レレとの会話もしっかり撒いてからしていたので重要な秘密などは知られていないだろう。
何も仕掛けてこないので放っといたが数日もつけてきてしつこいのでもうそれも限度がきた。
(もう良いよな?)
(そうだね。)
ルタと打ち合わせをして、奴を引きずり出す事にする。
「おい、いい加減出てきたらどうだ?」
尾行者の方を向かず声をかける。
一瞬隠れていると思われる茂みがガサッと音を立てたが反応がない。
恐らくは声を掛けられた事に動揺したが、まだバレたと決まった訳じゃない、当てずっぽうで言ってるんじゃないかと僅かな希望にすがって出てこないつもりだろう。
仕方無い、丁度足元にいるこいつでいぶり出すか。
「・・・出てこいって言ってんだコラッ!」
足元にいた生き物を草影に投げつける。
蛇だ。
「ひ!? ひぎゃあああぁッ!!」
汚い悲鳴をあげて尾行者は茂みから転げ出てくる。
「くっ!」
奴は武器こそ出さないが身構える。
「・・・冒険者か。」
そいつは小柄な冒険者の少女だった。
旅用の外套に長袖のシャツにショートパンツといった軽装備、腰に挿した二本の短刀から恐らくは動きやすさを重視した剣士だろう。
「ふっふっふ! よくぞ私の尾行を見破ったのです!」
少女はすっと立ち上がり、腰に手を当て、カッコ着けたようにその短い青みがかった髪を掻き上げる。
「いや今更取り繕っても遅いからな?」
あんなみっともなく転げ出て今更格好着くとでも思ってるのか?
「うぐっ! そ、そんなことはどうでも良いのです! ですが、あの完璧な尾行を見破るとは流石『師匠』!!」
「あんなド素人の尾行でよくもまぁそんなこと言えたな・・・ってちょっと待て。」
「師匠?お兄ちゃん弟子いたの? しかもこんなちっちゃい女の子弟子に取るとかロリコ
「いやいやいやいやいやいやいやいや違う違う違うッ!!!!! ねぇよッ!!! 俺こいつが誰かさえも知らねぇもんッ!!!」
「安心して下さい! 私も初対面なのです!」
「ほらぁ!!」
「あとそこの貧乳女ッ!! 『ちっちゃい』とは聞き捨てならないのです!!」
「あ゛ぁ?」
ルタが物ッ凄いヤバイ顔で少女を睨む。
「ちょ、おい!」
今まで散々色んな事にツッコミまくった俺ですら気を使って指摘しなかった禁忌の領域をこいつ言いやがった!
「今貧乳っつったかこの幼児体型!!」
ルタは完全に自分のキャラを忘れて汚い言葉で少女に歩みより零距離でメンチを切る。
正直こいつに胸の話すんの此処まで禁句とは思わなかった。
言わなくて良かったわマジで。
「言ってはいけないこと言いやがったですねこのペチャパイッ!!」
少女は全く気圧されずに応戦する。
「お前が先に喧嘩売ってきたんだろがこのちんちくりん!!」
「また私の禁句ベスト3言いやがったのですこのまな板!!」
「黙れこのドチビ!!」
「絶壁!!」
「未成熟!!」
「だあぁッ! やめろお前らッ!」
堪らず二人の間に割って入る。
「会って間も無いのに喧嘩すんなよ!どっちも無いの一緒なんだから争ってもしょうがねぇだろ!!」
「お兄ちゃぁん? 今なんて言ったあぁ?」
「師匠おぉ?」
ぎゃあああぁ地雷踏んだああぁ!!
「落ち着けえぇッ!! 話が脱線してんの分かんないのか! 喧嘩は一旦保留!! 矛を納めろ!! 待機!! 待機ッ!!」
「「ぐっ・・・!」」
二人はお互いを睨んだがなんとか踏みとどまってフンっと視線を反らす。
「で? なんで俺が師匠?」
「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれたのです師匠!」
「だからなんで師匠?」
「それは・・・。」
「!」
少女は突然腰に挿していた剣を二本とも抜いて構える。
「受けて頂ければ分かるのです!」
「はぁ?」
なんでこうなる。
「一戦交えろってことか?」
「そうなのです!」
「はぁ・・・分かったよ。」
言われるがままに剣を抜く。
良く分からんが気が済んだらもしかしたら帰ってくれそうだし、付き合ってやるか。
「お兄ちゃんやっちゃって! 完膚なきままにギッタギタにッ!」
「・・・お前私情入ってるだろ。」
「お喋りの時間なんてないのです! 行きます!!」
「!」
少女はいきなり斬りかかってきた。
速い!
「けど・・・。」
これ以上の敵とは何度も戦ってきた。
難なく最初の一太刀を剣で止める。
だが油断は出来ない。
もう一本の剣が飛んで来る。
上体を反らして横振りをかわす。
仕切り直す為に後ろに飛んで距離を取る。
「?」
少女は剣を地面を掘るように剣をザクザクと突き立てる。
あの動き・・・まさかな。
「来ねぇならこっちから行くぞ!」
少女に斬りかかる。
「くっ・・・!」
少女は左手の剣で止めて右の剣で斬り返す。
しかし俺は止められた剣をずらしてその剣撃を止める。
「こっちはお留守か?」
「!?」
そう言うと俺は急に上体を低くして足払いをかける。
「ぐっ!」
少女はまんまとひっかかり横向きに転ぶ。
「ほら避けなきゃ当たるぞ?」
俺は容赦なく剣を振り下ろす。
「ッ!」
少女はなんとか反応して転がって距離を取り、難を逃れる。
「・・・?」
また少女はザクザクと剣を地面に突き立てる。
「・・・。」
剣を使うから可能性は否定していたがまさか・・・。
「!」
急に少女は地面を蹴って走り出す。
ジグザグに移動しながら高速で斬りかかる。
良い動きだが下らん小細工だ。
右から来る斬撃を止める。
「?」
二撃目が来ると思ったが少女は離れる。
「!」
また地面を蹴ると今度は俺の周りを円を描くように走る。
足を使って戦うつもりか?
確かに正面から戦うのは愚策と思うなら悪くはないが・・・。
「・・・!」
違和感に気づく。
徐々にだが速度が上がっていき、残像が見えるほどの速さになる。
「へぇ、上昇か。やるな。」
足に上昇を使って走り回っているのだろう。
関心している間に少女は後ろから斬りかかるが難なく逆方向に飛んでかわす。
「?」
まただ。
またこいつ地面をザクザクしてる。
上昇を見せられるまでは警戒していたが、もうどうでもいい。
多分癖か一定の行動で苛立たせる挑発の類だろう。
気にするだけ無駄だ。
「行くですよッ!」
また少女は円を描くように走る。
「単調だぞ。」
斬撃を何発か放ってくるが見切って止める。
「氷 剣 放出」
「何ッ!?」
詠唱だと!?
「氷弾!」
「うわっと!」
急に氷の弾丸が右から放たれ、なんとか後方に飛んで回避する。
「!」
また少女はザクザクをやっている。
やっぱりさっきの考えは甘かった!
こいつの狙いは・・・!
「氷 剣 陣 放出」
「くっ!」
少女がさっきからザクザクと剣を突き立てていた四つの地点を点で繋げたように四角い陣が現れて青白く光る。
しかもさっきの魔法でまんまと俺は中心に誘導させられていた。
急いで離れないと・・・!
「氷結柱!」
陣の中心から急に冷気が集まり、瞬時に凍って巨大な氷の柱になった。
「・・・。」
凍った中に影がある。
凍らせた物の影だ。
「終わりです、ちょっとやり過ぎたのです。」
「お兄ちゃん・・・!」
ルタがその様子を青ざめた顔で見ている。
「今解除して・・・!」
少女が剣を氷に向けるが、あることに気づく。
「剣・・・!?」
そう、剣だ。
少女が凍らせたのは剣であって俺ではない。
「気づくのが遅ぇんだよ!」
「!」
後ろから襲いかかる俺に少女は反射的に右手の剣を横に振るが、俺は剣を持つ手を掴んで止める。
続けざまに左手の剣を降ってくるが今度は同じ持ち手を蹴り上げて剣を弾き飛ばす。
「よっと!」
「くっ・・・!」
直ぐに剣を持った腕を後ろに固めて足払いをかけて転ばせ、そのまま押さえ込んで身動きを取れなくする。
そして丁度蹴り上げて飛ばされた剣が落ちてきたのでキャッチして少女の後頭部に突きつける。
「王手だ。」
「・・・参ったのです。」
少女は敗けを認めはしたがその顔に悔しさなどは浮かべず、さも当然のように笑っていた。
~??? 謎のアジト~
「街を出たようね・・・。」
仮面を着け、ローブに身を纏った女が私に声をかける。
「・・・。」
小部屋の小さな台座の上に乗る大きさの鏡には少女に手を差し伸べて起き上がらせる彼の姿があった。
私の側にいる仮面の彼女の魔法だ。
蝙蝠の使い魔を送り込んで視覚の情報をこの鏡に写し出しているのだ。
「どうする? 拠点潰す意味でも街焼き払っとく?」
「いいえ。」
私は踵を返す。
「我々の目的はあくまで彼・・・無益な破壊は慎むべきです。」
「あたしは戦の戦略を言ってるんだけど・・・まぁいいわ、あんたの好きにするといい。」
「・・・。」
自分にも着けている仮面に指先で触れる。
「英雄・・・。」
「何?」
「いえ、なんでも・・・行きましょう。」
「はいはい。」
仮面の女と共に部屋を後にする。
―――しばらく歩くと・・・。
「おぉ・・・司祭様・・・!」
「司祭様!」
大きな部屋に出る。
声を掛けた者達は皆黒いローブに身を纏い、ローブの影で顔が分からない程に隠れている。
彼等の歓声を浴びながら道を進み、奥にある大きな祭壇の上まで上がると、自分を見上げる者達の方を向く。
「時は動いた!」
天を仰いで手を広げる。
「我等が王は蘇る! 蘇らねばならぬ使命を受けた!」
私の言葉に同志達は徐々に喜びの声を上げる。
「王が蘇る鍵は王が望みし贄に他ならない!」
私が話している間に私の側にいた仮面の女は魔法の詠唱を済ませ、天に手を翳す。
「念写投影!」
大きな天井に先程と同じ彼の姿が映った映像が浮かび上がる。
「王が望みし贄は他ならぬ、王が怨敵『大罪人アルト』!!」
それを見た瞬間、同志達の歓声は怒りの怒号に変わった。
「全ては王の復活の為に!!」
部屋中に歓声と怒号が入り乱れて上がった。




