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嘘つき英雄と嘘の妹 ~旧版~  作者: 野良犬タロ
カザ編
1/101

♯1 押し掛け妹

※読み方の注意点※

特殊な一人称視点です

下記の様に文章が始まりますが↓


~(登場人物) (場所)~


↑その登場人物の視点、現在の場所を指しています

途中で視点が切り替わる際もその都度此方の文章を使いますが

あらかじめご理解の程、よろしくお願い致します


~??? 田舎街カザ~

 

 王都から離れた辺境の街、『カザ』。

 昔都会でやって行けなかった者、隠居した老人、その他諸々で世間から身を引いた者達が寄り集まって造ったらしく、人がそこそこ暮らしてはいるが古びて寂れた田舎の街だ。

 とはいえそれでもゴブリンやオークといった魔物が出るため、小さな冒険者ギルドがある。

 俺はギルドに身を置く冒険者だ。

 で、今は街の近くにあった洞窟で図々しく拠点を構え、今か今かと街を襲う算段を立てていたゴブリンどもを退治し、ギルドに一報入れようとしていた所だ。

「・・・?」

 子供と老人数人の人だかりがあり、その人だかりの中心から歌が聞こえてくる。


「き~りまう~大~地~に♪ 絶望~のや~みただ~よ~う♪ 魔~王の~咆哮~に♪ 人び~と~は~泣きむ~せぶ♪」

 吟遊詩人だ。

 その服は少し小綺麗に見えるが手作り感のある子供騙しな舞台衣装、恐らくは駆け出しで売り出している吟遊詩人だろう。

「絶望~振りは~らい 立~ち上~が~る~は ひ~かりか~がやく五人の勇者♪」

「・・・。」

 この歌は少し出稼ぎに足を伸ばした近くの街で何度も聞いた英雄譚だ。

「人び~との~ 希~望~背~負う~勇者♪ 此処に~で~ん説はは~じま~った~♪」

 半年前まで世界はある国を中心に黒い瘴気が襲い、人や動物が魔物になるという絶望的状況だった。

 その瘴気の根源は魔族であり、自らを魔王と名乗り、世界に宣戦布告をしていた。

 瘴気の宿った魔物を各国に送り込み、世界は魔物の支配下に堕ちるとまで言われた。

 だがそこに聖女の加護を受けた冒険者の一団(パーティ)が魔王の国に乗り込み、苦難の末魔王を打ち倒したという内容だ。

 彼等の偉業に敬意を評し、彼等は『勇者』と呼ばれた。

「・・・。」

 万人にとって素晴らしい内容の唄だろう。

 だが俺はこの唄が嫌いだ。

「『霧払う光の英雄譚 第一説』まずはこれまで。」

 吟遊詩人が歌い終わると拍手が起こり、男の前に置いてある銀の受け皿におひねりのお金が投げ込まれる。

 唄がよければそれ相応のお金をいれて貰えるが、一番価値の低い銅貨を一枚ずつ入れられるばかり。

 別にこの男の唄が悪いわけではない。

 原因は此処が辺境の田舎街だということだ。

 此処には吟遊詩人すら来るのも珍しく、唄には皆聞き惚れていたが、この街は大して稼ぎの良い者は居らずあまり応援する余裕もないわけだ。

 それでも男は不満を顔にも出さず、お金を入れた人達へ感謝の笑顔を向け、観客(ギャラリー)が引き払うのを見計らって皿に手をかけるが・・・。

「おっと。」

 皿を止め、最後のおひねりを俺は投げ込む。

「!」

 男は目を丸くする。

 俺が投げ入れたのは銀貨だ。

 銅貨の五十倍の価値がある。

「良い唄だった、でも悪いが金貨はやれないな。」

「はぁ・・・。」

 俺の言葉に男は喜んでいいか分からず困惑の生返事を返す。

「あんた、その唄の結末知ってる?」

「ええ、歌い歩いてますから・・・。」



「だったら『最後まで唄う』のはやめときな。」



「何故・・・?」

「なんででもだ。」

「・・・?」

 男は困惑して首を傾げる。

「いや、何でもない。通行人その一のつまらん戯れ言だと思って忘れてくれ。じゃあな。」

 俺は立ち上がり、荷袋を肩に担ぐと吟遊詩人の元を後にしてギルドへ向かった。



―――その後。


 ギルドへ着いた俺は討伐したゴブリンから切り取った大量の右耳の入った袋を受付へ渡し、討伐した時の状況を伝える。

「はい、ゴブリン拠点討伐の手続きは以上ですね、此方が用意してた報酬です!」

 ギルドの受付の女性が愛想よく報酬の銅貨が入った袋を差し出す。

 ゴブリン一体につき銅貨三枚、拠点の中に居たのは大型の大将含めて14体、貰えた銅貨は42枚だ。

「それにしてもウルド・・・。」

 受付の女は俺の名を呼び、溜め息混じりに頬杖をついて薄ら笑う。

「今日はいつもより手こずったんじゃない?」

「そう言うなレレ。」

 急にため口になるが俺は気にせず言葉を返す。

 この街じゃ珍しくもない事だ。

 田舎は都会と違い、人と人の距離が近いのが世の常だ。

 俺がこのギルドへ登録したのは数ヶ月前の事だが、受付嬢のレレは社交的で俺と年が近いことから打ち解けるのは早かった。

「そもそも単独(ソロ)だ、上手く行っても時間はかかる物だろ? それに上手くいかずにやられる事だって・・・。」

「ああ、その辺は心配してないから大丈夫! ウルドのギルド評価だったらうちのギルドからの依頼くらいじゃ死んだりしないって!」

 そう言うとレレは笑いながら一枚の羊毛紙を出す。

「調査力B、戦闘力B、判断力B、行動力A、人間性A、確実にBクラスの冒険者になれるだろうけど、うちじゃそのクラス出すまでの適性検査やってないからあんたDクラス止まりなんだよね・・・。」

「いいさ、別に・・・。」

 ギルドのクラスとはまぁ、言ってしまえば冒険者の格付けだ。

 ランクはSからFまであり、当然ながら駆け出しの冒険者はFクラスから始まる。

 クラスの上下で得する事と言えばなんと言ってもギルドの依頼だ。

 高ければ高い程、報酬のいい依頼が受けられるので冒険者は常にこのクラスを上げる事に励んでいる。

 しかしレレが言うように俺が適性検査を受けられずDクラス止まりなのはギルドにそれ以上のクラスの依頼がないからだ。

 ごく希に大型の魔物は出てくるが、それもDクラスの冒険者が数人いれば楽々倒せるレベルだ。

 そんな環境でそれ以上のクラスを持っていた所でお飾り称号も甚だしい事もあり、ギルドも適性検査をやっていないわけだ。

「ウルド・・・私が言うのもなんだけどさ・・・。」

「ん?」

「パーティ、やっぱり組んだ方が良いと思うんだ。」

「なんだよ急に。別に自分の力を過信してるから単独(ソロ)をやってる訳じゃないぞ俺は、一人で無茶な依頼は受けたりは・・・。」

「そうじゃないの! そりゃ知ってるわよ、あんたが自分が出来る範囲を把握して無理せずやってることは・・・ただ・・・。」

レレは顔をしかめる。

「ただ?」

「あんた、いつまでも此処に居るわけでもないでしょ? だから、新人とかと助けてあげたりとか、鍛えてやったりとかさ・・・。」

「ああ、そういうことか。」

 レレが心配しているのは俺の後釜だろう。

 自分で言うのもあれだが、俺もギルドにとっては貴重な戦力だ。

 だが俺が他所のギルドへ移って抜けるような事があれば大きな穴が空くわけだ。

 そんな事があっても困らないように新人を鍛えてやらなきゃいけないわけだ。

 だが・・・。

「悪いな・・・。」

 俺の答えは決まっている。

「うん、知ってる。でもさ・・・あんただったら新人がちょっと足引っ張った位じゃ・・・。」

「そう言う話じゃない。」

「何? あんた、もしかして報酬の取り分が減るのが嫌とか?ケチくさ・・・。」

「違ぇよ!」

「じゃあ何よ!」

「俺は今みたいな状態が一番性に合ってるんだよ。人に物教える柄でもないし・・・それに、この街から出る事もないと思うしな!」

「そ、そうなの?」

「ああ、安心しろよ!」

「そっか・・・。」

「ああ。」

「・・・。」

「?」

 レレは急に黙り込む。

 心なしか口元が笑っているような・・・。

「レレ・・・。」

「ウルド・・・?」

 俺が顔を覗き込むとレレは少し慌てて困り顔になる。



「お前、気持ち悪いぞ?」



「・・・え?」

「人前で無言で笑うの、不気味だからやめた方がいいぞ?」

「~~~~ッ!」

「?」

 何故かレレは顔を赤くして頬を膨らませて俺を睨む。

 もしかして怒ってる?

「ムグッ!?」

 突然レレから顔面へ報酬の袋を殴り付けるように押し付けられる。

「手続きは終わり! あたしも他の依頼の手続きで忙しいの! さ、報酬持って帰った帰った!」

「なんだよ・・・。」

 訳が分からんがさっさとおいとまさせて貰う事にする。



~レレ ギルド窓口~

 

「・・・。」

 ウルドが去っても、私は淡々と書類を書き進める。

 ゴブリン退治が終わっても田畑を荒らす動物がいる。

 オークが時々現れる区域からの薬草採取の依頼、駆け出しでも出来る仕事でもギルドの書類の手間は変わらない。

やることは山程ある。

「・・・。」

 あるんだけど・・・。

「・・・~~~~~!」

 数分と持たなかった。

 書類に顔を埋め、カウンターに隠れて誰にも見えない足をパタパタさせる。

 頭が悶々として仕事に集中出来ない!

 さっきから何度もあのウルドの顔が至近距離まで来たのが頭から離れないッ!

 キス・・・されるかと思った!

 いやいや、ウルドに限ってそんな事ないよねッ!

 あいつ恋愛とかそう言うの頭に無いような能天気だしッ!!

 女に色目使ってる所とか見た事ないしッ!!

 ってまた頭の中ウルドの話題でいっぱいになったもう、忘れようとしてたのにぃ!

 あぁ、もうダメダメダメだってばレレェッ!!

 仕事に集中しないと駄目でしょうがああぁッ!!

「・・・ウルドめぇ~。」

「なんだい? レレ?」

「ッ!?」

 突然声をかけられ、顔を上げた表紙に書類が数枚舞い上がる。

「・・・ルッカ。」

 いつの間にかカウンター前にいた軽装の女はルッカ、弓を使い、森での戦闘を得意とする野伏(レンジャー)だ。

「お目覚めかな? マイエンジェル。」

 私が気づいてもお構いなしに声を無理矢理低くしてウルドの真似らしき仕草をする。

「ウルドがそんな台詞吐くわけ無いでしょ。」

「それで?」

「ッ!?」

 ルッカはずいっと顔を近づけて私の目を見る。

「愛しのウルド君とはなぁにがあったのかな?」

「~~~ッ!」

 あ、ヤバイ!

 既視感(デジャヴュ)

 またあの時のウルドの光景が頭に浮かぶッ!

 なんでこんなタイミングでこう言うことしてくんのこいつ!

「ちょ! 近い! 近いから!」

 慌てて椅子を引いて距離を取る。

「何よ? 女同士でしょ? 何顔赤くして・・・ん?」

 ルッカは呆れ気味に言うが何か疑問なのか眉を曲げる。

「ははぁん。」

 何かを察したようにルッカは悪魔のような笑みを浮かべる。

 野伏(レンジャー)としての観察力なのか、こう言うときのルッカの勘は異常に鋭い。

 嫌な予感がする・・・!

「つまりあんた、今みたいなシチュでウルドとこーんな事しちゃったわけか!」

 そう言うとルッカは両手の人差し指を互いにくっ付ける。

 明らかに()()()()()()である。

「バッ・・・! そんな事してないわよ!」

「じゃ、なぁんでそんな取り乱すわけ? 思い出したかのように顔真っ赤にしてさ。」

「未遂よ未遂!」

「未遂?」

「確かに似たような事にはなったけど・・・あいつ、無自覚だし、そのあと急にムカつくこと言うし・・・。」

「ほほぉん。」

 私の話を聞きながらルッカは顎に人差し指と親指の間を当ててニヤニヤしながら私を覗き込むように見ている。

「うぅ・・・結局全部吐かされるし・・・。」

 まんまとルッカに乗せられた自分に頭を抱えずにはいられなくなる。

「それに関しては隙だらけのあんたが悪~い! あとガールズトークに恋バナの除け者はご法度でしょ?」

「あんたは良いわよねぇ余裕あって・・・。」

 そう、ルッカは一緒に固定でパーティを組んでいる盾戦士(シールドウォリアー)の男と恋仲である。

 まぁ、こう言う話の世界では所謂勝ち組なわけである。

「あ、それが聞いてよ~! 彼ったら私が一体仕留め損ねて襲いかかってきた狼から私を守ってくれたのよ! あー、やっぱたまんないわぁ、あの男の人から守られるって感じのシチュエーション!」

「ハイハイ、その辺も含めて報告聞くからちょっと待ってて!」

 書類を整え、報告書の準備をする。

 やだなぁ・・・。

 こいつの報告(のろけ)を聞かされるの・・・。



~ウルド 自宅~

 

 冒険者だからと家のない者でもない。

 俺にも帰る家はある。

 まぁ、地主から借りてる借家だが・・・。

 だが稼ぎが悪いわけでもなく、ちゃんと家賃は支払っているので追い出されるなんて事はない。

 とまぁ、前置きはいいだろう、そんなこんなで家に着いた訳で・・・。

「ただいまぁ~っと。」

 誰に言うわけでもないお決まり台詞を吐いてドアを開ける。

 まぁ返事なんて返って来るわけ・・・。



「おかえりなさい!」



「・・・!?」

 いや、今の幻聴か?

 返事が返ってきたんだが・・・。

「お疲れ、お兄ちゃん!」

 パタパタと床を蹴る足音と共に声の主は現れる。

 俺と同じ茶色でありながら可愛らしく整えられたセミロングの髪に灰色の瞳、如何にも料理をしてましたよと言わんばかりのエプロン姿の少女だ。

「・・・。」

 思わず手に持っていた報酬袋を落としてしまう。

「ほら、ご飯出来てるよ!」

「・・・。」

 無表情のまま、無言のまま、妹に連れられるままにリビングへ向かう。

「・・・。」

 目の前にはパンとスープに、ベーコンを和えたサラダとまぁ中々綺麗にバランスよく料理が並んでいた。

「はい、座って座って!」

 妹に引っ張られて椅子に座り、妹はテーブルの向かい側に座る。

「お兄ちゃんが帰って来るまで待ってたんだよー! おなかすいた! それじゃ、いただきます!」

「・・・。」

 妹は丁寧に手を合わせて合唱すると、左手にパンを右手にスプーンをとってスープに手をかける。

 うん。

 よし。

 いいな?

「・・・そろそろ突っ込んでいいか?」

「ん? なに(ふぁに)? お兄ちゃん(おにいひゃん)?」

 パンにかじりついたまま行儀悪く返事を返す妹。



「誰だお前はッ!!!」



 即座に立ち上がり溜めに溜めた一言を全力で指差しながら吐き出す。

「え、何言ってるのお兄ちゃん? ルタだよ? お兄ちゃんの妹の。」

「ふざけんな! 俺に妹なんかいるかッ!」

 そう、俺は親はおろか、肉親の身内なんて居ない天涯孤独の身だ。

 妹なんて存在する訳が無いのだ。

「妹だよ?」

「だぁかぁら! んな訳あるか! 赤の他人だろどう考えても!」

「なんで? お兄ちゃんのことよく知ってるよ?」

「は?」

 俺の事を知ってる?

 どういうことだ?



「どうして『ウルド』なんて名乗ってるの?」



「は・・・何? 意味が分かんねぇんだけど?」

 強がるが正直図星だ。

 何故なら・・・。

「お兄ちゃんの名前は『ウルド』じゃないよね?」

「ッ!?」

 こいつ、気付いてる・・・!

 まさか・・・!



「そうだよね? ()()()お兄ちゃん?」



「・・・!」

 こいつ・・・なんで知ってる・・・?

「こんな田舎街まで来て・・・名前まで変えて・・・逃げられると思った?」

 妹(?)はゆっくりと立ち上がり、不気味な薄ら笑いを浮かべそのままゆっくりと歩いて近づいてくる。

「ッ!!」

 息を飲んで距離を取り、腰に挿したままだった剣に手をかける。

「お前・・・本当になんなんだ・・・!」

 この辺境に知る奴なんかいないはずなんだ・・・!

 ()()()()()()()()()()()()()()()なんて・・・!

「なんでその名前を知ってんだ・・・!」

 その名前は・・・!



 かつて英雄と呼ばれた時の俺の本当の名だ。

 

 

途中でも良いので感想あったらお願いします!

気に入って頂けたらレビュー頂けると大変嬉しいです!!

非常にモチベが上がります!!

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