表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

もこもこのファーがついている

 この業界、同業者が獲物になることはわりとよくある。復讐の復讐とかね。私たちはそれを否定しない。何故ならそれもまた飯のタネだから。


 長くこの仕事を続けていける奴っていうのは後始末が上手い奴だ。証拠を残さない、同じ手口を続けて使わない、仕事と仕事の間隔を空ける。そうやって自分の身を守るんだけど、私はどこで間違えてこの紳士の恨みを買ったかね。


 というか本人に直接依頼持ってくるってどうなのさ。しかも殺し屋相手に丸腰、潔いのかバカなのか、余程の自信があるのか。


 身のこなしを見た限りヤるようには見えない。女一人とナメてるのかもしれないが、こっちはプロ。更に言えばここは私のホームだ。どうにでも……


「仕事の値段交渉はこっちだ」


 マスターが寝返ったことでいきなりアウェイになった。いやいやいやいや、嘘でしょ?せめてこっそりやってくんない?本人を前にバカなの?


「こいつのここ1年の稼ぎがこんぐらいで、あと10年この仕事続けるとして……」


「バカ言ってんじゃないよ、死ぬまでやるわよ」


「死ぬまであと10年ってことだ」


 クソ野郎。


「よし、友情価格、30万ダンだ」


 もう一度言うわ。クソ野郎。人の命を友情価格で割引きしてんじゃねえよ。


「消費税はサービスするぜ」


 三度言うわ、クソ野郎。飲み屋の分はともかく、仕事の分はビター税金なんて払ってねえだろうが。


「……安いな、いいのか?」


 よくねえよ。誰が安い女だ。


「俺とお前の仲だろう、エドワード」


「……お前には甘えてばかりだな」


 薔薇が咲いたわ。私にそっちの趣味は無い。つーかいつの間に名前知った。いや、適当言っただけか。ツッコミが追いつかない。


「ここで食べていくかい?」


「……いや、持って帰る」


 ハンバーガーか。挽肉にするってことか。生きたまま足の先からってのは勘弁してほしい。この紳士、私に何の恨みがあるんだ?それともそういう性的嗜好か?ホモでリョナかよ、尖りすぎだろ。


「こっちの支払いにカードは使えん、ここに振り込んでくれ。一括か?」


「……もちろん」


 そのやりとり気に入ってんの?振り込みに一括も分割も無いでしょうが。


「振り込みを確認次第出荷する。言ってもらえりゃシメてバラしてから運ぶぜ」


「……いや、そのままで頼む」


「リボンの色は何色がいい?」


「……白で」


 贈答用かよ。あんたそれだけ黒ずくめで相手には白を求めんのか。そのリボンすぐに真っ赤に染まらない?


 紳士はスマホを取り出すと何やら操作し始めた。ここだ、私が生き残るには今ここでマスターをどうにかするしかない。


「マスターさ、私の値段安すぎない?」


「調査やら後始末やらの経費が浮くしな、適正価格だ」


「その仕事誰に受けさせんの?生半可な奴なら返り討ちにするけど」


「俺だ」


 そっくりそのままポケットにインかよ。


「わかっているとは思うが、お前じゃ俺には勝てないぜ?」


「ちなみに今逃げようとしたら?」


「絶妙なタイミングで出入り口のシャッターが落ちる」


「……前から思ってたんだけどさ、あのシャッター勢いよく落ちすぎじゃない?」


「景気が良いだろ」


「なんであのシャッター下の部分が斜めになってんの?」


「格好良いだろ」


「あれギロチンだよね?」


「人道的だろ」


 毎回あの下通らなきゃいけない客の気持ちも考えて欲しい。でも確かに、紳士のオモチャになるよりましな死に方だ。よし、逃げるか。


「……振り込んだ。確認してくれ」


(ガション!)


「……これもさ、前から思ってたんだ。床に空いている穴なんだろうって」


「理解したか?」


「この身をもって」


 まさか鉄の檻がせり上がってくるとは思わないじゃん?こんなのあるなら乱闘騒ぎのとき使えよ。


「よし、振り込みを確認した。白いリボンと、リボンの鍵だ」


「手錠じゃん」


「かわいいだろ?」


 美的感覚死んでんじゃないの?


「クーリングオフは受け付けてないから注意してくれ。あと、ボトルキープは1カ月だ」


 30万ダンの命と3万ダンのウイスキーを一緒にお買い上げか。私の命はウイスキー10本分。ゾクゾクするね。


 紳士の左手と私の右手が手錠で繋がれる。こうして私は紳士に買われた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ