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Golden Sunset  作者: 飇 Tsumuzi-Kaze
5/5

第5話 ~カノジョ~


 

 輝く髪をそっと耳にかけるその仕草を見てドキッとしまう。


「エレナさん、急に現れないでくださいよ……」


「あはは、ごめんごめん」


 少し申し訳なさそうにする。


「……」


「……」


 気まずい空気が流れる。


「そういえば、今までどこにいたんですか?」


「ん?うーん、この公園の近くかな」


 なるほど、そりゃ見つからないわけだ。公園付近を探していなかった俺の馬鹿野郎。


 落ち込む俺に気づいたのかエレナさんはにやにやした顔で絡んでくる。


「なに、もしかして私のことを探していたの?」


「う……」


「ふーん、そっかそっか。それで私を探していたのはなんで?」


「それは……」


 直球に聞いてくる。


 なかなか答えづらい。エレナさんに会いたかった理由はエレナさんのことを聞くためだ。でもそれを聞いてどうするんだ?


 もしもこれで拒否されたら、俺はこれからこの人と顔を合わせることがなくなってしまうだろう。


 それよりも、気持ち悪がられたりしないだろうか。


 そんなことを考えるとドッと不安がこみ上げる。


 「……」


 さっきまでノリノリだったエレナさんも、口を閉ざしてしまった。何をやってるんだ、俺は……。


「ねぇ、亮太君。私の独り言を聞いてもらってもいいかな?」


「え……?」


 突然そんなことを言い出すエレナさん。何を考えているんだ?


 でも俺は彼女が話すことを黙って聞くことにした。


「私ね、最近不思議な夢を見たの。目覚めたら、そこには見たことのない美しい自然が一面に広がっていて……。それに、意識があって、自分の思い通りに身体が動くんだ。ね、不思議でしょ?」


「そうですね……」


「それでね、私はそんな自然を見たことがないから散策したんだ。夢を散策っていうのも変な話だけどね」


 夢の中を散策……。


 俺もそういえば似たような夢を見た気がする。


「そうしたら、見たことがないものばかり!綺麗な川や、緑豊かな木々。私の故郷でそんな景色を見ることが出来ないからすっかり感動しちゃった!」


 熱く語るエレナさんを見て、少し気持ちが楽になる。


「あ、やっと笑った」


「え……?」


「え?じゃないよ、まったくもう。急に暗くなるから心配しちゃった……」


「あ、すみません……」


「ううん、いいよ。あ、そうだ……はいどうぞ」


 そう言って俺の右手を取り、手のひらに可愛い小包を乗せた。


「これって……」


「ふふ、飴ちゃんだよ!」


「ありがとうございます。いただきます」


 受け取った俺はその場で飴を食べる。ほどよい甘みが口に広がり、気分を落ち着かせる。





「それで改めて聞くけど、私を探していたんだよね?」


 飴を食べて少しばかり時間が経ってからエレナさんは俺に再び質問した。さっきの不安が甦るが、多分エレナさんは俺のことを拒むことはないだろうという謎の自信が心に芽生えていた。


 そう考えたらなんだか気持ちが楽になった。


「はい、エレナさんのこと探していました」


「そうだよね。うーん、なんでかな?」


「エレナさんと最初に会ったときのことが、印象深くて。それでもう一度会えたらいいなって」


「嬉しいこと言ってくれるね!」


「それに……」


「それに……?」


「エレナさんのこと、何も知らないので色々と聞きたいなって」


「あ……」


 エレナさんは顔を背ける。


「私のことを聞いてどうするの……?」


「いや、普通に仲良くなりたいなって」


「そっか……。そうだよね」


 エレナさんは再び俺の方に向いたとおもうと、明るい雰囲気が一変、真剣な表情になっていた。


「私と仲良くなりたいって言ってくれたのはすごい嬉しいけど、それはダメだよ」


「ど、どうしてですか!」


「それは……言えないけど、でも絶対後悔するよ……」


 真剣な表情からまた一変して、今度は悲しそうな顔で俺に語りかけた。


 エレナさんが何を言っているか理解できなかった。


「どうして、そんな悲しいこと言うんですか……。エレナさんがそう思っても俺はそう思いません。後悔なんて……しないです」


 そうだ、後悔するはずがない。エレナさんがどういう意図でそんなことを言ったのか理解できないけど後悔なんて絶対しない。


「そっかー。うんうん、亮太君の熱意に負けちゃったよ!」


 そう言って、エレナさんは俺の顔をじっと見つめた後、笑顔になり。


「よろしくね!」


 ドキッとした、顔が赤くなったに違いない。夕焼けで誤魔化せているかな……。そんな心配をする。


「それで何が聞きたいのかな?」


 早速エレナさんは本題に入ってきた。


 俺は気持ちを落ち着かせて、エレナさんに色々と質問することにした。


「エレナさんって何歳なんですか?」


「私はね……確か21だったかな?」


「曖昧ですね……」


「あはは……」


「それじゃあ、エレナさんは普段何をしてるんですか?」


「えっと、散歩かな?この町が好きで、特にこの公園が好きだからこの辺りをよく歩いてるよ!」


「俺と一緒ですね。俺も日課で散歩してます」


「亮太君もなんだ!気が合うね」


 そういう風に言われると少しばかり照れくさい。


「あ……」


「ん、どうしたの?」


「そういえば、エレナさんはこの町に何しに来たんですか?それがすごい気になっていたんですよね」


 一番重要なことを聞くのを忘れていた。このことを聞くためにエレナさんを探していたんだった。


「それは……」


「それは?」


「ひ、ひみつ!」


「え?」


 予想外の回答が返ってきた。


「ひみつ!だからこの質問は終わり!」


「は、はぁ」


 誤魔化したということは、触れちゃいけない質問だったのか。


 腑に落ちないが、これ以上聞くのはエレナさんも迷惑に思うだろうからやめておこう。


「ほら、いい感じの時間だしそろそろ帰ったら?」 


「そ、そうですね」


そう言って俺に手を振るエレナさん。いや、エレナさんは帰らないのか?


「帰らないんですか……?」


「あー、うん。まだこの景色を見ていたいんだ」


 やっぱり変わった人だ。流石にここの景色が好きだからってずっと見続けるものでもないだろう。この行動に何かの意味が含まれているのだろうか。たとえば……。


 この場所に縛られている……とか?


 いや、それはないか。幽霊じゃないとそんなことにはならないもんな。それに、俺は幽霊が存在しているなんて信じない質だ。そんな現実離れした話なんて、信じられるわけがない。


 ということは、本当に変わった人ってことなのかな。


「おーい、亮太君?」


「あ、はい」


「またボーっとしちゃって。はいそれじゃあ、気を付けてね、さよなら!」


「……ありがとうございます」


 手を振るエレナさんを背に俺は公園を後にする。


 今日1日でエレナさんのことが少しわかったような気もするが、相変わらず、謎に包まれている。彼女は一体何をしにこの町に来たんだろうか。それが気になって仕方がない。この話になると誤魔化していたが、もっと仲良くなればいつかは聞けるんだろうか。でも……。


「さよなら!」


 この言葉を聞いたとき、初めてエレナさんと会った時の切なさがこみ上げてしまった。どうしてあの人はこんなにも唐突にあんな雰囲気を醸し出すんだろうか。さよなら、なんて言葉……あまりにも寂しすぎるじゃないか。


 頬に冷たい感覚が襲う。そう感じた瞬間、勢いよく雨が降り始めた。


 さっきまで雨が降る気配すらしなかったのに、まるで俺の心の中を表しているかのような、そんなことを彷彿させた。









 雨に濡れて全身グチョグチョになりながら家に帰ると、麻美がすでに帰ってきていた。


 が、俺の有り様を見てものすごい形相になる。


「なんでそんなに濡れてるの?何かあったの?」


「いや、そんなことないけど……」


「とりあえず、お風呂入ってきて」


 そう言われると、バスタオルを渡され風呂場に放り込まれた。


 とりあえず、雨と汗で気持ち悪いことになってる服とズボンを脱いで風呂に入る。


 早く湯船に浸かりたいがために、髪と身体を短時間で洗い上げる。


 湯船の蓋を開けると、お湯がすでに沸いていて、そこに温泉の素が入れられていた。麻美は俺が帰ってくると風呂に入るって読んでいたのか?


 普段は風呂の支度は俺がしているから多分そういうことなんだろう。本当に気が利いている。


 湯船に全身を浸かり、窓の外を見る。俺の家の風呂は窓がそれなりに大きく、プチ露天風呂を体験することが出来る。もちろん外からは見えない。


 空を見ると、さっきまで土砂降りの雨がまるで嘘だったかのような晴れ方をしている。通り雨だったのか。


 空には満天の星空が広がっていて、見慣れたその空に見惚れてしまう。


 エレナさんは雨に濡れずに帰れたのか、すごく心配だ。


 そういえば、エレナさんはこの町のどこで生活しているんだろうか。この町に宿なんて存在していない。泊まるにしても、誰かの家にお願いするしかないのだが、この長期間エレナさんを泊めている人がこの町にいるんだろうか。そのあたりも気になるところだ。


 また明日あの公園に行けばエレナさんに会えるんだろうか。エレナさんから仲良くしてもいいと言われたのがあまりにも嬉しかったのか、また明日もエレナさんとお話がしたい、そのことで頭がいっぱいになっていた。


 そんな俺は気づけば風呂に1時間以上浸かっていたらしく、痺れを切らした麻美が風呂場に乗り込もうとしていたのは、また別のお話。

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